第三章後編スタート。
「遅かったね、センパイ」
「……見違えたな、後輩」
目の前に、全身に火傷を負った少年がいた。
ヤツの名前は
だけど、その目はまだ死んじゃいなかった。
「ディートリヒはどうした?」
「彼女なら避難してもらったよ。ぼくらの戦いに巻き込む訳にもいかないからね」
「俺もお前も大した力も残ってねぇのによく言うぜ」
目の前の九相霧黎は、見た目の通り死にかけ。
そして、俺も異能は全て使い切った。あるのは《ゾンビウイルス》に感染した再生する肉体と、クソ野郎をブン殴るこの拳のみ。
「それで、折手は何処にいる?」
「……ああ、気づかなかったのか」
「…………何?」
「
嫌な予感がした。
俺を叩きのめす、絶望的な予感が。
「
ぴちゃっ、と。
頬から垂れた冷や汗が、足元の赤い血溜まりで跳ねる。
「………………は?」
「聞こえなかったかな? 折手メアは死んだ。何度でも言おう、彼女はもうとっくに死んでいる」
「まだ、だ。
「不可能だよ。
「い、いやっ、そもそも! アイツは
「相性の良い肉体があればね? でも、転生するよりもぼくが第五摂理を手に入れる方が早いんじゃないのかな?」
「…………………………………………、」
「というか、折手メアの異能の自滅で死んだのだから、都合の良い事に転生先となる相性の良い肉体も未来永劫見つからなかったりするんじゃない?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
脳が理解を拒む。
もう、何も聞きたくない。
なのに、九相霧黎はもう一度告げる。
「折手メアは死んだ。もう二度と、生き返る事はない」
瞬間、頭が沸騰した。
「あ、あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」
言葉にならない咆哮を叫ぶ。
自分がなんで叫んでいるのかも理解できないまま、なりふり構わず無様に走り殴りかかった。
型も力の入り方も滅茶苦茶な拳が、九相霧黎に振るわれる。
「ハッ、腰が入ってないよセンパイ‼︎」
パンッ、と軽い音を立てて拳を受け止められた。
その手には大した力は入っていない。恐らく、握力があまり出ないのだろう。
「さぁ、始めようか。〈
ゴッッッバッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
地面が爆発した。異能の反応はない。恐らく、単なる火薬による爆破だった。
「まさかッ、ブチ撒けられた血と肉片は火薬の臭いを誤魔化すための……ッ⁉︎」
「あなたと戦うんだ、準備しない訳がないだろう」
爆破自体の威力は大した事はない。
だが、爆風によって吹き飛んだ破片が脚に突き刺さり、激しい運動を阻害する。
また、土煙が舞う事で視界が砂で埋め尽くされる。
(クソっ、どうなってる⁉︎ 異能感知でも居場所が分からねぇ‼︎)
《
現実世界に馴染む事で、異能感知の索敵から逃れていやがる。
「舐めんなァァアア‼︎」
足音とか、空気の動きとか、直感。
自分でも訳の分からない第六感で、九相霧黎を迎撃する。
手負いの相手は動きが遅い。
ゆっくりと、拳が振るわれるのを認識する。
「舐めるなは、こちらのセリフだ」
「……っ⁉︎」
ゴンッ‼︎ と拳が脳を揺さぶる。
その動きは遅く、見えていた。なのに、避けられなかった。
「ぼくはあのブレンダの武術を学習した人間だぞ? 本来のポテンシャルの一パーセントも出せずとも、あなたを殺す事など容易いよ」
「ぎっ、ごは‼︎」
ドスドスドスドス‼︎ と。
鈍い音が何度も腹部に突き刺さる。
威力は高くない。それなのに、どうしてか体の芯を揺さぶる。
(こ、コイツ……異能とか、ブレンダの武術とか関係ない。
ブン‼︎ と空気を切って拳が迫る。
反射的に避けようと頭を振るが、それはフェイント。振った頭を迎え撃つように再度、もう一方の拳が迫る。
「がっっっ⁉︎」
メキメキィッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
九相霧黎の拳が顔面にめり込み、骨を砕く。
決して高くない威力の拳だったはずが、俺自身の動きを誘導した事で強烈なインパクトを生み出した。
「《
「アイツは、今は蘇生してただの人間になった。もう武器なんかじゃねぇ」
「…………それは予想外だ。あなたの周りは何でもありだね」
折れ曲がった鼻を無理やり直し、栓が緩んだ蛇口みたいに垂れる血を乱雑に拭う。
「それよりも、テメェの戦闘技術はどうなってやがる。それは武術だなんてお綺麗なもんじゃねぇ。そいつは路地裏での殴り合いを基礎としたステゴロだ」
「あいにくと、こっちがぼくの本領でね。本来ならぼくは世界の命運を賭けた戦いとかじゃなくて、ちょっとした不良グループとケンカする程度の人間なんだよ」
「…………、」
九相霧黎はヒビの入った眼鏡を投げ捨てた。
どうやら爆破で飛んだ破片が当たったらしい。
「ぼくにも聞きたい事がある。ねぇ、センパイ。あなたはどうして此処で戦っている?」
「あ? それはテメェが折手を殺したからに──」
「
「──────」
声が、出なかった。
否定が、できなかった。
「折手メアは最低だ。折手メアは最悪だ。ぼくはディートリンデからこの世界や『原作』についても全て聞き及んでいる。
「それ、は」
「ぼくは折手メアを殺した。否定はしない。殺人はいけない事だ。否定はしない。
「……………………、」
否定できない。
俺が折手メアを殺したい理由なんて山ほどある。
だったら、先に九相霧黎が彼女を殺していたって何の違いもないんじゃないのか?
「ぼくはね、彼女の中に僅かながら善意がある事も知っている。彼女は確かにあなたの幸せを願っていたし、あなたを守るために戦った。たとえ彼女が諸悪の根源なのだとしても、そこを否定するつもりは毛頭ない」
一つ一つ、理由が折られる。
戦い意思を削がれていく。
「でも、だからこそ、あなたが戦う理由なんてない。だって、彼女はあなたが戦わなくてもいい世界を目指していたんだから」
そいつの言葉には納得しかなかった。
「あなたは彼女に助けを乞われたのか? 彼女があなたに戦って欲しいとでも言ったのか?」
そいつの言葉はきっと正しかった。
「違うはずだ。彼女はあなたが死ぬ事なんて望んじゃいないはずだ。だったら、あなたがやるべき事は命を賭けてまで戦うじゃなくて、今ここでぼくから逃げ出す事だろう?」
それはきっと折手メアの本音。
折手メアが命を捨ててまで願った事。
「ぼくはあと一度転生者に勝利する必要があるけれど、それは何もあなたじゃなくたって構わない。ぼくらが此処で戦う理由なんて一つもない」
そもそも、戦って勝ち目のない事くらい分かってる。
だから、ここで逃げ出すのは何も恥じゃない。
「
それは正しい。
それこそ理想。
折手メアを救う理由なんてない。
それを折手メアは望んでいない。
「
「折手メアが望んでない? 折手メアのために諦めろ?
拳を握る。
腹に力を入れて、地面を踏み締める。
「誰かにお願いされないと戦えねぇのか? 誰かに責任を押し付けないと自分のエゴすら突き通せねぇのか? テメェ、とんだ
「……ッ‼︎」
「俺が気に食わねぇ。誰かのためじゃない。この俺の怒りが俺の戦う
意識が朦朧として、自分が立てているのかすら心配になる。
死と再生を繰り返し過ぎた。血が足りない。
「でもッ、どうせあなたは彼女を殺した! ぼくに怒りを抱くのは理不尽だ!」
「巫山戯るなッ! テメェが決めつけるな!
それでも、二本足に力を込めて立つ。
九相霧黎を睨み付ける。
「め、滅茶苦茶だ、あなたの言葉は……。自覚がないのか……? あなたこそが一番の理不尽だということに」
「うるせぇ、知るか。ムカつくぜ、クソ野郎をブチ殺すのは俺の仕事だ。横取りするんじゃねぇよ、後輩ッ‼︎」
ドンッ‼︎ と地面を踏み叩く。
気合いを入れる。
「テメェがそのクソみてぇな根性で人を殺すって言うのなら! 折手メアは絶対に助からないってほざくのならッッ‼︎」
こっからが本番だ。
ここからッ、六道伊吹の物語を見せてやる‼︎
「そんな
唖然、と口を開けて九相霧黎は驚愕する。
だって、それは無理だ。無理な筈なのに……‼︎
「不可能だ! 折手メアは死んだ! 蘇生する事だってできない‼︎」
「
「……………………は?」
その方法は何度も繰り返された
「最初から──
割れた地面の破片を拾い上げ、自らの首に突き付ける。
「なッ⁉︎」
「見てるばっかで変えられない過去? ふざけやがって、俺は最初っからイラついてたんだよ!
第五摂理が破綻して、もう
だけど、同時にこうも言っていた。次の戦いに勝利した者が第五摂理を手に入れると。
「この戦いはテメェの勝ちだ。
「まっ、待────」
グサッ‼︎ と。
尖った破片が頸動脈を穿つ。
「
直後、時空が歪む。
肉片に《
理由は分からない。それでも確かに、折手メアの遺産が六道伊吹を過去へ誘う。
「
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
イヴリン
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
二神双葉
三瀬春夏冬
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
折手メア
《
▽一般人
栗栖椎菜
デッドコピー×20000
二神妹