「……ここ、は」
真っ暗闇。
……多分、大穴の底にいる。
時間遡行前の状況を思い出す。
あの状態ではもう命は無いと思ってたのだが……。
衝突の瞬間はこの時間軸から消失していたから、ギリギリ助かったってことなのか……?
まぁ、考えていても仕方がない。
やるべき事は分かった。
もう思い出せなくなって来たけど、俺が忘れてる何処かの誰かを取り戻す。
そのためなら何だってやってやる……‼︎
『……貴君も生きていたんだねぇ』
「骨伝導……お前もよく生きてたな、ジジイ」
ロッククライミングに挑戦中、頭の中に直接声が響く。
確認するまでもない。声の主はロドリゴだった。
『二つの知らせがあるよぉ、どちらから聞きたいかなぁ?』
「……悪い方から言ってくれ」
『この街の残存戦力は貴君を含めて三人だけだよぉ。他の味方はもう死んでるか、
「────それ、は……最悪だな」
戦力とはカウントできない。
……つまり、死んだ方がマシな状況ってことだろう。
だが、現実はいつだって最悪を下回る。
『…………ああ、なるほど。勘違いしてたみたいだねぇ』
「なに、を……?」
『悪い方からっていうのは、より悪い方からって意味だったんだねぇ。
「……………………は?」
躊躇なく、ロドリゴは言い放つ。
『儂等が対
同時。
ドッッッガッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
『……まさか、其方に来たのかいッ⁉︎ 儂の囮を無視してッ、生きているかどうかも分からない六道伊吹を優先したのかぁ……⁉︎』
「くそがッ‼︎ 何だアレ⁉︎」
『逃げなさい‼︎ 貴君とは相性が悪すぎるッ‼︎』
「逃げろったってどうやって⁉︎」
俺は今まさにロッククライミング中。
それも、ちょうど半分程度の中途半端ところにいる。《
それは、まるで天使のようだった。
誰もが見惚れる美貌。
頭上に輝く光の円環。
背中から広がる黒翼。
だが、ロドリゴは言っていた。
──それは
だから……そいつは
「
「
天使は悪魔へと堕ちた。
俺はブレンダ先輩すら超える天敵と激突する。
「フハハハハハハハハハハハッ‼︎ 上手く行ったであるなァ‼︎」
「あなたにヒロインを口説けと言われた時は何かと思ったよ。ぼくの
〈
ディートリンデは地べたに座り込んで爆笑していた。側には、死体を踏み付けた九相霧黎が立っている。
「……それにしたって、どうしてこんな手段を取ったんだい? ぼくがラスボス戦時のレベルになるまで時間がかかると言っても、もっと良い時間稼ぎの方法はいくらでもあるだろう?」
「なに、特別な理由は無いのである。強いて言うならば、
「仕返し……?」
「六道伊吹は三人の
くだらない理由だった。
それでも、異能を無効化する六道伊吹に物理攻撃主体のファウストを当てるという最適の嫌がらせを行うのは、流石
「まァ、我も此処までの速さで口説き落とせるとは思わなかったであるがなァ……」
「そういえば、あのセリフは何なんだい? あんな振る舞い方があなたの趣味だったりするのかな?」
「そんな訳あるかァ‼︎」
ディートリンデは顔を真っ赤にして否定する。
それは見当外れの事を言われた屈辱によるものか、それとも図星を突かれた事による羞恥か。
「……『テントラ2』には三人の
それは、『テントラ』無印では起こらない特異な現象だった。
六道伊吹の性格は変わらない。彼は逆に引いてしまうほど意思が揺るがない。魔王の伴侶になろうと、天使の相棒になろうと、簒奪者の家族になろうと変わらず『六道伊吹』という唯一無二の
それは現世でも同様に。折手メアと出逢ってしまった時も、折手メアを忘れてしまった今も、六道伊吹の性格は何一つとして変わっていない。
しかし、九相霧黎は真逆だった。
彼は余りにも周囲の影響を受け過ぎる。
「改めて、三人のルートとヒロインの説明をしておくかァ」
「ありがとう。実は、あなたと出会わなかったぼくがどんな人間になっていたのか少し気になっていたんだ。さっきは彼の襲来が早くて話している暇がなかったしね」
そう言って、九相霧黎は横たわった死体──
人型決戦兵器ファウストは堕ちた。
ならば、その作製者にして操縦者たるレオンハルトはとっくの昔に死亡している。
「まずは『
「……ああ、なるほど。世界観が感じられないから、ぼくを一般人だと勘違いしたんだね」
「このルートでの貴様はファウストに感化され正義の味方となり、最終的にはラスボスたる第二位を殺害するのである」
この時の九相霧黎の振る舞いこそが、先ほどファウストを口説く際に参考にした性格である。
乙女の理想を体現するような白馬の王子様。箱入り娘であるファウストを惑わすには最適の演技であると言えるだろう。
「次に『
「二神双葉──
「このルートでの貴様は二神双葉に絆され、自分の命も大切だが共犯者も見捨てられないような中途半端に情に厚い一般人となるのである。このルートでのラスボスは天命機関と
ファウストの出逢いでは、彼は善に振り切れた。彼女が世界を平和にしたい、全人類を救いたいと思う善性の存在だったからだ。
対して、二神双葉との出逢いは彼を普通にした。善でも悪でもない中庸、場合によってどちらにも足を踏み外す一般人。彼女もまた、ただの一般人だったからだ。
……では、九相霧黎が悪に振り切れる出逢いもまたあるに違いない。
ディートリンデとの出逢いですら、彼は悪に染まる事はなかった。多くの人を殺しはしたが、それは悪意ではなくディートリンデを守りたい一心だったから。
だけど、
「最後に『
「……うん? どうかしたのかい?」
珍しいことに、ディートリンデが言い淀む。
それは本当に驚くべき成長だった。
無神経ノンデリ野郎だったディートリヒが、今では相手を気遣うまでに成長しているのだから。
「……まァ、いいかァ。貴様はショックも受けないであろォ」
そんなことはなかった。
躊躇は一瞬だけ、遠慮なく彼女はぶっちゃけた。
「
そんな、吐き気を催すような大悪を。
「……3rdルート、確か六道伊吹がラスボスのルートだっけ?」
「その通りである。故に、我が目指しているのもまた3rdルートに近いエンドであるぞ。我は全人類を死滅させても生き延びたいからなァ」
「……そうか、だったらぼくが────」
「────
それは眼帯を付けた男だった。
それは司祭服を着た男だった。
それは何処か獅子のような印象を受ける男だった。
「どう、なっているのであるッ、霧黎ッ⁉︎」
「殺したはずだよ。少なくとも、ぼくは彼の脳味噌を破壊した」
「ならばッ、何故生きている
死んだはずの男が立っていた。
「オレは、転生者を殺す。人類を滅ぼさせたりなんかしない」
「どの口でほざくッ! 我は無印のBルート──
かつて、首を切られてもなお一八ヶ月間動き続けたニワトリがいた。
レオンハルトはその状態に近かった。あらかじめ脊椎に仕込んでいた特殊な機械が、死亡したレオンハルトの身体を自動で動かす。
ここに彼の意思はない。ただ反射で動くだけ、会話が通じているように見えてもそれは幻覚に過ぎない。
だが、そんな事とは知らないディートリンデはレオンハルトの死体に向かって叫ぶ。
「邪魔をするなァ‼︎ ラスボスの恥晒しがァ……ッ‼︎」
「……………………」
ディートリンデの叫びに呼応するように、九相霧黎が異能を放つ。
《
「────」
(──は?)
その事に一番驚愕したのはディートリンデであった。
(死んだであるか? たった一撃で? 反撃もない。罠も、呪いも、何もない。……あり得ないッ! だったら何故この瞬間に動いたァ⁉︎ もっと油断した隙を狙えばよかったではないかァ……‼︎ で、あるならばァ……まさかッ)
呆然と。
唇から言葉が溢れる。
「
「今度こそ、アンタを殺しに来たわ」
「……ッ、
六道伊吹の異能感知。
そして、もう一人の協力者たるアドレイド。
転生者を誰よりも嫌う天命機関過激派であるレオンハルトは、それでも最期の最期にプライドよりも自身の役目を優先した。
即ち、大嫌いな転生者にこの世を未来を託したのだ。
「……なんでアンタ、女になってんの?」
「今更であるかァ⁉︎」
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
ファウスト
etc
▽転生者
六道伊吹
アドレイド・アブソリュート
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ