疾風の狂宴


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作:徹底的な正義
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《狂風と剣姫の葬送曲》


ベルを殺めてしまい更に狂っていくリューさん。


 迷宮都市オラリオ、18階層「迷宮の楽園」。通常なら冒険者たちが休息を取るこの場所は、今、血と死の臭いに満ちていた。リュー・リオンは中央に立っていた。金髪が乱れ、薄緑の瞳が狂気的な光を放つ。彼女の手には木刀「アルヴス・ユースティティア」が握られ、その刃は血に濡れている。

 彼女の周囲には、無数の冒険者やモンスターの死体が散乱していた。彼女は全てを「悪」とみなし、真偽を問わず根絶していた。

 ベル・クラネルを水都で殺してから、彼女の心は完全に壊れていた。アストレア・ファミリアの教え、正義への信仰、仲間との絆――それらは全て、彼女の中で歪んだ狂気へと変貌していた。彼女の耳には、もはや温かな声は届かない。ただ、「正義に曇りは許されない」という呪文と、彼女自身の狂った笑い声だけが響いていた。

 

「悪は裁く…私が正義だ…」

 

 彼女の呟きが18階層の静寂に響き、壊れた旋律のように反響する。彼女の足跡は血に染まり、彼女の瞳はもはや人間のものではなかった。彼女は自らを「正義の執行者」と定義し、オラリオの全てを粛清する使命に取り憑かれていた。

 その時、18階層の通路の奥から、重々しい足音が近づいてきた。リューはゆっくりと顔を上げた。そこに現れたのは、金髪を風になびかせた一人の少女――アイズ・ヴァレンシュタイン。ロキ・ファミリアの「剣姫」、Lv.6の頂点に立つ冒険者。彼女の瞳には深い悲しみと燃え尽きぬ怒りが宿り、手には愛剣「デスペレート」が握られていた。彼

 

「リュー・リオン」

 

 アイズの声は低く、抑えきれぬ感情が滲んでいた。彼女は剣を構え、リューと対峙した。リューは一瞬、目を細めた。アイズ。かつてオラリオの冒険者として互いを認め合った存在。彼女の静かな強さと純粋さが、かつてのリューの心に響いたことがあった。だが、今はその記憶すら、彼女にとって無意味な残響でしかなかった。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン…なぜここにいる?」

 

 リューの声は冷たく、抑揚がなかった。だが、その奥で何かが軋むような気配があった。彼女の内に残る僅かな人間性が、アイズの姿に反応していた。アイズは一歩踏み出し、剣を握る手に力を込めた。

 

「お前がベルを殺した…その報いを、ここで受けてもらう」

 

 その言葉が、リューの心に突き刺さった。一瞬、彼女の瞳が揺れ、ベルとの最後の瞬間が脳裏をよぎる。水都に倒れた彼の姿、血に染まった白髪、微かに動いた唇。彼女の胸が締め付けられ、感情が溢れそうになった。だが、次の瞬間、彼女はそれを抑え込むように叫んだ。

 

「ベルだと!?」

 

 彼女の声が50階層に響き渡った。怒りと狂気が混じり合い、彼女の瞳が異様な光を帯びた。木刀を握る手が震え、彼女は一歩踏み出した。

 

「ベルは私の正義を邪魔した!だから裁いた!貴様がその恨みを抱くなら、それも悪だ!私の前に立つ者は全て粛清する!」

 

 アイズの瞳が鋭く光った。彼女の声が震え、怒りが爆発した。

 

「ベルは…あなたを信じてた!私だって…あなたがそんな"怪物"になるなんて思わなかった!」

 

 アイズの叫びが響き、彼女の剣が微かに震えた。ベルとの思い出、彼の純粋な笑顔が彼女の心を支えていた。それを奪ったリューへの憎しみが、彼女をこの深層まで駆り立てていた。

 

「お前を倒す…ベルへの報いために!」

 

 リューは一瞬、凍りついた。だが、次の瞬間、彼女の口元が歪み、狂った笑みが浮かんだ。

 

「報いだと? 倒すだと? ハハ…ハハハ!」

 

 彼女の笑い声が18階層に響き、壊れた旋律のように反響した。彼女の瞳がさらに輝き、狂気が頂点に達した。

 

「貴様が私を裁くだと!? 笑わせるな!私は正義そのものだ!貴様のような甘ったれた剣士が、私に立ち向かうこと自体が罪だ!」

 

 戦いが始まった。アイズが「目覚めよ(テンペスト)!」と叫び、風を纏った剣撃を放つ。18階層の空間を切り裂く嵐のような一撃がリューに迫った。

 だが、リューは「ルミノス・ウィンド」を並行詠唱で展開。緑の風がアイズの攻撃を相殺し、彼女自身が疾風のように動いた。

 

「貴様の風など、私の正義の前では無意味だ!」

 

 リューの叫びが響き、木刀がアイズの剣にぶつかった。火花が散り、二人の力が拮抗する。アイズの瞳には怒りと悲しみが宿り、リューには狂気と冷酷さだけが映っていた。

 

「リュー・リオン…あなたは昔、正義を信じてた!あの暗黒期も自分の正しい正義を信じてたたかっていたはず!!」

 

 アイズが叫びながら剣を振り下ろす。だが、リューはそれを木刀で受け止め、笑った。

 

「昔だと!? 昔の私は弱かった!仲間を失い、正義を見失った愚か者だ!貴様に何が分かる!?」

 

 彼女の声が震え、感情が溢れていた。アイズの言葉が、彼女の心に残る僅かな人間性を抉った。だが、彼女はその感情を狂気に変えた。

 

「貴様がベルを盾に私を責めるなら、それも悪だ!裁くしかない!」

 

 戦いが激化した。アイズの剣技は鋭く、風を纏った一撃が50階層の床を削る。だが、リューはそれを上回る速さで動き、魔法と木刀を駆使して応戦した。彼女の瞳が輝き、笑い声が止まらない。

 

「ハハハ!そうだ!貴様もベルと同じだ!私の正義を邪魔する悪だ!」

 

 彼女の叫びが響き、緑の風がアイズを切り裂こうとした。アイズは咄嗟に跳び退き、剣で防御するが、その腕に血が滲んだ。

 

「!!!そんな理由でベルを…ベルを!!!!!!」

 

 アイズの叫びが18階層に響き、彼女の剣が再び風を纏う。彼女の動きが加速し、リューに迫った。だが、リューはそれを予見していたかのように笑いながら回避し、木刀を振り下ろす。アイズの肩が斬られ、彼女が膝をついた。

 

「そんな理由だと? 貴様にとってはそうだろう!だが私が裁いたのは正義だ!」

 

 リューの声が狂気を帯び、彼女の笑みがさらに歪んだ。アイズは立ち上がり、剣を握り直した。

「ベルは…お前を信じてた…私も…!」

 

 アイズの声が掠れ、涙が一筋頬を伝った。だが、リューはその言葉に一瞬だけ凍りつき、次の瞬間、激昂した。

 

「信じるだと!? 貴様らが私を信じたせいで、私はこうなったんだ!」

 

 彼女の叫びが頂点に達し、彼女の魔法が炸裂した。「ルミノス・ウィンド」が50階層を切り裂き、アイズを壁に叩きつけた。アイズは血を吐きながらも立ち上がり、剣を構えた。

 

「リュー・リオン……あなたを…殺す!」

 

 アイズが最後の力を振り絞って突進する。だが、リューは笑いながらそれを迎え撃った。

 

「殺す!? 貴様ごときが!?正義の執行者であるこの私をだと!!!」

 

 緑の風が嵐となり、木刀がアイズの剣を弾き飛ばした。

 

「がはッ!?」

 

 次の瞬間、リューの一撃がアイズの胸を捉え、彼女を18階層の床に叩き落とした。血が広がり、アイズは動かなくなった。

 

「はぁ…はぁ……!!」

 

 リューは息を荒くしながら彼女を見下ろした。胸が激しく上下し、感情が嵐のように渦巻いていた。怒り。狂気。そして、奇妙な虚無感。彼女の手が震え、木刀が血に滴る。

 

「アイズ…貴様…」

 

 声が詰まった。彼女の瞳に一瞬、涙が浮かんだ。かつての戦友。剣姫としての尊敬。だが、次の瞬間、彼女はそれを振り払うように叫んだ。

 

「いや、違う!貴様は悪だ!私の正義を邪魔した!だから裁いたんだ!」

 

 彼女は自らに言い聞かせるように叫んだ。声が50階層に反響し、狂気的な響きを帯びる。アイズを見下ろす彼女の瞳から涙が流れ続け、だがすぐに狂った笑みに変わった。

 

「そうだ…私は正しい…正義は私だ…!」

 

 彼女の声が震え、笑いが止まらない。彼女は50階層の床に膝をつき、両手で顔を覆った。だが、指の隙間から漏れるのは嗚咽ではなく、狂った笑い声だった。

 

「ハハ…ハハハ!貴様もベルと同じだ!私の前に立つ者は全て悪だ!全て裁く!」

 

 彼女は立ち上がり、アイズを見下ろした。動かぬ彼女の姿に、彼女の心は一瞬だけ締め付けられた。だが、それを即座に否定するように叫んだ。

 

「貴様が死ねばいい!貴様のような甘さが、この世界を汚すんだ!私は…私は全てを粛清する!」

 

 彼女の瞳が異様な輝きを放ち、狂気が新たな高みに達した。アイズへの勝利は、彼女にとって最後の理性の糸を断ち切る瞬間だった。

 

 

 アイズを倒した後、リューは18階層を後にし、さらに深層へと進んだ。彼女の心は完全に壊れ、正義への狂気だけが彼女を動かしていた。彼女はダンジョンの中で新たな標的を見つけていた。モンスター、冒険者、ついには異端児(ゼノス)まで――彼女の目には全てが「悪」に映った。

 彼女は28階層に足を踏み入れた。そこはかつて「密林の峡谷」と呼称される領域。

 そして、自身が所属していたアストレア・ファミリアが壊滅してしまった場所でもある。

 

「悪が…また、ここにもいる…!!

 

 彼女は密林に潜む冒険者たちを見つけた。彼らは探索中で、疲弊しながらも生き延びようとしていた。だが、リューにはその努力すら「悪の延命」にしか見えなかった。 彼女の心は冷たく、狂気だけが彼女を燃やしていた。

 

 

「貴様らだ…!」

 

 彼女は叫び、風を纏って突進した。「ルミノス・ウィンド」が熔炎の領域を切り裂き、冒険者たちが悲鳴を上げて倒れた。彼女は血に染まりながら笑い続けた。

 

「そうだ!これが正義だ!私が正義だ!」

 

 彼女の笑い声が熔炎の領域に響き、熱風と混じり合って不気味な旋律を奏でた。彼女は一人、また一人と裁き続け、血と灰にまみれた。

ある冒険者が命乞いをした。

 

「お願いだ…俺たちはただ生きてるだけだ…!」

 

 だが、リューは冷たく笑った。

 

「生きてるだけだと? 貴様らが生き続けることが、悪の根源だ!正義に曇りは許されない!」

 

 彼女の木刀が振り下ろされ、その声は途絶えた。彼女の瞳には、もはや人間性のかけらも残っていなかった。

 

「アリーゼ。私は今、あなたの望んだ正義を執行しています!!この墓標に誓って!!!!」

 

 かつての仲間の墓標で高らかに宣言するリューだった。

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