更新停止してた期間に「暗号学園のいろは」の短編二次創作を書いてます。
興味があればそちらも是非。
「ごがア⁉︎」
ズドンッ‼︎ と。
容赦ない一撃がディートリンデをノーバウンドで吹き飛ばす。
その衝撃はメイド服を着た少女の腕に取り付けられた筒から放たれていた。
「
空気砲……と呼ぶには威力が高過ぎるそれは、限界を超えた出力に耐え切れず内側から自壊した。
「なっ、いきなり何をするッ⁉︎ 我が貴様に何かしたであるかァ⁉︎」
「
ディートリンデだけでなく、辺りにはジェンマも倒れ伏せている。
無傷なのは九相霧黎だけであった。
「
「……ぼく、が?」
「『
その瞳は感情を何も映さない。
だが、声色からは彼女の執着心がありありと感じられる。
《3933AB82:ラプラスカリキュレータ》。
超次元の演算機がフラン=シェリー・サンクチュアリと九相霧黎の相性が抜群であることを告げる。
様々な過程を経て相手を好きになる通常の恋愛とは異なり、フランの恋愛は相手のことを好きになるという結果こそが始まりに存在する。
『テンプレート・トライアンフ』において、六道伊吹はアドレイド・アブソリュートを『運命』と、ブレンダを『理想』と、栗栖椎菜を『大切』と称した。
だが、『テンプレート・トライアンフ2』においてそれは逆転する。九相霧黎
「つまりッ、嫉妬かァ⁉︎ 霧黎に擦り寄る我に嫉妬して──」
「
「…………ッ」
ディートリンデはビクついて押し黙る。
空気砲に撃ち抜かれた肋骨が恐らくヒビが入っている。手加減してこれなのだろうから、警告した上での攻撃はどうなるか分からない。
恐れるディートリンデを庇うように、霧黎は一歩前に踏み出る。
「悪いけど、あなたは好みじゃない。出直して来てくれるかな?」
「……………………『あ?』」
ピキッ、と空気が凍る幻聴がした。
数秒の沈黙の後、フランはため息を吐いて複数の
「
対して、九相霧黎はそれを鼻で笑う。
「
「『──────』」
返答は無かった。
一瞬にして、フランの背後に無数の
一つ一つがこの世界の『科学』なんてものとは比べ物にならない
だが、それを九相霧黎の前で見せてしまったのが運の尽き。
彼もまた《
「──
「断る。ぼくはもう選んだんだ、ディートリンデの『しあわせ』の為に尽くすって」
そうだ、選んだ。
『原作』のように、流されてこうなったんじゃない。
出会いは偶然だった。求められるがままに手を差し伸べた。
それでも、確かに、九相霧黎は選んだ。
彼はディートリンデにとっての『運命』じゃない。『理想』の人物像でも無ければ、『大切』と思えるほどの時間を育んだ訳でもない。
六道伊吹のように、『宿命』とも呼ばれる何かで繋がっている訳じゃない。
だけど、九相霧黎は決断した。彼自身の意志で、ディートリンデの側に立つ権利を勝ち取った。
「…………
フランにとって、愛とは利用価値だ。
九相霧黎は都合の良い人形に思えた。頼めば何でも叶えてくれる人間に感じた。だから、執着する。
なのに、価値あるはずの彼はディートリンデなんかのせいで歪んでしまっていた。価値の理解できない者が、価値あるモノをくだらない用途で使っている。
フラン=シェリー・サンクチュアリの声色に怒りが滲み出す。
「『記憶を
「やってみやるがいい、クソババア」
両者共に無数の異能が起動する。
この星を数度滅ぼしても余りある火力が正面から衝突する。
────その、一瞬前。
「
特別な力を持たない、ただの人間が割って入った。
ギロリと、フランの視線がその女性……ジェンマを睨み付ける。
「
「でも、聞かない方が後悔するっすよ?」
「…………『……チッ、言ってみろ』」
フランの性格からして、本来ならばジェンマは警告無しに殺されている。
だが、殺さない。いつでも殺せるはずだから、と処理を後回しにする。
「自分を殺して、ディートリンデちゃんを殺して、九相霧黎くんの記憶を消す。大いに結構っす。だけど、その後の事を忘れてんじゃないっすか?」
「…………? 『…………、』」
「
ジェンマは大仰な手振り身振りで首を傾げる。
まるで
「
「──
「『………………ッ⁉︎』」
三年前、それは
七年前に第四位、一年前に第六位、……そして三年前に第三位。
殺害された所で死にはしない。
だが、自らが起業した表社会の会社──
「余裕のある今、六道伊吹くんを殺すか。それとも、九相霧黎くんと殺し合って消耗した後に
「…………
そして、フランは立ち去る。
「ふぅ……いやあ、肝が冷えたっすよ」
「助かったよ、ジェンマ」
「いえいえ。少なからず、相手が九相霧黎くんとの正面衝突を脅威と思ってくれたからこその戦果っすよ。ディートリンデちゃんもそう思うっすよね?」
………………、…………?
返答が何故だか無かった。
振り返ると、ディートリンデは真っ赤な顔で足を投げ出していた。
「どうした、何があった? 先程の負傷が痛むのかい⁉︎」
「…………なッ、何でも無いであるぞォ⁉︎」
「何処からどう見ても大丈夫には見えないけれど……?」
心配する霧黎に、赤い顔を隠すディートリンデ。
「ははーん?」
したり顔でジェンマほ頷いた。
「さてはディートリンデちゃん、照れてるっすね?」
ぼふんっ‼︎ と、ディートリンデの顔から湯気が上がる。
そんな光景を錯覚するほどに、彼女の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
「照れてる? 何に?」
「九相霧黎くんも鈍感っすね〜? 自分の『しあわせ』の為に敵わない者に啖呵を切るなんて、女の子にとっちゃ白馬の王子様みたいなもんっすよ?」
「ちちちち、ちがうっ‼︎ 我はそのっ、なんだっ、思ったより霧黎が我の事を想っていて驚いたと言うかっ、ただびっくりしただけである‼︎」
「そう言うのを惚れ直したって────ぁ」
突然、ジェンマの言葉が止まった。
不自然な区切り目だった。
視線がジェンマの方へ逸れる。
「──────は?」
気配は無かった。
視界に人物が収まっている今であっても、その者が存在している事が信じられない。
もしかしたら目の錯覚かも、なんて疑惑が拭いきれない。
謎の人物はジェンマの首元──椎骨動脈を力強く絞めていた。
不自然な空白は、喉を抑えられた事によるものか。舌先三寸で
「霧黎ッ、異能だァ‼︎」
「分かっ────おい、待て、巫山戯るなよ⁉︎」
異能を放とうとして、初めて。
ディートリンデは目を見開いた。彼女は
「《勾留・魂魄呪縛》──
その効果は異能封印。
九相霧黎の《
鮮やかな手口だった。
ほんの一瞬、たった一手で九相霧黎たちは壊滅的な損害を被る。
「おいたしちゃダメですよ、もう。お仕置きの時間です」
「
簒奪者、ディートリンデの天敵。
第四摂理“現”保有者──即ち、
異能を使えない状態では絶対に勝ち目なんて無い最悪の敵。
彼女はずっと其処にいた。
フラン=シェリー・サンクチュアリと戦っている時も、三人で戯れていた時も、ずっと。
気配を消し、三人共が気を抜く一瞬をひたすら待っていた。そして、たった一手でジェンマの言葉を潰し、佐武真尋から借り受けた力で九相霧黎の異能を封印した。
「……あなた、気配はどうした」
「消しました。知ってますか? 『枯渇』の摂理って、概念的なものすら消費出来るんですよ?」
「…………ッ‼︎」
第四摂理は不可逆の消費。
奪っただけなら、返す事もできる。
だが、消費した物は二度と戻らない。
彼女はこの一瞬の為だけに、今後二度と誰かに気づかれる事のない人生を選んだ。
椎菜は気絶したジェンマを投げ捨てる。
窒息とは違う。血流が止まり、脳に酸素が行き届かなくなったのだ。死んだ訳ではないが、酸欠で細いいびきをかいている。
「娘の結婚なんて認めませんよ‼︎」
「誰が娘だッ、誰がァ……‼︎」
「……必ず、『しあわせ』にします」
「霧黎も乗るなァ‼︎」
「ほんとうに生きてたんだねぇ、六道伊吹……」
「今更、実感が湧いたのかよ」
ロドリゴの手で大穴から引き上げられる。
一本釣りされる魚の気分だった。
ファウストの自爆の瞬間に
たまたま大穴を覗き込んでいたロドリゴの力を借り、創世神話の成り立ちについて学び、今に至る。
「……貴君の幼馴染も巻き込んですまなかったねぇ」
「いや、構わねぇよ。椎菜も好きで来てるんだろうし」
「だが、……」
「それに、クソ野郎を殴るのに戦力はあればあるだけ嬉しいからな」
ルーアハをブチ殺し、失った彼女を取り戻すまで俺は止まるわけにはいかない。
「さっきの話、真実なのだろうねぇ?」
「ああ、ヤツは生きてる。お前の同僚からそう聞いた」
「…………そうか、アダムがそう言ったのかぁ」
ロドリゴは両手を握りしめる。
その四肢はどちらも義手。確か、〈
「なぜ儂が生き残ったのか、なぜ彼らが死ななければならなかったのか、悩まない日は無かったぁ。……儂は自分が生き残っただけの価値を残せるのか、と」
「………………、」
「だが……この未来がアダムの予測した最善なのだとするのならば、儂もまた最善を尽くさなければならないねぇ」
「……ああ、頼んだ」
拳と拳を突き合わせる。
ロドリゴは静かに笑みを浮かべた。
──
「…………ッ⁉︎」
異能を感知した時には、もう遅かった。
光速で敵を撃ち抜くビーム兵器。
頭では分かっていても、体は動かない。
(避けられない……‼︎)
「──────え?」
「そうかぁ、アダム…………
反応できる訳がないのに。
彼がそれに気づけたのは何故だろうか。
彼が特殊な技能を持っていたのか、歴戦の天使としての勘か。
今となってはもう分からない。
分かることはたった一つだけ。
「ろど、りご……?」
「────」
彼の胸には大きな穴が空いていた。
子供一人が通れそうなほど、向こう側の景色が見えてしまうような穴が。
子供が見たって、もう生きていないと分かる有様。
何処かで、人が死ぬのは激しい
今までがそうだった。誰かが死んだ時、誰かを殺した時、いつだってドラマチックな何かがあった。
だが、これは違う。ロドリゴの死に様が目に焼き付く。呆気なくて、刹那的で、漫画にすればたった1ページで収まってしまうような死。
『外したか。それとも仲間を肉壁にして生き残ったのか、
上空を見上げると、そこには一機のドローンがあった。そこから声が聞こえる。
初めに第二位が演説していた時に見覚えがある。恐らく、第三位の異能。
単純な《
触れなければ相手を殺せない俺は、目の前にいないヤツを殺せない。
ぐつぐつ、と感情が湧き上がる。
久しく忘れていた感覚だ。そうか、俺は腑抜けていたのか?
「そうか、……そうかよ、チキン野郎。俺の前に立つ度胸も無しに、ロドリゴを殺したのかよ」
『…………あ?』
怒りのままに俺は叫ぶ。
これが俺だ。
これこそが俺だ。
当たり前の顔して世界に居座ってる理不尽に中指を立てろ‼︎
「ブチ殺してやるッ‼︎」
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
二神双葉
三瀬春夏冬
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
▽一般人
栗栖椎菜