原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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五九話:五キロの悪意、一〇センチの善意

 

 

「取引、じゃと? 天命機関の熾天使(セラフィム)である其方が、六界列強(グレートシックス)・第二位たるこの朕に? ……本気か?」

「本気も本気っすよ。ルーアハさんなら既に知ってるっすよね? 自分はまだ見えないその女が死ぬ事以外に興味は無いんすよ」

 

 ジェンマは不遜にも、天上の神に向かって言い切った。

 お前に興味はない、と。

 

「ヤツが生き返るくらいなら、第一位が世界を滅ぼす方がマシってもんすよ」

「それで、折手メアを殺す手伝いをしろじゃと?」

「そうっす。別に悪い話じゃないっすよね? ルーアハさんの計画を邪魔するつもりはないですし、元々六界列強(グレートシックス)は補充するつもりだった。マイナスのない取引っす」

「そうじゃのう。──じゃが、其方の口車に乗るというのが気に食わんのう」

 

 ニタリ、と表情に悪意を滲ませてルーアハは口角を歪める。

 

「其方は対価に何を差し出す? この朕の力を借りるのじゃ、それ相応のものを貰わねばならんのう」

「それは勿論、取引っすからね。ルーアハさんに助言(アドバイス)をあげるっすよ」

「カカッ、その程度の対価で朕が動くとでも──」

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 心理を手繰る異端の天使は、神さえも手玉に取って笑った。

 

 


 

 

「ひとまず、これで安心かな」

「当店はご期待に添えましたでしょうか、お客様?」

「ああ……助かったよ、春夏冬(あきない)

 

 何とか見つけた〈商印堂(ショーウィンドウ)〉にて、九相霧黎はディートリンデを安静に寝かしつけた。

 ディートリンデを治療するための道具と、安眠できる寝具(ベッド)。それらは九相霧黎が身を切って支払った。

 

「しかし、良かったのですか? コピーした異能を売り払ってしまって」

「大丈夫だよ。売ったのは《石化魔眼》と《暴食魔剣》、それに僅かに残った第三位の異能だけ。全部、ぼくが扱えないものだ。戦闘に必要なものは残してあるよ」

 

 とは言いつつも、状況はかなり厳しい。

 今の九相霧黎に残っている異能はたった二つ。《禁呪魔法》と《魔界侵蝕》だけ。

 《勾留・魂魄呪縛》のせいで《境壊(ボーダーブレイカー)》は封じられ、異能を増やす事は不可能となった。

 

 武装も心許ない。

 ブレンダから奪った《神殺の槍(ロンギヌス)》は消失し、切断された右手を治す事もできない。

 残ったのは、彼女から学び盗んだ武術の腕だけ。

 

 

「──いや、待て」

 

 

 ふと、気づく。

 彼が保有する、もう一つの力。

 

(ぼくは第四摂理への接続権を保有しているが、正当権利者たる栗栖椎菜が亡くなった今、この力はどうなっているんだ? 第五摂理のように破綻しているのか、それとも──)

「……春夏冬(あきない)。訊きたいのだけれど、こんな事ってできるのかな?」

 

 三瀬春夏冬(みせあきない)は九相霧黎の言葉に耳を傾けた。

 数十秒間の説明。そして、彼はゆっくりと頷く。

 

「可能でごさいます。しかし、それはお客様にとって──」

「──()()()()()()()()()()()

 

 だけど、と。

 少年は手を強く握りしめる。

 

「第一希望は……ぼくの、わがままなんだ。彼女の『しあわせ』を考えるなら、安易な第二希望に飛びついた方が合理的さ」

「…………お客様が、それを望むのでしたら」

「勿論、第一希望を諦めたわけじゃない。限界ギリギリまで第一希望を狙いつつ、念のために第二希望を用意しておく。きっと、これが最善だ」

 

 心の中で悪態をつく。

 これが最善だ、なんて。そう簡単に割り切れる筈がない。

 だって、霧黎はディートリンデのことが好きなのだ。きっかけなんて分からない。理由なんてどうでもいい。彼女が元々は男だったなんて知ったことか。

 

 生まれて初めて、人を好きになった。

 助けるべきだから、じゃなくて。

 助けたいから、そう思えた。

 

 だから、捨てる。

 第一希望を──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 第二希望に全てを託す。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そのためには──」

 

 そう、策を巡らそうとして。

 

 

 ゾワッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 九相霧黎さえも震えるような、そんな神威を知覚する。

 

 

「…………悪いけれど、ディートリンデを預かっておいてくれないかな。後払いってできる?」

「必要ございません。当店は『ディートリンデ様の安眠』を販売いたしました。一時的なお預かりも商品の内に含まれております」

「ありがとう。できるだけ、すぐ済ませるからさ」

 

 カランカラン、と〈商印堂(ショーウィンドウ)〉の扉を開ける。

 その先に見えたのは、五キロ先にある地平線の彼方まで続く平面の大地と──

 

 

「容態はいかがかね?」

「残念だけど面会謝絶だ。帰ってもらおうか」

 

 

 ──一柱(ひとり)の神。

 六界列強(グレートシックス)・第二位、ルーアハ。

 

「カカッ、ちょっとした冗談じゃろうが。そう邪険にするでない」

「……あまり余裕がなくてね。彼女に何の用かな?」

 

 九相霧黎は睨み付けるように目を離さない。

 いや、目を()()()()

 一挙一動、何が相手の癪に触るか分からない。ほんの一秒後に自分が死んでいても不思議ではない。

 

「過保護じゃのう。じゃが、心配するな。此度に用があるのは其方じゃよ、九相霧黎」

「ぼくに……?」

 

 ピシッとルーアハの人差し指が霧黎を差す。

 その指すらも、霧黎にとっては恐ろしい。

 

「ディートリンデから聞いておるかもしれんが、朕の目的は第一位の転生じゃ。〈列強選定(キングセレクター)〉も、転生者同士の戦闘を誘発して世界を歪め、彼女を呼び寄せる事が狙いじゃのう」

「……それとぼくに、何の関係がある」

「そう急くでない。……本来ならば、もう既に第一位の幻影が見え始めても可笑しくない段階じゃ。七年前はそうであった」

「………………」

「じゃが、何も起こらない。計画に支障が出ておるということじゃのう。世界の異界化を妨げる因子……其方は何だと推測する?」

「《現実世界(ノンフィクション)》」

 

 即答だった。

 九相霧黎は即座に、六道伊吹の世界観を口にした。

 

「やっぱり、ぼくは関係がない。あなたが六道伊吹を殺せば、それで終わる話だろう?」

「そうじゃの。朕もそう考え、ヤツを殺す計画を立てた。ヤツさえ死ねば、計画は元の軌道に乗る。……()()()()()()()()()()()

「……思って、いた…………?」

 

 雲行きが、怪しくなってきた。

 それに続く言葉を九相霧黎は予想できなかった。

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()

「……ッ⁉︎」

 

 

 思わず、霧黎は息を呑み込んだ。

 ありえるはずのない名前を耳にした。

 六界列強(グレートシックス)が、天命機関の天使の助言(アドバイス)を真に受けるなど──⁉︎

 

「たった一人の世界観で、これほど大規模な異界化を妨げられるとは思えない。もう一人、別に《現実世界(ノンフィクション)》の保有者がいるのではないか、とのう」

「は?」

「ヤツの《現実世界(ノンフィクション)》は現世からの転生者という特殊な事例においてしか発生しない。じゃが、他にもいたではないか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「おい、待てっ、待ってくれッ‼︎」

()()()()()()()()()()()、《現実世界(・・・・)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 そんな訳があるか‼︎ と。

 九相霧黎はそう叫びたかった。

 

 実際の現世と六道伊吹の思い描く《現実世界(ノンフィクション)》は異なるように、現世に馴染んだ所で《現実世界(ノンフィクション)》が得られる訳じゃない。

 元から歪んだ世界に馴染んで、歪みを是正する世界観を獲得できる筈がない。

 

(ルーアハもジェンマもッ、どうしてそんな簡単なことが──ッ)

 

 ()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(…………あの女ッ‼︎ ()()()()ッ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ⁉︎)

 

 

 強さだけで界位(グレード)が決まる転生者とは違って、人間社会は強さだけでは偉さは決まらない。

 人望、功績、信頼。全てが揃って初めて、人の上に立つ事ができる。

 

 復讐のためなら何だってやる? 馬鹿か!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎

 

 熾天使は悪意に染まらない。

 彼女達を突き動かすのは、いつだって世界をより良くしたいという善意だ。

 

(……騙されていた。疑問に思うことすらできなかった)

 

 恐らく、最初は九相霧黎を操ってルーアハか第三位にぶつける予定だったのだろう。

 だが、途中で逸れたことで目標を切り替えた。ルーアハを操って、九相霧黎にぶつける。両者共に消耗させ、六道伊吹の手助けをする事が狙いだった。

 

「待て! ルーアハッ、あなたは騙されている‼︎」

「……ふむ、朕が間違っていると?」

「そうだよ! 大間違いだ‼︎ これはきっとジェンマの策略だ! ぼくとあなたを共倒れにさせることが彼女の──」

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()?」

「………………え?」

 

 

 神威が増した。

 それは物理的な圧力となり、九相霧黎を後退りさせる。

 

(カミ)に意見するのだ。それ相応の対価の供えなければなるまい」

「そ、んな、馬鹿な話がっ、あるか! ジェンマを連れて来い‼︎ ぼくが直接ッ、彼女から聞き出して──」

()()()()()()()()()()()()()()?」

「……あ?」

 

 びちゃ、と。

 一辺一〇センチ程度の立方体が落ちてきた。

 その表面はまるでブロック肉のようで、生々しい血が今なお垂れ流されている。

 

「なに、が」

「連れてきたぞ」

「…………?」

「分からんか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()

「………………………………は?」

 

 意味が、分からなかった。

 理解が及ばない。記憶の中の女性と、目の前のブロック肉が繋がらない。

 

「そう疑問に思う事ではない。朕も天使の言うことなど信じられなかったのじゃ。()()()()()()()()()

「…………………………、」

「彼女は最期まで一貫した意思を持っておったぞ。肉体がコンパクトに圧縮(プレス)されるのを見せられているにも関わらず、自分の復讐のために九相霧黎を殺せと叫んでおったのう」

 

 あまりの(おぞ)ましさに鳥肌が立った。

 容易く人間の体を一〇センチの立方体に圧縮するルーアハに対して、ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「其方の選べる道は二つじゃ。自己の潔白を証明するため朕に命を捧げるか、諦めて隠していた力を見せるか。どちらでも良いが、はよ選ばんと強制的に命を捧げて貰うぞ?」

「なんで、どうして⁉︎ あとちょっとでっ、彼女は『しあわせ』になれるっていうのに‼︎」

「心配せんでも、後ろの〈商印堂(ショーウィンドウ)〉を狙ってディートリンデを殺すつもりは無いから安心していいんじゃぞ。──まぁ、わざわざ当たらんように気を配るつもりもないがのう」

「やるしかッ、ないのか⁉︎」

 

 九相霧黎は覚悟を決めて拳を握る。

 だけど、その手は震えていた。

 

 ほとんど全ての異能を失った九相霧黎に対し、相手は世界全てを掌握する全知全能の神。

 圧倒的な戦力差、絶対的な神威を前に足がすくむ。

 

 

世界新生(reverse)───《創世神話(クリエイションミス)》」

 

 

 直後、世界全てが雄叫びをあげた。

 

 


 

 

 

 

 

「生存者リスト」

 

▽天命機関

ブレンダ

ジェンマ

ロドリゴ

レオンハルト

ファウスト

etc

 

▽転生者

六道伊吹

アドレイド・アブソリュート

二神双葉

三瀬春夏冬

九相霧黎

ディートリンデ

フラン=シェリー・サンクチュアリ

ルーアハ

 

▽一般人

栗栖椎菜

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