東証プライム企業の老人ホームで不正28億円「現場に責任押しつけ」スタッフ怒りの声 社長が単独インタビューに答えた

共同通信のインタビューに答える「サンウェルズ」の苗代亮達社長=2月12日、東京都内

 「これじゃあ、現場の私たちが悪いみたい。冗談じゃないです」。首都圏の老人ホームに勤める小暮忍さん(仮名)は、怒気を含んだ声でそう話した。小暮さんが怒っている相手は、ホームを運営する東証プライム上場企業の経営陣だ。この会社が設置した調査委員会は2月7日、会社が不正に医療費を稼いでいるという疑惑に関する調査報告書を発表。ところが、その内容は「経営陣は不正を指示もしていないし、認識もしていなかった」というものだった。「現場に責任をなすりつけている」。社員たちの怒りの声にどう答えるのか。社長が単独インタビューに答えた。(共同通信=市川亨)

 ▽急成長の裏にはカラクリが

サンウェルズが運営する「PDハウス」の一つ=2024年8月、東京都内

 この企業は、パーキンソン病専門の有料老人ホームを各地で運営する「サンウェルズ」(本社・金沢市)。北海道から熊本県まで14都道府県で「PDハウス」という名前の老人ホームを約40カ所運営している。
 同社のように難病や末期がんの人を対象にした老人ホームは「ホスピス型住宅」などと呼ばれ、近年各地で急増している。高齢化で死者数が増えていることや、国が医療費抑制のため病院から早期の退院を促していることなどが背景にある。
 サンウェルズもここ数年で次々とホームを開設。高い利益率で急成長し、昨年7月に東証プライム上場を果たした。介護業界でも投資家の間でも注目株の会社だった。

 ところが、急成長の裏にはカラクリがあった。同社を含め、ホスピス型住宅の多くは入居者向けの訪問看護・介護ステーションを併設。家賃を安くして入居者を獲得し、その分、過剰な訪問看護・介護を提供したり、診療報酬などを不正請求したりして稼ぐ―というビジネスモデルが一部で横行しているとされる。

 ▽画面チェックだけでも「30分訪問」と記録

サンウェルズが設置した調査委員会の報告書

 サンウェルズの訪問看護を巡る不正・過剰な報酬請求は、昨年9月に共同通信が報道した。サンウェルズは当初「そうした事実は一切ない」と否定したが、その後、外部の弁護士らによる調査委員会を設置。2月7日に調査報告書が発表された。

 報告書の内容は、それまでの会社側の説明を覆すものだった。42カ所(調査時点)のホームのうち41カ所で不正請求を行っていたと認定。総額で約28億4700万円に上ると試算した。不正の手法は次のようなものだ。
 (1)入居者が眠っているのを看護師が数秒~2、3分で確認した場合や、睡眠状況のセンサーの画面を事務室で見ただけの場合でも、約30分訪問したように記録
 (2)実際には2人で訪問していないのに複数人で訪問したことにして、加算報酬を請求
 訪問時間を「約30分」と偽るのは、診療報酬を請求するには制度上、30分以上が原則と定められているからだ。

 報告書は、必要ないのに訪問する過剰な請求も広く行われていたと指摘した。一定以上の症状がある入居者を対象に毎日、1日3回複数人で訪問することが標準とされ、高い売り上げ目標が設定されていたので、その通り実施しなければならないとの認識が広まっていた、としている。

 ▽会社側の説明は「屁理屈」

「1日3回」「複数名での訪問」を「必須で入力」と記したサンウェルズの社内マニュアル

 報告書が認定した不正・過剰請求の実態は、共同通信の取材に社員たちが証言していた内容とほぼ同じだった。問題は、経営陣の関与についてだった。
 報告書はまず、経営陣が不正請求を指示した事実はなかったと認定。ただ、経営陣が定めた売り上げ目標は過剰な請求をしなければ、達成できない金額だった。その目標に基づき、訪問看護の診療報酬について入居者1人当たりの「合格ライン」(1カ月81万円)が現場に課されていた。

 さらに社内のマニュアルでは、訪問看護の計画書を作る際「1日3回、週7日訪問」と必須で記入するよう書かれていた。だが、それは「その欄を必須で記入する」という意味で、1日3回の訪問を強いる趣旨ではなかったのだという。それが現場で誤って受け止められ、広がっていったと報告書は説明している。
 この点について、PDハウスで働いていたある看護師は「すごい屁理屈」とあきれる。

 ▽「少なくとも目をつぶっていたはず」

 報告書によると、2022年以降には入居者や社員から、不正・過剰請求に関する内部通報が複数あり、社長にも届いていた。昨年6月には、同業他社の不正請求についての報道を受けて社内調査を実施。各地のPDハウスの訪問看護管理者14人にアンケートをした結果、半数の7人が不正を見聞きしたことがあると答えていた。
 それでも経営陣は「不正が横行している状況にはない」と認識していたのだという。

 冒頭の社員、小暮さんは「経営陣が知らなかった、なんてあり得ない」と憤る。「社長は現場訪問に来て、自ら売り上げ目標を説明していた。不正・過剰な請求をしなけばその金額は達成できないことは、多少でも訪問看護に関わっている人間ならすぐに分かる」と小暮さん。「少なくとも、会社が利益を上げるために都合の悪い話には目をつぶっていた、ということでしょう」と話した。

 ▽「反省している」と社長

共同通信のインタビューに答えるサンウェルズの苗代亮達社長=2月12日、東京都内

 こうした社員の声に会社はどう答えるのか。調査報告書が発表された5日後の2月12日、苗代亮達社長(51)に単独取材することができた。

 冒頭、苗代氏は今回の問題について「利用者やステークホルダーに大変申し訳なかった」と陳謝。経営陣の責任については、自身の役員報酬50%減額(6カ月)、専務と常務1人の取締役辞任(降格)という処分を発表しているが、「信頼回復に取り組んだ後、私自身の辞任も選択肢として改めて考える」と話した。

 不正への関与については、次のように答えた。
 「法令違反をしてまで利益を出そうという気持ちはなかった。パーキンソン病の人には1日3回複数人での訪問が必要だと思っていたので、それが可能な態勢をつくるように指示はしたが、『必ずそうしろ』という意味ではなかった」
 マニュアルの表記についても、不正や過剰請求の意図は否定。「私たちの思い込みや知識不足で『こうしなきゃいけないんだ』と現場に思わせてしまった。反省している」と繰り返した。

 一部メディアでは、苗代氏が昨年7月に株を売却したことから、インサイダー取引の疑いが指摘されている。それ以前から内部通報などで不正に気付いていたのではないか。そう問いただすと、「その時点では、(実際とは異なる記録をミスで行ってしまう)過誤請求が起きているという認識で、不正がまん延しているとは思わなかった」と疑惑を否定した。
 サンウェルズの株価は昨年8月には3千円を超えていたが、今回の問題で2月12日には500円を割り込んだ。東証プライム上場を維持できるのか。苗代氏は「今の状況では難しいかと思う」と述べ、中堅企業向け「スタンダード」への変更を検討する考えを示した。

 今後の経営については「これまでのような高い利益率は上げられないと思う」として、計画しているホームの開設ペースも見直す方針を明らかにした。
 厚生労働省は「不正が確認された場合には、厳正に対処する」としていて、苗代氏は不正・過剰に受け取った診療報酬は「行政当局の指示に従って返還する」と話した。

 ▽「今も入居者より診療報酬を優先」

サンウェルズが運営するPDハウスに勤務していた看護師。調査報告書に書かれた会社側の説明について「ウソがいくつもある」と話した

 会社が不正を認めた今、現場はどうなっているのか。首都圏のPDハウスで働く小暮さんは「別の形でおかしなことになっています」と話す。どういうことか。
 「法令違反にならないように訪問看護の報酬を取るため『とにかく30分、入居者の部屋にいろ』と言われます。入居者が眠っている場合、看護師がほぼ何もせず、黙って30分いるだけということもある」
 訪問看護の途中で、別の入居者のナースコールに対応するため短時間で切り上げた場合は、報酬を請求できない。そのため「これまでは転倒した入居者がナースコールを鳴らしたときは看護師が駆けつけていたが、介護士が対応することになった。転倒時の状態は看護師が見るべきなのに、入居者より報酬を取ることを優先している」。小暮さんはそう話した。

サンウェルズ本社=2月7日、金沢市

 訪問看護の診療報酬の仕組みが老人ホームに合っていないという問題もあるが、苗代社長はどう考えているのか。
 「法令を守った上で運営しようと取り組んでいるのだが、そういう問題が起きているのは事実。一方で、ナースコールに対応する人員を増やすと赤字になってしまうので、苦慮している状況だ」。そう釈明した。

 ▽取材後記
 診療報酬の不正・過剰請求をしたサンウェルズは、もちろん許されない。ただ、大手を含めた同業他社でも同じことをしているところが複数ある。その背景には、制度が実態に合っていないことや、行政のチェックが全く追いついていないことがある。「サンウェルズが悪い」だけで片付けてもいけない問題だと思う。

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