原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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五五話:それでもソラへ手を伸ばすなら

 

 

「逃げるぞ!」

不可能(Impossible)当機(わたし)は……きゃっ⁉︎」

 

 ごちゃごちゃとうるさいピンク髪の女の子を抱えて、俺は第三位のクローン達から逃げ出した。

 

不可能(Impossible)。『我々から逃げられると思うのか? 憐れな脳味噌だな、原住民(Native)』」「不可能(Impossible)。『たった一人の劣化品(Dead Copy)も殺せないのに、我々に勝てる訳が無いだろう』」

不可能(Impossible)。速やかに当機(わたし)を見捨て、一人で逃げる事を推奨します」

「うるっっっっせぇぇえええええええええ‼︎」

 

 不可能、不可能、うるせぇな……‼︎

 抑揚のない声が癇に障る。

 

 後方から迫る攻撃はもはや原理も効果も理解できなかった。

 ただただマズイとだけ分かる。すぐにコイツらを振り切らなくてはならない。

 

「死に晒せ! 《破界(ワールドブレイカー)》、“弾丸(ブレット)”フォームッ‼︎」

 

 《破邪の剣(アスカロン)》で手首を切る。

 勢い良く血が吹き出し、クローン達に降りかかる。

 第三位が俺の異能の情報を集めたって言うのなら知っているはずだ。俺の血液に触れても、接触条件は満たされると。

 

 もちろん、ハッタリだ。

 こんな所で無駄遣いできるほど俺の異能の残弾は潤沢ではない。

 だが、クローン達は《3303DC01:デッドコピー》という異能の産物。たとえハッタリだと気づけても、触れたら自身が消滅する可能性のある液体の中に突っ込める訳がない。

 

 

「────『無駄だ』」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……『我々には代替品(Alternative)がある。死んだっていくらでも代わりがいる』」「『故に、死を恐れる必要はない。浅はかだったな』」

 

 …………は?

 頭が沸騰した。

 クローンなんて正直どうでもいい。

 だけど、その言葉だけは許容できなかった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()‼︎ ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 死を恐れる必要がない、だって?

 巫山戯んなッ、クソ野郎が!

 自分の命を賭けてから言いやがれッ‼︎

 

「ムカつくぜ……‼︎ 人を殺しながら命を賭ける度胸もないクソ野郎とッ、()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎」

「──────」

 

 ほんの一瞬、追手が止まった気がした。

 だが、その程度で距離は変わらない。

 もう間も無く、俺は追い付かれる。

 

 そんな時、耳元で声がした。

 ……小さく、か細い、抑揚のない無機質な音。それでも確かに、こちらを心配している事が分かる暖かい声が。

 

 

「…………やむなし(Unavoidable)当機(わたし)が何とか致しましょう」

「は?」

 

 

 フラン=シェリー・サンクチュアリのクローンの一人。

 俺が背負っている彼女は手を翳してこう呟いた。

 

発動(Active)、《1847UF96:テレポートポッド》」

 

 突如、エレベータのような謎の箱が出現する。

 悩む暇もなく、俺は箱の中へ飛び込んだ。

 

「『……何を考えている、劣化品(Dead Copy)。我々の──(わたし)命令(Order)に背くつもりか?』」

不明(Error)当機(わたし)は何をしているのでしょうか」

「『チッ、欠陥品(Lemon)か』」

 

 追手たちが伸ばす手は届かない。

 閉まる扉の隙間で、二人のクローンは会話を交わす。

 

疑問(Question)、どうして逃げるのですか? 逃げられない事は分かりきっているでしょう」

「──それでも(However)、逃がしたいと……そう思ったのです」

 

 パタン、と。

 次の瞬間、転移装置の扉は閉じた。

 

 


 

 

「逃げられた、のか?」

否定(No)、《1847UF96:テレポートポッド》の渡航距離は二七〇メートル。加えて(Additionally)、追手も同様の異能を保持しています。即ち(Namely)、此処はまだ我々の包囲網の中でございます」

 

 淡々とした口調で、少女は事実を述べる。

 その表情から感情を読み取ることはできない。

 

「そう、か。でも、一時撤退できただけでも助かった。ありがとう、………………あー、お前のことはなんて呼べばいい?」

不要(Unnecessary)当機(わたし)に固有名称はございません。強いて言うならば、《3303DC01:デッドコピー》製造番号(Serial Number)三三三一号です」

 

 三三三一(さんさんさんいち)か……。

 七七三とかだったらナナミとか呼べたんだけど、三三三一って名前にしづらいな。まぁ、本人も不要って言ってるしテキトーな名前でいいか。

 

「了解、じゃあサササッチって呼ぶわ」

「…………動揺(Error)、余りにも捻りのない名付け(Naming)ではありませんか?」

「何でもいいんだろ? 文句言ってんじゃねぇよ」

 

 サササッチ(仮称)は無表情(デフォルト)を崩すことなく、困惑した声を出す。

 

「そんじゃあ本題に入ろうぜ、サササ」

驚愕(Surprised)、まさか名前はそれで確定でございますか? しかも省略するしてももっと良いあだ名(Nickname)は無かったのですか?」

「うるせえうるせえ、じゃあサッチな。……聞きたいんだけど、あのクソ野郎が言った事って本当なのか?」

 

 どうしても、信じたくなかった。

 フラン=シェリー・サンクチュアリが十四光年先に──俺の手の届かない場所にいるなんて。

 だけど、サササッチは淡々とした言葉で俺の希望を切り捨てる。

 

回答(Answer)、事実です。彼女は確かに十四光年先に存在し、太陽系という枠組みから外れた位置から当機(わたし)達を見下ろしています」

「…………そうか」

補足(Supplement)。十四光年先から当機(わたし)を送り込んだ以上、その距離を移動可能な異能が存在すると思われます。しかし(But)当機(わたし)にはその異能の使い方が分かりません。故に、辿り着くことは不可能だと推測します」

「………………」

 

 第三位の異能をコピーしたばかりの九相霧黎がそれを使い熟せなかったように、最低限の異能の説明しか受けていないサササッチもまた異能全体におけるごく一部の道具(アイテム)しか使う事ができない。

 

「……なら、お前はどうしろって言いたいんだ? このままコソコソ隠れて自分を逃がせとでも?」

否定(No)当機(わたし)を連れて逃す事は不可能です。()()()通信網(Network)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ネットワーク……⁉︎」

通信網(Network)、要するに転生者掲示板の簡易版のようなものと言えばお分かりでございますか?」

 

 転生者だけが使える掲示板……聞いた事はある。

 あいにくと、俺は招待されていないが。

 

推測(Guess)、既に当機(わたし)の位置座標は本体(Original)に特定されています。この会話も盗聴されています。彼女こそが連絡網(Network)管理者(Host)であるため、それを阻止する事は不可能でございます」

「……そうかよ」

一方(But)、辺り一帯には通信妨害(Jamming)用電波が撒き散らされています。当機(わたし)達以外の通信は不可能(Impossible)であり、援軍を呼ぶことは困難(Hard)であると予測します」

「結局、何が言いたい」

 

 その時、初めてサササッチの無表情(デフォルト)が目に見えて大きく崩れた。

 ほんの僅かに、それでも確かに彼女の口角が動く。サササッチは微笑んだのだ。

 

 

結論(Conclusion)()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 …………は、と声にならない息を吐く。

 だって、その行動が意味するのは……。

 

「……死にたいのか?」

否定(No)、……ですがこの方法以外に貴君(あなた)が生き残る道はございません」

「………………」

疑問(Question)、なぜ悩んでいるのですか? 当機(わたし)貴君(あなた)の敵でございます。敵が勝手に死んでくれるのですから迷う必要などないでしょう」

「お前は、それでいいのか……?」

肯定(Yes)当機(わたし)が死んでも我々が生きている限り変わりはありません。当機(わたし)は人形のようなものです。一人しかいない貴君(あなた)の命と、二万も代わりのある当機(わたし)の命では比べ物にならない価値の差がござ────」

 

 

 ──()()‼︎ ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「………………ぁ、え?」

巫山戯(ふざけ)んな、馬鹿にしてんのか?」

「なに、を……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

「──────」

 

 そうだ、忘れるな。

 俺は異能の反応を覚えている。

 ロドリゴを殺したのは、コイツだ。

 

 それがたとえ、フラン=シェリー・サンクチュアリからの命令だったとしても。

 それがたとえ、ドローンの操作を行なったのが別人だったのだとしても。

 彼を殺害した異能(へいき)の持ち主はコイツだ。

 

「テメェは言った、命の価値を理解していると。だったら、なんでロドリゴを殺した? テメェとは比べものにならない命の価値を持ったヤツをよぉ‼︎」

「それ、は……」

「死にかけのジジイなら命の価値が安いとでも思ったか? 命令されただけだから仕方がないとでも思ったか? ()()()ッ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ⁉︎」

回、答(Answer)………………不能(Error)

 

 鼻が折れて血が垂れる顔面を片手で掴み、サササッチの頭を地面に押し付ける。

 問いに答えるまで逃がしはしない。

 

「ムカつくんだよッ、テメェはッ! 人様を殺しておいてなに悲劇のヒロイン面をしてやがる‼︎ 答えろよッ、なんで殺した!」

わたし、は(Error)……」

「人を殺した理由なんて殺人鬼にだって回答できる! 快楽でも、怨恨でも、正義でも、憤怒でも! 何だっていいッ、それとも何も考えてなかったってのか⁉︎」

わたしは(Error)だけど(Error)でも(Error)クローンとして(Error)……」

「今は第三位(たにん)の言葉なんざどうでもいい! ()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 

 そして、そして、そして。

 一瞬にも、永遠にも感じられる沈黙の後。

 少女の唇から絞り出したような声が溢れる。

 

 

 

()()()()()()()()……」

 

 

 

 クローンだとか、六界列強(グレートシックス)だとか。

 そんなものは関係がない、ありふれた言葉が。

 

「……こわいのです。当機(わたし)が何人いたとしても、死ぬのがこわくてたまらない」

「…………」

「我々はつながってる。だから、みんなの死に際の苦しみもしっています。しにたくない。しにたくない。しにたくない」

「だったら……」

()()()()()()()()()

 

 ぽたり、ぽたり、と。

 血といっしょに、透明な水も地面に零れる。

 

「しにたくない。いきたくない。くるしい。解放されたい。そんな時、貴君(あなた)が現れたのでございます」

「──────」

「死ぬ勇気のない当機(わたし)は、本体(Original)の命令に抗えず……抗おうとせず…………、それでも生きる気力のない当機(わたし)は、貴君(あなた)という理由(いいわけ)があったら死ねるのではないかと期待いたしました」

 

 サササッチはディートリンデのようには成れなかった。

 生きたい時に生き、死にたい時に死ぬ。きっとそれが理想なんだろう。

 

 だけど、生きたくないのに生き、死にたいのに死にたくない彼女は、ずるずると惰性で人生を歩むだけ。

 

懇願(Please)、お願い……します。この自分本位な殺人鬼を……当機(わたし)を、殺してください。貴君(あなた)になら、当機(わたし)は……」

 

 彼女は笑った。

 血と、涙と、鼻水と、汚れた顔で。

 だけど、見た中でいちばんの笑みを浮かべて。

 

 それを見て、俺も笑ってしまった。

 

 

「誰が殺すかよ、バーカ‼︎」

「………………ぇ?」

 

 

 その唖然とした顔を見て、思わず爆笑してしまう。

 何が人形だ、アホヅラ晒しやがって。

 

「俺は怒ってるんだよ、サッチ。テメェを苦しめて殺したいくらいにはな」

「ッ、だったら──」

()()()()()()。苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで、生きながらえた苦しみの果てで死んで地獄に堕ちろ」

 

 誰が(すくい)なんて与えてやるものか。

 そんなものじゃ俺の怒りは収まらない。

 

「つーか、テメェはイラつかねぇのかよ! こんなクソつまらねぇ茶番劇を仕立てやがったクソ野郎がッ、今も宇宙(ソラ)の先で高笑いしていることにッ‼︎」

 

 そもそもの話、コイツが生きようが死のうが俺の怒りは収まらない。

 俺が殺したいのは最初からたった一人。

 

「フラン=シェリー・サンクチュアリ、テメェは殺したくないのか?」

「…………たい」

「自殺するよりも先にやる事があるんじゃねぇのか?」

「……ろ……たい」

「叫べよッ、サササッチ! 自分の声でッ、テメェの殺意(おもい)を‼︎」

「殺したいに決まっていますッ‼︎」

 

 はははッ、良い表情をするじゃねぇか。

 気味の悪い無表情(デフォルト)よりもずっと良い。

 

「けどッ、どうやって⁉︎ 彼女が存在するのは十四光年先ッ、貴君(あなた)の異能も届きません!」

「確かに、俺だけの力じゃ届かないだろうな」

当機(わたし)の異能に頼るつもりですかッ? ですがッ、不可能(Impossible)でございます! 彼女は当機(わたし)の上位互換ッ、そもそも十四光年先に辿り着く異能なんて知らない‼︎」

「誰がテメェに頼るっつった? 俺をッ、()()()()()()を舐めてるんじゃねぇぞッ‼︎ 俺たちの文明(やいば)は第三位にだって届く‼︎」

 

 具体的に言う事はできない。

 だって、それは第三位にも伝わるから。

 だけど、既に俺は策を思いついている。

 

「俺がヤツを殺すことは既に確定事項だ! ならッ、テメェはどうしたいッ! ここで指を咥えて見とくのかッ⁉︎」

「…………ほん、とに」

「行こうぜッ、クソ野郎の死体を蹴りにッ‼︎」

「ほんとうに本体(Original)をころせるの……?」

「当たり前だッ‼︎ 俺はアイツみたいな理不尽をブチ殺すために此処にいるッ‼︎」

 

 倒れた彼女の手を握り、起き上がらせる。

 情けない時間はここで終わりだ。

 見てろッ、六道伊吹の物語を見せてやる‼︎

 

 

「さぁ、反撃開始だ」

 

 


 

 

「生存者リスト」

 

▽天命機関

ブレンダ

ジェンマ

ロドリゴ

レオンハルト

ファウスト

etc

 

▽転生者

六道伊吹

アドレイド・アブソリュート

二神双葉

三瀬春夏冬

九相霧黎

ディートリンデ

フラン=シェリー・サンクチュアリ

ルーアハ

 

▽一般人

栗栖椎菜

デッドコピー×20000

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