落ちる、落ちる、落ちる。
無理矢理に
「なんで……どうしてッ⁉︎」
「…………母さん」
「わたしたちは過去を変えてほしいなんて望んでない! なのにッ、どうしてこんな事を……‼︎」
すぐ隣に、幽霊のクリスがいた。
「は? 何で触れられて……」
「
「……そうか、思い出した。俺は自殺したんだったか」
今までの
故に、肉体のない幽霊として七年前に来たのか。
落ちる、落ちる、落ちる。
どうやら座標が少しズレていたらしい。
雲を突き抜けて地上へと墜落する。僅かに、地表で戦うアダマスと折手メアが見える。
「こんな過去に来たって何も変わらないわぁ! 貴方とこの世界は時間座標がズレている! 観測する事はできても、干渉する事はできない‼︎」
「
「…………っ⁉︎」
タイムパラドックス? 知ったこっちゃねぇな。
折手メアを助ける。ついでにコイツらも救う。その邪魔になるモンは、ルールだろうが何だろうがブチ壊すまでだ。
「ま、まだよぉ……」
「あ?」
「たとえ、未来の貴方が過去の座標に干渉できたのだとしても、そもそもこの世界は一時的に七年前の状態に巻き戻っているだけで実際に七年前の時間座標に移動している訳じゃない! ここで何かを変えたって、過去改変が成される訳じゃないわぁ‼︎」
「………………、」
「そっ、それにぃ! 今の貴方には肉体がない‼︎ 同じ時間座標に存在した場合であってもッ、物質的な依代を持たないんじゃ何もできない!」
クリスが背後から俺を引き止める。
まるで縋り付くみたいに、或いは子供との別れを泣き惜しむ母親みたいに。
「だからぁ、今すぐ戻りなさい‼︎ まだ間に合うかもしれない。だから、早く……‼︎」
「────巫山戯んな」
ぐいっ、と強引に手を引き剥がす。
この人は子離れする事もできなかった。俺は親離れするしかなかった。……そんな理不尽も前にして、諦めるなんて許せるか。
「俺を信じろ、母さん。子供の可能性をテメェで見限ってどうすんだ」
「……でも」
「アンタらの息子が理不尽な未来をブチ殺す所を、その目に焼き付けろ‼︎」
肉体がないとか、幽霊だとか。
そんなのは諦める理由にはなんねぇんだよ‼︎
「そう思うだろ? なぁ、テメェもそろそろムカついて来たんじゃねぇのか⁉︎」
落ちる、落ちる、落ちる。
地表にいる存在が目に入る。
第五位、第四位、第三位のドローン、第二位、第一位の幻影、折手メア、アダマス……父さん。
──
「
そこには、もう一人いた。
産まれたばかりの赤子。
悲劇の象徴に祭り上げられた子供。
「だったら、俺がテメェの怒りを代弁してやる! 俺がテメェの敵を全員ブチ殺してやる‼︎ だから──ッ」
見せてやるよ、母さん、父さん。
「──
ディートリヒの《神体加護》によってクリスの胎で製造された彼に憑依する。
肉体がない? 幽霊には何もできない?
だったら、肉体を用意すればいい。
父さんはその肉体についてこう言っていた。『第四位の魂が宿っておらず、肉体の形も未だ定まっていない』、『何者でもない空っぽの器だからこそ、何者にでも成れる無貌の肉』、と。
だったら、定義すればいい。
コイツは今日から俺の弟だ。
俺と同じ肉体を持ち、俺の魂を宿す俺の弟だ‼︎
(始めるか、兄弟。一緒に全部ひっくり返そうぜ)
憑依した所で何もできない。
過去は変えられない。
異なる時間座標の存在には干渉できない。
憑依した肉体だって指一本たりとも動かせやしない。
──
「──《
バギィッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
冷たいルールが支配する世界を、握り締められた右手が完膚なきまでにブチ壊す。
「────え?」
「……まさかッ⁉︎」
感覚としては“
第五摂理をそのまま無効化すれば、
シュルシュルッ、と肉が人の形を形成する。
髪や体毛を応用したのか、学ランも同じように繊維が編み込まれていく。
「よお、折手。助けに来たぜ」
「………………は?」
グシャッ‼︎ と。
ついでに、逃げようとしていたディートリヒの魂を《
折手メアは未だに状況が飲み込めていないようだった。
真っ先に俺の存在を理解した父さんは、額に手を当ててため息を吐く。
「なぜ……いや、目的は分かった。だが、あえて訊こう。なぜ過去にやって来た、伊吹」
「もちろん、気に食わねぇ理不尽をブッ飛ばして折手メアを取り戻すためだ」
「母さんから聞かなかったか? ここは厳密には過去ではない。過去の状況を模しているだけで、時間座標は現在に過ぎない」
「知ってる。だが、お前達が存在している事には変わりはねぇ。だったら簡単だ。
此処は過去ではない。
過去は変えられない。
分かってる。だから、現在を救う。
折手メアを救うための肉体を此処で用意する。
「……肉体と精神の関係はそう簡単なものじゃない。第三位だって、異能の端末用の肉体と転生用の肉体は区別していた。同じ遺伝子を持つからと言って、必ずしも転生が可能とは限らない」
「折手メアの蘇生が不可能だとでも?」
「君が出会った番外位はあくまで七年後の番外位であって、今この時代の番外位じゃない。本当に君が彼女を蘇生したいのならば、用意しなければならない肉体は七年後の彼女の肉体だ」
「
「…………何?」
すっとぼけてやがるのか、それとも単に忘れていたのか。
その場に父さんは居なかったが、彼の未来演算能力ならば俺たちの会話を予測しているはずだ。
「この時間遡行に巻き込まれたら、世界観で防御できる俺を除いて肉体や精神が若返る。──
折手メアの七年後の肉体は用意できる。
彼女を現代に持ち帰れば、それだけで転生用の肉体が完成する。
「…………つまり、キミは未来からボクを救いに来たのか?」
「まぁ……そうなるな」
折手メアの頬が赤く染まる。話についていけなかった彼女は、唯一そこだけ汲み取れたらしい。
真正面からそう訊かれると、俺も照れてしまう。
折手メアから目を逸らして、手を差し出す。
俺が過去に来た時とは逆に折手メアを未来に存在できるようにするためには、再び第五摂理の影響を無効化する必要がある。それには、彼女と接触しておくのが確実だ。
「来いよ、折手メア」
「ああ、六道伊吹」
そして、彼女は手を伸ばし──
────
「………………………………は?」
「勿論、キミの手を取る訳が無いだろう?」
ニタリ、と唇を三日月のように歪ませて嗤う。
その表情に、酷い既視感を覚える。
「過去改変してハッピーエンド、ね。うんうん、面白いと思うよ? ボクもそういうの大好きだ」
「いや、過去改変じゃねぇけど……」
「だけど、最後がグダッたというか……言葉と説得で解決するのってボクの好みじゃないかな。やっぱりバトルで敵をブン殴って倒してこそスッキリするよね」
「…………待て、お前まさかとは思うけどさ」
言いたい事が分かってしまった。
ああ、そうだよな。お前なら……
「
そうだ、忘れていた。
コイツは七年前の折手メア。
「テメェ‼︎ 誰を救うために俺が死んでまで時間を滅茶苦茶にしたと思ってやがる‼︎」
「なにッ⁉︎ まさかッ、キミの
「フザっけんなッ、クソ野郎がッ‼︎」
ゾゾゾゾッ‼︎ と寒気がするような異能の反応。
世界の法則が折手メアに都合の良いように書き変わっていく。
「《
「そうだとも! この戦いはキミとボクの雌雄を決するもの‼︎ ボクが勝てばキミは未来永劫この過去に囚われ、キミが勝てばボクは未来へ連れ出されて救われる。どうだ、面白いとは思わないかな?」
「テメェに都合が良すぎるだろうがッ‼︎」
イライラしてきた。
拳を強く握り締める。
「いいぜ、こっちも一度テメェをブン殴っておきたかった所だ。ボコボコにしてやるよ! ブレンダ先輩とジェンマに土下座させてッ、両親の墓石で頭をカチ割ってやる‼︎」
「いや、私の墓石はもっと丁寧に扱って欲しいが……」
父さんのぼやきを無視して叫ぶ。
「思う存分に
「腐った性根ごと叩きのめしてやる、折手メア‼︎」
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
イヴリン
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
二神双葉
三瀬春夏冬
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
折手メア
《
▽一般人
栗栖椎菜
デッドコピー×20000
二神妹
タイトル回収。