カスタマーレビュー

  • 2024年11月9日に日本でレビュー済み
    権力が物事をいかに正当化するのかということがよくわかる本。主タイトルは資本主義の利点を述べているように見せて、実際の内容は、現代のグローバル化・金融資本主義・リバタリアニズム礼讃。この本では、資本主義の社会全体への恩恵を語りつつ、今のメガリッチや独占企業、社会的枠組みを維持していくことを正当化している。

    70-80年代までのリベラリズムでもたらされた社会への良い側面と並行して、90年代以降のグローバリズムや資本家、独占企業を正当化することによって、まるで、前者と後者が論理的な必然であるかのような論理を展開している。実際には、社会に与えた良い側面とされる事柄の大部分は古典的なリベラリズムが機能していた1970,80年代までには起こっている。OECD諸国の貧富の差はその時代に最も小さくなったあと現代は拡大傾向であり、1970年代まではCEOと従業員の給与費は30倍程度に収まっている。

    資本主義、自由、グローバル化、と言った言葉と合わせて、正当化の論拠とするデータがそれぞれの文脈で都合よく使われている。例えば、小児死亡率の減少といったグローバル化の利点を示すグラフが1990年から始まっているのに、労働時間の改善のグラフがなぜ1870年から始まっているのかと考えてみると良いと思う。1990年以降小児死亡率は1/2以下になっていることをグローバル化の恩恵の一例として本文では語っている。ところが、乳児死亡率の推移を調べてみるとわかるのだが、日本では1920-1990、フランスは1900-1990の間で1/30以下に改善しており、中国でも1960-1990で1/6は改善していて、その改善度は90年代以後よりも以前の方が圧倒的に大きい。

    どんな理由を捻り出したとしても、10万-100万人分の資産を1人のメガリッチが所有する今の世の中はおかしいと多くの人が思うようにこれから先の社会は変わっていって欲しい。資本主義や市場というものは、社会で作ってきた枠組みであり、それは変更可能なものであるし、決して世界の法則ではないのだから。
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