「虹波」治験対象者のカルテ調査に着手 菊池恵楓園、死亡との因果など真相解明目指す
太平洋戦争中に旧陸軍が開発を進め、国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(合志市)の入所者らに投与されて死亡例も出た薬剤「虹波」について、菊池恵楓園が園内に残る治験対象者のカルテ調査に着手したことが20日、分かった。境恵祐園長が熊本日日新聞の取材に答えた。死亡との因果関係や投与時の状況などの真相解明を目指す。
昨年6月に恵楓園が公表した検証作業の中間報告書によると、治験は1942年~47年に実施された。治験者と判明した472人と投与の可能性がある370人の計842人分のカルテを調べる。必要に応じ、当時の入所者1千人以上のカルテにも当たる。
これまでの資料整理の過程で、治験者には通常のカルテとは別に、虹波の投与に関する記述に絞ったカルテも見つかった。何人分があるかは把握できていないが、破損を防ぐためにデジタル化を進めており、検証作業に使う。
調査は恵楓園の医師らが担当する。錠剤や注射といった投与方法、効果判定の時期や投与中止の状況、副作用の有無を調べることを想定している。投与時、薬に関する患者への説明があったかどうかも確認する方針。虹波に絞ったカルテがない人については診療録を活用する。
菊池恵楓園入所者自治会は、国に虹波投与の真相究明を求めている。昨年11月の閣議後会見で、福岡資麿厚生労働相はカルテの分析など検証作業を支援する考えを示していた。園側は課題として人員や費用、法的な問題を挙げていた。
境園長は「調査終了の時期は未定だが、入所者は高齢となっているので、なるべく早く進めたい」と話している。(豊田宏美)
●虹波 写真の感光剤を合成した薬剤で、寒冷地での兵士の凍傷対策など肉体強化のほか、ハンセン病や結核の治療を目的に旧陸軍が研究を進めた。菊池恵楓園による検証作業の中間報告によると、治験には当時の入所者の約3分の1が参加した。1942年に始まった最初の治験では81・9%がハンセン病の治療に「有効」とされたが、翌年には2・8%に急落。副作用が相次ぎ、死亡例も出た。
■「患者の人権関連、特に明らかに」 境恵祐園長に聞く
国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園の入所者らに投与された薬剤「虹波」につて、治験者のカルテ調査を通じて明らかにしたい内容や課題を境恵祐園長に聞いた。(豊田宏美)
-どこに注目して調査を進めますか。
「2024年6月に園が出した中間報告では、当時の宮崎松記園長ら研究者がまとめた治験の結果を記載した。ただ、投与の際に医師が虹波について患者に説明したのかなど分かっていないことが多い。投与時にどれほど強制性があったのか、副作用にどう対処したのかといった患者の人権に関することを特に明らかにしたい」
-中間報告では、人権や医学倫理をないがしろにした実態が指摘されました。
「現代の医療の中にいる私たちから見たら問題があっても、戦時中でハンセン病の治療薬がなかった当時は当たり前に行われて悪いと思われなかったことも起こっているかもしれない。当時の入所者の中で、投与を受けた人と受けなかった人の差が何だったのかも気になる。治験中に9人が死亡し、うち2人は虹波との関係が疑われているが、カルテを詳しく調べて因果関係を明らかにしたい」
-調査の費用や体制、課題を教えてください。
「カルテのデジタル化には数百万円かかる見込み。データができ次第、職員で調査を始め、医師によるダブルチェックも必要だ。カルテの保存期間は通常5年だが、園に残るカルテは80年以上前のもの。現在は保存に関して園に委ねられている。カルテを歴史資料として扱えるように保存についての法整備が必要と考える」
-調査と個人情報保護の両立をどうしますか。
「カルテの保存期限が切れた人や亡くなった人のカルテの扱いを検討しているが、入所者や外部委員を交えた人権擁護に関する委員会で、亡くなった人のカルテであれば守秘義務を課した上での閲覧は問題ないとなった。調査には歴史資料館の学芸員も加えて、なるべく早く作業を進めたい」
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