第三章中編1開始です!
…………1?
昔々、そのまた昔。
人も木も、空も地面も無かった頃。
世界というものが形作られていなかった時代。
宇宙は一つの卵でした。
やがて、卵は孵化し、中から「 」が産まれました。
ですが、卵は一つだけしかありませんでした。
「 」だけが存在しました。
世界には「 」しかいません。
いいえ、「 」こそが世界なのです。
「 」は悠久の時を独りで過ごしました。
ある時、「 」はふと思いました。
卵が自分を産んだのなら自分も何かを産めるのではないか、と。
すると、「 」の中から様々な存在が産まれました。
私達は“それ”を神さまと呼んでいます。
静かな「 」の中は随分と騒がしくなりました。
神さま達も「 」を敬いました。
神さま達にとって、「 」は父であり、母であり、世界だからです。
しかし、ある時。
一人の神さまが言いました。
「もっと広い世界を見たい」、と。
「 」は殺されました。
神さま達は初めて外に出ました。
しかし、外には何もありません。
だって、「 」が世界なのですから。
困った神さまは「 」の死体から世界を創りました。
肉は地面となり、骨は山となりました。
流れた血は川と、溜まった血は海となりました。
歯は岩石となり、髪や毛は草花となりました。
頭蓋骨は天となり、脳髄は雲となりました。
最期に吐いた息は風として世界をめぐり、
今なお熱を持つ心臓は天に掲げられて太陽となりました。
そして、腐った肉からは蛆虫が湧き、
神々はそれに知性を与えて、“ヒト”と名づけました。
しかし、神さまにも予想外の事がありました。
「 」はまだ生きていたのです。
だから、
「 」が身じろぎすると、地震が起きます。
「 」が欠伸をすると、台風が起こります。
「 」が涙を流すと、大雨が降り注ぎます。
「 」は今も生きています。
「 」は今も私達を見ています。
しかし、「 」は不老不死ではありません。
何故なら、「 」の身体も腐るからです。
「 」の身体が腐り果てた時こそ、
真に「世界の終わり」と言えるでしょう。
「…………また、此処か」
辺りを見回してため息をつく。
爆破に巻き込まれたはずが、また七年前に時間遡行していた。
「あら、此処は嫌かしらぁ?」
「そんで、またお前かよ」
ふよふよと亡霊クリスは漂っている。
相も変わらず不気味なヤツだ。
「前回は何があったっけ? ファウストとの戦いのせいで記憶がすっ飛んだ」
「〈
「あー、確か……」
『────
そうだ、思い出した。
白いスーツに身を包んだ彼は、間違いなく俺を視認していた。
「どういう理屈だ?」
「さぁ? わたしも知らないわぁ」
「異なる時間軸が交わる事がない以上、過去にいるテメェが未来からそれを視てるだけの俺達を見返す事なんてできねぇはずだろうが……‼︎」
「……一つだけ言えるとしたら、
天命機関に所属する、ただの人間。
それなのに、第五摂理で定められたルールを破っている。
意味不明、理解不能。
『残念ながら、私に君の声は聞こえない』
「嘘つけ」
『嘘じゃない。これは会話じゃない。君の言葉に返答を返している訳じゃない。……これは一方通行のメッセージだ』
「…………は?」
簡単な事だろう? と。
そう言いたげな顔で、めちゃくちゃな事を告げる。
『
………………は。
絶句。
言葉も紡げない。
言葉の意味が分かっても、脳が理解を拒む。
『例えば、手から放した林檎は地面に落ちると分かる。例えば、気象の観測データから明日の天気が予報できる。そういった
「……まさか、お前には
『そんな大それたモノではない。言っただろう? これは
……馬鹿げてる。
ただの人間が七年先の未来まで視えるのか⁉︎
これが歴代最強と謳われた天使かッ⁉︎
『何をしているのかは分かっていても、キミが何も無い所で話し出すのはちょっとキモいねぇ。……そこに
『口を挟むな、折手メア』
『いぇ〜い、六道伊吹見ってるぅ〜?』
折手メアはダブルピースで俺の方を見て(ちょっとズレてるけど)煽る。
…………殴りてぇ‼︎ コイツっ、俺が誰のために奮闘してると思ってんだ⁉︎
『まぁ、必ずしも彼が過去を視ていると決まった訳では無いが』
『え〜? ボクのピース損じゃないか。キミも未来が視える……キリッ、ってカッコつけて言ってたのに』
『…………彼の未来は複雑怪奇だ。第五位の《
第五位の……何だ?
ヤツが時間遡行できる事は知っているが、もしかしてループ中の戦いの事も予測してやがるのか⁉︎
『概算だが、君がこの過去を見る
『ええ……? そんなんでマトモな受け答えが成立しているのかい? というかこの伝言、無駄なんじゃ……』
『もしも彼が過去を視る
それに……、と。
アダマスは目を細めた。
『
目を見開く。
ブレンダ先輩と同じだ。
こいつは
一切の穢れを許さない輝くほど澄み切った“白”だった。
「……そういう人なのよぉ、彼は。馬鹿みたいに愚直でぇ、誰よりも
眩しそうに、クリスが微笑んだ。
その横顔にピンと来る。
「お前ら……まさか、付き合ってる?」
「…………あなた、鈍感の癖に変な所で鋭いわねぇ」
鈍感……だと⁉︎
こいつ、もしかして〈
『では、私はそろそろ行く。クリス、私達の希望を任せた』
「……ええ、分かったわぁ。行ってらっしゃい、アダム」
アダム……アダマスのあだ名か?
随分と変な所で区切るんだな……と思った、その瞬間にある事を思い出す。
〈
「待てよっ、アダマス! このまま行ってはダメだ! 聞こえてんだろ⁉︎」
『だから、実際に声が聞こえている訳では──』
「
ブレンダ先輩の言葉を思い出す。
しかも、その下手人はよりにもよって目の前の
だが、アダマスはこう返した。
『────
……そうか、そうだった。
俺の言葉を予測しているという事は、彼は既に折手メアの凶行を予想していないとおかしいのだ。
『そもそもの話、〈
「…………は?」
『第二位は未来を見通す私を危険視している。ヤツの全知は現在のみであって、未来を知る事はできない。
その言葉を聞いて分かってしまった。
こいつには、もう未来が無かったのだと。
「死ぬしか……無いのか?」
『何処へ逃げようと、どう抗おうと、私が死ぬ結末に変わりはない。ならば、より良い死に方を選ぶしかない』
「……………………、」
『この街にはブレンダがいる。
「………………。七年延命した所で、」
『
揺るぎないアダマスの瞳が俺を見つめる。
彼は俺を信じていた。
俺に全てを賭けて、この先で死ぬのだ。
『折手メアと協力しているのはそういう理由だ。私と彼女は君を待ち望んでいるという一点で共通している』
「………………俺、は」
『重い期待をかけてすまない。だが、君が気にする必要はない。
拳をギュッと握り締める。
これは、過去だ。既に終わった悲劇だ。
俺には何もできない。……それが、悔しくてたまらない。
『……君は私を心配している場合では無いだろう』
「でも、…………うん?」
『
「え? はッ⁉︎」
衝撃の事実を受け取る。
その直後、景色が不気味に揺らぎ始めた。
『創世神話の成り立ちはロドリゴに聞くといい。彼なら丁寧に教えてくれるはずだ』
「ちょッ、ちょっと待て‼︎」
『決して油断するなよ、
「ちょっと待てっつってんだろッ‼︎」
声は届かない。
いや、彼は俺の叫びを無視している。
視界がノイズと砂嵐に包み込まれる。
『君だけは絶対に生き延びろ。それが私の願いだ』
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
二神双葉
三瀬春夏冬
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
▽一般人
栗栖椎菜