3はないはず……
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎」
手が震える。
叫ばずにはいられない。
「誰もッ、救えなかった……‼︎ 俺だけが生き残った!」
サササッチを含む二万人のクローン。
彼女達の命はこの手から零れ落ちた。
それなのに、また俺は七年前に移動して攻撃を免れている。
「……申し訳ないけれど、涙を流してうずくまっている暇はないわよぉ?」
「なに、を……?」
いつも通り、突然現れた亡霊クリスはある場所を指差した。
「
そこにいたのは
白いスーツは血に汚れ、白い髪は泥と煤でくすみ、それでも彼の瞳は揺るぎがない。
そして、彼を囲んでいるのは──
『フハハハハハッ、残念であったなァ? 既にクリスとやらの肉体は我のものである‼︎』
『恋人の体を好き勝手にされるとか、流石のオレサマでも同情するぜ』
『カカカッ、若いもんは元気じゃのう』
『まあ、キミにはそこが限界さ。前日譚の
──
恐らく、アダマスを傷付けたのはクリスに憑依したディートリヒだろう。
ヤツの手にはアダマスから奪った《
そこで気がつく。四人だけじゃない。
周囲には見覚えのあるドローンが飛んでいた。
この場にはいなくても、恐らく第三位は遠隔で異能を飛ばしている。
「なん、だ……アレ⁉︎」
「………………」
ぼやあ、と人の形が浮かび上がる。
画用紙に絵の具が染み渡るみたいに。
火炙りで文字が浮かび上がるみたいに。
じわじわと、ぼやけた人影が確かな像を作る。
それはただの童女だった。
オーロラを閉じ込めたような特徴的な髪色、眠っているのか瞳は閉じられている。
だけど、それだけ。髪色が特殊なだけの、ありふれた女の子。
「彼女こそが
「…………まさ、か」
視線の先で、アダマスは叫んだ。
『──
〈
四人の
第一位、アリス・アウターランド。
第二位、ルーアハ。
第三位、フラン=シェリー・サンクチュアリ。
第四位、ディートリヒ・フォン・エルケーニッヒ。
第五位、クシャナ。
番外位、折手メア。
第六位を除く全ての
それこそが、〈
『気づいているかのう、第一位という絶対的存在が齎した影響に。不思議には思わなかったのかのう? 異能という存在は明らかに不自然じゃろうて』
『……普通は思わない。転生も、前世の記憶も存在する世界だ。何だってありだ』
『転生、輪廻、それはどの世界にも存在する共通ルールじゃ。魂ものう。そして、魂が超次元情報連続体である限り、前世の記憶も思い出すのもそうおかしい事ではあるまい』
『………………』
『じゃが、異能はどうじゃ? 前世の記憶を思い出せば、前世のルールを現世に強制できる。……いささか理論が飛躍してはないかのう?』
つまり、と。
アダマスにとっては既知の事柄を、俺に教えるために彼は問答に応えた。
『
『御名答じゃよ。異能も、
そう、なんて事はない。
転生者が異物だったのではない。
元からこの世界の方が歪められていた。
転生者が特別なんじゃない。
林檎が地面に落ちるように、火が油を燃料に燃え上がるように。
転生者もまた、第一摂理というルールに従って異能を手に入れていただけのこと。
『じゃが、此処で疑問には思わんか? 朕らは第一摂理の影響で、前世の能力──異能を手に入れた。ならば、第一位は?
『………………』
『即ちッ、彼女だけが
異能を現世のルールから外れた力と定義するのならば、この世界に異能者はたった一人だけ。
転生者の持つ異能も、
しかし、たった一人。
アリス・アウターランドのみが現世のルールを否定して、独自の摂理をこの世界に押し付けた。
『凄まじいとは思わんか?
「────は?」
思わず、耳を疑った。
聞き間違いかと思った。
そんな俺を察してか、アダマスは補足するように話を広げる。
『……因果律ビッグバン理論か。世界五分前仮説も真っ青だな』
『それを言うのなら
「…………………………ぁ」
それは、まさしくビッグバン。
アリス・アウターランドの転生という
過去と未来、因と果、なんて関係なかった。アリス・アウターランドが唯一の“因”となり、その他全ては“果”にならざるを得なかった。始まりを奪い取られ、終わりを押し付けられた。
神話も、文明も、闘争も、歴史も、努力も、何もかも。あらゆるものをアリス・アウターランドに取り上げられた。人類が積み上げてきたものは何一つ残らず、あらゆる存在は彼女の齎す終末を待つだけの愚物に成り下がった。
全てのものは彼女から与えられたおこぼれに過ぎない。転生者を殺したからなんだ、
『彼女の影響で世界が歪められた。簡単に言えば、世界規模の異界化現象こそが第一摂理の本質なのじゃろう。逆に言えば、こうも言えるのではないかのう?
『……転生者をこの街に集めたのも、その為か?』
『そうじゃ。現に今、彼女の幻影が見えている。これは強すぎる未来からの圧力に我々が彼女の像を錯覚しているだけじゃが、あと少しの辛抱で彼女は「覚醒」するじゃろう』
俺たちが太陽自体を直視できずとも、その圧倒的な光量から太陽の位置を把握できるのと同じ。
転生者でなくとも感じる圧倒的な異能反応に、第一位という存在を幻視しているのだ。
『それがお前の目的か。転生者を集め、世界を歪ませ、アリス・アウターランドを転生させる。……そんなことの為に』
『そんな事とは何じゃ。朕は彼女を一眼見たい。たとえその瞬間に世界が終わるのだとしても、絶対的な力を持つアリス・アウターランドに逢いたい』
『……だが、何故だ? 彼女の転生は確定している。お前の寿命ならいつか会える。私達が行っているのは世界の延命に過ぎないというのに、わざわざ天命機関の妨害をする理由は?』
『
本当に、ただそれだけの理由で。
ルーアハは世界を滅ぼす。
きっと、
思い出せば、ディートリヒは第一位との戦いに備えていた。意思は統一できていない。
恐らく、それぞれの利害の一致があり、今こうして揃っている。
『こう長々と話した理由は一つじゃ。朕は其方を気に入っている。どうじゃ、共に神の降臨を待たんかのう?』
『断る。私にとって、神は唯一。他の神を信仰するつもりはない』
『……良いのか? その返答の結果は視えているじゃろうに』
すると、アダマスは不敵に笑った。
一切の穢れなき白、刃毀れのない剣のような鋭い目付きで。
『──
第五位、クシャナ。
その一瞬で、宇宙全ての時間が停止する。
第四位、ディートリヒ・フォン・エルケーニッヒ。
太陽を剣の形に凝縮したような一振りが、世界の全てを熔断する。
第三位、フラン=シェリー・サンクチュアリ。
二一グラムの僅かな質量しかない爆弾が一切の
第二位、ルーアハ。
地面が、空気が、海が、雲が、植物が、世界の全てがアダマスに牙を剥く。
番外位、折手メア。
何が起こるか分からないが、彼女の手によって現実は好き勝手に書き換えられる。
一撃でも喰らえば絶死。
一方で、避ける事のできない超広範囲攻撃。
思わず、俺は目を背けた。
この後の結末なんて、未来を視ることのできない俺でも分かる。
異能の一つも持っていないアダマスが、異能を極めたヤツらの集団リンチに勝てるわけがない。
そして、目の瞑った暗闇の中で──
────
「────は?」
『言っただろう、歴代最強の天使と。あまり私をナメるんじゃない』
カツンカツン、と軽々しく足の音が響く。
五人の
『伊吹、君にヤツらの攻略法を教えよう。未来での参考にしなさい』
……唖然として、俺は声も出せなかった。
歴代最強……そう、聞いてはいた。だが、ここまでなのか⁉︎ ただの人間は、極めれば一秒をかけずに
『第五位、クシャナ。ループ能力はこの中で一番厄介だ。しかし、昏睡させればループは使えない。そして、転生者が次回に引き継ぐ記憶は死亡時点で記憶に残っている事だけ。今この瞬間に記憶細胞を物理的に破壊し、この時間軸における初見プレイを強制させ、擬似的に詰みループを作り上げれば問題はない。それでもトドメを刺せないのが厄介だが』
アダマスはクシャナの頭を蹴り飛ばし、その後に素手で心臓を握りつぶした。
『第四位、ディートリヒ・フォン・エルケーニッヒ。《
ディートリヒの姿はいつの間にかクリスに戻っていた。
アダマスは彼女を元に戻すのを諦めていないのか、クリスの身体は意識のないまま放置していた。
『第三位、フラン=シェリー・サンクチュアリ。こちらからは干渉できない超遠距離異能行使が厄介だ。しかし、全ての異能が
念入りに、アダマスは第三位のドローンを踏み潰した。
『第二位、ルーアハ。倒したように見えただろうが、コイツはただの土塊。遠隔操作された泥人形に過ぎない。
凄く重要な事をさらっと言わなかったか、この人⁉︎
覗き込むと、確かに第二位の
俺がヤツを《
『番外位、折手メア。彼女は──』
少し、迷って。
アダマスは俺に目を合わせて言った。
『──
咄嗟に、俺は折手メアを見た。
彼女は倒れ伏したままだった。
その攻撃と、彼女は何の関係もなかった。
だけど、直感的にこれが折手メアの仕業なのだと理解した。
そして、彼女は。
最悪の魔女、折手メアは伏したまま小さく呟いた。
『あーあ、つまんねーな。過去編は……』
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
二神双葉
三瀬春夏冬
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
▽一般人
栗栖椎菜
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