「ブチ殺してやるッ‼︎」
『ははっ、ははははははっ‼︎ 我々を殺すだと⁉︎ そうか、原住民はそこまで思い上がったか⁉︎ まるで我々と対等であるかのような口振りだな‼︎ ははははははははっ、…………はぁ』
──────。
その瞬間、辺り一帯から音が消滅した。
いや、違う。ヤツが放つプレッシャーがそう知覚させた。
来る、分かる。身に染みた感覚。いつもの殺し合いの始まり。
そして、フラン=シェリー・サンクチュアリはその呪文を口にした。
『世界、新生───《多元宇宙》』
直後、世界がひっくり返った。
世界観が書き変わる。
物理法則が捻じ曲がる。
これより先は異世界、無限の可能世界を許容する宇宙。
『たかが一つの宇宙、その中でもちっぽけな星の霊長に過ぎない原住民が思い上がってんじゃねぇぞ』
ゾワゾワゾワッ‼︎ と。
不気味な感覚に体が震え、鳥肌が立つ。
それは天を覆うほどの無数の異能。
例えば、宇宙戦艦。
例えば、浮遊都市。
例えば、軌道エレベータ。
それ一つで世界観を象徴するような異能、それ一つで地球文明を覆すかのような技術。
「……おい、まさかテメェはッ」
『我々は数多の宇宙の上に君臨した最強の文明。無限の宇宙を観測し、無数の技術を徴収し、それら全てを手に収めた無敵の文明』
「そのSF兵器を全部一つの世界で手にしたってのか⁉︎」
そう、今から敵に回すのは正しく一つの文明。
或いは、無限に拡散する宇宙そのもの。
『始めるか、列強殺し。我々の宇宙にケンカを売ったんだ、覚悟は出来ているだろうな?』
無数の異能。
即ちッ、俺の天敵……‼︎
『はははははははっ‼︎ 威勢がいいのは口だけか? 逃げてばかりだなッ、列強殺し‼︎』
異能、異能、異能、異能。
無数の道具型の異能が俺を襲う。
異能感知の感覚を信じるなら、その数は千を超える。
そして、それすらも第三位の本気の一端に過ぎない。
「ッ‼︎」
反射的に地面を蹴り、壁も蹴って二段ジャンプという不自然な軌道で飛ぶ。
その瞬間、ガガガガガガガガガガッ‼︎ と連射されるレーザーが地面を砕く。
ドローンの角度、異能感知が働くタイミング。どれか一つでも見落とせば、ほんの僅かでも反応が遅れたら、今頃俺の身体は穴だらけになっていた事だろう。
(異能の反応を辿れ。その先に、下手人がいるはずだ。何キロ先だろうとヤツを見つけ出し、必ずブチ殺して──)
『──我々がそんな暇を与えると思うか?』
…………ッ⁉︎ 読心能力⁉︎
超能力的な異能か? それとも、道具を使用したテクノロジーか……。
今までの異能の傾向からして、恐らく高度に発達した文明のような異世界。
「道具型の異能、だな?」
『………………』
「それも、思考してから読み取るまでに僅かだが時間差がある。でもないと、俺が攻撃を避けられているのに説明がつかないからな」
『……それで? 分かった所で何が出来ると言うんだ?』
「何だって出来るさ。馬鹿なテメェには想像つかねぇ事がよッ‼︎」
息を吸い、目を見開く。
頭を空っぽにしろ、本能に身を委ねろ。
俺ならできる。怒りで思考を満たせ。
(──────)
『……チッ、本当に人間か? 自分の脳味噌を自力で弄るなんぞイカれてやがる』
無心で洋服店のショーケースをブチ破る。
まずは射線を切る。本能のままに屋内へ逃げ込んだ。
…………だが。
『読み通りだ、列強殺し』
カタカタカタッ、と建物自体が小刻みに振動する。
考えている暇はない。咄嗟に壁を破り、隣屋に飛び込む。
それと同時、洋服店は熔け落ちた。
「なん、だ⁉︎」
『《5437AL28:フォノンメーサー》。超音波を使用した熱量攻撃。電子レンジみたいなものさ』
「そっちじゃねぇ‼︎ 何でだっ、どうやって俺の考えを読み取った⁉︎ 俺は思考なんてしてなかった‼︎」
『読心能力で読み取れるはずが無いと言いたいわけか? ──それは勘違いだ、列強殺し』
「…………は?」
勝ち誇るような、馬鹿にするような声色だった。
ここで俺に能力の説明をする必要はない。だけど、ヤツは嘲るように俺に告げる。
フランは俺を心の底から見下していたのだ。
『未来演算。どんなルートを辿ろうとも、全ては我々の掌の上にある』
《3933AB82:ラプラスカリキュレータ》。
それはクシャナですら理解できなかった六道伊吹の無限の可能性を全て読み切った最強の演算機。
反射的に攻撃を仕掛けようとして。
ズドンッ、と踏み出した足の甲を光線が撃ち抜く。
『六八七億八三九〇万二〇〇七通り。とても人間とは思えない、人間では数えきれない未来の分岐数。だが、我々にとっては容易だ』
「………………」
『身体情報、精神状態、異能条件。全ての情報を入力し、演算機は勝利の道筋を弾き出した』
「……………………、」
『そもそも、可能世界の観測は我々の本分だぞ? 諦めろ、列強殺し』
「……………………………………ははっ」
その言葉を聞いて。
思わず、俺は笑ってしまった。
「テメェ如きに俺の心は分かんねぇよ」
一閃。
繊維レベルにまで細く伸ばした《破邪の剣》によってドローンを破壊する。
『………………あ?』
「本当に読み通りだったなら、俺は既に死んでんだろ。でも、生きてる。だったら、テメェが予測した未来はズレてる筈だ」
『そんな訳がない‼︎ 《3933AB82:ラプラスカリキュレータ》が演算を間違えるはずが──』
「なら、打ち込んだ情報が間違ってんじゃねぇのか?」
身体、精神、異能。
その全ての情報を打ち込んだとフランは語った。
……本当に?
確かに、短期間で身体が変わることは無い。
確かに、異能のそもそもの効果を変える事も出来ない。
だが、精神は?
俺はこの世界から消された彼女を取り戻すために戦っている。
フラン自身が認識できない情報を打ち込む事なんて出来る訳がない。
「俺のッ、俺たちの勝ちだ‼︎」
「────ッ⁉︎」
異能の発生源を感知した。
ヤツはこの街にいる。
五〇〇メートル先ッ、一分も必要ねぇ‼︎
(ちょこまかとッ‼︎ 街全体を巻き込む攻撃ではッ、九相霧黎も纏めて殺害しかねないっ! だがッ、列強殺しはこの程度の弾幕は潜り抜けてくる‼︎)
数秒の逡巡。
ドローン達が軒並み動きを停止する。
その一瞬で、感知した道具型の異能を全て破壊する。
透明だろうが、音速で飛び回っていようが関係ない。
(そもそも、なぜ予測が外れた⁉︎ たとえヤツの動機が理解できないものであっても、その心の動き自体は観測できた‼︎ 列強殺しが未来から逸脱する筈が────)
──その瞬間、単純な事に気がつく。
(いつから我々は敵が列強殺し──ブレンダだと考えていた……? 眼前にいるのは紛れもなく六道伊吹だと言うのにッ⁉︎)
フランの脳裏に、とある原住民の言葉が浮かび上がる。
『余裕のある今、六道伊吹くんを殺すか。それとも、九相霧黎くんと殺し合って消耗した後に列強殺しと殺し合うのか。……どっちがいいっすか?』
(原住民の催眠術ッ、あの一瞬で無意識の認識を入れ替えられたのか⁉︎)
気づいてももう遅い。
改めて情報を集める隙も、演算し直す時間も無い。
ゴッッッガッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
壁をブチ抜く音がフランの耳に届く。
六界列強にとっての死神がやって来た。
「よお、フラン=シェリー・サンクチュアリ」
「…………驚愕、随分と早い到着ですね。『巫山戯るなよッ、化け物がっ‼︎』」
「それが辞世の句でいいな?」
《破邪の剣》を振りかぶる。
聖なる刃が肌に喰い込み、頸を斬り落とす。
──その、一瞬前。
「……………………っ」
ふっ、と彼女は笑った。
全てに諦めたかのように。
やっと、報いが受けられるとでも言うかのように。
(──違う。コイツは違う)
咄嗟に、《破邪の剣》を寸止めする。
慣性の法則に反するような急制動。
痛む腕を無視して、俺はそいつを見た。
ショッキングピンクの髪に、メイド服。
巫山戯た格好をした無表情の少女。
だけど、唇が青い。分かりづらいが、足が震えている。…………死に怯え、それでも抵抗できないでいる憐れな少女。
間違いなく、異能の発生源は目の前の彼女だ。
コイツを殺せば、全ては終わる筈だ。
……でも、だけど。
(コイツは俺が殺したいクソ野郎じゃない‼︎)
本能がそう訴えている。
何もかもが違い過ぎる。ドローン越しに聞いた言葉と、目の前にいるコイツとでは。
「お前は誰だッ⁉︎」
「…………ぁ、わた、『ははははははははははははははははははははっ‼︎ 気づいたのか? だが──』」
「『────遅かったな?』」
後ろから、足音と共に声が聞こえた。
そいつは目の前の彼女すら巻き込む形で光線を放った。
咄嗟に抱き抱え、彼女を庇う。
「がば、あッ⁉︎」
「……ぁ、なん、で」
背中が焼け焦げた。
だが、内臓は傷付いていない。
なら、大丈夫だ。まだ擦り傷の範疇だ。
カツン、と足音が響く。
光線を撃った下手人の──更に後ろから。
それも、一つじゃない。
二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ────足音は際限なく増えていく。
カツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツン、と。
「はぁ、はぁ、はぁ、何なんだ……どうなってんだッ、テメェらはッ⁉︎」
ショッキングピンクの髪に、メイド服。
巫山戯た格好をした無表情の少女。
──俺が庇った少女と全く同じ顔の人間が、ざっと数えただけでも三〇人以上存在していた。
「『どうなっていると言われてもな』」「『やはり原住民の頭では理解できないか』」「『良いだろう。我々が教えてやろう』」「『我々の言葉を賜れる事に感謝しろ』」
口々に少女達は声を発する。
全員が第三位……ではない。
目の前のヤツらも俺が庇った少女と同じだ。
コイツらの背後に本当の黒幕が潜んでいる。
「『知らないか? 異能は肉体に宿る』」「『たとえ転生者が死しても、異能は残留する』」「『これは我々の第三摂理が定義した法則だ』」
「…………テメェの?」
「『第三摂理──「拡散」。我々の宇宙は分岐し過ぎた。その情報量──熱量に耐えきれず、宇宙の飽和によって滅んだ』」「『逆説。其処には無数の可能世界が存在する。この世界はあるゆる可能性が残留する』」
「…………?」
「『理解できないか? 憐れなほど脳の容量が足りない生態をしているな』」「『簡単な話だ。あらゆる情報は残留する』」「『異能情報が残留すれば、それは七天神装となり』」「『精神情報が残留すれば、それは幽霊となるように』」
……理解が追いつかない。
コイツの言いたい事が掴めない。
「『話が逸れたか』」「『つまり、異能は肉体に宿る。異能という情報は物質的なものとして肉体の中に存在している』」「『ならば、クローンを造れば其奴もまた異能を手にするとは思わないか?』」
「………………は?」
「『演算機が使えないのなら仕方ない』」「『単純な物量をもって殺すとしよう』」「『即ち、《3303DC01:デッドコピー》』」
「おい、待て。つまり、それは──⁉︎」
「『二万体のクローン人間、二万体の六界列強・第三位が敵と知れ』」
最多にして、最強。
六界列強・第三位、フラン=シェリー・サンクチュアリ。
ここからが、本当の戦い。
「ッ、巫山戯んなッ‼︎ テメェ自身は何処に居やがるッ⁉︎」
「『言った所で何ができる?』」「『そもそも、我々が地球にいるとでも思っているのか?』」
「………………ぁ」
声が、出なかった。
だって、俺は触れたモノしか殺せない。
だから、それはあまりにも致命的だった。
「『原住民を殺すためにわざわざ地球へ出向く訳がないだろうが。十四光年先から死に様を嗤ってやろう』」
フランの世界観、《多元宇宙》。
その異能射程はEXランク。
彼女は太陽系内には存在しない。
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
二神双葉
三瀬春夏冬
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
▽一般人
栗栖椎菜
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