疾風に一目惚れするのは間違っているだろうか


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作:如月皐月樹
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第二章:未完の少年
1:迷宮の楽園


今回はちょっと長め。
普段の1.5倍くらいかな?


「みんな、また来ました。アリーゼ達は私より後に来るでしょう。その時に彼女達にも花を手向けてもらってください。……それでは」

 

 ダンジョン18階層、迷宮の楽園(アンダーリゾート)

 リューは一人【ロキ・ファミリア】との合同遠征が終わった後、ここ18階層にある、かつていた仲間たちの墓参りに訪れていた。

 

 この時ばかりは、リューはアリーゼ達とは一緒にはいられない。

 あまり彼女達と一緒にここに来たくはない。

 

 無意識的に、リューはこの場所に訪れる時は、そんな行動をとっていた。

 何度か一緒に行こうと言われた事があるが、それでもリューはここには必ず一人で訪れる。

 

 そんな行動を繰り返していたからか、18階層に戻って来た時にはそれぞれが別行動をすることになった。

 そうなったため、リューは自然とこの場所に足を運んでいた。

 

 そして墓参りを終え、野営地へと戻ろうとリューが思ったタイミングで、モンスターの咆哮のようなものが聞こえた。

 

「あれは……ゴライアスでしょうか」

 

 そういえば、そろそろ二週間が経過する。

 ゴライアスのインターバルもそろそろだろうと、彼のモンスターが生まれていないか確認するためにリューは17階層への道へと足を運んだ。

 そしてしばらく歩いたところで、ばったりと【剣姫】に出くわした。

 

「おや【剣姫】奇遇ですね。貴女もゴライアスが生まれていないか、確認しに来たのですか?」

 

「あ、リオンさん。どうも。えっと、私もそうです。さっき、咆哮のようなものが聞こえたので、その確認に」

 

「そうですか。では一緒に行きましょう」

 

 ぽつぽつと語るアイズにリューはそう提案して、二人の金髪で無表情な少女が17階層への道を行く。

 リューのエルフの耳さえなければ、並んで歩く二人の後ろ姿は姉妹そのものなのだが、残念ながらその後ろ姿を見る者はいない。

 アリーゼ辺りが見ていれば、それこそ「あなたたち、姉妹みたいね!」なんて言うのだろうが。

 

「……」

 

「……」

 

 無言。ひたすら無言でダンジョンを歩く二人。

 聞こえてくるのは二人が奏でる微かな靴音だけ。

 二人でならんで歩いているものの、最初にした会話を最後にそれは途切れてしまった。

 

 二人で行こうと提案したリューであるが、特にアイズに話しかけるつもりもない。

 いや、話題なら今回の遠征のことでも話せばいいのだが、アイズという少女は何を考えているのかわかりにくい。

 故に少しばかり話しかけにくい。

 

 自分のことを棚に上げるなと、輝夜あたりには言われるだろうが、社交的でもないリューの方からアイズに話しかけるなど、到底無理な話であった。

 

 そう思っていたら、なんとアイズの方からリューに話しかけてきた。

 

「あの、少し、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「え、ええ。私に答えられることでしたら」

 

「ありがとう、ございます」

 

 意外や意外。【剣姫】の方から話しかけてくるとはと、リューは若干たじろぐも、答えられることなら答えようと、そう返した。

 そこでアイズが意を決して口を開こうとした時、二人の耳に悲鳴のような声と、何かが地面をこするような音が聞こえてきた。

 

「今のは……人の声でしょうか?」

 

「えっと、多分、そうじゃないかと」

 

 二人で顔を見合わせ、歩きではなく駆け足で17階層に続く道を行く。

 そして二人の前に現れたのは、傷付いた様子のリューの弟子の姿であった。

 目を見開き呆気にとられるリューと「あ」と声を漏らすアイズ。

 

「だ、誰か、助けて、ください」

 

 意識も朦朧とした様子の弟子。

 リューの姿も認識できていないのか、必死な様子でリューの足に縋ってきており、そしてそのまま意識を落とした。

 

 弟子と再会するのはもう少し先のことだと思っていたのに、突然目の前に現れしばし思考が止まっていたが、リューは弟子の状態を再度見て慌てて回復魔法をかける。

 

「く、クラネルさん! 怪我の具合は……クラネルさんが一番酷いですね。アーデさんに、知らない冒険者もいますが、クラネルさんの仲間でしょう」

 

 ならば取り敢えずは弟子が一番優先度が高いと、リューはそのまま弟子に回復魔法をかけ続けた。

 そしてなにやら迷っている様子のアイズに話しかける。

 

「【剣姫】私はこの場で彼等の応急処置をします。貴女は【勇者】にクラネルさんが18階層に来たと、そう伝えてください。【勇者】には、恐らくそれだけで伝わるかと。あと、見つけられればでいいのですが、アリーゼにここに来るように伝えてもらえると助かります」

 

「あ、あの。……わかりました」

 

 なにやら言いたそうな様子であったが、素直に言うことを聞いてくれてよかったとリューは思う。

 アイズがその場から去るのを横目に、リューは一人考え、独り言を呟く。

 

「クラネルさんの成長速度は知っていますが、いくらなんでも18階層に来るのは早すぎる。怪我も負っていますし、クラネルさんが無理に到達階層を伸ばすようなことはしないでしょう。ならば……」

 

 異常事態に巻き込まれたかと、リューは一人おおかたの結論をつける。

 そしてそれは限りなく正解に近い答えであった。

 

 弟子の応急処置が済み、呼吸も安定したのを見て、次に怪我の様子が酷い赤髪の青年、リリと順番に回復魔法をかけていたところで、リューのところにアリーゼがやって来た。

 

「リオン! 何があったの? 【剣姫】ちゃんからここに来るようにって言われたんだけど……ってお弟子君にリリちゃん!? もう一人は知らないけど……なんでこんなところにお弟子君が!?」

 

「私に聞かないでください、アリーゼ。私だって知りたいのですから。ひとまず、応急処置は済みました。後は治療師(ヒーラー)に任せます。アリーゼ、貴女はそこの赤髪の青年とアーデさんをお願いします」

 

「わかったわ!」

 

 そうしてリューは自分の弟子を抱き上げる。

 リューは知る由もないが、弟子が望んでいた二度目の『お姫様だっこ』で。

 アリーゼは赤髪の青年を背負い、リリを小脇に抱える状態で運ぶ。

 

「ねえ、場所はどうしようかしら。テントって今、余ってるっけ?」

 

「どうでしょうね。私達の分まで【ロキ・ファミリア】の皆さんが用意してくださっているので、詳しいことはわかりませんが……取り敢えずは私達のテントに運びましょう。それが確実です」

 

「それもそうね! にしてもお弟子くん、到達階層を伸ばすのも早すぎない? まだレベル2になって二週間経ってないわよね?」

 

「それは私もそう思いますが……恐らくは異常事態に巻き込まれ下の階層に進むことを選んだのでしょう。クラネルさんやアーデさんならばそのぐらいの発想はします」

 

「確かに。お弟子君もリリちゃんも、そのぐらいなら考えて実行しそうね。この赤髪君はわからないけど」

 

「アリーゼ、貴女がその青年を赤髪君と呼ぶのは、なんだか違和感を覚えますね。貴女も髪が赤いですから」

 

「そう? 別にいいじゃない。今はそれぐらいしか呼び方がないんだし」

 

 なんて会話をしていると、弟子の意識が戻ったようで、微かに目を開けるのが見えた。

 その様子を見て、リューが穏やかな声で語り掛ける。

 

「クラネルさん、私の事がわかりますか?」

 

 今度はハッキリとリューのことを認識できたのか、弟子は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 

「りゅー、さん?」

 

「ええ、そうです。貴方の師匠のリュー・リオンです」

 

「また、助けられちゃい、ましたね。あんなこと、言ったのに」

 

「そんなことを気にする必要はありません、クラネルさん。輝夜は貴女を揶揄うでしょうが、その時は私が止めましょう」

 

「から、かわれる、のは、ちょっと、嫌、ですね」

 

「そうですね、クラネルさん。それと、もう喋らなくていい。貴方が一番酷い怪我だったのですから。今はゆっくり、私の腕で休んでください」

 

「は、い。そう、させて、もらい、ます」

 

 そう最後に呟き、とても安心した様子で自分に体重を預ける弟子は目を閉じ、夢の中へと旅立っていった。

 そしてリュー達が使うテントに辿り着き、三人をそっと寝かせたあと【ロキ・ファミリア】の治療師を呼んで、ちゃんとした治療を施してもらう。

 その様子を隣で見るリューに、アリーゼが話しかける。

 

「リオンはここに居てあげて。私はフィンさんのところに行って事情を説明してくるから」

 

「その必要はないとは思いますが……ええ、念のためお願いします、アリーゼ」

 

「その必要がないってどういうこと?」

 

「実は【剣姫】にもそうするよう伝えていたのです。彼女が既に伝えているはずなので、アリーゼが行けば【勇者】は二度、同じ話を聞くことになりますね」

 

「うーん。けど、どのみち私達のテントに運んだって報告は必要だし、それも踏まえて行ってくるわね」

 

「わかしました、アリーゼ」

 

 そうしているうちにも彼等の治療は進んでおり、しばらくしてから治療師の女の子もテントから出て行った。

 リューは穏やかな表情で眠る弟子の頭をそっと撫でつつ、呟く。

 

「目を覚ました時には、ちゃんと事情を説明してもらいますからね。クラネルさん」

 

 そしてリューは、自分のことを心配させた罰として、弟子の額にちょっとした『いたずら』をした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「目が覚めましたか。おはようございます、クラネルさん。体調はどうですか?」

 

「あっ、はい。おはようございます、リューさん。僕はもう大丈夫です。治療もしてもらったみたいですし。リリとヴェルフ──髪の赤い冒険者のことですけど、二人は大丈夫なんですか?」

 

 またリューに『お姫様だっこ』で運んでもらったことの嬉しさを噛み締めつつも、目を覚ましたベルは自分の状態を確認してから、一緒にいたはずの二人の心配をする。

 そのベルにリューは「ええ」と頷いた。

 

「二人とも無事です。今は貴方の隣で寝ていますよ。呼吸も安定しています」

 

「あ、本当だ。気付かなかった……けど、よかったぁ」

 

 安堵のため息を漏らし、二人が無事な所を見て、ベルは両の目を細める。

 その様子を見たリューも、自分のことより他人のことを思いやるベルに暖かな眼差しを向け、ベルの身に何があったのか問いかけた。

 

「それで……クラネルさん。一体何があったというのです。おおかた異常事態だとは思うのですが」

 

「実はそうなんですリューさん。最初は順調だった中層の探索なんですけど……あっ、今日初めて中層に入ったんですけど、途中で極東の格好をした人達に怪物進呈を受けまして……」

 

「クラネルさんに怪物進呈、ですか」

 

 怪物進呈と聞いて、リューの空色の瞳が鋭くなるのを見たベルは、咄嗟にその人達の事を庇う。

 

「そんなに怖い顔をしないでください、リューさん。怪物進呈なんて、冒険者の間じゃ暗黙の了解なんですし、それにその人達も怪我人を背負ってたので……」

 

 そう進言したベルに、ひとまずは怒りを抑えようとリューは一度目を瞑った。

 そして次に目を開けた時には、リューの怒りは霧散していた。

 その様子を見てホッとするベルに、リューは続きを促す。

 

「そうですか……それで? 怪物進呈を受けた所で、クラネルさんが18階層にまで来ることになるとは思えないのですが、その先はどうなったのですか?」

 

「リューさんにそう思われてることは嬉しいんですけど……えっと、その後が異常事態で、ダンジョンの床が抜けちゃったんです」

 

「ダンジョンの床が? 確かにあの階層ではそういったことがままありますが……それにしても、それに巻き込まれるとはとんだ不運でしたね」

 

「はい。本当に自分の発展アビリティが機能してるのか、疑いたくなりましたもん。『幸運』って話だったのに」

 

「その話も気になりますが……それでその後は? もう大体予想できてますが、貴方の口から聞かせてください」

 

「それでですね、15階層に落ちちゃったので、リリとヴェルフとも相談して、僕とリリが18階層を目指すことを提案したんです。ヴェルフもそれに同意してくれたので……それで『嘆きの大壁』までたどり着いたのは良かったんですけど、その後……」

 

「なるほど。そこまで聞ければ結構です、クラネルさん。私にもゴライアスの咆哮が聞こえてましたから」

 

「そうだったんですか?」

 

「ええ。それで私はあの場所にいたのです。何にしても、貴方達が無事で良かった。クラネルさんもアーデさんも、そのヴェルフという青年も」

 

「いえ、それはリューさんが助けてくれたからで……あっ」

 

 と、そこまで話して、ベルは恐る恐る一緒に話を聞いている輝夜の方を見た。

 アレだけの大声で、あんな事を叫んだのだ。いくら迷宮で音が反響するとはいえ、輝夜にも聞こえていただろう。

 そしてあんな事を叫んだそのすぐ二週間後に、またリューに助けられるような真似をしたのだ。

 

 絶対に揶揄われる、とベルが思っていると、どうやら輝夜にその気はないようで、真剣な表情をしている。

 そして話がひと段落したからか、輝夜がベルに尋ねてきた。

 

「兎、先程の怪物進呈のところで気になる事があった。聞いてもいいか?」

 

「えっ、はい。いいですけど……なんですか、輝夜さん?」

 

 ベルが許しを出すと、輝夜は「ああ」一呼吸置き、聞いてくる。

 

「その怪物進呈を仕掛けた極東の格好をした連中は、四人組ではなかったか? 短髪の大男と、リオンに似たポニーテールの少女、後は片目が隠れている気弱そうな少女に……」

 

 と、そこまで輝夜が話したところで、ベルは「そうですけど」と口を挟んだ。

 

「なんでそこまでわかったんですか、輝夜さん? 僕、極東の格好をしていたとしか話してなかったのに……」

 

 ベルが純粋に疑問に思った事を輝夜に聞くと、輝夜はため息と悪態をつきながら説明してくれた。

 

「はぁ……何を怪物進呈をするような無様な状態に陥っているのだアイツらは……すまなかったな、兎。貴様に怪物進呈をしたのは私の身内だ。詫びとして、リオンに叩いた大口のことでは揶揄わないでやろう」

 

 あ、やっぱり聞こえてたんだ、とベルが思っていると、なんとリューの方から爆弾が放り込まれる。

 

「良かったですね、クラネルさん。輝夜に揶揄われそうになくて。元はと言えば、私が輝夜達に教えたのがいけないのでしょうが……ええ、これで私が輝夜を止める必要もなさそうだ」

 

 衝撃の事実にベルは「なんで教えてるんですかリューさん!!」と叫びたかった。

 けど出来なかった。その後の展開が容易に想像できるから、できなかった。

 そうなってしまえば絶対に輝夜に揶揄われると、嫌な確信があったから。

 

 きっと輝夜も昔は散々揶揄って遊んでいたリューの事を揶揄えなくなり、それで色々と寂しかったのだろう。

 それでも、新しい玩具を見つけたとばかりに自分のことを揶揄おうとするのはご遠慮願いたい。

 お義母さんがオラリオに来たら、輝夜に揶揄われている事を報告しようと、なかなかに鬼畜な事を考えるベル。

 

 とはいえ、心の底から揶揄われたくないと思ったベルは、何事もなかったかのように、今自分にできる最大限の取り繕いとして、輝夜に質問をぶつけた。

 

「か、輝夜さんの身内、ですか? 確かに極東の人っぽかったですけど、【アストレア・ファミリア】ではありませんよね?」

 

「ああ、それはね……お弟子君が見た人達は多分【タケミカヅチ・ファミリア】の人達なのよ」

 

 と、ベルの疑問に答えてくれたのは、ずっと黙って話を聞いていたアリーゼだった。

 アリーゼはそのまま続ける。

 

「お弟子君みたいに、その人達には輝夜が修行をつけに行ってるの。偶に輝夜が『星屑の庭』にいなかったのはそういうこと。お弟子君ほど頻繁じゃないけど、たまにね」

 

 その説明に、ベルは今まで疑問に思っていた謎が解消され、つい思ってしまった事を言う。

 

「ああ、それで二回ぐらい輝夜さんの下着姿を見ない時があったんですね。アレはアレで珍しかったので、少しだけ驚いてたんですけど、謎が解けました」

 

「ほう、なるほどなるほど。やはり偶に不意打ちで喰らわせた方が効果がありそうだな。自ら揶揄われるネタを提供してくれたこと、感謝するぞ、兎」

 

 兎、渾身の自爆であった。

 あれだけ揶揄われたくないと思っていたのに、ちょっとした気の緩みから、自分から輝夜に餌を撒いてしまった。

 

 新しいネタを得られたと、輝夜はニヤァと口元に笑みを浮かべる。

 あまりにも邪悪なその笑みに、ベルは顔を青くしてブルブルと震え始めた。

 その様子は蛇に睨まれた蛙。否、竜に睨まれた兎であった。

 

「か、輝夜さん? さっきお詫びに揶揄わないって、そう言ってくれましたよね?」

 

 一縷の望みにベルは賭けるも、それは木っ端微塵に粉砕される。

 

「何を言っているのだ兎。私が揶揄わないと言ったのは、リオンのことについてだけだ。それ以外には適応されん。精々震えて夜を過ごすがいい、兎」

 

 ──あ、絶対お義母さんに言いつけよう。

 

 ベルはそう決心した。ベルもランクアップしたとはいえ、未だに輝夜とのレベル差は四つもある。

 まだまだ口でも戦闘面でも勝てる気がしないベルにとって、義母に頼るというのは当然の帰結であった。

 

 と、一つ極東美人の未来の結末が決まったところで、何やら外の様子が騒がしいことに気付いたアリーゼが立ち上がる。

 

「私、外の様子がちょっと気になるから見てくるわね。なんだか聞き覚えのある声がするし」

 

「わかりました、アリーゼ。18階層だからといって油断しないよう、気をつけて行ってください」

 

「了解だ、団長。リオンの言う通り、気をつけてな」

 

「わかりました、アリーゼさん。気をつけて」

 

「もちろん!」

 

 三者三様にアリーゼに言葉を送り、それに元気よく返事をしたアリーゼがテントから出ていく。

 それを三人で見送ったあと、とうとう輝夜は我慢できなくなったのか、そのことを聞いてきた。

 

「それで、兎。貴様はいったい、いつまでそうされているつもりだ?」

 

「? そりゃあリューさんが飽きるまでですけど」

 

 そう。リューはベルが起きてから今までずっと、なんなら起きる前から、ベルの頭を撫で続けていた。

 よくあの治療師の女の子――リーネという少女――はそれに突っ込まずに、自分の職務を全うしたものだ。

 流石は【ロキ・ファミリア】の団員といったところか。

 

 そしてベルの頭を撫で続けるリューはというと、少しだけ頰を緩ませながら言い訳を始める。

 

「これは……その……クラネルさんの髪の感触が気持ちよくて、つい。クラネルさんは、嫌ではないのですか?」

 

「嫌だったらもっと前に指摘してますよ、リューさん。アーディさんに撫でられるのは、ちょっと抵抗がありますけど……僕はリューさんだったら全然構いません」

 

「そうですか。ありがとうございます。それで……なにやら騒がしい声が聞こえてきましたが……」

 

「そうだな、リオン。私にもこの声には聞き覚えがあるぞ」

 

「そうですね。僕にも少し聞き覚えがあります。というか、さっき話した、そのアーディさんのような声だと思うんですけど……」

 

 と、ベルがアーディの名前を出した時だった。

 ばっとベル達のいるテントの幕が開き、たった今話題に上がった人物──アーディ・ヴァルマが何故かその場に姿を現した。

 

 そしてアーディはベルが自分の髪をリューになすがままにされているのを見ると、絶叫する。

 

「あー!! リオンったらずるい!! 私の方が先にベル君の髪を触らせてもらう約束をしてたのに!!」

 

 訳のわからない事を大声で言っているなと、リューはアーディの台詞を無視して彼女を嗜める。

 

「アーディ、大声を出さないでください。ここには怪我人もいるのですよ? 彼等の怪我に響くような真似は慎むように」

 

「あっ、ごめんごめん。そうだったね。ついうっかりしちゃった」

 

 てへっ、と謝罪するアーディに、リューは「それで許されるのは貴女ぐらいなものですよ」と小言を言い、アーディに質問する。

 

「アーディ、何故貴女がここに来たのですか? どうやら貴女だけではないようですが」

 

「うーんっとね、実は護衛を頼まれてね。ベル君、君も関係してくることなんだけど……」

 

 と、アーディは事情を話し始める。

 

 なんでもギルドにいたところを【ヘルメス・ファミリア】主神のヘルメスに声をかけられ、ベルがヘスティアの元に帰ってきてないと、説明を受けたそう。

 

 そしてその捜索のお願いをされ、アーディもベルとは知らない仲でもないので、二つ返事で了承したそうだ。

 ざっくりと事情を聞いたベルは、アーディに質問を飛ばす。

 

「神様が捜索願いを出してくれたんですか?」

 

「そうだよ、ベル君。実はヘスティア様やヘルメス様もダンジョンに来てるんだ。外でベル君のことを待ってるよ」

 

 さっきの説明にはなかったその事実に、三人揃って目を見開き、これまたリューがアーディに小言を挟む。

 

「アーディ、都市の憲兵ともあろう者が、何故神をダンジョンまで護衛しているのですか? 貴女は私の友人ですが、そこまで残念な頭はしていないと思っていたのですけれども」

 

「それはほら! 昔にも言ったと思うんだけど、お姉ちゃん達が鞭なら私は飴だってことで。ね、だから許してリオン! そんなに怖い顔しないでさ!」

 

「……はぁ、本当に仕方のない友人です。貴女は」

 

 嘗てとある神が起こした事件もあり、輝夜も険しい表情をしている。

 だが、連れてきてしまったものは仕方がないと、既に諦めた様子だ。

 と、そこで、ベルはこの場にいない最後の人物について尋ねた。

 

「そういえば、ライラさんの姿が見当たりませんけど、どこにいるんですか?」

 

「ライラでしたら、恐らくはリヴィラの街にでも行っているのではないでしょうか? あそこにはライラの悪友もいますし」

 

「おう、そうだぜリオン。ついさっきまで、その悪友達と会ってたところだ」

 

 と、これまたいいタイミングでライラがテントに入ってきて、ベルに話しかける。

 

「それでだ兎、お前のことをアタシらの勇者様が呼んでるぞ」

 

「フィンさんが? どうしてですか?」

 

「お前に色々と直接話を聞きたいんだとよ。おおかたアルフィアの話だったりするんだろうけど……あ、あとこれは伝言だ。アタシらもいるし、お前達三人もこのキャンプで面倒を見てくれるってな」

 

「わかりました、ライラさん。ファンさんには直接お礼を言います。早く行った方がいいですか?」

 

「おう、アタシが案内する」

 

「わかりました。それじゃあリューさん。本当に、助けてくれてありがとうございました。輝夜さんもアーディさんも、また後で」

 

 そう言って、ベルはライラについて行きフィン達の待つテントに入った。

 その中ではファンとリヴェリアの二人が、ベルのことを出迎えてくれた。

 

「初めまして、ベル・クラネル。君の話はライラ達から聞いている。君も既に聞いたとは思うが、君の仲間達も含めてこのキャンプで面倒を見るから、安心して欲しい」

 

「ああ、初めましてだな、少年。そこのパルゥムが言ったことに嘘はない。ハイエルフの私が保証しよう」

 

 二人は仲が悪いのかな、なんて考えながらも、ベルは二人に自己紹介をする。

 

「初めまして、フィンさん、リヴェリアさん。僕は【ヘスティア・ファミリア】所属のベル・クラネルです。お二人の事は少しだけですけど、お義母さんから伺ってます。それと、今回はパーティメンバーも含めてキャンプに泊めていただけると聞きました。ありがとうございます」

 

 そう素直にベルが頭を下げてお礼を告げると、なにやら二人は意外そうな顔をして、ベルに質問してくる。

 

「なあ少年。君は本当にあの【静寂】の息子なのか? 若干、いや、少々信じられないのだが……」

 

 リヴェリアに問われたベルは怪訝な顔をしながらも答えた。

 

「その【静寂】って二つ名は聞いたことがないですけど、それがお義母さん──アルフィアお義母さんのことを指しているのなら、僕はその人の息子ですよ。義理の息子で甥ですけど」

 

「そうか……すまなかったな、少年。少しばかり信じられなかったのでな。なにせあの【静寂】の息子が、こんなに素直な子とは思わなくてな」

 

「あはは……アリーゼさん達にも言われてます。全然お義母さんに似てないって」

 

「そうだろうな」

 

 リヴェリアにそう言われ、一つ会話が終わったので、ベルは「それで」と切り出した。

 

「フィンさん達が聞きたいのって、お義母さんについてなんですか? 今はまだオラリオにいませんけど、一年以内には帰って来るでしょうし……それが何か関係あるんですか?」

 

「一年以内に【静寂】が帰ってくるというのは聞き捨てならないけど、そうだね。ベル・クラネル、君は君の母親から何か聞いていないかい? 『穢れた精霊』というモンスターについて」

 

 『穢れた精霊』について聞かれ、再び怪訝な顔をするベル。

 それを見た二人はベルが話す前に、これはあまり期待できないなと思うも、ベルが話し始めるのを待った。

 

 義母との会話を思い出すベルだったが、やはり『穢れた精霊』なんてものは聞いた覚えがなく、ゆるゆると首を横に振る。

 

「すいません、フィンさん、リヴェリアさん。『穢れた精霊』なんてモンスターの名前を、僕はお義母さんから聞いたことがありません。深層のモンスターなんですか? 僕は一応、下層までのモンスターの名前はだいたい把握してるんですけど……」

 

「君のレベルで下層まで把握しているのは十分すぎるくらい十分だが、残念ながら違うね。あれは確かに深層にいたけど、深層由来のモンスターではない。これ以上は僕からも何も言えないかな」

 

「そうですか……お役に立たなくてすいません」

 

「いや、十分だ、少年。あの【静寂】も知らないモンスターなど、私達が知る由もないのだから。それが分かっただけでも、十分すぎるくらいな情報だ。感謝する」

 

「そうですか。お役に立てたようなら何よりです。他に何かありますか? 今の僕がお二人に答えられそうなものなんてないでしょうけど……」

 

「……本当に信じられんな。君みたいな少年が、あの【静寂】の息子などとは」

 

 なんてリヴェリアが言うものだから、ベルはつい気になっていたことをリヴェリアに問いかける。

 

「そういえば、さっきからずっとリヴェリアさんはお義母さんのことをアルフィアって名前じゃなくて【静寂】って二つ名で呼んでますけど、どうしてなんですか? お義母さんは確かに静かで、かつ煩いのが嫌いですけど……」

 

「そうだな、これは意趣返しというものだ」

 

「意趣返し、ですか?」

 

 ベルが首を傾げていると、リヴェリアが「ああ」と説明してくれた。

 

「なにせあの【静寂】は私のことを癇癪持ちのクソババアだの、年増のハイエルフだの、散々な呼び名で呼んでいてな。少年も、少しは聞いているのではないか?」

 

 そう言われ、自分もかつて酒場でリヴェリアの姿を見た時にそんなことを思っていたなと遠慮がちに笑う。

 

「あ、あはは……そうですね。リヴェリアさんのことをそう呼んでいるのは聞いたことがありますよ。僕は絶対に言いませんけど」

 

「……本当に、なぜあの【静寂】の息子が、こうも純粋で良い子に育つのか甚だ疑問だが……そうだな。でだ、奴が頑なに私のことを名前で呼ばないものだからな、その意趣返しというやつで私も奴が嫌っている【静寂】という二つ名で呼んでやっているのだ。疑問は解消したか、少年?」

 

 そうリヴェリアに問われ、ベルは「はい。ありがとうございます、リヴェリアさん」と返して、そのお礼にその意趣返しが成功していることを伝えた。

 

「その意趣返しでしたら、成功してると思います。ただ、あまりやりすぎると魔法で吹き飛ばされてしまいますよ。僕もお義母さんのことを『おばさん』って呼ぼうとしたら、言い切る前に吹き飛ばされてましたから」

 

 それに反応したのはリヴェリアではなく、ベルの前で机の上に置き両手を組んでいるフィンの方だった。

 

「へえ、あの【静寂】にも呼ばれたくない呼び名があったなんてね。これは良いことを聞いた。助かるよ、ベル・クラネル」

 

 そんなことを言うフィンは、とても悪い顔をしていたので、ベルは忠告することにする。

 

「フィンさん。それは僕の場合であって、フィンさん達レベル6の人達には、お義母さんだったら加減なんてしませんよ。むしろ、より過激になるかと」

 

 そう言うと今度はリヴェリアが「より過激とはどういうことだ、少年?」と聞いて来たので、あの義母がやりそうなことを、ベルは自分の想像だが伝える。

 

「最低でも半殺し、最悪の場合なら皆殺し、なんてこともあるかもしれないので。だから気を付けてくださいね」

 

 半殺しの後に全殺しではなく皆殺しというところがアルフィアらしいと、ベルは思った。

 なにせあの義母のことだ。いくら都市最大派閥とはいえ【ロキ・ファミリア】一つを潰すことなど、造作もないことだろう。

 寧ろ嬉々として「これも修行の一環だ」なんて言って、色んな【ファミリア】を潰して回るかもしれない。

 

 そんなことをベルがフィンに話すと、彼は冷や汗をダラダラ流しながらも、いたって自然な声で話す。

 

「ああ。忠告感謝するよ、ベル・クラネル。そうだな……後は、何か彼女は言っていなかったか? 例えば『竜の谷』についてとか」

 

 『竜の谷』と聞き捨てならないワードが出て来たため、ベルも真剣な表情になって答える。

 もっともベルが知っているのは、強力な竜種のモンスターがうじゃうじゃいるということぐらいだが。

 

「『竜の谷』についてですか? それについてはまだ僕も何も教えてもらってないんですけど、ただお義母さんはやることがあるって言っていたので、多分そこに向かってるんだと思います」

 

 そこまで言うと、フィンとリヴェリアの二人は険しかった表情をさらに険しくさせる。

 その二人の様子を見つつベルは「それに」と言って続けた

 

「ヘルメス様からも手紙をもらってましたから」

 

「神ヘルメスから?」

 

 リヴェリアの疑問の声にベルが「はい」と話し始める。

 

「ヘルメス様から手紙をもらっていて、それで『エルソスの遺跡』? だったかに行くことにもなったって話してましたから。それで僕とは一緒にオラリオに来れなくて残念だったんですけど……」

 

「少年からすれば残念だろうが、私達からすれば、神ヘルメスには感謝しなくてはならないな。あの【静寂】が再びオラリオに来る時間を遅らせたのだから」

 

 リヴェリアが「まさか、あの神ヘルメスに感謝する日がくるなんてな」と話し、後は少しばかりの雑談を終えて、ベルはテントを去って行った。

 

「それにしても……フィンさんもリヴェリアさんも――特にリヴェリアさんの方が、僕の顔を見てずっと笑ってたけど、なんだったんだろう?」

 

 そんな風にベルは思うも、取り敢えず今はいいかと、ここに来ているというヘスティアとヘルメスの姿を探す。

 そうしてキャンプを歩いて行き、ベルはとうとう二人を見つけて笑顔になり声をかけた。

 そこには【万能者(ペルセウス)】アスフィ・アル・アンドロメダと話すリューの姿もあったため、ベルは余計に破顔した。

 

「神様、迎えに来てくれてありがとうございます。それにヘルメス様も、お久しぶりです」

 

 ヘルメスにも挨拶したベルに、ヘスティアは驚いた様子だったが、それでもすぐに表情を笑顔に変えると、トタタと可愛い足音を鳴らしてベルに向かって走って来た。

 

「ベル君! 心配したんだぜボクは! 君とリリルカ君がちっとも帰ってこないもんだからね! ボクの方から迎えに来ちゃったよ!」

 

「神様、こういうことは本当はよくないんですから、あんまり大声を出さないでください。神威は抑えてるみたいですけど、他の冒険者だっているんですから」

 

 ベルがそう指摘すると「そういえばそうだったね」と、ヘスティアは声を抑える。

 そしてヘスティアがベルの体を心配するように、以前と同じようにパタパタと小さな両手でベルの体を触っていると、ヘルメスが話しかけて来た。

 

「やあ、ベル君。久しぶりだね。元気にしてたかい?」

 

「はい。さっきも言いましたけど、お久しぶりですヘルメス様。それにアスフィさんも。疲れてないですか? また目の隈が酷くなったように見えるんですけど……」

 

「お久しぶりです、ベル・クラネル。私の体調を心配してくれる人など、貴方とリオンくらいなものですが……ええ、息災ですよ」

 

 アスフィと初対面ではないように話すベルを見て、先程まで彼女と話していたリューは不思議そうにアスフィに問う。

 

「アンドロメダ、貴女もクラネルさんと面識がおありでしたのね。意外です」

 

「そうですリオン。といっても、以前彼の義母親の所へ、ヘルメス様と一緒に手紙を届けに行った際に少し話をした、というぐらいなものですが」

 

「なるほど。そういったことでしたら納得です」

 

「おや、リオンも彼の義母親が誰なのかご存知なのですね」

 

「ええ、アンドロメダ。クラネルさんの義母親には、私達全員が世話になりましたから」

 

「ああ、でしたら五年ほど前にあった噂は本当なのでしたね」

 

「そうですね。今となっては意味などないでしょうし、認めます。アルフィアからは当時口止めされていましたので、話せなかったのです」

 

「ああ、それは仕方がありませんね。それを破れば殺されかねませんから。冗談などではなく」

 

「そうですね。ところでクラネルさん。何故アンドロメダの顔をじっと見つめているのですか? 彼女の顔に何か書いてあるのですか?」

 

 そう揶揄うように、くすくすと笑いながら言うリュー。

 そのリューの姿を見て、隈だらけの目を見開くアスフィだったが、ベルはそんなことを気にする余裕がない。

 呆然とアスフィの眼鏡に映る自分の顔を見つめるベルは、リューの顔をジト目で睨んだ。

 

「リューさん、イタズラしましたね。フィンさんとリヴェリアさん――特にリヴェリアさんがなんでずっと笑ってるのかと疑問に思ってたんですけど、こういうことだったんですね。これエルフの言語ですよね? 良かったですね、王族の方を笑わせられて」

 

 ベルが指摘すると、やはりリューはクスクスと笑い、今度はヘルメスもそれに気付いたのか「へえ、あのリューちゃんが……」なんて驚いた顔をしている。

 笑っているリューはというと、まだ自分がやったことではないと認めたくないのか、ベルになぜリューがやったのかと思ったのか聞いてきた。

 

「おや、まだ輝夜がやったという可能性が残っているではないですか。クラネルさんはその事を微塵も考えなかったようですが、何故ですか?」

 

「だってリューさん、僕の頭をずっと撫でてたじゃないですか。あれはこれを気付かせないようにする駆け引きだったんじゃないですか?」

 

「バレてましたか。まだまだですね、クラネルさん。リヴェリア様を笑わせてしまったのは、私も一人のエルフとして若干の申し訳なさを感じてしまいますが」

 

「お義母さんに言いつけますよ。輝夜さんのことは言いつけるつもりですし、その時に一緒に言ってやりましょうか?」

 

 そうベルがいたずらの仕返しとばかりに言うと、リューは笑うのをやめ、まるで死刑宣告でもされたかのように慌てだす。

 

「や、やめてくださいクラネルさん! そんな事をされたら輝夜はともかく、私など死んでしまうかもしれません! クラネルさんは師匠が死んでもいいんですか!?」

 

「輝夜さんはいいんですね。けど、大丈夫ですよリューさん。ちゃんと死なないところで僕がお義母さんを止めるので。なんの心配もありません」

 

「それは私が死ぬ寸前まで追い込まれるということではないですか!」

 

「だってリューさん、僕の額に『ミノ』なんて書くんですもん。僕も簡単なものですけど、エルフの言語は読めるんですから。それぐらいの目にあってもらわないと、割にあいませんよ」

 

「額に『ミノ』はまだマシなのですよクラネルさん! 本当は『牛肉』と書こうかと思ったのですが、思い止まり『ミノ』にしてあげたのですから!」

 

「マシってなんですかマシって! どっちもそんなに変わりませんよリューさん! もういいです、お義母さんに言いつけます! お義母さんが帰って来た時には覚悟しておいてください!」

 

「本当にやめてくださいクラネルさん! 私はまだ死にたくありませんので!」

 

 そう叫ぶリューを見て、一瞬間を置いてからベルはリューに改めて問う。

 

「……本当ですか、リューさん?」

 

 そう聞いたベルに、リューは少しだけ怪訝な様子を見せるも、即答した。

 

「ええ。本当ですとも、クラネルさん」

 

「なら、お義母さんに言うのはやめておいてあげます。信じてますからね、リューさんのこと」

 

「? そうですか。ありがとうございます、クラネルさん」

 

 命拾いしたと、リューは口の中で呟く。

 そんなやり取りをしていた師弟を見ていたヘスティアは「アストレア、大丈夫そうだぜ」なんて思いながら、感想を言う。

 

「本当に君たち師弟は、仲がいいんだねえ」

 

 ヘスティアが最後にそんな事を言って、その場はお開きになった。

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