それは遥か彼方の静穏の夢の続き


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作:幸運の白兎
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少女の想い


◇某所

 

 夜のオラリオ、その路地裏。

 

 完全に人気のなくなったその場所では複数人の男が小さな小人族の少女に寄って集って暴行を加えていた。

 

 

「おらぁ!とっとと金寄越せ!」

 

 

「あんな大金を自分の物にしようだなんて、サポーターの分際で生意気なんだよ!」

 

 

 男達は口々にそう言って嘲笑いながら、その小人族の少女──リリルカ・アーデの持ち物を剥いでいく。

 

 彼らは見ていたのだ。

 

 あの白髪の少年から莫大な報酬(彼ら視点)を丸々譲って貰った瞬間を。

 

 それを奪うことに罪悪感は全く無かった。

 

 何故なら、彼女は自分達と同じファミリアの仲間(奴隷)なのだから、これくらいは許してもらわなければならない。

 

 ただでさえ、求める神酒は粗悪品ですら値段が高騰している有り様なのだ。

 

 そうなる原因を作ったのは、アストレア・ファミリアであったが、圧倒的強者である彼女らに逆らう気力など自分達は持ち合わせていない。

 

 だからこそ、神酒の価値の高騰は止めることは出来ないと彼らは悟っており、それ故にファミリアでも下の立場の者を搾り取ってでも、神酒を買うお金を集めるつもりだった。

 

 ・・・まともな人間が聞けば、眉をしかめるであろう利己的すぎる主張であったが、元から理性があるかどうかも怪しい上に、神酒の価値の高騰への焦りが見える彼らに、そんな一般論を言ったところでどうしようも事は明らかであり、リリルカもそれは最初から分かっていたことだ。

 

 故に、リリルカは今日のお金を“ノームの貸金庫”へと預けに行く予定だったのだが、まさか見張りまでされているとは思わず、結果として預ける前に奪われてしまうこととなった。

 

 

「ヘヘッ。やっぱり、たんまり持っていやがった」

 

 

「たくっ。こんな金、サポーターのこいつには持ったいねぇってのに。馬鹿な奴だぜ、あの白髪のガキ」

 

 

「次はアイツを直接狙ってみっか?」

 

 

 そんな男達の会話を痛みで蹲りながら聞いていたリリルカは思わず吹き出しそうになってしまった。

 

 おそらくこの男達は知らないのだろう。

 

 白髪の少年が第一級冒険者であることを。

 

 まあ、目立つ容姿ではあるものの、有名なファミリアに所属している訳ではなかったし、見た目は強そうには見えないのだからしらなければそう判断するのも当然と言えたかもしれないが、それにしても無知は罪なのだという事を改めて思い知らされる。

 

 

(第一級冒険者であるあの人に、こんなチンピラが何人掛かったところでどうこう出来よう筈も有りません)

 

 

 そうは思ったものの、その事を男達に知らせるつもりはこれっぽっちも無かった。

 

 むしろ、手を出して殺されてくれるのであればそれで良いとすら思っていたし、そこまで行かずともが捕らえられてガネーシャ・ファミリアの牢に収監されてくれるならば、それも良し。

 

 兎に角、この男達が酷い目に遭うのであれば、なんでも良いというのが今のリリルカの思いだった。

 

 

「・・・おしっ。こんなもんか。じゃあな、アーデ」

 

 

「もう悪さすんなよ」

 

 

「まあ、したらしたで、俺達の懐が潤う訳だから、構わねぇけどな。ギャハハハハハ」

 

 

 下品な笑い声を上げながら、男達はその場から去っていく。

 

 そして、後に残されたリリルカは仰向けになりながら、顔を手で覆った。

 

 

(・・・無様ですね)

 

 

 手に入れたお金はあっさりと奪われ、また目標が遠ざかったのを感じたリリルカは思わず自嘲してしまった。

 

 

(なんで、リリはこんなに弱いんですか!)

 

 

 そう言いながら思い出すのは、先程男達が話題に出した白髪の少年──ベル・クラネル。

 

 もし自分に彼ほどの力が有ったならば、こんな惨めな目には遭わなかっただろう。

 

 まあ、なまじ最初から強かったことで逆に暗黒期の頃に最前線へと投入され、そのまま死んでいた可能性もないでは無かっただろうが、それでもこんな立場で生きていくよりはよっぽど良いとリリルカは思っていた。

 

 

(強くなりたい・・・)

 

 

 強くなって自分を蔑む全ての者を見返したい。

 

 それは白き少年(ベル・クラネル)という憧憬を得たことで生まれ始めた少女の偽りなき想いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ヘファイストス・ファミリア ホーム ヴァルカの紅房

  

 ヘファイストス・ファミリア。

 

 それはオラリオで一番のブランドを持つ鍛冶ファミリアであり、ヘファイストス・ファミリア製を示す【Hφαιστοs】のロゴが入った武器は短刀で800万ヴァリス、紅の剣で3000万ヴァリスと、文字通りの意味で超高級品となっている。

 

 ちなみにこのロゴはベルの持つ日本刀式の剣──ヘスティア・ソードの鞘にも入っており、その事から過去に何度か狙われたこともあった。

 

 もっとも、ヘスティア・ファミリア以外の人間にとってはただの鈍らに過ぎないため、盗んでも端金程度の価値でしかないのだが、それは刀単品での話であり、もしロゴの入った鞘ごと売ったならば、それなりに高く売れたことだろう。

 

 それほど【Hφαιστοs】のロゴが持つ意味合いは大きいのだ。

 

 そして、今日、そんなヘファイストス・ファミリアのホーム──『ヴァルカの紅房』では、主神であるヘファイストスがベルを客人として招き入れていた。

 

 

「今日はよく来てくれたわね。話はヘスティアから聞いているわ。新しい防具が欲しいとの事だったわね」

 

 

「はい。一応、探してみたんですけど、丁度良い防具が無くて」

 

 

「でしょうね」

 

 

 ベルの言葉に、ヘファイストスは頷く。

 

 そもそも第一級冒険者という存在は、オラリオで40人にも満たない数しか居ない。

 

 そして、冒険者自身の力や対峙する敵が強いことなどから、彼らが持つ武器や防具は製造までにかなりのコストが掛かる。

 

 40人にも満たない人間のために最高品質の装備をそんな大量生産など出来る筈がなく、ヘファイストス・ファミリアなどといった大手の鍛冶ファミリアであっても、店頭や店棚に並べたりなどはしていなかった。

 

 

「第一級冒険者の武器となると、基本的にオーダーメイドよ。だから、あなたにはそれを作って貰う鍛冶師をまず選んで貰う必要があるわ」

 

 

「はい。でも、どうやって選べば・・・」

 

 

「まずはこっちに来て」

 

 

 そう言いながら、ヘファイストスはベルを連れて別の場所へと移動していく。

 

 そして、目的の部屋へと着くと、そこには大量の防具が用意してあった。

 

 

「うわぁ。防具がこんなに」

 

 

「うちの団員達が作った装備品よ。第一級武装は無いけど、椿が作った物から、まだランクアップを果たしていない子の作品まで用意してあるわ」

 

 

「へぇ~」

 

 

 ヘファイストスにそう言われ、改めてよく見てみると、並べられた防具の質はバラバラであったし、同じくらいの質に見える作品も作者のクセなのか、かなり出来に違いがある。

 

 同じファミリアでも、団員によって作る作品の質や出来は違うんだなとベルは思った。

 

 

「あなたにはここから自分が良いと思った防具を選んで貰うわ。そして、それを作った子にあなたの防具を作らせる」

 

 

「なるほど」

 

 

 ベルはヘファイストスの言葉に納得の意を示す。

 

 確かに主神の友神であるヘファイストスが太鼓判を押してくれるような鍛冶師なら、腕が一流であることは疑いようがない。

 

 しかし、それでも実際に使う側と鍛冶師の間でも相性というものがあるのは事実であり、例えば重量系の防具を作る事を得意とする鍛冶師に、スピード重視のベルの装備を作らせるのは、幾らその鍛冶師が一流であっても無理があるだろう。

 

 それ故に、使う側が『コレだ!』と思った鍛冶師に作らせるのが一番だというヘファイストスの理屈は大いに納得できるものだった。

 

 

「まあ、とは言っても、一杯有るからゆっくり選んでくれて結構よ。選び終えたら、その防具を持って私の部屋まで来て頂戴」

 

 

「はい!」

 

 

 ベルがそう言うと、ヘファイストスは部屋を出ていく。

 

 選ぶのに付き合ってくれないところを見るに、おそらく忙しいのだろう。

 

 ベルはそんなヘファイストスに時間を取らせてしまったことを内心で謝罪しつつ、部屋に並べられた防具を見始める。

 

 

「これは良い出来だけど、僕には合わなさそうだし、こっちもなんかこうシックリ来ないんだよなぁ」

 

 

 そのような事を言いながら、一つ一つ手に取って見ていくベル。

 

 鍛冶に関しては全く知識のないベルであったが、どんな作品が良いかは多少目利きすることは出来る。

 

 それ故におそらく上級鍛冶師(ハイスミス)であろう人物が作った物とそうでない物くらいは識別できるのだが、今のところ、おそらく上級鍛冶師が作ったであろう作品の中に、『コレだ!』と言えるものは見当たらなかった。

 

 

(これだけ有ると、選ぶのも大変だなぁ)

 

 

 この部屋に置かれてある防具は流石に100にこそ届かないが、おそらく80は下らないだろう。

 

 そんな中から、これだと思うものを選別しなくてはならないのはそれなりに骨が折れるし、そもそも見つかるかどうかも分からない。

 

 しかし、だからと言って、いい加減に済ますつもりはベルにはなかった。

 

 なにしろ、場合によっては自分の命にも関わってくるかもしれない問題なのだから。

 

 

「うーん。これもちょっとな。もうちょっとスピードを考慮した設計でやってくれると・・・ん?」

 

 

 ベルはそこで1つの防具に目が止まる。

 

 

「これは・・・」

 

 

 その防具から何故か目が離せなかった。

 

 そして、実際にその防具を手に取ってみると、まるで雷が走ったかのような衝撃が伝わってくる。

 

 まるで自分の求めていた物は、最初からコレだったのだと伝えてくるように。

 

 

「・・・これに決めた。うん、コレにしよう!」

 

 

 そう言いながら、ベルは嬉しそうに部屋を出てヘファイストスの下へと向かっていく。

 

 ベルが選んだ防具。

 

 その名は兎鎧(ピョンきち)МK−Ⅱ。

 

 別の世界(原作)の少し前の時間軸でベルが購入したヴェルフ・クロッゾ作の鎧だった。




セシル・ブラックリーザ

レベル3。アストレア・ファミリア唯一の鍛冶師。原作ではレベル2であったが、本作ではオラリオのダンジョンで鍛えられた結果、レベルが一つ繰り上がった。原作においては新生アストレア・ファミリアの団長を務めていたが、本作ではアリーゼ達が健在のため、暗黒期以降に入ってきた新入団員のリーダー的な立ち位置となっている。
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