映画「バービー」の主人公の髪形を「キノコ雲」に加工したSNS画像が波紋を呼び、日米間の原爆に対する認識の違いが改めて浮き彫りになりました。底流に平和への思いが込められた作品でも、そもそも日米では視点が違うのです。映画史をひもとくと、そんなギャップを乗り越えた挑戦的な作品もありました。【相原斎】

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着せ替え人形を主人公にした「バービー」と、原爆開発者の半生を描いた「オッペンハイマー」が、くしくも米国で同時公開となったことが騒動のきっかけとなりました。注目作を「2本立て」で観賞する映画ファンが多く、バービーの髪形をキノコ雲に加工した画像などが次々にSNSに投稿されたのです。日本からすれば無神経な行為に映り、腹立たしい思いや悲しい思いをされた方も少なくないと思います。一方で、戦後間もない頃からキノコ雲のポップアートを当たり前のように目にしていた米国人にとっては、陥りやすい「画像加工」であったことも確かです。一連の投稿は日本からの批判を受けて削除され、配給元が謝罪する事態となりました。

「バービー」は、「レディ・バード」(17年)で高評価を得たグレタ・ガーウィグ監督がメガホンを取った意欲的な作品です。女性が主人公の「人形世界」からやってきたバービーの目を通し、いびつな男社会の現実を浮き彫りにしています。

クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」も、原爆開発者の苦悩を通して反戦反核の色濃い作品です。ロサンゼルス在住の千歳香奈子通信員によれば「若者向けの作品が多いサマーシーズンには似つかわしくない3時間超えの伝記映画にもかかわらず、異例のヒットになっています」。

本来良心的で質の高い2作品の公開日がたまたま重なったことで、日米の認識の違いが改めて浮き彫りになったのです。

「オッペンハイマー」には広島、長崎への原爆投下とその後の惨劇を描くシーンがありません。ノーラン監督の一種の配慮かもしれませんが、これが日米の視点の違いを端的に示しているように思います。

今村昌平監督(06年、79歳没)の「黒い雨」(89年)は、対照的に原爆投下後の放射性降下物(フォールアウト)が題材です。公開当時、主演した田中好子(11年、55歳没)にインタビューする機会がありました。

キャンディーズの解散で「スーちゃん」から女優に転身してちょうど10年。ほっそりとした外見に大きな瞳がよけいキラキラと目立ったことを覚えています。ロケ地岡山県の山村で半年間の「合宿撮影」を経て、体重はアイドル時代より8キロ落ちて「39キロになりました」と明かしました。

劇中、田中演じる娘は、被爆した一家3人の中でただ1人原爆症の兆候が表れません。しかし、数年後のある日、ふろ場で黒髪がごっそりと抜け落ちてしまいます。どこかあきらめたような薄笑いの演技が記憶に残りました。

「原爆が原因で、周囲がみんな死んでいく。1人で幸せになれない。むしろ、みんなの仲間になった方が…。そんな不思議な笑いなんですよね」

田中は主人公の気持ちをそんな風に解釈したそうです。両親は東京・足立区で釣具店を営んでいましたが、戦時中、海軍工廠(こうしょう)に徴用されていた父親には悲しい経験と複雑な思いがあったようです。

「撮影中の話をしたら、父が『これでお前にも一億玉砕の意味が少しは分かるだろう』って。確かに感じるところがありましたね」

スーちゃん時代のイメージが残っていたこともあって、しみじみとした思い出話は意外でもあり、日本に根差した原爆や戦争への思いを改めて実感しました。

戦勝国の米国で、反核の思いを伝えようとするなら、「オッペンハイマー」のような理性的な語り口が必要とされるのは想像に難くありません。対照的に、唯一の被爆国である日本の映画には、語り継がれる体験が感性として染み込んでいるのだと思います。

米中部のカンザスシティーを舞台に、米ソ核戦争勃発を想定した「ザ・デイ・アフター」(84年)では、核兵器の影響が科学的データに基づいて描かれています。「客観」に徹したニュース映像のようなカメラワークで、「30分以内にソ連のミサイルが飛来」という現実を受け止められない市民の表情が印象的でした。

対して、新藤兼人監督の「原爆の子」(52年)を始め、「はだしのゲン」(76年、中沢啓治原作、山田典吾監督)「父と暮らせば」(04年、井上ひさし原作、黒木和雄監督)などの作品には、ダイレクトに心を揺さぶられてきました。