大津市のサバンナモニター脱走事件によせて

本記事は、2023年8月28日に研究室ブログに掲載したものの再掲である


滋賀県大津市で、大型トカゲの「サバンナモニター」が脱走したというニュースが流れた。

ニュース記事によると、この個体はケージに入れず、室内で放し飼いにしていたらしい。

私もサバンナモニターを飼育しているが、サバンナモニターは要求する温度と紫外線量が大きい種である。

我が家では三種類の保温器具(バスキングライト、パネルヒーター、暖突)で保温し、紫外線ライトも我が家では最も強いものを使用して、もちろんケージで飼育している。

このニュースの飼い主は、部屋での放し飼いで、どうやってサバンナモニターが必要とする温度と紫外線量を確保していたのだろうか。

そもそも、爬虫類で放し飼いに向いているのは、一部のリクガメとカメレオンくらいであろう。


近年、一部の爬虫類飼育者は、爬虫類を哺乳類と同じように扱おうとする傾向があるという。

特にサバンナモニターは、ほどよく大型でかつ大人しいことからか、そのような扱いをされる爬虫類の筆頭となっているようだ。

私は見たことが無いが、イベンドなどでサバンナモニターに服を着せて来る飼い主もいるという。まさに犬・猫と同じ扱いだ。


ヒューマンエージェントインタラクション(HAI)では「他者モデル」という概念がある。私たちが、他者(人間や動物)の内面を想像する時に使っているモデルだ。

例えば、道の往来できょろきょろとしている人を見れば、「あの人は何か困っているらしい」と想像する。

餌に飛びつく犬を見れば、「この犬はお腹が空いていたんだなあ」と思う。

このように、他者の内面を推定するのに使っている私たちの心の働きが他者モデルだ。


どうも、動物に対しては、この他者モデルを一種類しか持っていない人がいるような気がしてならない。

犬も猫も爬虫類も、全く同じように考え、感じると考えて、全く同じように扱ってしまうのだ。

私も爬虫類を多数飼育しているので、彼らの表情から何らかの内面を読み取ってしまいそうになることは多々ある。とくにモニターやフトアゴヒゲトカゲ、テグーは表情が豊かだ。

きっと彼らには彼らなりの内面世界があるに違いない。

しかし、それは私たちが容易に想像できるものではないはずだ。

いや、正確に想像することは不可能だろう。

全く違う進化の道筋を辿り、異なった身体構造を持ち、異なる環境の中で生きてきた動物の内面は、人間には決して想像できない。

もちろん、その内面は犬や猫のそれとも全く異なる筈だ。

「犬や猫ならこうすれば喜ぶから」という予測を、爬虫類に適応してしまうのは危険である。

例えば、人間に慣れた犬や猫は頭を撫でられると嬉しそうにするが、多くの爬虫類は頭に触られるのを嫌う。

イベントなどでは、不用意に爬虫類の頭を撫でようとしてトラブルになる人が後を絶たないという。

「動物は頭を撫でられると喜ぶ」という、哺乳類にしか適応できない他者モデルを、爬虫類にも無意識に適応してしまうから起きることだろう。


爬虫類を放し飼いにしている人は、「狭いケージに入れっぱなしだとかわいそうだから」という理由でそうしているのかもしれない。

しかし、これも哺乳類の場合を爬虫類に適応してしまっている。

爬虫類はむしろ、暗くて狭い場所を好む。特にヘビやヤモリは、広すぎる場所に入れられるとむしろストレスで状態を崩すとされる。

さらに前述のように、爬虫類を飼育するには保温器具や紫外線ライトを用いて、温度・湿度・紫外線量をうまくセッティングしないといけない。

こう考えれば、ケージの中で飼うのが最適であることがわかるだろう。


「それでも、狭くてかわいそう」と感じてしまうのは、彼らと自分たちが全く異なった生態を持ち、全く異なった感じ方をする動物であるということを忘れているからである。

それは愛護心があるどころか、その動物本来の特性を理解しようとしない傲慢な態度である。

爬虫類は人間とも犬とも猫とも違う動物である。爬虫類を飼うということは、我々哺乳類とは全く違う存在である彼らのことを尊重するということである。

それは、爬虫類を犬や猫と同じように扱うということでは断じてない。

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大津市のサバンナモニター脱走事件によせて|松井哲也
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