「ぐはーっ‼︎」
「テメェが俺に勝てる訳ねぇだろ馬鹿が‼︎」
一撃。
体重の入った重いパンチが九歳の折手メアをブッ飛ばす。彼女はあまりにも軽く、無意識に手加減をして突き飛ばすような形になった。
「こ、ここまで、相手にならないとはね……」
「テメェの《
「な、なに? ボクがメインヒロインなのにボクと戦った経験があるのか……? 敵幹部が味方になる系のパターンか? 羨ましい……」
「どの口で言ってやがる! 味方が黒幕だったパターンだクソが‼︎」
あまりにも早い決着。
まぁ、こんなのは戦う前から分かりきっていた事だ。……
「それにしても……前の戦い、か。
「………………は?」
折手メア。
彼女が最悪と呼ばれたのは何故だったか。
性格が悪いからか? 能力が凶悪だからか?
いいや、違う。それもあるが、何よりも。
「
「────────ぁ」
「ボクの《
「お、まえ……コイツは……‼︎」
「この世で最強の存在ってなーんだ?」
それはただの童女だった。
それは最強の転生者だった。
それは宇宙を閉じ込めたみたいな特徴的なオーロラ色の髪だった。
「
ビキビキビキビキッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
世界に亀裂が入る音が響く。
その童女は何もしていない。
というより、その童女はまだこの世界に存在すらしていない。にもかかわらず、童女の存在に気が付いた世界の方が勝手に崩壊しようとしている。
それほどの圧力。それほどの絶望。世界を壊す
「ま、ずい。マズいぞ、伊吹! 第一位にとっては時系列だとか過去編だとかは関係ない! 彼女が転生した瞬間ッ、現代もまとめて消滅する‼︎」
「なんかそうらしいよ! いい感じにタイムリミットもできたし、頑張れ
「ありがとう、父さん! 折手はくたばれ‼︎」
世界の終わり、その象徴。
折手メアなんかはもう後回しでいい。
拳を握り、第一位に立ち向かう。
(どれだけ最強って言っても、あれは異界化による世界の歪みが生み出した第一位の影。第一位本人ではないし、俺の《
童女との距離は僅か三メートル。
一歩足を踏み出す。
その瞬間────
「…………え?」
────世界が、切り替わった。
まるで、ゲームで別エリアに移動したみたいに。
一歩前とまるで違う景色。
一秒前とまるで違う地形。
そこは、地球上とは思えないような目を疑う光景。
それは銀河を泳いでいるかのような風景。
或いは、深海の奥で輝く奇妙な生命の胃袋。
或いは、遺伝子が極彩色に光る細胞。
或いは、神様が創造したステンドグラスの教会。
或いは、万華鏡の中にある異世界。
或いは、或いは、或いは、或いは、或いは。
その風景を一言で表すことは不可能。
そもそも風景が一つに固定されることは無く、角度によって見え方が異なる風景が更に秒単位で切り替わる。
ただ、言える事は陳腐な一言だけ。
それは目を疑うような
「異界化、なのか? 転生者が何百人も集まらないと起こらないものを、まだ存在してもいないヤツがたった一人で起こしたってのか⁉︎」
「それが第一位。キャラマテにすら討伐は不可能と書かれた公式チートさ」
もはや、空間すらも歪んでいた。
たった三メートルしかなかった距離が、今では地平線の彼方まで伸びている。
そんな、熱にうなされて見る夢の中で。
ぞぞぞぞぞぞぞぞぞっ、と蠢くものがあった。
「……ぬい、ぐるみ……?」
「油断するなよ、伊吹。あの第一位が生み出したものだ、中に宇宙がまるまる一つ詰まっていても私は驚かない」
父さんがそう警告する。
見た目はカラフルで目が悪くなりそうな極彩色の色合いに、脚の生えた魚のような縫い目の荒いぬいぐるみ。
しかし、その実態は第一位の
「……それでも、ビビってないで
「あ、おい! 待て‼︎」
父さんの制止も無視して走る。
ぬいぐるみは素通りして構わない。
俺の目的はあくまで第一位でしかない。
(ま、そう上手くはいかねぇよな)
ぎゅるんッ‼︎ とキモチワルイほど滑らかな動きでぬいぐるみが接近する。
明らかに有り得ない加速と、明らかにその速度域では不可能なカーブ。そもそも流れている時間が俺とは違うとしか思えない動きから、回避は不可能だと考えて迎撃を選択する。
「《
ぬいぐるみと俺の右手が触れる。
その、直後。
──
「────が」
一瞬、意味が分からなかった。
それは確かに異能の反応があったのに。
「がっ、ァァアアアアアアアアアアアッ⁉︎」
自分の状況を理解すると同時、痛みに叫ぶ。
この肉体は《ゾンビウイルス》に感染していないため、骨が粉砕された右腕はもう治らない。
「な、にが」
「異能が発動しなかった、訳じゃないよ。《
「だったら!」
「
「──────は?」
耳を疑う。
粒子一つ一つが異なる異能。
史上最小にして、史上最多。史上最悪にして、最強の異能。
世界を丸ごと持ち込むかのような無法。世界を丸ごと書き換えるかのような災厄。
「
アリス・アウターランドが何か意図した訳ではない。
ただ、頭の中で思い描いた夢。
「あっ、キャラマテにもそう書いてたけどそれって正式名称じゃなかったんだね」
「……しかも、第一位は未だ本気ではない。私がかつて予測した因果律ビッグバンは六つの工程によってなされる」
「ナチュラルにボクを無視したね?」
「黙ってろ、折手」
父さんは指を一本ずつ折って数える。
「
第一位を起点とした、異界化現象が引き起こされる段階か。
「
「……六つ目、か」
「
「────ッ‼︎」
世界の終わり。軽々しく語られるが、その言葉に込められた重みは本物だ。
「それまでに、アイツを殺せって?」
「……、」
「無理だろ。いくら俺の《
ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞッ‼︎ と。
異能感知が《夢》の拡散を捉える。いいや、もはや異能感知ですらそれを捉えきれない。
あまりにも異能の量が多く、あまりにも異能の力が強すぎる。砂漠の中で一粒の砂を探すようなものだ。
景色が不連続に切り替わる。
自分の中の時間感覚すら信じられなくなる。
こんなバケモノを殺せるとは思えない。
「──
瞬間、強く地面を蹴る。
第一位を直接倒せなくても、第一位を呼び出した元凶を叩けばこの世界から退散するはずだ。
「やっと構ってくれるのかい? 寂しかったよ、
「やっぱりテメェは一度、ちゃんとブン殴らなきゃな‼︎」
不連続に切り替わる世界。
もはや相対的な位置関係は意味をなさない。
三メートルの距離が地平線までに伸びて、前にいたはずの少女が真上に移動する事だってある。
何処をどう進めばいいのか分からない。
だから、きっと、
「
「
アダマスの未来視。
不連続に切り替わる世界で、折手メアの出現位置を予測した。
狙うは顔面。
意識を刈り取るようにヤツの顎を撃ち抜き、ついでに《
「こんの大馬鹿野郎がッ‼︎」
粉砕された右手の代わりに、左手を振るう。
あらゆる異世界を打ち壊す異能を発動する。
──
「あっ、しまった」
折手メアの間抜けな声が響く。
彼女の瞳に、
それは人形というよりも、まるで陶器のような質感を持ったモノ。
黒い軍服を着た人型であるが、首が上のない姿形と二メートルの大きさが威圧感を与える。
そして、何よりも恐ろしいのはその手に持った斧。赤い錆で覆われたそれは、ギロチンの刃のような印象を受ける。
「
折手メアの言葉の意味を理解するよりも早く、
(避け──)
世界は不連続に切り替わる。
漫画のコマみたいに、途中経過がすっ飛ばされて結果を押し付けられた。
まるで元々繋がっていなかったのが当たり前みたいに、頭がずり落ちていく。
もう、俺はゾンビじゃない。
切断された首は当たり前に治らない。
『
(……ありがとう、母さん)
ずっと俺の側にいてくれた母親が、どんな形状にも変化できる肉体の使い方を教授する。
断たれた首が再び繋がる。粉砕された右腕が元の形状を取り戻す。
「……歯ぁ食い縛れよ、折手」
「ふはっ、これはボクもッ、予想外……‼︎」
「──《
ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
握り締められた右手が、折手メアの顔面をブン殴った。
そして。
呆気なく、第一位は消え去った。
「じゃあ、俺はもう行くよ」
嬉しそうな顔で気絶する折手メアの首根っこを掴み、俺は父さんに今生の別れを告げる。
「ああ……元気でな」
「ああ、…………ありがとう」
此処は過去ではない。
だから、此処で何をしたって彼らは生き返らない。
折手メアの蘇生なんて離れ業が可能なのは、彼女が転生するという性質を持っていたが故だ。
だから、両親とはもう二度と会う事はない。
「世界を救え、なんて事は言わない。ただ、思うがままに暴れろ。それできっと、ついでに世界は救われる」
それでも、会えて良かった。
この人達の子供である事を誇りに思う。
ただ、心の底からそう感じた。
名残惜しさを断ち切り、掌を掲げる。
「《
不安定な過去編は完膚なきまでに砕かれる。
そして────
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
イヴリン
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
二神双葉
三瀬春夏冬
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
折手メア
《
▽一般人
栗栖椎菜
デッドコピー×20000
二神妹