【ヘスティア・ファミリア】所属の冒険者、サンジョウノ・
今日は彼女の、何気ない日常をご紹介しよう。
「んっ……ふぅ……はぁ……」
悩ましい吐息を漏らしながら悶えている春姫。捲れた布団から覗く着崩れた極東の寝間着はしっとりと汗ばみ、その柔肌に貼り付いている。
「んぅ……ぁ、ベル様ぁ………」
荒い息遣いと共に微かに揺れる双丘。不意に動かした足が寝間着を更にはだけさせ、白い太腿が際どいところまで露わとなる。
「そ、そんなっ……さ、鎖骨がぁ……きゅうっ」
一体どんな
処女のくせに妄想だけはアマゾネス顔負けな
「春姫殿……」
艶声の
起床後。
朝食を終えた春姫はメイド服に着替え、洗濯などの家事全般を行う。これは春姫の仕事であり、彼女が誇りを持って出来る事でもある。
(冒険者として半人前な以上、せめてこうして皆様のお役に立たなければ……!)
前衛であり今や第一級冒険者の仲間入りを果たしたベル。
彼ら偉大な仲間を持つ身として、春姫はこうして少しでも役に立とうと日々奮闘しているのだ。
もちろん彼女も反則級の魔法、【ウチデノコヅチ】という魔法を扱えるのだが、対モンスター戦においてはゴブリンにも負けるという有様だ。故にこうして仲間の身の回りの世話にも率先して行なっているのだが……。
「こ、これは……!」
常にどこか思考がピンク寄りな春姫。
彼女の逞しい妄想力が発揮される時は、場所を選ばない。
「ベル様の、肌着……!?」
いざ物干し竿にかけようと手にしたのは、ベルの
『すいません、またこんなに汚しちゃって……』
『お気に為さらないで下さい。それだけベル様が日々頑張っている証拠なのですから』
『春姫さん……』
『ベル様……』
「そしてそのまま、春姫はベル様の肌着に手をかけて……きゅうっ」
赤面して芝生の上に倒れた春姫。
様子を見に来たリリはそんな彼女に、『ああ、またか』という感想を抱くのであった。
昼前。
現在
(ヴェルフ様も鍛冶に精を出しているのだから、
台所に立った春姫はふんすと気合いを入れ、昼食の準備に取り掛かる。
ヴェルフの事を考えれば、やはり片手間でも食べられるサンドイッチなどが良いだろう。春姫はバゲットや食材を切り分け、危なげなく調理を進めてゆく。
(こうしていると、ウィーネ様がいた時の事を思い出します)
微笑みながらも思い起こされるのは、『
春姫とウィーネ、そしてベルとの三人で中庭で食べたサンドイッチも、ちょうどこのようにして作っていた。
(そう、三人で一緒に、まるで本当の家族のように……はっ!?)
ピーン!と硬直する狐の尻尾。
彼女の妄想センサーはまたしても反応したのだ。
『おはようございます、春姫さん。朝ごはんは何ですか?』
『おはようございます、ベル様。今日は私の故郷の味、お味噌汁を作りました』
『わあ、良い匂い!すごく美味しそうです!』
『ふふ、ありがとうございます。ところで……もうそろそろ、他人行儀は止めませんか?』
『えっ?』
『私のことは、どうか『春姫』と呼び捨てて下さい。私も……これからは『旦那様』と、そうお呼びしますので……』
『……うん。分かったよ、春姫』
『ああ、旦那様……』
「そんな、旦那様っ。お味噌汁が冷めてしまいますぅ……きゅうっ」
サンドイッチを作り終えると同時に再び気絶する春姫。
「お、今日の昼飯は味噌汁なのか……って、サンドイッチ?」
鍛冶仕事をひと段落させたヴェルフに発見されるまで、彼女は台所で目を回していた。
昼食後。
メイド服からいつもの着物に着替えた春姫は、アイシャと共にいた。夕食の買い出しの際に街中で偶然出会い、今はとある喫茶店の中である。
「それで?アンタはまだベル・クラネルを食ってないのかい?」
「アイシャ様、そ、それは……」
アマゾネスらしい単刀直入過ぎる言葉に、春姫は奢ってもらったお茶を啜りながら、赤くなった顔を懸命に隠そうとしている。
アイシャはそんな奥手過ぎる彼女に溜め息を漏らす。そして『仕方ないねぇ』とその豊かな胸の谷間から取り出したのは、【イシュタル・ファミリア】時代に歓楽街で出回っていた精力剤だ。
「ほら。坊やにこれを飲ませて、今晩にでもやっちまいな。盛った雄を前にすりゃ、アンタも覚悟が決まるだろう」
「こっ、これは……!?」
どピンク色をした精力剤を前に、春姫の思考は一気に妄想の渦へと消えてゆく。
『はぁ、はぁ……春姫さん、僕、もう……!』
『分かっております、ベル様。さぞお辛いでしょう……この春姫が、鎮めてさし上げます』
『……は、春姫さぁんっ!』
『あぁっ、ベル様ぁ!』
「ベ、ベル様のうなじが、鎖骨が……お、お胸の桜色がぁ……!?」
「おい、聞いてるのかい春姫」
「あぁ、なんて逞しい……こ、このまま春姫はぁ、神様たちの言うところの『朝ちゅん』なるものを経験してしまうのですね……きゅうっ」
「……駄目だ、このエロ狐」
自分の妄想で撃沈し、テーブルに突っ伏す春姫。
すっかり茹で上がった彼女の様子に、これは夜這いを仕掛けてもその手前で気絶すると判断したアイシャは、静かに精力剤を胸の谷間へと戻すのであった。
夕方。
「あぅぅ……こんなに時間が経ってしまいました」
妄想を爆発させた春姫は街中を歩いていた。
すっかり夕方の景色に姿を変えたオラリオの街並み。そんな中で彼女の視線は、ふと路地裏へと向けられた。
そこにはヒューマンの男女がいた。人通りの少なくなる時間帯で、ここならば誰にも気付かれないだろうと思っての事だろう。言葉を交わす二人はどちらも幸せそうで、きっと恋仲である事が窺える。
(ああ、私もあのように、ベル様と愛を囁き合えたなら……)
自分でも奥手である事は理解している。
しかし、それでも、情事の絡まない愛の言葉くらいなら、どうにか……と、春姫は考える。
『愛しております、ベル様……』
『春姫さん……僕も』
雲一つない夜空に浮かぶ満月が二人を照らし、得も言われぬ雰囲気を演出する。
『ベル様。どうか……どうか私に、貴方様の愛の証を下さいまし』
『え……』
『春姫の身体は、もう……火照って仕方がないのでございます』
着物の帯がはらりと地面に落ち、前面が露となる。
月に照らされた柔肌は艶やかに光り、潤んだ瞳がベルを真っ直ぐに見つめている。
『私の英雄様……どうかこの疼きを、止めて下さいまし』
『春姫さん……』
ベルの胸元にしなだれかかった春姫はそのまま跪き、大胆にもそのベルトに手をかけた。中央の膨らみを吐息が当たるほどの距離で凝視し、そしてゆっくりとズボンを下ろして―――。
(……はっ!?わ、私は一体なにを……!?)
と、そこで春姫の意識が現実に引き戻される。
愛を囁き合いたいとは思った。
しかし何故かアレな方向に妄想が進んでしまった。しかも今回はやけに詳しい
(具体的っ!具体的すぎます!ベル様のあ、あれを、この春姫が……ぁあ、あぁぁあああ……!?)
「あっ、春姫くんじゃないか!こんな所に突っ立って、一体どうしたんだい?」
その時だった。
バイト帰りのヘスティアがやってきたのだ。その声にピンク色の妄想に再び意識を刈り取られそうだった春姫は我に返り、主神である彼女の方を見る。
それがいけなかった。
「そっ、そそ、それは……!?」
「おっ!これにすぐ気が付くとは、春姫くんも中々に通だねぇ~」
得意げに胸を反らせて、手にしているそれを頭上に掲げるヘスティア。目を閉じ自信満々に鼻を膨らませる彼女に、赤い顔でわなわなと震える春姫の姿は見えていない。
「苦節三日!ボクが長年培ってきたジャガ丸くん製造技術の粋を結集させて作り上げた新商品!その名も『ジャガ丸くんロングタイプ』!カリカリとした美味しさは当社比1.2倍、なのに重量はこれまでの1.5倍だぁ!!」
串にささった
まだ揚がった状態にムラがあるのか、ヘスティアの持つそれは微妙に
「ぼ、棒状のモノが、反り返って……!」
「ちなみにこれは『濃厚バタークリーム』味さ!油っ気が多すぎて一部のマニアの間でしか人気がないけど、たまに食べるとこれがまた美味しいんだ!喉にへばりつくような濃い味が何とも……」
「こ、濃い味が、喉にへばりつく……!?」
もうエロ狐は止まらない。
取り戻した意識は踵を返し、妄想の彼方へと全力ダッシュをかます。
満月に照らされながら、大胆にも
上に跨った春姫が動く度に汗が弾け、ベルの身体に落ち、互いの身体の境目を曖昧にしてゆく。
『ベル様っ、ああ、ベル様ぁ!』
『春姫さん!僕、もう……!』
もうこれ以上は耐えられないとばかりに切ない声を上げるベル。そんな彼の頬を優しく両手で挟み込み、春姫は唇が重なるほどの距離で、真っすぐにその真紅の瞳を見つめる。
『分かっております……どうか春姫に、ベル様の……こ、濃いのを
―――以下、自主規制―――
「べ、べるひゃまぁ……きゅうっ」
「いやー、やっぱりプレゼンって大事だね!これでおばちゃんの屋台も更に繁盛すること間違いなし!タケのところの屋台も最近は売り上げを伸ばしているし、ジャガ丸くんのプロであるボクとしては絶対に負けられないというか……って、春姫くん!?」
長々とジャガ丸くんについて熱く語っていたヘスティアは、いつの間にか倒れていた春姫の存在にようやく気が付いた。
妄想が限界突破した彼女の鼻からは、一筋の鼻血が垂れていた。
「……という事があってね」
「それは……何と言えば良いのか……」
「寝起きに洗濯時。昼食前に先ほどと、少なくとも今日だけで四回は気絶してますよね」
「いや、多分俺たちの知らない所でもう一回くらいはしてるんじゃないか」
彼らは春姫の妄想癖をよく理解していた。よって今更思う事はないのだが、今日は特にそれが激しかった。
「想像力が豊かなのは良いけど、その度に気絶していたら流石にねぇ……」
「申し訳ありません、ヘスティア様。春姫殿には自分の方から今度、それとなく伝えてみます」
バイト終わりの身体に鞭を打って気絶した春姫を
「本当にこの人は。介抱するリリたちの身にもなって欲しいです」
「そう言うな、リリ助。こいつだって今以上に【ファミリア】の役に立とうと毎日頑張っているんだぞ」
「それは、そうですが……」
ぶーたれるリリに対し、ヴェルフは口角を上げながら春姫へのフォローを入れた。
「ところで、ベル君はどうしたんだい?もう帰って来てるんだろう?」
「ベル様ですか?多分シャワーを浴びていると思います」
「夕食前に、ですか?」
「ああ。何でも今日は街中の至る所で手伝いに走り回ってたらしいぞ」
「毎度の事ながら、なんでベル様はそうなるんですか……」
時刻はもうすぐ夕食時。
夜は出来るだけ全員揃って食べるという【ヘスティア・ファミリア】の方針に従い、ベルがシャワーから上がり、春姫が目を覚まし次第夕食を取る事にした。
「う、うぅん……」
そんなこんなで十分後。
長椅子に寝かされていた春姫は、ようやく目を覚ました。
「あ、春姫殿!」
「ようやくお目覚めですか、もうっ」
「いやー、良かった!ボクはもうお腹ペコペコだよー」
「よし、後はベルを待つだけだな」
「皆様……あれ、ここは……?」
きょろきょろと辺りを見渡す春姫。
何故ここにいるんだろう。さっきまで街中にいたはずなのに……と頭の整理が追い付いていない、その時。
「あのー……誰か僕の服とかって、知りませんかー……」
そろ~、と開けられた広間の扉。
遠慮がちに顔を覗かせたのは、シャワーから上がったベルである。
そんな扉の隙間から覗く彼の姿は、腰にバスタオルを巻いただけのものであった。
そしてそれを、春姫の目は見逃さなかった。
「ベ、ベル様の……鎖骨ぅ」
春姫、再び意識を手放す。
夕食が遠のいた瞬間、ヘスティアがぎゃーーー!と絶叫した。
「春姫くんがまた気絶したーーー!?」
「春姫殿ぉーーー!?」
「えっ、え!?だ、大丈夫ですか!?」
「ってぎゃーーー!ベル様、なんで裸なんですかっ!」
「ご、ごめっ!?替えの服持って来るの忘れちゃって、そのままシャワー浴びちゃったからっ!?」
「……あー、そう言えばお前、帰って来た時全身汚れてたな」
時刻はすでに夕食時。
オラリオの多くの者たちが夕食を取る中、【ヘスティア・ファミリア】の
その中で春姫は、本日六度目の気絶を決めるのであった。