カスタマーレビュー

  • 2024年10月5日に日本でレビュー済み
    あとがきでも訳者が書いているように細かいデータ、例えばアメリカ社会での階層移動率が30%だとして、それを結構いけるんでは?と見るのか、階層は固定されている、と見るかの違いは大きいだろう。また、詳細なデータを出されて資本主義の社会改善効果を言われても、反対派がしているとされるようなデータのつまみぐいなどがあれば、どちらが正しいかわからない。だが、もっと大きな違いとその結果を見れば、著者の主張が正しいかどうかわかる。例えば毛沢東時代、中国は貧しかったが、彼の死後、国内移動を許可し(差別的待遇であっても)世界貿易に接続し、デジタル企業の起業を黙認した結果、誰もが認めるように超格差社会ながら、最底辺層ですら人民は豊かになった。ベネズエラのように社会主義を強行すれば、原油資源を持っていても国の経済はほぼ崩壊し、人口の25%が国外脱出する羽目になった。だから、著者の主張の大筋は正しいだろう。

    シュンペーターの言うように創造的破壊こそがイノベーションの本質だが、破壊される方はかなり大変だ、失業者の再就職が最終的にはうまくいっても、実際当人の精神的苦痛はかなりなものだろうし、市場から退場を迫られたのを恨みに思う半沢直樹の父親みたいな人も大変だ。反面、納得したのは、GAFAといえども多くの失敗作を市場に投入している事だし、つい20年前には永遠の繁栄を誇るかに見えたノキアや検索エンジンのvista、ブラウザーのネットスケープの事を思い出してあげてもいいだろう。億万長者に対する普通人の嫉妬、儲けすぎだろ、との声は実は不誠実だと言う。なぜなら自分の財産を担保にして一攫千金を目指して、その先に待つ地雷原であえなく撤退してきた死屍累々の中のごく稀な幸運な一人だからだ。そして、彼が大衆や社会にもたらした利益の大きさを鑑みれば、そのごくささやかな報酬を受け取っているだけだと著者は言う。そして世襲の財産家は実は多くないし、孫子の代には没落してしまう例も多い。ただ、政府補助金にたかって何かを成し遂げようというのは言語道断である。

    また、心して聞かなければならない提言もある。政府による産業政策はうまくいかないし(何が次世代の核心なのかは誰にもわからない、多くの人の試行錯誤が必要だ)、社会的リソースを他のプロジェクトから引き上げてしまい阻害してしまう害をなす。マンハッタン計画とかアポロ計画の成功が言われるが、それ以外に無数の失敗例がある。中国の経済的成功すら、人民の試行錯誤を認めざるを得なくてそれを追認したせいであって共産党官僚の指導など、何の役にも立たなかったと著者は言う。第一、他人の金を元でにして死に物狂いで努力できる人はいないし(スってしまったって俺の腹は痛まない)、政府からの補助金の獲得には価格メカニズムという市場機能が働かない。

    社会福祉も環境保護も大事だが、ない袖は振れないという明確な事実に気づくべきであって、成長こそが分配を可能にする、今ある金を全部分配してしまって明日からはどうするのか?マルクスだってゴータ綱領批判でその点を指摘していたではないか?左翼の脱成長論者はマルクス読みのマルクス知らずだろう。成長せずに分配のゼロサムゲームを進めると地獄を見ることになる。
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