こんなにわかりやすい物語はない
『成りあがり』の魅力ポイントとして、まず指摘したいのは、独特の「生々しい口述筆記体」の魅力である。
――成りあがり。大好きだね、この言葉。素晴らしいじゃないか(改行削除、以下同様)
本自体は、時代の寵児となる直前の糸井重里が、矢沢永吉に張り付いてインタビューしたものをまとめなのだが、通常のインタビューのように文章を整えることなく、上の引用のように、矢沢永吉がしゃべったそのままを文字にしている(ように感じさせる文体を採用している)のだ。
だから読んでいるうちに、まるで、自分の目の前にいる矢沢永吉がまくし立てているようなイメージが広がってくる。『成りあがり』の魅力は、まずこの文体にある。
続く魅力ポイントとして、書かれている内容が、「絵に描いたように分かりやすいブレイクストーリー」ということも大きい。
広島に生まれ、横浜でアマチュアバンドを組み、そして東京へ、全国へとのし上がっていく物語。もちろん多少の紆余曲折はあるものの、これほど分かりやすい一直線の物語はないだろう。なので読後感が痛快なのだ。
もちろんその背景には、矢沢永吉青年の猛烈な行動力があるのだが、加えて、「いい音楽を追求したい」という観念論よりも、まずは「売れたい」「ビッグになりたい」という具体論が先立つのが、また痛快。
「十メートル先のタバコ屋にもキャデラックで行って、ハイライト一個を買えるぐらいの男になりたい」(『アー・ユー・ハッピー?』)という、矢沢永吉の有名な発言には、当時も今も心が熱くなる。