トロンボーンってどんな楽器?どんな特長があってどんなフレーズが得意?きょうは特にトロンボーンの楽譜を書かれる方向けに、トロンボーンについて書いてみたいと思います。いわば、トロンボーンの取扱説明書です。
こんばんは。
トロンボーン吹きで作編曲家、吹奏楽指導者の福見吉朗です。
どういう楽器なの?
簡単にいったら、トランペットのオクターブ下の楽器です。
長さも、B管でいったらちょうど倍の長さになります。
そもそもトロンボーンという言葉の語源は…
イタリア語の「tromba(トランペット)」と「-one(大きい)」を組み合わせた言葉。
「大きなトランペット」という意味なのです。
ご存じのように、なぜかトランペットと違ってスライドを伸縮させて音を変化させます。
尤もスライドトランペットという楽器もありますが(ソプラノトロンボーンとは違います)…
どうやって音をつくるの?
発音原理については、ほかの金管楽器と同じです。
テナートロンボーンやバストロンボーン(B管)であれば、
いちばん近いスライドポジション、つまり1ポジション(他の金管楽器の解放に相当)で、
Bの自然倍音列が出せます。
(ただし、第7倍は低くなりすぎるので、通常1ポジションのAsは使いません)
これの最初の音、基音の部分を『ペダルトーン』といいます。
(たとえば幻想交響曲の第4楽章などに使われるペダルトーンなどは効果的な例ですね)
スライドポジションが1つ遠くなるごとに、この倍音列の音がそれぞれ半音ずつ下がります。
ポジションは、7まであります。
単純でしょ。
ロータリーバルブ(F管)を押すと、これが完全4度下のFの自然倍音列になります。
そしてFバルブを押したときは、ポジションは6までしかありません。
ダブルロータリーのバストロンボーンではどうなるのか…
加えてD(とGes)、あるいはEs(とG)の自然倍音列も1ポジションで出せます。
複雑になるのでここでは記しませんが、くわしく知りたい方は言ってください。
記譜について
楽器はB管なのですが、楽譜はもちろん実音記譜です。
記譜は、通常は低音部譜表、テナートロンボーンだとテノール譜表も使います。
初級者だとテノール譜表に不慣れな人も多いので、避けるのが無難です。
アルト譜表で書かれることもありますが、通常は使いません。
また、使う意味もあまりないと思います。ただし…
アルトトロンボーン(Es管です)で吹いてほしいのであれば、アルト譜表で書いてください。
ただし、アルトトロンボーンはレアな楽器なので、吹く人は少ないです。
吹奏楽やジャズでは使われません。
間違っても吹奏楽曲にアルトトロンボーンは使わないでね。
それから、ジャズ系の楽譜ではテノール譜表は使いません。つねに低音部譜表です。
音域
それでは音域のお話です。
高音はどこまで書いていいのか…
初級者に対しては上のF(低音部譜表加線2本)まで。中級者に対してはその上の高いCまで。
そのあたりに『壁』があるように思うのです。
では、最高音は…
原理上は、どこまでも無限に出るのですが、楽譜上でこれまで見た最高音は、高いFですね…
たとえばベートーベンの交響曲第5番「運命」に出てきます。
ちなみに低音は…
テナーなら低音部譜表の下のFくらいまでにしておくのが、とりあえすは無難かと…
(もちろんテナーでもペダルのBだって出せますが…)
バストロなら技量にもよりますが、ときにはそのオクターブ下のFくらいまで。
歌に重ねて
どんなふうに発展してきたのか…
古楽器(サックバットとか)についてはその筋の人にお任せするとして…
ヨーロッパの教会(キリスト教の)で使われていた楽器なのです。聖歌隊の歌をなぞっていた。
なので元々は、ソプラノ、アルト、テナー、バスの4種類だったのです。
(ただし当時のバストロンボーンは現代(B管)と違ってF管やG管でした)
これが、天使の楽器といわれる所以です。そして、
讃美歌や聖歌に使われていた楽器だけあって、得意なことはハーモニーです。
また、ハーモニーを奏でることによろこびを感じているトロンボーン吹きは多いと思います。
スライドなので音程が自由自在なことに加えて、音や音域が人の声に近いから…
そんなふうに言われていますね。
ブラームスやシューマンのシンフォニーはお休みが多くて暇ですが、
トロンボーン見せ場のコラールがあって、それこそ冥利に尽きるレパートリーなのです。
新世界の2楽章やチャイコフスキー悲愴の終楽章など多くの曲にコラールがありますね。
ブラームス交響曲第1番終楽章のコラール(普通はバス以外、低音部譜表では書きませんが…)
難しいこと
では、難しいことはなにか…
たとえばどんな管楽器でもそうでしょうが、高い音を弱音で吹くこと。
だから前出のブラームスやシューマンなどは決して、簡単ではないのです。大変…
でも、難しいことイコール嫌なこと、ではないし、
逆に、容易なことイコール吹いていて面白いこととも限らないのです。
そして…
ほかの楽器と違ってスライドを動かさなければならないから速い動きは苦手?
これは、パッセージによります。
トランペットはバルブの戻るスピードより速くは吹けないが、トロンボーンはいくらでも速く吹けるんだ…
と言った人がいましたね(汗)。誰でしたっけ…
吹きやすいもの
速いフレーズでも、吹きやすいもの…
たとえば、ライヒャやラーションのコンチェルトの終楽章、それから…
1999年の課題曲「K点を越えて」終盤のオブリガートなんかは、とても吹きやすいフレーズ。
ライヒャはもうPDなので楽譜を載せてみますね。
と思ったら、楽譜が行方不明だ…。記憶で書いてみます。違ってたらごめんなさい…
テンポは4分音符で90~100くらいでしょうか…
下に書いてある数字はポジションなのですが、お隣以外に動くところがとても少ないでしょ。
動きが細かいからって必ずしも難しいわけでもないのです。
また、替えポジションなんかもありますしね(ただし技量にもよりますが…)。
たとえばこれなど普通のポジションで吹くのは困難ですが(速さにもよりますが)、
こんな替えポジションで吹けば困難ではないですね。
レガート
そして特長的なもののひとつに、レガートがあります。
上手い人のトロンボーンのレガートは、それはそれは美しいものなのですよ。
なぜなのでしょうか。
人の声に近いということもあるのでしょうが、トロンボーンって…
音を変えるときに、管が途切れることがないのです。
ほかの金管楽器ってバルブやロータリーなので、切り替える一瞬は管が途切れてしまう。
トロンボーン吹きがほかの金管楽器でレガートのフレーズを吹くと…
「こんなにつながらないものなのか…」と感じるものだと思うのです(ぼくは感じます)。
舌と息のコントロール次第で、声楽に近い美しいレガートを奏でられる楽器、
それがトロンボーンなのです。ただし…
ヘタクソが吹くとグリッサンドでふにゃふにゃ、タンギングでブツ切れゴツゴツ…(汗)
あっ、レガートのフレーズでスライドが遠距離に動くパッセージはやめてくださいね。
ということは…、倍音間が広くポジション移動が大きくなる低音域のレガート、
これは、どちらかというとあまり得意ではないのです。
(数年前の某課題曲のソロとかね…)
グリッサンド
最後にグリッサンドについて…
トロンボーンが得意なもの、みたいに思われがちですが…
たしかに得意ではありますが、なんでも出来るわけではありません。
純粋なグリッサンドにするためには…
倍音を変えない(弦楽器でいったら移弦しない)ものでなければなりません。
たとえばオクターブのグリッサンドって、倍音をまたがないと出来ないのです。
トリック的な(擬似的な)やり方でいいのなら出来ますけどね。とはいえ…
デュファイの「2つのダンス」に出てくるオクターブを超えるグリッサンドなどは、
効果的な例のひとつだと思います(J.M.Defaye/Deux Danses)。
ボレロの終盤、ローマの祭りのソロ、フィルモアの一連の曲、デキシーランドジャズ…
いろいろなところでグリッサンドは大活躍ですね。
コミカルに、威厳をもって、幻想的に、繊細に、いろいろな使い方が出来ると思います。
ただし…
ここぞというところで使うのは効果的ですが、多用するものではないとも思うのです。
最後に一言…
金管楽器みんなそうですが、けっこう体力を使うので適度にお休みを作って下さいね。
ムダに延々と吹かされると怒ります(爆)。
さて、作曲家のみなさん、トロンボーンにどんなことを書きますか。
ということで、本文に出てきた、ラーションのコンチェルトです(15歳だそうです!)。