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【特集】ガザ戦闘開始から1年 どうしたら止められるのか

1年前の今日、世界は大きく変わりました。イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が始まり、中東での紛争が拡大し続けています。これ以上の犠牲と破壊を食い止めるため、私たちに何が出来るのかを考えます。
 

2023年10月7日、ガザ地区を実効支配するハマスの戦闘員がイスラエルを襲撃。イスラエル市民などおよそ1,200人が殺害されたほか、およそ250人が人質として連れ去られました。 

これに対してイスラエルは、「ハマスの壊減」を掲げて、ガザ地区で大規模な軍事作戦を始めます。これによって、ハマスの戦闘能力は削がれていきましたが、その一方で、ガザ地区では、病院や学校も破壊され、人道状況は極度に悪化します。ガザ地区での死者は4万1,800人を超えています。
 

1年経っても戦闘は続き、人質も依然およそ100人が捕らえられたままです。しかも、戦闘は、レバノンのシーア派組織ヒズボラや、その後ろ盾となっているイランも巻き込んで拡大しています。

世界は、危険と不安定さを増しています。中東情勢に詳しい、慶應義塾大学教授の田中浩一郎(たなか・こういちろう)さんと共に考えます。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で2024年10月7日に放送した内容です)
 

・“欧米の不作為”

別府キャスター: 田中さん、ガザ地区での戦闘が1年続いていること、どう受け止めていますか?
 

田中さん: 日々凄惨な状況が続いているにもかかわらず、まったく歯止めがかからない状態は、驚くべきことだと思います。
 

別府キャスター: これまでも、イスラエルによるガザへの攻撃はありました。地上侵攻を含む主なものだけでもこの図のようにありますが、今回際立つのは、やはり規模の大きさだと思います。期間の長さ、犠牲者の数にしても、なぜこれほど大規模なものになっているとお考えになりますか。
 

田中さん: 出発点として、去年(2023年)10月7日のハマスによる奇襲攻撃、テロ攻撃ですけれども、これがイスラエル側に想像以上の被害をもたらしたこと。さらに人質を取られたこと。これは前例を見ないケースでした。

それゆえに、イスラエル側の反応もかなり極端なものになったと言えますが、その報復、あるいは自衛の権利を振りかざしながら過剰に展開していることに対して、国際社会の代表格であるはずのアメリカやヨーロッパがまったく制することがないまま放置していること。ここに大きな不作為を感じますね。
 

別府キャスター: “欧米の不作為”ということですけれども、とりわけアメリカの影響力については、イスラエルにこれまでも行使してきました。

別府キャスター: 例えば、2008年の暮れから2009年初頭にかけての大規模な戦闘では、2009年の1月20日に、当時オバマ氏が大統領に就任することで、あたかもこの就任式までには軍事作戦を終えると言うスケジュール感があるかのように言われていましたが、そういう意味でいうと、アメリカの影響力、人によっては“グリップ”という言い方をする人もいますが、そのグリップは今、効いていますか。
 

田中さん: 少なくともこのバイデン政権の下では、効いていない。あるいは低下したと見えますね。

2009年の段階ではオバマ政権が誕生して、彼がどういう政策をとるのかということで“模様眺め”もあったと思いますし、一定の配慮もあったと思います。ところが、バイデン政権の場合には、もともと副大統領も経験していたこと。それから、ずっと昔からネタニヤフ首相との折り合いも悪いことがありますが、親イスラエルの大統領と知られていたので、その辺りの事を完全にイスラエルの首相であるネタニヤフ氏がいろんな面で織り込んで、「自分たちのやりたいように、どこまでもやれるんじゃないか」と踏んでいる所もあります。アメリカの威信が低下しているという別の見方もできますけれどもね。
 

別府キャスター: その関連で、「イスラエルの軍事行動が自衛権に基づくものだ」ということについては、アメリカでも大きな異論はないわけですが、「イスラエルの自衛権の行使の仕方が問題だ」という表現も聞かれます。この仕分けた議論はどう見たらいいのでしょうか。
 

田中さん: やはり、相応の報復や、均整のとれた報復が一応原則であるはずです。今、行われている軍事作戦はまだ続いていますし、レバノンにも飛び火しましたが、いずれの場合でも「自衛権」として正当化し続けるには相当な無理がある。規模の点でも、市民が多くいることを承知の上で「人間の盾」ということで、相手側を非難する材料として使いながらも全く自制しないと言う事を繰り返しています。それは決して褒められたものではなく、むしろ、欧米が人権や文民の保護とか、こういったお題目を掲げてきた以上、そこはきっちりと押さえるべき話だったはずです。  

別府キャスター: ヨーロッパもイスラエルへの働きかけが弱いようには見えませんか?

田中さん: 人権ということに関しては、ヨーロッパはアメリカ以上に一貫して言っている国々が多いはずですが、ことイスラエルとなると、一部の国はかなり盲目的にイスラエルを擁護していますし、現状、ガザであれレバノンであれ、こういった無謀ともいえる軍事作戦を全面支持したままです。これは、本当は驚くべき事態だと私は見ています。
 

・イラン 今後の動きは

別府キャスター: 次のテーマは紛争拡大の懸念です。この観点では今、イランの動きが焦点の1つとなっています。10月1日も、イランはイスラムに対して、180発を超える弾道ミサイルを発射しました。ただイランとしても、「イスラエルとの直接対立は避けたい」と本音では考えているのではないかというのが大方の見方かと思いますが、なぜ今回のようなミサイル攻撃を行っているのでしょうか。
 

田中さん: まず、イスラエルとの直接交戦を避けることの究極の目的は、アメリカが戦争や紛争に軍事的に介入してくることは避けなければいけないという思いからきています。なので、イスラエルと対じする場合でも、10月1日のミサイル攻撃もですが、いろいろな面で自制をしている、あるいは抑制的に対応していると思います。

しかし、その抑制は、イスラエルの側から見れば大したことはない。簡単に言うと、イランの出方を気にして、イスラエル側の行動を自制する必要がないと思います。それが逆に言うと、イスラエルをずっと増長させ、大胆な行動に打って出るような環境を作ってしまった。さすがにイランも、「ここで釘(くぎ)をきちんとさしておかないと、今後もイスラエルが無謀な攻撃を拡大させてくるだろう」と、ついに1日のミサイル攻撃に至ったのだとみています。
 

・“抑止力の再構築”

別府キャスター: イランはそのことによって、秩序なりバランスなりを取り戻そうとしているということでしょうか。
 

田中さん: 力の均衡に基づく抑止力を、お互いが確認する状況に再び持っていきたいのだと思います。

その点では今年(2024年)の4月、イスラエルに対してのドローンなども合わせたミサイル攻撃のときよりも激しさの度合いを上げました。実際に着弾したミサイルの数も相当数あり、だいぶメッセージは強化されましたが、イスラエルはこれに対する報復も予告しています。エスカレーションを起こすことなく、お互いがお互いを尊重し得るようなところで止まるのかは未知数ですね。
 

別府キャスター: イランが「さらなる抑止力が必要だ」と判断した場合、どのようなシナリオが懸念されますか。

田中さん: イスラエル側からイランに対して、相当な攻撃。例えば、一説には核施設、あるいは、港湾や石油輸出基地なども対象になる話も出ています。当然これらが狙われれば、イランはまた“再報復”という形で同等の攻撃をイスラエルに対してやると考えられます。そうなればもう、イランが当初望んでいなかったアメリカをも巻き込む戦闘になってしまうかもしれないです。

エスカレーションをもたらすことで、最終的にイランが現状使ってきた、ミサイルなどの通常兵器による抑止がイスラエルに対して効かないという現実を突きつける事になり、誰もが見たくない、“イランの核武装”という話をイラン国内で議論をたきつけてしまう危険性が高くなります。  

・“核ドミノ”の懸念

別府キャスター: イランが核を持つことは極めて大きな影響を持ちますね。

田中さん: NPT(核拡散防止条約)の下にいるはずのイランが核を持つことは言語道断ですし、国際社会として厳しく糾弾されてしかるべきことにもなりますが、そういった動きを見せれば当然アメリカやイギリス、さらに言えばアメリカ・イギリスなどが動かないとなれば、イスラエルが直接、軍事的に除去しようと行動を起こす可能性もあります。

また、もう1つ懸念されるのは、“中東における核ドミノ”です。これは何かというと、イランが核武装すれば、自分たちもためらわず核武装することを公言しているサウジアラビアもあります。

ですので、中東に、潜在的に核を持っているとされるイスラエルに加えて、場合によってはイラン、それにつられてサウジアラビア、場合によってはそこ以外のエジプトなどに、核武装という話が拡大してしまうかもしれない。この地域全体の安定的な管理を考えると、非常に逆効果になると考えられます。
 

・イスラエルの思惑は

別府キャスター: しかも、イスラエルから見ても、中東の周辺国が次々と核武装をする状況は、イスラエルの安全保障にとっても極めて危険なものになると思います。つまり、今やっているイスラエルの軍事作戦は、進めば進むほど、究極的にはイスラエルの安全保障をかえって阻害することにもなりかねず、そういう意味では随分、皮肉な事になるのではないのでしょうか。
 

田中さん: そうですね。ここはイスラエルの安全保障観。国家としての安全保障をどう見ているのかというところに依拠していると思います。

先ほど抑止力という観点で、“力の均衡”という話をしましたけれども、これは、どちらかというとイランの側の考え方。あるいは、世間一般で、国際情勢や国際関係を考える時に使う表現です。
 

田中さん: 私から見ると、イスラエルのやり方は、力の均衡というよりも“ゼロサムゲーム”で、「自分たちが相手か、どちらかしか生き残れないんだ」という発想に基づいている感じがします。ですので、敵と考える組織、これが国家主体、非国家主体問わず、脅威があれば、その間の力の均衡を追求するのではなく、相手を、完膚なきまでにたたきのめす、もっと言えば「破壊し尽くしてしまうことによってのみ自分たちの生存が保障される考え方」だろうと思います。

皮肉なことに、それを追求すればするほど新たな火種を生みますし、相手方の恨みもまた増すので、決して安全な環境を保障したとは言えないけれども、そちらのほうにイスラエルはより重きを置いているようですね。
 

・どこまで拡大するのか

別府キャスター: しかし、戦術的に勝利したとしても、核ドミノのシナリオがあることを考えれば、大きな戦略としては決して勝てないということも思います。それなのに、なぜネタニヤフ政権は、今の行動を取り続けているのか。そこに、彼なりの軍事的な判断もあるでしょうけれども、“感情”といった、なかなか合理性だけでは理解できないこともあるとお考えですか。
 

田中さん: そうですね。やはり去年(2023年)の10月7日の攻撃が非常に悲惨なものであったこと。また、虚を突かれたとはいえ、イスラエル側の防御が全く体をなしていなかったことなどで大きな失態を重ねた。

イスラエル国内の世論を見ても、ガザに対してこれだけのことをしても、まだ足りないというような意見がかなり強い。これはレバノンに対しても同様の意見があって、ネタニヤフ政権は、民意で選ばれた政権ですから、世論を背景にこれを行っているとも言えます。
 

田中さん: また国際社会の側で特に、西側が、引き続きイスラエルに対して兵器供与をためらわず行っていること。イスラエルは何だかんだ言って小国ですから、それほど多くの備えがあるわけでもなく、兵員にも限りがあります。経済の規模も一定のところで留まっています。ここからすると、外からの支援、とりわけアメリカからの支援や理解がなければ、ここまで続けられない問題があります。
 

田中さん: あともう1つ気になるのは、ネタニヤフ氏自身がいろんな意味で、国内で政治的に危うい立場に立たされているがゆえに、政権の座から引きずり降ろされたり、あるいは内閣が崩壊してしまったりすると自分の政治生命が絶たれてしまうことを避けたい。

紛争を長引かせる拡大させる、さらに言えば、閣内にいる極右の閣僚たちの意見を尊重するかのように、徹底的にガザ、ヨルダン川西岸、さらにはレバノンなどに対する攻撃を行っているのだと思います。
 

・どうしたら止められるのか

別府キャスター: 最後に、「では一体、どうしたらいいのだろうか」ということで、事態沈静化に向けた方策を考えていきたいと思います。

その前に、現状、中東での混乱が長期化していることは、中東にとどまらず世界全体へのインパクトも大きいものだと思います。先生はこの点をどうご覧になりますか。
 

田中さん: 2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が起き、まだ全く解決を見ず、現在進行形の中で去年(2023年)の10月7日の事件も起きました。それ以降の軍事作戦もまだ続いています。やはり明らかに、欧米のロシアに対しての厳しい姿勢と、過剰ともいえる軍事行動を続けているイスラエルに対しての姿勢が異なるわけですよね。全く違う基準に基づいて、いわゆる2重基準、“ダブルスタンダード”を露呈している状況があって。
 

田中さん: これを欧米さらにはその一部のコアになるG7、日本もその一員ですけど。それが声明などをもってイスラエルを後から支えている。これは、我々の信用度を著しく毀損していると思いますし、よくグローバルサウスの動きが最近気になるということで、G7のサミットのたびにグローバルサウスのリーダー国の代表を呼んだり、そこにおもねった声明を出したりしていますけれども、言っていることと、やっていることに正反対の状況が生まれてしまっています。  

別府キャスター: しかもこうした状況は、G7にとって得でないばかりか、G7に対して対抗的な勢力にとっては、ある意味チャンスになるリスクもありませんか?

田中さん: 中国、ロシアが中心ですけれども、BRICSという集合体。それから上海協力機構のような安全保障の枠組みから発信されていく彼らの言い分の方が、実は何か理にかなっているとか、これまでの国際秩序を守ろうとしている立場に聞こえてしまう。これはやはり、由々しきことです。

われわれ西側にいる方は、中国やロシアの最近の言動、特に軍事行動や威嚇については、修正主義者の行動や行いであることで厳しく糾弾してきたわけですが、どうも我々のほうが修正主義者だという、そしりを受けるような状況にみずからを追い込んでしまっているように見えます。  

別府キャスター: 最後になりますが、G7ができること、残されていることは、どのようなものがあるとお考えですか。

田中さん: やはり、“ダブルスタンダード”という、敵に塩を送るような状況を大きく変えないといけない。端的に言えば、みずからが作ってこれを標ぼうしてきた国際秩序やルールをきちんと守る姿勢、イスラエルに対して“過剰な防衛”とされる行動を戒める。そして、兵器の移転を無尽蔵に行っていますけれども、きちんと条件づけして止める方向に持っていかないと、われわれの立ち位置が極めてぜい弱に、不安定になってしまうと思います。
 

別府キャスター: ありがとうございました。ここまで慶應義塾大学教授の田中浩一郎さんにお話を伺いました。

イスラエルには、イスラエルの国益があり、もちろん自衛の権利はあります。しかし、それを踏まえた上で、そのイスラエルとどのような距離を取りどのように自制を求めるメッセージを伝えるのか。

日本を含むG7には、大局的な利益を冷静に分析すること。つまり、バランス感覚をしっかり持つことが求められているといえそうです。
 

■NHKプラスでは、放送後から1週間ご視聴いただけます。

 

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