カスタマーレビュー

  • 2024年9月28日に日本でレビュー済み
    岩井先生がこれまでの学者人生のなかで、「資本主義」と「貨幣」について語り続けてこられたことが何を意味するのかを考えながら、本書を読み進めることができるでしょう。「あとがき」に簡潔な言及があるように、資本主義と貨幣という「学問」的テーマと岩井先生という「学者」とのあいだには明確な「信任関係」があるのです。「信任関係論」は岩井先生が現在も挑まれている最重要テーマのひとつですが、そこに至るまでの広く深い「思考の軌跡」を本書から辿ることができると思います。

    岩井先生は、将来的に「経済思想史」に関する書物を刊行するプランを持っておられます(本書あとがき)。そのことは、2015年に刊行された『経済学の宇宙』(日本経済新聞出版社)第8章においても触れられています。「経済学」と「経済学史」の関係を問い直してみると、そこにはその2つを有機的に繋ぐ方法としての「経済学批判」があることが分かります。岩井先生に独自の「経済思想史」を形成しているのがまさに「経済学批判」であり、じつは学問としての経済学そのものが「経済学批判」という方法をつうじて成り立ってきたのです。岩井先生による主流派経済学批判としての不均衡動学、シュンペーター経済動学と資本主義論、貨幣論、経済学を越境した会社・法人論、信任関係論は、すべて「経済学批判」をつうじて体系化された学問的貢献にほかなりません。本書『資本主義の中で生きるということ』に所収されている各経済エッセイの根底には、こうした基本精神があると思います(とりわけ株主主権論批判、自由放任主義批判などが本書から顕著に読み取れます)。

    本書は、岩井先生の知的エッセイの集大成とのことです。楽しく感慨深く読めると同時に、エッセイ集はこれが最後になるのかと思うと、一抹の寂しさも率直に感じるところです。1985年の『ヴェニスの商人の資本論』から約40年。「資本主義」と「貨幣」をふくむ、まさに世の中の森羅万象を深く思考され続けてきた岩井先生の本書を、いまはあらためてじっくり読み直したいと思っています。
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