繰り返し拡散する「女性にAED使用で訴えられる」 警察や弁護士の解説による正しい知識で救命を
電気ショックが1分遅れると救命率は10%低下
警察庁は把握しておらず、AEDに詳しい弁護士も裁判事例を知らない。つまり、実際に被害届が出たり、裁判になったりした事例はほぼないであろうということがわかります。 ほぼありえないリスクを考えて、女性へのAED使用をためらうと何が起こるのか。日本AED財団によると、電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下します。 2025年1月24日付の総務省・消防庁の報道資料(p7)によれば、2023年中に一般市民が目撃した、心臓の原因で呼吸や心臓の動きが止まった人(心原性心肺機能停止傷病者)の数は2万8354 人で、AEDを含む心肺蘇生を実施した場合としなかった場合を比べると、実施した場合、1か月後生存者数が約2.0倍、1か月後社会復帰者数が約2.9倍でした。 また、熊本大学等の研究グループによる2023年の論文では、年齢や性別によって救命処置の受けやすさに違いがあることが示されています。調査対象になったのは心停止した 35万人以上で、平均年齢は 78歳、約4割が女性でした。AEDを使ってもらえた割合は、男性が 3.2%、女性が 1.5% で、男性の方が明らかに高く、特に若い女性は、同年代の男性と比べてAEDや心肺蘇生を受けにくいことが分かりました。 救命処置を受けた場合は、若い女性の方が同年代の男性より神経学的予後が良いので、若い女性にも迅速に適切な救命処置を行うことが重要と示唆されています。 実際にスポーツ大会で倒れた女性へのAED使用を駆けつけた男性がためらったことから、脳に重い障害が残った事例をNHKが報じています(NHK LIFE CHAT「女性にAEDためらわないで!」)。
あとがき
「〇〇は無い」と示すには、あらゆる可能性を調べなければなりません。これは非常に難易度が高い検証で、俗に「悪魔の証明」とも呼ばれます。JFCでも、そのために検証を断念した事例が数多くあります。 しかし、女性へのAED使用をためらわせる情報が拡散することは、女性の救命率に関わり、非常に重大な問題です。小林弁護士が言うように「理論上リスクはゼロではない」としても、可能性は非常に低く、「訴えた側が勝つのが非常に難しい」ことを知ってほしいと思います。 必要があれば、相手が女性であっても、ためらわずAEDを使いましょう。 JFCでは過去にも2度、女性に対するAED使用に関するファクトチェック記事を公開し、それぞれ「誤り」、「不正確」と判定しています。 消防署が女性へのAED使用に配慮を呼びかけ?【ファクトチェック】 ブラジャーをつけたままのAED使用は金具で火傷?「可能性は極めて低い」【ファクトチェック】(いずれも関連記事でご覧ください) JFCでは引き続きこのテーマの検証を続けていきます。信頼に足る新たな情報やデータが得られ次第、続報を公開していきます。 検証:リサーチチーム 編集:古田大輔、藤森かもめ、宮本聖二 判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。