一口エッセイ:lain ここにいたしるし
PS版lainは、とても好きなゲームです。
散りばめられた情報を自分で集めて解釈していくゲーム性、カウンセリングによる互いの精神に向き合う対話、こんなニッチな作品がPSで発売した事実に心打たれる。
PS版lainのインターネット観が好きなんです。たくさんの情報のかけらが漂っていて、一つ一つに大きな意味はなく、そのかけらに刻まれた情報から何を感じとるのも自分次第。僕がネットを始めたころは、まだSNSなんて固定の巡回先がなかったので、日々いろんなサイトを回って断片的な情報を得て楽しんでいた。日記寄りのテキストサイトやカルトな漫画やアニメを紹介するブログも、それぞれ独立していたのですね。
そういうたくさんの情報……それこそ「この漫画のグロさは好きな人もいるかもな」くらいの一行とコマ画像が貼られたとして、そのコマから辿って元ネタを確認するのもスルーするのも受け手次第で、「もしかしたら誰かが読むかもしれない」くらいのふわふわした気持ちでみんなが感想や意見、情報を流す様子にインターネットを感じてきたのです。いまも、特に有名人でもクリエイターでもないけれど、素朴に日々の思考や行動を投稿してくれるアカウントやブログを読むのが好き。どの記事のどんな文章に興味を持つかはこちらの問題なので、思ったこと・起こったことをそのまま書いてもらえると大変助かる。
さて、そんなPS版lainですが、ディスクの盤面には指紋がつけられている。そう、ジャケットの玲音の指から移ったものと解釈していいでしょう。盤面に血の赤を塗る演出がカッコよすぎる。当時のゲーム業界の方から確認しましたが、ディスクに特殊な色をつけて印刷する行為、めちゃくちゃ拘って注文しないとなかなか実現することではない。この玲音の血は、製作スタッフがこの作品の世界観に欠田執念そのものでもある。
数年前に安倍吉俊の展覧会が開かれた際、PS版lainの特大イラストに出会った。そこには絵のタイトルとして『ここにいたしるし』と書かれていた。つまり、この「血」はたしかに玲音が居た証であり、そしてそのしるしはジャケットを貫きディスクの盤面にも表れ、そして僕らはそのディスクを再生する。ゲーム本編ではたくさんの情報が流れ始め、玲音の人格が断片的に描かれる。僕らはそれらを繋ぎ合わせて、玲音という少女がここにいたことを記憶に刻んでいく。
いいなと思ったら応援しよう!

コメント