「ブレンダ、先輩……」
「随分と久しぶりな気がしますね、六道君」
死亡した筈の彼女との感動の再会。
──
「どうやら《
「…………待て、待て待て」
「厳密には傀儡になっている訳ではなく、六道君を殺せという曖昧な命令に抗えない状況です。言葉を話すのは自由ですし、どんな攻撃を選ぶのかも裁量権が委ねられているみたいなので、今から仕掛ける攻撃を私が事前に宣言します。リズムゲームのようにタイミングよく避けてください」
「待て待て待て待て待て‼︎ 先輩の攻撃を避けるのは無理だって……‼︎」
「下から行きます」
「待────ッ‼︎」
ゴッッッガッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
縮地によって懐まで潜り込んだブレンダ先輩は、アッパーをかますように勢いよく掌底で腹を強打する。
「ごっ、がばあ⁉︎」
体の穴という穴から血が噴き出る。
ゾンビじゃなかったら死んでいた。たとえゾンビでも、二度も三度も喰らえば死んでしまうような攻撃。
しかし、これで終わらない。敵はブレンダ先輩ただ一人じゃない。
「なんか魔法系行くわよ! テキトーに避けなさい!」
「伊吹さんっ、ファイトです‼︎」
「テメェらッ、ほんとに助ける気あんのぐぼげばぁ⁉︎」
《石化魔眼》。全然魔法系じゃない光速の視線が、俺の肉体を空間ごと拘束する。
瞬間、《神威聖剣》から放たれた光線が俺を微塵切りにする。いや、微塵切りにとかのレベルではないか。肉の原型なんか残っていない。それはほとんど液化と言っても良いような有様だった。
ブシャァァ‼︎‼︎ と。
針で突かれた水風船みたいに血飛沫をブチ撒ける。
「安心しなさい。この領域じゃ物理的
「……《ゾンビウイルス》、活発化してますね。この世界との相性が良いのか、それとも
「…………お前ら、ほんと一回黙れ。気が散る」
しっしっと、アドレイドと椎菜を遠ざける。
微塵切りから再生するのは不思議な気分だった。
本来なら再生すらできない有様だったが、死ぬ事で生きていると見做されて再生したのか? 分からない。ここの生死反転が意味不明すぎて、どんな判定になっているのか理解できない。
(……だけど、死なないってのは逆に利点かもな。異能である限り、持続時間に限界はある。それまで逃げ回れば──)
「
──
「ッッッ‼︎」
「あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ‼︎ 死ねッ、
「カカカカカカカカッ‼︎ やはり天は朕を見捨てなかった! やはり朕こそが
「あぎッ、がっ⁉︎」
勝つとか、負けるとか。
戦うとか、逃げるとか。
もはやそんなレベルじゃなかった。
復活した一騎当千の猛者達。
余りに強すぎる再生怪人。
「ッッッ、ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼︎‼︎‼︎」
心臓震盪、マインドハック、《石化魔眼》、《神威聖剣》、《
ほんの一ミリでもズレたら完全消滅していたような攻撃を避け、一撃喰らえば即死級の攻撃を最小限の
(だ、めだ。再生が追いつかない! たとえ死なないのだとしても、身体をバラバラにされて無力化されたら終わりだ‼︎ まずは一旦死者を全て消し飛ばして初めに戻す‼︎)
「《
異能の過剰使用、
《
生きるために異能を発動する──
(《ゾンビウイルス》が許されていたから油断していた……‼︎ あれは生きるためではなく、プラスマイナスゼロだからこそ許容されていたのかッ‼︎)
待ったは無かった。
容赦なく、肉体が削り取られる。
血が噴き出る。
血が噴き出る。
血が噴き出る。
辺り一面が俺の血で海となる。
しかし、そんな血の海の中心で。
一周回って俺は冷静さを取り戻していた。
(────雑念を捨てろ)
生きたい、そう思っている限り勝つ事などできない。
もしも生きるために相手を殺そうとしたら、殺害どころか加害行為すら禁じられていただろう。
(俺の命なんてどうでもいい。他人の命すらもどうでもいい。ただ、ヤツをブチ殺す事だけに集中しろ。他は何も考えるな)
べちゃべちゃ、と血溜まりを踏む音が聞こえる。
攻撃をしろ、なんて抽象的な命令で動く手駒ではない。
再生できないように無力化するには、きちんと手順に則ってバラバラにする必要がある。今それができるのは二神双葉ただ一人。
チャンスは一回。
チャンスは一瞬。
彼女が俺に手を伸ばす、その瞬間。
「無様、ね。ゾン──」
「───
ザグンッ‼︎ と黄金の刃が煌めく。
この領域内では死にはせずとも、無力化されたら終わり。それは、敵にも適用される。
《
本来なら使用不可能な一撃。
だが、椎菜はこう言っていた。《ゾンビウイルス》が活発化しているのはこの領域とは別の要因がある、と。
これはヒントだ。そして、その答えは恐らく
ならば、主人公たる俺がこの刃を振るえぬ道理はない。
そして──
──
「…………は?」
ブシャッ‼︎ と。
一秒遅れて、俺の首が血が噴射した。
現代アートのような血の噴水が完成する。
「
ぐるり、と眼球が回る。
そして、視界の片隅で剣を携えた金髪の女を捉える。
「そう、か。そうだった、な。テメェも……
《
「く、そ……、届かなかったか……」
奇しくも、俺が考えていた戦法が逆になって突きつけられた。
《
俺は完全に無力化された。
「
俺は切り伏せられた。
首から大量の血が噴射した。
「《
生死反転なんて関係がない。魂をブッ壊し、
それを発動しようとして────
──
これまで、ディートリヒのような憑依転生者の魂に触れた事がある。それとは、明確に違う感触。
憑依じゃない。魂は重なっていない。一つの肉体に二つの魂が宿っていると言うよりも、
──パンッ、と。
二神双葉が俺の頬を掌底で打つ。
何の意味もない攻撃。咄嗟に、手が出ただけだったのだろう。
だけど、続く言葉が衝撃だった。
それは、無我夢中で出た心からの一言。
「
──────。
一瞬。
理解が、追いつかなかった。
だって、それが、意味するのは。
俺は、大前提から、勘違いをしていた……?
「……ほんとは、あたしが、死んでいる、はずなのに。
「…………ま、さか」
「お姉ちゃんは、言ってくれたんだ。わたしは二度目の人生だから、あなたに、全部あげるって。わたしが死んで、あなたが代わりに生きて、って」
「違った、のか?
異能によって生きている肉体が死に、死んでいる憑依転生者が蘇る。
そう、思っていた。だが、騙されていた。
「寄生性双生児って、知ってる? 妊娠中に、双子の片割れが、溶けて消えるバニシングツイン、なんて、よくある話。産まれる前に、あたしは死んだ。本当なら、そこで終わり。……
「…………っ」
「……お姉ちゃんはね、優しかった。優しすぎる、人だった。だから、第一の人生を歩む、あたしが死んで、第二の人生を歩む、自分が生き残った事を、悔いていた」
「だからッ、お前の姉は生死を反転させた! 自分が死んでもッ、お前という妹を生き返らせるために‼︎」
決して交わる事のない
一度たりとも話した事も、顔を合わせた事も彼女達は、それでもその姉妹愛は本物だった。
「でも、話はそれで終わらなかった、の」
そう、まだだ。
この話は悲劇にしか続かない。
「簡単な話。いくらあたしが、生き返るとしても、肉体の持ち主である、お姉ちゃんが、何度も死んで、弊害が無いわけが、ない、よね? ……いや、そもそも、あたしの正体は、お姉ちゃんを内側から食い破る、成長する腫瘍。
「………………」
「まだ、お姉ちゃんは、生きてる。だけど、次に異能を解除すれば、お姉ちゃんは死ぬ。
「………………、」
「
最悪の二者択一。
姉と妹、どちらかしか選べない。
そして、姉は躊躇なく妹の命を取った。
「だから、
「どう、やって……? だって、この世界では死ぬ事ができない! 生きる事で死ねるのかもしれないけどッ、生きようとする事だって──」
「
「────────」
それが、二神双葉の──その体に宿った
自身を完全消滅させる事で、姉に肉体を返還する。たとえ姉の想いを踏み躙ったとしても、姉の命を救うために。
「だから、死んで。おまえが、何のために戦ってるのか、それは知らない。だけど、おまえが救いたい人より、きっと、お姉ちゃんの方が、救われる価値がある筈だから」
「……そう、かもな」
優しい彼女の姉と、クソ野郎の折手メア。
比べるまでもない。
コイツの姉を見捨てて折手メアを救う理由はない。
──
「でも、ダメだ。ダメなんだよ、二神妹。お前の言う通り、お前の姉の方が折手メアなんかよりも価値がある人間なのかもしれない。でも、やっぱりダメだ」
「どうして⁉︎ あんなヤツのために、お姉ちゃんを殺すって⁉︎」
「
「────は?」
ああ、イライラしてきた。
妹と姉のどちらかしか救われない? 二者択一の運命? 巫山戯やがって! そんな理不尽な運命があってたまるか‼︎
「俺は救うぞ。テメェら二人まとめて救う‼︎」
「ふざっ、けるな! そんな方法があるなら、あたしがとっくに選んでる! どちらかしか救わられない! だからッ、
「知るかッ‼︎ だったらッ、俺が勝手に救ってやる‼︎ 俺がテメェをブチ
エンジンがかかる。
ボルテージが上がる。
一人を見捨ててもう一人を助けるなんて未来に価値はない。二人とも助ける、それが出来なければ全人類まとめて死んだほうがマシだ。
「──もう、いい」
血の海に花が咲く。
彼女の感情に呼応するように、真っ赤な激情の彼岸花が。
「おまえには、期待しない。あたしは、あたしの方法で、お姉ちゃんを救う!」
「それが救いになると思ってる時点で大間違いだよ。それが成功した所で、結局またお前の姉が自分を犠牲にしても妹を蘇らせる方法を探すだけだろ? 今のテメェみたいにな‼︎」
「──もうっ、黙れェェえええええええッ‼︎」
《
二神双葉の異能であり、彼女と同じ肉体に宿った少女が使用できたチカラ。
生死を反転させ、生存行為を禁じ、死者を支配するという、輪廻の概念が存在する世界では勝ち目のない怪物。
少女の叫びに応じて、死者が動き出す。
天命機関、転生者、一般人。それら全てが俺の敵となり──
「待たせたわね!
「ここから先は、私達も六道君の手助けをします」
「だから、伊吹さんはいつも通り、やりたい事をやってください」
──
アドレイド=アブソリュート。
ブレンダ。
栗栖椎菜。
いいや、それだけじゃない。
ジェンマ、ロドリゴ、レオンハルト。
サササッチ、デッドコピーのみんな。
一部の死者が裏切り、俺の味方となる。
「…………な、にが」
「ああ、そっか。なるほどな」
「何が、起きたの⁉︎ だって、この領域ではっ、死者はあたしに、抗えない! この
「
「────ッ‼︎」
最初から彼女達は言っていた。
攻撃をしないというのは不可能でも、どんな攻撃をするのかという裁量権は委ねられていると。
そして、彼女達はどんの攻撃を行なっていた?
「今のアイツらはゾンビだ。プラスマイナスゼロの存在だからこそ、テメェが生死反転した所で
「そ、んな……馬鹿な、話が……」
「
「………………え?」
周囲から世界が終わるような激闘が響く。
だが、それは無視する。彼女達を信じる。
俺は、俺のやるべき事を……やりたい事をする。
「ゾンビはプラスマイナスゼロの存在だ。生も死もない。
二者択一なんて巫山戯るな。
そんな理不尽な選択肢なんてクソ喰らえだ。
「ま、まだ! 問題は、残ってる! あたしの腫瘍は、残ったまま! 異能を解除すれば、死んでしまうことには、変わりない! そして、あたしの異能の持続が、いくら長いと言っても、十年は保たない‼︎ それは、単なる延命で、解決法にはならない‼︎」
「ゾンビの回復力舐めんじゃねぇぞ? どれだけの内側から食い破られたとしても、簡単に死ぬ訳がねぇ。そして、テメェの腫瘍もゾンビになっているからこそ、それ以上成長する事もない」
「だけど! おまえの案には痛みが伴う! お姉ちゃんが苦しむ‼︎」
「だったらテメェが姉貴に聞けよ! 妹が死んで自分が痛みもなく生きている未来とッ、異能を解除すると体が痛むけど妹が生きてる未来のどっちが良いかって‼︎ どれだけ痛みがあろうがッ、妹が生きてる未来を選ぶに決まってんだろうが‼︎ そんな姉だからこそッ、テメェは今ここに生きているんじゃねぇのかッ⁉︎」
それに、解決法が無いとは限らない。
腫瘍を摘出して新たな肉体を与えるとか、《ゾンビウイルス》と天命機関の技術を組み合わせると何とかなるかもしれない。
自暴自棄になるにはまだ早い。まだ産まれてもいないようなガキが、人生を諦めて良いはずがねぇんだ。
「……そんな、」
「だから、手を取れ! 二神妹!」
「そんな、都合の良い、ハッピーエンドなんか、あるわけが……」
「ああ、もう、ウザってぇな! 何をぐだぐだしてんだクソが!」
「信じられないよ! だって、あたしは……‼︎」
「うるせぇ‼︎ テメェの事情なんざ知ったこっちゃねぇ‼︎ さっさとテメェらを俺に救わせろッ、クソガキが‼︎」
辺りを見回し、近くにいた黄金の女に叫ぶ。
「《
「……
ガバッッッッ‼︎‼︎‼︎ と腹が裂け、血が噴射する。
再び二神姉妹に血が降りかかる。今度は殺すためでなく、救うために。
「今日がテメェのハッピーバースデイだ! 毎年姉貴がバースデーソング歌うから忘れんじゃねぇぞ‼︎」
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
イヴリン
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
二神双葉
三瀬春夏冬
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
折手メア
《
▽一般人
栗栖椎菜
デッドコピー×20000
二神妹
世界観:《
転生者:二神双葉
グレード:
タイプ:
ステータス:
強度-D/出力-E/射程-D/規模-B/持続-A
異能:《