ダンまち・IF短編集


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作:まるっぷ
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アマゾネスの姉妹


※この話は外伝ソード・オラトリア6巻の内容に大きく関わっています。未読の方はご注意下さい。


地中深くに存在するダンジョン第49階層。

 

並み大抵のファミリアでは辿り着く事すら不可能なその場所で、『遠征』に赴いた【ロキ・ファミリア】がモンスターの群れと激しい戦闘を繰り広げていた。

 

「ガレス、ベート!ラウルたちの援護を!」

 

「おう!」

 

「チッ、手間かけさせるんじゃねぇ!」

 

下位団員たちが苦戦している箇所へと救援を送るフィン。司令塔たる彼は自らも槍を振るいながら、それでも適切な指示を飛ばしていた。

 

「レフィーヤは速射魔法でナルヴィたちを援護!」

 

「は、はい!」

 

「リヴェリア、詠唱を始めろ!」

 

「分かった!」

 

鳴り止まぬ剣戟。冒険者たちの雄叫びとモンスターの咆哮が入り混じり、この49階層は正しく戦場の様相を呈していた。

 

そんな中でも、一際激しい戦闘を繰り広げている者たちがいた。

 

「ふっ!」

 

一人は金の長髪をなびかせ、愛剣を手に華麗な立ち回りを演じる少女。名を、アイズ・ヴァレンシュタインと言う。

 

もう一人は……ではなく、もう()()は、二人で一緒にモンスターを倒している。

 

「そっち行ったよ!」

 

「ああ、分かった!」

 

その二人組はアマゾネスだった。

 

一人は黒の短髪で踊り子のような衣装に身を包んだ少女だ。柄の両端に巨大な刃を取り付けた重量級の武器、大双刃(ウルガ)をまるで己の手足のように扱い、危なげなくモンスターを捌いている。

 

対してもう一人は徒手空拳である。共に戦う少女よりも十歳年上な彼女の衣装は、アマゾネスらしい非常に大胆で、露出の多いものだ。彼女は灰色の髪と顔の下半分を覆う黒い紗幕を揺らし、俊敏な身のこなしでモンスターに殴り掛かり、あるいは蹴り飛ばす。

 

ティオナ・カリフとバーチェ・カリフ。

 

それが、息の合った戦いを繰り広げる二人のアマゾネスの名前であった。

 

 

 

 

 

二人の出身は『テルスキュラ』と呼ばれる、オラリオからずっと東南にある半島の国だ。そこにはアマゾネスしか居らず、彼女たちは全員【カーリー・ファミリア】の一員でもある。

 

主神カーリーは戦いを経て生まれる強い戦士を好んだ。アマゾネスたちもそのように育つ事に疑問を持つ者は居らず、幼い頃から戦いの日々を歩んできた。

 

戦う相手は強くなる度に変わる。狂暴な獣から捕獲したモンスターへ……そして同族のアマゾネスへと。

 

ティオナとバーチェもまた、そのように生きてきた。

 

オラリオで冒険者となった今でこそ二人は姉妹として生きているが、実は血は繋がっていない。彼女たちにはそれぞれ、別の姉がいるのだ。

 

ティオナには“ティオネ”という姉が。

 

バーチェには“アルガナ”という姉が。

 

姓も本来であれば“ヒリュテ”なのだが、バーチェの妹となった彼女は自ら『ティオナ・カリフ』を名乗った。

 

『……それで良いのか?』

 

バーチェはかつて、ティオナにそう問うてみた事がある。

 

それはテルスキュラを出た直後の事で、生まれて初めて見る外の景色に目を奪われながらも、彼女は傍らに立つ小さな妹へと視線を落とした。

 

『……うん』

 

ティオナは僅かに葛藤のようなものを見せたが、すぐに元の笑顔に戻った。その表情が常日頃から浮かべているものとは少し違うと感じたのは、恐らく間違いではなかったであろう。

 

『ティオネはもう、どうしようもないくらいに変わっちゃったから』

 

あの瞬間に浮かべたティオナの顔を、バーチェは今もはっきりと覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあっと帰ってこれたぁーーーっ!」

 

そして現在。

 

イレギュラーに襲われ『遠征』を断念し帰還した【ロキ・ファミリア】の面々は、本拠(ホーム)である『黄昏の館』の門の前までやって来ていた。各々の顔には疲労の色が濃く出ているが、犠牲者を出さずに戻ってこられた事を喜び合っている。

 

特にティオナなどは、両手を上げて盛大に喜びを表現するほどだ。

 

「あー、もう疲れたぁー。お腹空いたー。口いっぱいにお肉頬張りたーい」

 

「うるせぇぞ馬鹿アマゾネス。グダグダ言ってねぇでさっさと歩け」

 

「ぶー、いいじゃんこれくらい。ベートったらせっかちなんだから」

 

やたらと喧嘩腰になってしまうティオナとベート。

 

その後ろを歩くアイズ、レフィーヤ、そしてバーチェの三人は、毎度お馴染みとなりつつあるこの光景にそれぞれの反応を示す。

 

「また、やってる」

 

「あ、あはは。まぁあのお二人ですし……」

 

「アイズ、レフィーヤ……その、済まない」

 

無表情のままポツリと呟いたアイズに、苦笑を浮かべるレフィーヤ。そんな二人の反応に、何故かバーチェは申し訳なさが込み上げてくる。

 

そんなこんなで門をくぐった矢先。本拠(ホーム)の扉が勢いよく開かれ、土煙を上げながらこちらへ爆走してくる一人の……否、一柱の神の姿が。

 

「おっっっ……かえりぃーーーーーっ!!」

 

朱色の髪に細長の双眸が特徴的な女神、ロキ。

 

大胆な服装とティオナ並みの胸を持つ主神は、ダンジョンより帰還してきた眷属たちに熱い抱擁を交わす―――――かに見せかけ女性団員にセクハラを敢行すべく、空高く跳躍した。標的は言わずもがな、ティオナたち綺麗どころだ。

 

が、ティオナはひょいと身を捻って回避。その後ろにいたアイズも同じく回避して見せるも、レフィーヤだけはロキの強襲に反応し切れない。

 

「へっ、え、えぇ!?」

 

眼前に迫るロキ(変態)の顔。エルフである彼女からすれば耐え切れない恥辱に晒されると分かっていても、どうしても身体が動かなかった。

 

万事休す!レフィーヤ一巻の終わり!……かに思われた、その瞬間。

 

「ぐべっ!?」

 

べシィ!!という鈍いような鋭いような音と共に、ロキ(変態)の悲鳴が木霊した。

 

レフィーヤが恐る恐る目を開けてみると、そこには背の高いアマゾネスの後ろ姿が。動けないレフィーヤの代わりに、バーチェがロキ(変態)を撃退したのだ。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい。ありがとうございます、バーチェさん……」

 

地面に頭部を埋めるロキ(変態)などには目もくれず、彼女たちはさっさと本拠(ホーム)へと入ってゆく。他の者たちも毎度の事だと慣れてしまっているのか、大した騒ぎにすらならない。

 

こうして団員たちがいなくなった門の前で、女神はしばらく滑稽なオブジェとなるのであった。

 

 

 

 

 

『遠征』から帰って来た女性団員がまず最初にする事は、もちろん入浴である。ダンジョンで風呂など入れる訳がなく、発見した泉や濡れタオルで簡単に済ませていただけに、温かい湯を浴びたいという欲求には抗い難い。

 

それはアイズたちも例外ではなく、各自持ち物を一度部屋に置いた後に浴室へと集まった。面子はアイズ、レフィーヤ、ティオナにバーチェの四人だ。

 

「アイズの服ってさぁ、結構大胆だよね」

 

「着ないと舌を噛み千切る、ってロキが言うから……」

 

腰に巻いているパレオを解きながら思った事を素直に口にしたティオナに、服に手をかけかけていたアイズが事の真相を語る。

 

思いもしなかったその事実に、ティオナは「あぁ、なるほど」と合点がいったかのようにポンと手を叩いた。

 

「大胆と言えばバーチェさんも、その……凄いですよね」

 

「そうか?」

 

エルフ故の恥じらいからか未だに服に手をかけていないレフィーヤは、隣に立つバーチェを見る。彼女は既に生まれたままの姿になっており、顔を半分覆っていた紗幕も取り払われている。

 

バーチェ自身はアマゾネスという事もあり気付いていないが、彼女の衣服はかなり際どい。それは男性の新入団員たちが、思わず前かがみになってしまうほどである。

 

そんなこんなで、四人は浴室へと向かって行く。

 

壁に取り付けられたシャワーから降り注ぐ温かな湯を全身に浴びていると、不意にティオナがきょろきょろと両隣を見比べ始めた。

 

「……むぅ」

 

「ど、どうかしましたか?」

 

不審に思ったレフィーヤが呼びかけるも、ティオナは唸ったまま視線を彷徨わせ続ける……具体的にはバーチェ、アイズ、自分、そしてレフィーヤの胸元を、だ。

 

順に特大、中、小、中、と。

 

無慈悲なる現実を突き付けられた哀れなアマゾネスの少女は、恨めし気なその視線を端にいる人物……バーチェへと注いだ。

 

「アイズとレフィーヤはまだ良いよ……でもバーチェ!なんか前よりちょっと大きくなってない!?」

 

「よく分からないが、確かに少し服がきつくなった気がするな。主に胸元が」

 

「きぃい~~~~~っっ!?」

 

どこぞのロリ女神とまではいかないものの、バーチェは豊かに実ったその双丘を揺らし、無自覚の内に妹の心を抉る。

 

その時、ガラリと浴室の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「うおぉおーーーーっ!安心せぇティオナ!どんだけ小っさくてもウチが揉んで大きくしたるでーーーーっ!?」

 

乱入してきたのはやはり服を着たままのロキ(変態)だった。わきわきといかがわしい手付きで現れた女神は、先程の二の舞にはならぬと猛ダッシュで詰め寄ってくる。

 

が。

 

「小さい言うなぁーーーーーっ!!」

 

「ぬおぉ!?」

 

その“禁句”に一早く反応したティオナが身体を霞ませ、後方より飛び掛かった獣を引っ掴んでぶん投げる。

 

その行く先はレフィーヤだった。

 

門の前では固まるしかなかった彼女であったが、

 

「きゃあ!?」

 

「ぶべっ!?」

 

咄嗟に振り回した腕が、偶然にもロキ(変態)の顔面にヒット。

 

頬に紅葉を張り付けた女神が次に飛んでいったのは、

 

「……」

 

「ぎゃうっ!?」

 

アイズの元だ。

 

しかし彼女はスッ、と静かに身を翻しただけ。結果としてロキ(変態)は顔面から床のタイルへと激突、熱い口づけを交わすハメとなった。

 

見事な友情コンボであったが、それだけで終わりではなかった。

 

「ロキ」

 

「うぅ……その声、バーチェか?」

 

つう、と一筋の鼻血が伝う間抜け面のまま顔を上げるロキ(変態)。そこに立っていたのはバーチェだ。

 

湯の雫が滴るその見事な裸体を見上げて、思わずにやけたのもつかの間。ガシッ、と彼女に襟首を掴まれたロキ(変態)は……。

 

「頭を冷やせ」

 

「ひゃぁぁぁあああああああああああっっ!?」

 

ザーーーーー、と、シャワーから降り注ぐ冷水の餌食となった。

 

「つ、冷たい冷たい冷たいッ!!ぶふっ、ちょ、ほんまに堪忍してやぁぁあああああ!?」

 

浴室に、そして脱衣所にまで響き渡る女神の汚い悲鳴。

 

その声に後からやって来たリーネたちが、小さく肩を跳ねさせたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

その後はいつも通りの流れだった。

 

食堂で団員たちと夕食にした。大食いのティオナは取り皿に山ほどの肉料理を盛りつけ野菜は少々。バーチェは魚料理をメインに野菜や果物といったものを食べていた。

 

「あっ、それ美味しそう!バーチェ、ちょっと貰っていい?」

 

「そっちのテーブルに並んでいる。取ってくれば良いだろう」

 

「えー、やだー。せっかく目の前にあるのにさぁ。ね、良いでしょ?」

 

「……ふぅ。好きなだけ取れ」

 

「やった、ありがとっ!」

 

隣り合って食卓に座るアマゾネスの双子。

 

その微笑ましい光景は今や【ロキ・ファミリア】の名物と言って良い。天真爛漫な妹と、それに付き合ってやる姉。それがアイズたち団員が、二人に抱いている印象だ。

 

しかし誰にでも秘密はある。

 

そして何より……ティオナは皆が思っている程、能天気な少女ではなかった。

 

 

 

 

 

食事を終え部屋へと戻ったバーチェは寝る準備を終え、いよいよベッドへ潜り込もうとしていた……が、そこでティオナから声がかけられた。

 

「バーチェ」

 

「? どうした、ティオナ……」

 

妹の声に振り返ったバーチェは、僅かに目を見開く。ティオナは寝間着にも着替えず、一冊の本を持ったまま立っていたのだ。

 

その本の題名(タイトル)は『アルゴノゥト』。テルスキュラでバーチェが幼いティオナに読み聞かせてやった、根強い人気のある御伽噺である。

 

「読んで」

 

「……ああ、来い」

 

いつもの雰囲気からガラリと変えたティオナに、バーチェはベッドに腰かけるよう促す。二人は窓から差し込む月明かりを頼りに、幾度読み込んだかも分からない御伽噺の(ページ)をめくった。

 

「『昔々、とあるところにアルゴノゥトという青年がおりました』―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テルスキュラでは殺し合いの日々だった。

 

アマゾネスたちは同族が相手でも容赦なく殺し合い、それはバーチェとティオナも例外ではなかった。彼女たちもまた、数え切れないほどの同胞を手にかけている。

 

しかし二人は救われた。他でもないティオナが、偶然にも手にした御伽噺の断片によって。

 

 

 

『……青年は騙されているとも知らずに言いました。[分かりました、必ずや囚われの王女を救い出して参りましょう]』

 

『それで?どうなっちゃうのっ?』

 

 

 

殺し合うだけの日々に、新たな光が差し込んだ。それは図らずも、バーチェまでも照らしてくれた。

 

しかし……その光はティオナの姉、ティオネには、届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………寝たか」

 

『アルゴノゥト』を読み終える頃には、ティオナはすっかり夢の中だった。安心しきった顔でバーチェに寄りかかり、幼子のように寝息を立てて身体を丸めている。

 

その顔にかかった髪……自分とは違う毛色の髪の毛を軽くどけながら、バーチェは古い顔を思い浮かべる。

 

二人は狂暴だった。

 

アルガナは『最強の戦士』となる事に執着していた。妹であるはずのバーチェすらも自分が頂点へと登り詰める糧としか見ておらず、そんな姉を、彼女は姉とは思わなくなっていた。

 

ティオネもアルガナに負けず劣らずだった。

 

まだ十にも満たない年齢だったと言うのに、手にかけた同胞の数は百を優に超える。いつしかその獣じみた闘争本能は歯止めがかからなくなり、妹のティオナすらも殺意の対象になっていた。

 

だから二人はテルスキュラを出た。

 

バーチェは恐ろしい姉から、ティオナは変わってしまった姉から、逃げるように。

 

その事実が、未だティオナの心に深い影を落としていた。姉への負い目という、深い影を……。

 

「お前の姉も、あいつも……今頃どうしているのだろうな」

 

血の繋がりのない妹の寝息を聞きながら、バーチェは一人、ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異様な熱気が闘技場を支配していた。

 

月明かりが照らすのは二人のアマゾネス。一人は両足でしっかりと立ち、もう一人は血だまりと共に地に伏している。

 

灰色の髪で隠れたその口元には、微かに笑みが浮かんでいた。

 

汝こそ真の戦士(ゼ・ウィーガ)!!汝こそ真の戦士(ゼ・ウィーガ)!!汝こそ真の戦士(ゼ・ウィーガ)!!』

 

周囲のアマゾネスたちの熱狂が冷めやらぬ中、闘技場に立っていた黒髪のアマゾネスは一点を見上げる。

 

そこにいたのは一柱の女神。顔の上半分を隠す仮面を被ったその女神は、満面の笑みと共に口を開いた。

 

「―――汝こそ真の戦士(ゼ・ウィーガ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お主がアルガナを倒すとはのう。(わらわ)はてっきり逆だと思っておったわ」

 

「………」

 

「ふっ、そう怖い顔をするでない。(わらわ)は喜んでおるのじゃ、テルスキュラ始まって以来のLv.6が生まれた事をな」

 

「………みねぇ」

 

「ん?」

 

「興味ねぇっつったんだよ、カーリー」

 

「そうか?じゃが今言ったように、(わらわ)は喜んでいる。柄にもなくこんな事を思いついてしまう程にな」

 

「あぁ?」

 

「オラリオではLv.2となった者に、神が二つ名を与えるそうじゃ。お主も聞いた事くらいはあるじゃろう?」

 

「………」

 

「そこでじゃ、(わらわ)もお主に二つ名を与えてやろう……んん、そうじゃな」

 

 

 

「アルガナとお主は実に狂暴で、実によく似ていた。まるで生き写しのようなお主らが殺し合う様は、まさに自らを喰らう蛇のようじゃった」

 

 

 

「故に、この名を授けよう」

 

 

 

 

 

喰蛇(ウロボロス)

 

 

 

 

 

「今後はそう名乗るが良い……なぁ、ティオネ(愛しい子)よ」

 

 




続かない……。
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