第10話 夜②
「え〜!私が体洗ってあげたい!」
「私も洗ってあげたいんだけど」
「私もっ!!」
「……」
くびれのある、色白な背中についている下着のホック。
スカートを脱ぎかけの脚。
斜め後ろから見える、下着から少し出ている胸元。
それらを視界に映した僕は、少しの間頭の中が真っ白になると。
直後、頭の中で
そう、だった。
勢いで、エレナさんから一緒にお風呂に行こうと言われたことに対して、何の疑問も持たず頷いてしまったけど。
そもそも、エレナさんと一緒にお風呂に入るだけでも僕にとってはとんでもないことなのに。
この拠点のお風呂では、他の皆さんとも……というか。
これ以上こんな光景をずっと見ていたら、本当に頭が真っ白……どころか、無になってしまう!
思い至った僕は、慌てて視界を横に逸らす。
でも────
「っ!?」
逸らした先にあるのも女性の体で。
軍服の上着を脱いで、下に着ている服のボタンを少し外した状態で手を止めているようだった。
おそらく手を止めているのは僕たちが来たからだろうけど、ボタンが外れていることによって胸元の谷間が少し露出していた。
「ん、テラウォードくん。どうかした?」
「っ!な、な、何でもありません!」
今僕が一瞬だけ胸元を見てしまっていた人と目が合ってしまうと、慌てて視線を逸らす……でも、逸らした先にあるのも女性の体で。
僕は、思わず隣に居るエレナさんの軍服の
「っ!?フィ、フィンくん?どうしたの?」
「す、すみません。エレナさん……僕、やっぱり……皆さんと一緒にお風呂に入るのは、は、恥ずかしい、です……」
「可愛っ……!」
一瞬何か声を上げたエレナさんだったけど、すぐに落ち着いた様子で。
「そ、そっか……フィンくんは、どうして恥ずかしいの?」
エレナさんが聞いてくると、この場に居る皆さんも一度言葉を止めて僕の方を向いてくる。
そんな静寂の中で、僕は恥ずかしく思いながらも口を開いて。
「い、今まで、魔法学校とかで女性と話す機会は数えられないぐらいあったんですけど、こうして普段見えない部分の肌を見るなんてことは、ほとんどなくて、しかも皆さんはとってもお綺麗な方達ばかりなので、緊張とか、恥ずかしいという感情が出てきてしまって……だから、やっぱり……」
「っ!!」
「綺……!」
「麗……!」
上手く言葉をまとめられているかはわからないけど、思いのままを伝えると。
皆さんは、少し
「今のやばい……テラウォードくんの口から綺麗とか言われるの、やばい……」
「今まで受けたどんな魔法より効いたかも……!」
「綺麗……綺麗……」
「み、皆さん?どうなされたんですか?」
僕が聞くと、エレナさんが僕と皆さんの間に割って入るようにして。
「き、気にしなくて良いよ!えっと……そういうことなら、今日はみんなとは別々でお風呂入ろっか!せっかくのお風呂なのに、リラックスできなかったら意味無いもんね!」
「ほ、本当にすみません……エレナさんが、誘ってくださったのに……」
「いつでも誘ってあげるから、気にしなくてだ〜いじょう〜ぶ!じゃあ、私は今からみんなと一緒にお風呂入るから、フィンくんは部屋で待ってて!上がったら私が伝えに行くから!」
「わかりました……!」
ということで、僕は一度一人で自分の部屋に戻ると。
持参してきた魔法学の本を開いて、勉強を行い。
「フィンくん!みんなお風呂上がったから、もう入って良いよ!」
「ありがとうございます!」
エレナさんが来てくださると、着替えを持って一人でお風呂場に向かった。
そして、脱衣所で服を脱いでお風呂場に入ると。
「す……すごく広い」
第一声、思わずそんな声を上げる。
本当に何十人かで入るように設計されているからか、その広さは尋常じゃなく。
水やお湯の出る魔道具や、鏡も何十枚と置かれていた。
装飾も、相変わらずラグジュアリーな雰囲気で、とても高級感がある。
「さっきまで、ここで、皆さんが体を洗ったり────っ!」
変なことを考えそうになってしまった僕は、その考えを振り払うべく咄嗟に首を横に振る。
そして、すぐに体を洗い終えると。
僕は、そのまま広大なお風呂に浸かった。
「気持ち良いな……」
皆さんも、さっきまでこのお風呂で訓練とかの疲れを取っていたのかな。
僕は大人数でお風呂に入ったりしたことはないけど、皆さんはさっきまで────と、考えたところで。
自身の変化に気が付くと、その内容を小さく呟く。
「僕……ずっと、皆さんのことばっかり考えてる」
それは、変な意味ではなくて。
純粋に、無意識のうちから皆さんに関することを考えている。
ここが、僕一人にはあまりにも広すぎるお風呂だからかな。
……ううん、それは、あくまでもきっかけに過ぎない。
それだけ、この一日の間で、皆さんは僕にとって大きな存在になったということなんだろう。
「……」
この広大なお風呂に、僕一人。
そう考えると。
「なんだか……寂しいな」
お風呂場を見渡して、思わずそう呟くと。
僕は、水面に映る自分の顔を見ながら。
「明日は……明日は、恥ずかしさをどうにか
恥ずかしいという気持ちは絶対に湧き上がってくると思うけど……
それ以上に、皆さんと居られる時間が減ってしまう方が嫌だ。
そう思えるほどに、僕は今皆さんのことを大切に思ってる。
「……よし」
そろそろお風呂から上がることを決めると、たった一人しか居ない広大なお風呂の中に、
そして、さっきまでは
そのまま脱衣所を出ると、僕は一人自分の部屋に向かう。
このまま、今日は僕一人で一日が終わる────のかと思った、けど。
「あ!おかえり〜!フィンくん、さっぱりした?」
僕の部屋の前には、エレナさんが居た。
「っ!?エレナさん!?」
「うん!あ、フィンくん、まだ髪の毛ちょっと濡れてるよ?私がちゃんと拭いてあげるから、一緒に部屋の中入ろ!」
「え?は、はい!」
そして、椅子に座るよう促されたため座ると、エレナさんはタオルで僕の髪の毛を優しく拭いてくれ始める。
「エレナさん……どうして、僕のことを待っていてくれたんですか?」
「フィンくんが、一人になると寂しくなりそうって言ってたからね……あんなに広いお風呂に一人だと、特にそうかなって思ったから」
「っ!僕のために、そんなことまで……」
「このぐらい当たり前だよ、当たり前!」
言いながら、エレナさんは僕の頭から手を離すと、タオルを手近な場所に置いて。
「うん!これで大丈夫かな!」
「あ、ありがとうございます」
「明日は、まず朝みんなで一緒にご飯食べるからちょっと上の階にあるリビング来てね!それとも、まだ慣れてないだろうし迎えに来てあげた方が良いかな?」
「い、いえ!大丈夫です!」
「そっか!じゃあ、フィンくんが寂しくならないように、今日はもうちょっと一緒に居てあげるね!」
「っ!本当に……ありがとうございます」
出会ってからずっとそうだったけど。
エレナさんは、なんて優しい人なんだろう。
本当に……温かいな。
一人で入ったお風呂よりも。
今、エレナさんと言葉を交わしているこの時間の方に、僕は何倍もの温かさを見出していた。
そして、しばらくの間エレナさんと二人で椅子に座ってお話していると。
「っ……」
僕は、眠くなってきて思わず目元を
「何その擦り方可愛っ────眠たくなってきた?」
何かを言いかけたエレナさんは、すぐにその何かを言うのをやめて聞いてくる。
「はい……エレナさんと話している最中なのに、すみません」
「ううん、フィンくんが眠るまでの間寂しくならないようにって来たんだから、何も謝ることなんてないよ!」
優しい声色で言ってくれると、エレナさんは椅子から立ち上がって。
「じゃあ、私はそろそろ自分の部屋に戻ろっかな……また明日ね、フィンくん!」
明るい笑顔で言ってくださると、エレナさんは僕に背を向ける。
……こんなことを言っても良いのか。
迷惑にならないのか。
そんなことを考える間もなく。
僕は、今にも僕のところから去っていきそうなその背中を見ると。
「っ……?フィンくん……?どうしたの?」
僕の方を向いて聞いてきたエレナさんに対し。
少し緊張しながらも、口を開いて言った。
「今夜は……もう少し、エレナさんと、一緒に居たい……です……」
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