原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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六六話:ゴーストラッシュ

 

 

 呆然と。

 六道伊吹は、ただ立ち尽くす。

 

 折手メアを助けたいと思った。

 だけど、俺は本当に彼女の事を直視していたのだろうか?

 彼女の記憶を奪われた。取り戻した今でも、彼女の過去の罪はよく知らない。だから、彼女とは別の『架空の少女(ヒロイン)』を思い描いていたんじゃないか?

 

 

 折手メアという魔女は、本当に六道伊吹が命を賭けて救うに値するのか?

 

 

(…………あ? なんで俺は今こんなこと考えて……? なにか、もっと他に、やることが──)

 

 記憶が繋がらない。

 いつ過去から帰還した?

 どうして俺は立ち尽くしている?

 

 断片的な記憶をつなぎ合わせる。

 そうしてようやく気付く。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 過去から現在へ戻ってすぐの事、俺は目の前の少女──二神双葉(にかみふたば)と接触した。

 そこからの記憶が欠けている。……どうやら、俺は一瞬で倒されたようだ。

 

 生きよう、と心臓がバクバクと鳴る。

 生きよう、と呼吸がゼェハァと足掻く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「無駄、よ。あたしの、唯一の異能。領域(エリア)型、《涙涸参堂黄泉孵路(ながれさんどうよみのかえりみち)》。()()()()()()()()()()

「………………ッッッ⁉︎」

()(セイ)(セイ)()。この空間、では、生きる(シヌ)ことが、死ぬ(イキル)ことに、繋がる。どれだけ頑張っても、特殊な力があっても、たとえ不死だろうと、生者(シシャ)である限り、あたしの前では、屍と(ヨミニ)なる(カエル)

 

 例えば、空気を吸うと死ぬ。それは毒ガスが散布されてあるからではなく、呼吸という生存行為が死に直結するから。

 例えば、食事を摂ると死ぬ。それは毒物が練り込まれているからではなく、飲食という生存行為が死に直結するから。

 例えば、水を飲むと死ぬ。例えば、心臓を動かすと死ぬ。例えば、血が循環しているだけで死ぬ。例えば、例えば、例えば、例えば、例えば。

 

 何をしようと死ぬ。

 生きている限り、必ず殺す。

 それこそが、“冥府送り”と呼ばれた少女の異能。

 

 だけど、まだ出来ることはある。

 体は動かない。筋肉か、神経か、どちらが……あるいは両方が死んでいる。

 それでも、頭は動いた。《破邪の剣(アスカロン)》の形状を変化させて、鋒を喉に向ける。

 

(異能の説明ご丁寧にどーも! 生きようとしたせいで死ぬってことは、死んだら生き返るってことだろ! だったらッ‼︎)

 

 自害してようやく、敵と同じ戦場に立てる。

 一思いに、喉を突き刺し──

 

 

()()()()()()()()()()?」

 

 

 ──()()()()()()()()()()()

 

 剣が命令を拒んでいるんじゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何のために、異能の説明を、したと思ってる? あたしは、言った。おまえは、知った。死ぬ(イキル)ことが、生きる(シヌ)ことに繋がるって」

「………………っっっ」

「だから、おまえはもう、死ね(イキカエレ)ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 く、そ……‼︎ 初めから全部ッ、計算づくかッ‼︎

 二神双葉の話を聞き入れたせいで、自害すらも生存行為と見做された‼︎

 コイツと対等に戦うには、一番最初に何の説明も受けずに自害する必要があった! その機を逃した時点で、俺はもう死ぬ以外の未来が存在しない‼︎

 

 グチャッ‼︎ と膝から崩れ落ちる。

 とうとう脚に力が入らなくなった……とも思ったが違う。

 既に、下半身は腐り果てていた。上半身の自重に耐え切れず、細胞レベルで崩れて重みに潰される。

 

「…………く、そが」

 

 戦いの土俵にすら立てず。

 俺は腐乱死体に成り果てた。

 

 


 

 

「なんで貴様が存在しているッ、折手メア‼︎」

「そこに六道伊吹がいるから。それ以外に理由なんて必要かい?」

 

 崩れ落ちた〈商印堂(ショーウィンドウ)〉の跡地にて。

 九相霧黎とディートリンデは、史上最悪の転生者・折手メアと対峙する。

 

「細かい理屈を話すなら……そうだねぇ。ちょっと遠回りになるけれど、彼のことから話そうか」

「なんの……」

「六道伊吹はこの〈列強選定(キングセレクター)〉において、何度も死の運命を免れた。それはボクの異能によるものだけれど……だったら何故、異能で直接回復するのではなく、時空滑落(タイムスリップ)を挟んだ間接的な蘇生を選んだのだと思う?」

「……貴様が第五摂理によって、消滅させられたからであろう。誰にも観測できない貴様は、同様に誰に干渉することも不可能であった。ルーアハや時空そのものに対する干渉という、僅かな抜け道はあったようであるがなァ」

「うーん、まぁ、それはそうだね」

 

 折手メアの異能、《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》。自らが面白いと思った通りに世界を書き換える現実改変能力。

 しかし、その異能を直接六道伊吹に適応することは出来なかった。もしもそんなことが可能なら、六道伊吹は傷つくまでもなくもっとスマートな勝利を選べていただろう。

 

 六道伊吹は自らの手で勝利を掴み取った。

 折手メアは相討ちとなった彼に、ほんのちょっと手助けをしただけだ。

 

「でも、それだけじゃあない。さぁて、問題です。時空滑落(タイムスリップ)を繰り返せば負担に耐え切れず破綻してしまう摂理(ルール)とは何でしょう?」

「…………第五摂理ッ‼︎ 貴様ッ、六道伊吹の素性だけでなく、第五摂理を破綻させる事で自らの復活を狙ったのであるかァ⁉︎」

「だぁーいせぇーかぁーい! どんどんぱふぱふー‼︎」

 

 そう簡単に上手くいくのかい? と小声で九相霧黎は尋ねる。

 だが、ディートリンデは知っている。細部の理屈なんて関係ないのだ。折手メアが面白いと思ってしまえば、それに沿った世界に書き換えられる。

 

「……い、いや、知っているぞォ! 貴様はあの日ッ、《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》を失ったァ‼︎ いいやッ、そもそもの話ッ、貴様ではラスボスたる我には勝てんッ‼︎ 貴様はもはやッ、最強でも何でもない! 何処にでもいる凡弱な少女である‼︎」

「……………………」

「フハ、ハハハハッ‼︎ 残念だったなァ! ハッタリなら効かぬゥ‼︎ 六道伊吹への手土産であるッ、無様に無惨に死ぬがよォォオオオオオいッ‼︎」

「………………そう、だね。あの日、確かにボクは最強とも呼べる力を失った。ボクなんがキミを倒していいのかと今でも思う。結局、ボクの性根はクソ野郎のままなのかもしれない」

 

 それは敗北を認める言葉────なんかじゃない。

 だけど、と。言葉は反転する。

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ギュッ、と拳を力一杯握り締める。

 それは小さな手のちっぽけな握力だとしても、人の想いを踏み躙るばかりの少女にとっては、人を助けるために戦うという大きな一歩だった。

 

「ボクは勝つ。ボクは助ける。ボクは主人公になる。キミを倒して、この事件を解決してみせる」

「なッ、何を言って──」

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 轟‼︎ と一陣の風が吹いた。

 折手メアが小さな拳を振り抜く。

 それだけで、衝撃波が発生してディートリンデが吹き飛んだ。

 

「ディートリンデ!」

「次はキミの番だよ。ボクはキミが原作主人公(タイトルロール)なんて認めない、九相霧黎……‼︎」

(こ、れが……折手メア。これがッ、ディートリンデの言っていた《主人公補正(プロット・アーマー)》か……‼︎)

 

 あらかじめ話は聞いていた。かつてディートリンデが奪ったという、《主人公補正(プロット・アーマー)》という異能のことを。

 その効果は主人公が必ず勝利するという未来を引き寄せ、その未来を遮る損害(ダメージ)を無かったことにするというもの。恐らくは、自分自身を主人公だと定義しているのだろう。

 

 

(…………か、てない)

 

 

 九相霧黎は適応能力が高い。

 一目見ただけで、大抵のことは理解できる。

 ……だから、理解(わか)ってしまった。

 

 勝ち目なんてない。

 絶対に勝てない、と。

 

 だって、どう足掻こうと意味はない。

 結局は折手メアが勝利するという未来に現実を改変される。

 

 

 圧倒的な絶望を前に、九相霧黎は膝をついた。

 

 


 

 

「こんなもの、か」

 

 

 六道伊吹の死体を前に、二神双葉は呟いた。

 六界列強(グレートシックス)の死神。どんなものかと警戒していたが、彼女を前にすれば呆気なく死んだ。

 即死性能が高すぎる彼女にとって、他人の強さなんて分からない。彼女にとっては、目の前の男も、そこらで地を這う蟻も、あるいは六界列強(グレートシックス)すらも単なる屍に過ぎない。

 彼女を前にして、立ち上がれる生命なんて存在しない。

 

 

「何回目の死だよ、ふざけんなよクソが」

「──────、は?」

 

 

 だから、それは幻聴だと思った。

 だって、あり得ない。

 そいつは死んでいるのに。

 その体は腐っているのに。

 それは確かに死体なのに。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 崩れた脚が再生する。

 腐ったまま繋ぎ合わさり、腐ったまま動き出す。

 

「な、んで……」

「生と死を反転? 生者を死者に変える? それは勝ち目がねぇな。敵が生命である限り、テメェは無敵だ」

「だっ、だったら……‼︎」

()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………ッ‼︎」

 

 ()()

 その言葉が、二神双葉の脳裏に浮かぶ。

 相対する筈のなかった天敵と、六道伊吹の体を介して対峙する。

 

 言ってしまえば、《涙涸参堂黄泉孵路(ながれさんどうよみのかえりみち)》の効果はマイナス1のかけ算だ。

 生者(プラス)死者(マイナス)にする。生死(符号)を反転する。ただそれだけの力。

 だが、ゾンビとは生者でも死者でもあり、そのどちらにも属さない異端。即ち、プラスマイナス0の存在。マイナス1をかけたとしても、何の意味もない。

 

「だが、解せねぇな。生者を死者にする。それがテメェの異能なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………ぁ」

「効果範囲を絞れるのか? それとも、まさかとは思うが──」

「あは、あはは! あははははははは! ()()()()()! ()()()()()()()()()()()‼︎」

「………………あ?」

 

 ニタァ、と二神双葉の唇が歪む。

 その女は醜く嗤った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 イヴリン。彼女達の顔を思い出す。

 だけど、違う。目の前のこれは、そんな綺麗な関係じゃない。

 自らの都合のために命をひっくり返し、もう一人を使い潰す。ディートリヒと同じ類のッ、最悪の憑依転生者‼︎

 

「テ──メェ‼︎ 人の命をッ、他人(ヒト)肉体(からだ)を何だと思ってやがるッ‼︎」

「どうでも、いい。あたしは、命をかえす、ただそれだけの、存在だから」

 

 ぞわぞわぞわぞわっっっ‼︎‼︎‼︎ と。

 死の気配に鳥肌が立つ。まるで大量の蟲が頭に湧いているような嫌悪感だった。

 そして、その気配の中心にいる彼女は呪文(キーワード)を告げる。

 

 

世界、新生(reverse)───《根の国(ヨミ)》」

 

 

 直後、世界がひっくり返った。

 世界観(ジャンル)が書き換わる。

 物理法則(第零摂理)が捻じ曲がる。

 これより先は異世界、死者こそが生きる国。

 

 突如、コンクリートの上から花畑が広がる。

 綺麗、なんて風には思えない。

 美しさはある。だけど、それは生命を感じさせない寒気のする美しさ。まるで、天国に来てしまったかのような。

 

「…………っ」

 

 そして。

 何よりも明確な異変は、目の前に。

 

 ザッ‼︎ と花畑を荒らす音が聞こえる。

 突然、そこに人が現れた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………そん、な」

「考える、べきだった。あたしの、《涙涸参堂黄泉孵路(ながれさんどうよみのかえりみち)》は、生死を反転させる、ちから。()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 生者(プラス)死者(マイナス)にする×マイナス1じゃない。

 死者(マイナス)生者(プラス)にする×マイナス1。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………はじめから、やり直しってか⁉︎」

「単なるニューゲーム、じゃない。今度は、味方すら、おまえの敵に、なる」

 

 

 例えば、天命機関に属する死者。

 ブレンダ、ジェンマ、ロドリゴ、レオンハルト。

 

 例えば、六道伊吹の味方の死者。

 アドレイド・アブソリュート、栗栖椎菜、サササッチ。

 

 例えば、六道伊吹が殺した死者。

 ファウスト、フラン=シェリー・サンクチュアリ、ルーアハ。

 

 例えば、〈列強選定(キングセレクター)〉冒頭で死亡した転生者共。

 例えば、無惨にも死んでしまった二万人のデッドコピー達。

 

 例えば、例えば、例えば、例えば、例えば。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 幽霊、なんかじゃない。

 肉体を持った、歴とした生命体。

 死者蘇生。それに匹敵する奇跡が、目の前で起こっている。

 だけど、その奇跡は一人の怪物の手の中に。死してなお命は弄ばれ、自由意志のない傀儡として操られる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 


 

 

 

 

 

「生存者リスト」

 

▽天命機関

ブレンダ

ジェンマ

ロドリゴ

レオンハルト

ファウスト

イヴリン

etc

 

▽転生者

六道伊吹

アドレイド・アブソリュート

二神双葉

三瀬春夏冬

九相霧黎

ディートリンデ

フラン=シェリー・サンクチュアリ

ルーアハ

折手メア

 

▽一般人

栗栖椎菜

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