マブラヴAlternativeをプレイし終わってラストの大団円のシーンが大東亜戦争を皮肉しているというコメントがあったのですが、イマイチ理解しきれません。博識の方どうか詳しく教えて欲しいです

オルタの結末について、原作者はこう話しています。 「吉宗氏：『マブラヴ』はメインヒロインである鑑 純夏の物語だと言えますが，彼女が最後に何をやったかというと，いわゆるFINAL EXTRA世界の創造なんです。武とほかのヒロインが幸せになる並行世界の消滅，その原因だった純夏が贖罪を込めて，ヒロイン全員が公平に武と恋人になるチャンスがある世界を再創造した。そしてALTERNATIVE世界に関わる武の記憶の一切を抹消した。 中盤で武が因果律量子論を取りにEXTRA世界に戻ってきたとき，他者に対してどういう心理状態になったか。ベトナムやイラクの帰還兵が一般社会でどうなったかを考えれば，それが純夏の優しさであることが分かります。さらに，死んでいたはずの悠陽を蘇らせ，EXTRA世界には存在すらしなかった霞を，ALTERNATIVE世界の武を構成していた余剰物質で再構成した。形としては多くの作品に見られるパターンの大団円ですし，一見非常に良い話に聞こえますよね。 マフィア梶田：は……はい。 吉宗氏：ですが，それって本当にハッピーなんですか？ 成長の糧となった過酷な経験や嫌な記憶。それだけじゃなく，嬉しかったことや感動した体験もすべてなくして，元の能天気な高校生に戻ることが本当にハッピーなんですかと。僕的には少し皮肉を込めた部分もあるんですよ。良くあるハッピーエンドパターンの裏に，何があるのかよく考えなければいけないんです。」 https://www.4gamer.net/games/032/G003242/20170308058/index_2.html つまり、オルタの結末は文句なしのハッピーエンドなんかじゃありませんよ、ってことですね。 大体アージュがハッピーエンドなんか作るわけがないのです。 ただし、自分の知る限り、原作者はこれ以上の踏み込んだコメントはしていません。 恐らく、ご質問のコメントとは、このようなもののことではないかと思います。 「素晴らしい戦友と、愛する者の命を、代価として捧げて手に入れた未来。 そのことを忘れて、戦争などはじめから無かったかのように、毎日を能天気に暮らしている。 （中略） これは『平和な世界に戻れてよかったね』などという呑気な結末ではない。戦後日本に対する強烈な皮肉であり、作者の怒りすら感じる結末である。」 https://www.youtube.com/watch?v=E6r0NclKIY0&lc=Ugy0f8R-GszTCh7uD8x4AaABAg これは、これを書いた人の個人的な感想であって、作者の知ったことではありません。 質問は書いた人に直接すればよいのであって、他人が解説をすることには意味がありません。 ですが今回は特別に解説をします。なぜならば、このコメントを書いたのは私だからです（笑） 戦いに命を捧げた戦士に対して、生き残った者たちはどのように報いるべきか。これは作中で「衛士の流儀」として繰り返し語られています。それは失われた命を惜しむことではない。彼らの名を伝え、彼らが命と引き換えに成し遂げた偉業を誇らしく語り継ぎ、彼らに感謝と敬意を捧げることが「衛士の流儀」である...と。 桜花作戦で白銀は何もかも失います。愛する純夏も、尊敬する冥夜も、命を預けた207訓練小隊の戦友たちも。あれほど元の世界に戻りたがっていた白銀ですが、実際に元の世界に戻れるとわかると、俺は死んでいったあいつらのことを語り継がなきゃならないんだ、どうかこの世界に居させてくれ、それができないならばどうかこの世界で死なせてくれ、と霞に泣いて懇願します。しかし元の世界で白銀が幸せに暮らすことが純夏や皆の望んだことだと霞に諭され、白銀は元の世界に戻ることを受け入れます。 元の世界に戻った白銀は、BETAのいる世界の記憶と経験をすべて抹消されて、元の呑気な高校生に戻っています。そこを見て「平和な世界に戻れて良かった、死んだ仲間も平和な世界で楽しく暮らしていて良かった。平和って素晴らしい」と思うのが普通なのでしょうが、私はそうは思わず、「衛士の流儀」は一体どこに行ったんだ、死んだ仲間のことは一体誰が語り継ぐんだ、と思ったわけです。しかし元の世界に戻ったのは因果律に逆らえないからだからどうしようもない。だからこそ余計に理不尽な思いが残り、どうして作者はこんな結末にしたのかと一晩考えたわけです。 一晩考えて、気が付きました。 「素晴らしい戦友と、愛する者の命を、代価として捧げて手に入れた未来。 そのことを忘れて、戦争などはじめから無かったかのように、毎日を能天気に暮らしている。」 これはもちろん、FINAL EXTRA世界のことを言っています。桜花作戦からFINAL EXTRAまでの物語の流れを大雑把に要約しています。 ですが、この言葉はそのまま「戦後日本」に当てはまる。先の大戦は、戦場から生きて帰ってきた方々にとっては、戦友の命を捧げた戦いであり、銃後を守って生き抜いた方々にとっては、家族や恋人の命を捧げた戦いでした。戦後日本の平和と繁栄は「素晴らしい戦友と、愛する者の命を、代価として捧げて手に入れた未来」であるわけです。 ですが、そのために命を捧げた戦士に対して、私たちは「衛士の流儀」を通していると言えるのでしょうか？かつて大戦争があったことなど普段は忘れて暮らしていて、8月になったら戦争の犠牲になった可哀想な人たちがいたんだなあと思い出すくらいではないでしょうか？彼らがどんな戦いをしてどんな功績を上げたのかなんてことは教えられもしないし、知ろうともしていないのではないでしょうか？ 今日も日本の領海には隣国の武装船団が出没していて、日本で戦争が起こる危険が高まっているというのに、そんなことには気が付かないふりをして、FINAL EXTRAの白銀のように能天気に暮らしている、という皮肉ではないかと気が付いたのです。 一つの例として、映画「硫黄島からの手紙」にもなった、硫黄島守備戦のことを挙げてみましょう。硫黄島守備戦が行われたのは1945年の2月。すでに日本の敗色は濃厚であり、ほとんど補給が期待できない2万の兵力で、無尽蔵の物量を誇る米軍11万を迎え撃った戦いです。開戦当初は5日で決着が付くと言われていましたが、日本軍は9ヵ月かけて築いた巨大地下要塞で米軍を迎え討ち、36日間に及ぶ徹底抗戦を展開しました。大戦末期にもかかわらず日本軍よりも米軍の方に多大な出血を強いた戦いであり、米国議会では勝利したにもかかわらず、実質的に敗戦ではないかと指揮官を糾弾する声も上がったそうです。 硫黄島はその名の通り硫黄ガスが噴出する地質で、地下は高熱になり、しかし飲み水はなく、地下要塞の掘削作業は過酷を極めました。戦闘はさらに過酷で、上陸する米兵を地下からの精密射撃で迎撃する日本軍に、米軍は火炎放射器で対抗しましたから、兵士は生きながらにして焼き殺されました。 これほど過酷な戦いに耐え抜いたのはなぜか。敵に勝つことではなく、本土の国民を守ることが作戦目標だったからです。自分たちが引いたら、守れる者はもう東京まで誰もいないのです。だからいかに敵が強大でも一歩も引くことができなかった。 硫黄島守備戦を指揮した栗林忠道中将は、米国への駐在経験もある知米派でしたから、米国の国力をよく理解していました。当時の日本軍で主流だった水際作戦では米国の物量に対抗できないため、それとは真逆の籠城戦を発案しました。過酷な掘削作業を命じた兵士一人一人に作戦の意義を説いて回り、一人あたり敵を10人倒すまで死ぬことは許さないとバンザイ突撃を厳禁して、士気の維持に務めました。 栗林中将は私と同郷で高校の大先輩にあたる方ですが、こんな方は普通に考えたら故郷の偉人として語り継がれていなければおかしいですよ。にもかかわらず、学校や地域で栗林中将や硫黄島の戦いについて教えられることはなく、よりにもよってかつての敵国の人が作った映画によって教えられた。それを恥だと思わなかったらおかしいでしょう。 米国では太平洋戦争最強の敵将として語り継がれている栗林中将の功績ですら、わが国では最近まで名前すら知られていなかったという有り様です。日本で戦争について語り継がれていることと言えば、過酷さと悲惨さのみであって、いかにして戦ったかということはまるで語り継がれていない。私たちは全員、彼らに生かしてもらった子孫なのに、そのことを教えられていないから、簡単に自殺してしまうほど精神的に弱くなってしまった。 オルタの物語はこういう危機意識から作られています。オルタの物語のルーツは、靖國神社で頒布されいる特攻隊員の遺書集「英霊の言の葉」です。これをそのまま語っても、作者が届けたい層には届かないから、ロボットSFとギャルゲーの分厚い皮を被せたわけです。 https://www.4gamer.net/games/032/G003242/20170302061/index_2.html ちなみに甲21号作戦では田代提督と安部提督が「九段で会おう」と今生の別れを交わしますが、九段とは靖國神社のことです。 オルタでは硫黄島守備戦に似た玉砕戦がいくつも描かれています。特に甲21号作戦は同じ島嶼戦ということもあり、伊隅大尉の姿が栗林中将に重なって見えて仕方なかった。公人としては人類や国家といった大きなものために殉じ、私人としては恋人や家族といった身近なもののために殉じ、残される者たちに優しい言葉を残して去っていったところも、とてもよく似ています。