それは遥か彼方の静穏の夢の続き


メニュー

お気に入り

しおり
作:幸運の白兎
▼ページ最下部へ


10/12 

光と闇


◇廃教会 地下室 ヘスティア・ファミリア ホーム

 

 

「う〜ん。防具かぁ」

 

 

「はい。なんとかなりませんか?神様」

 

 

 懇願するようにそう言うベルに、ヘスティアはどうしようかと頭を悩ませる。

 

 リューと別れ、ホームに帰還したその日の夜。

 

 ベルは喪失した防具の代わりについて、ヘスティアに相談していた。

 

 本来ならば、鍛冶神でもないヘスティアに新しい防具を調達する相談をするというのも可笑しな話であり、ヘファイストス・ファミリアかゴブニュ・ファミリアにでも行くべきであったが、第一級装備品という代物はそれらのファミリアであっても容易く調達は出来なかったし、なにより多額の出費になる以上、主神にも相談するべきだと思い、こうして話を持ちかけていたのだ。

 

 

「まあ、ヘファイストスに相談すれば調達するだけならなんとかなるだろうけど、問題はお金の方だなぁ。ただでさえ、ヘスティア・ソードの借金は返せてないわけだし」

 

 

「そっちは僕がなんとかします。今はダンジョンでの活動を再開する方を優先させたいんです」

 

 

 確かに防具、それも第一級冒険者が装備する代物となると数千万ヴァリスは掛かるだろうが、そもそも今の状況ではダンジョンに潜らなければ、ろくに借金の返済も出来ないだろう。

 

 ダンジョンでは上層でも数千ヴァリス程度なら1人で稼げるのに対し、ヘスティアのバイトの時給がたった30ヴァリスであることからも分かるように、地上とダンジョンで稼げる金額には雲泥の差があるのだから。

 

 最悪、防具抜きでダンジョンに潜る手も無いではないが、安全地帯である筈の地上や18階層で強敵に襲われたように、このオラリオでは何処で何が起こるのか分からないので、準備は万全にしておきたいというのがベルの意見だった。

 

 

「・・・分かった。ヘファイストスに頼んで何か良い防具が無いか聞いてみるよ。ボクもベル君には怪我をして欲しくはないしね」

 

 

「! ありがとうございます!!神様!」

 

 

「うん。ただし、明日はゆっくり休んで英気を養うんだ。丁度、明日はボクのバイトも休みだし、ホームでゴロゴロしてよう!」

 

 

「はい!」

 

 

 ヘスティアらしい休日の過ごし方の提案を、ベルは望みが叶った事もあって、喜んで肯定する。

 

 この時、彼らの日常は間違いなく光に包まれていた。

 

 ──だが、“光有らば闇有り”と言うように、日常が闇に包まれている者も存在する。

 

 ベルが夕方に会った小人族(パルゥム)の少女──リリルカ・アーデもその1人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇某宿

 

 

「ヘスティア・ファミリア。ベル・クラネル」

 

 

 オラリオ某所の安宿。

 

 その一室にて、栗色の髪をした少女──リリルカ・アーデは夕方に会った自身が今度の獲物と定めた少年の事を思い出す。

 

 正義感の強そうな少年だった。

 

 髪と同じ真っ白な心を持っていそうな少年で、少なくとも一般的な冒険者のような粗雑さは見受けられない。

 

 ──だが、それは外見だけだとリリルカは判断している。

 

 実際、彼女の今まで会ってきた冒険者のほぼ全てがそうだった。

 

 一見、穏健そうな人間でも窮地に陥ると彼女を囮にしようとしたり、分け前を寄越さず、酷い時には暴力を振るう。

 

 あの少年もまた冒険者である以上、そういった人間の仲間であるのは間違いない。

 

 

「でも、これまでの冒険者とは段違いの実力を持っている」

 

 

 既にベル・クラネルに関する情報収集は終えていた。

 

 オラリオ外から来た第一級冒険者。

 

 現在、世界中に居る第一級冒険者の9割以上がこのオラリオに在籍しており、それ以外の第一級冒険者もその殆どがオラリオのダンジョンで第一級冒険者に至っている。

 

 それほどオラリオの中と外では育成環境が全く違うのだ。

 

 だからこそ、オラリオ外で第一級冒険者に至ったベルが注目されるのは至極当然と言え、それ故に情報収集も簡単だった。

 

 

(こんな人物を狙わなくてはならないなんて・・・それもこれも、あの偽善者達のせいです!)

 

 

 思わず歯軋りをしてしまうリリルカ。

 

 本来、幾ら相手がオラリオでの活動が初心者に近いとは言っても、第一級冒険者などという化け物を獲物にするのはリスクがあまりにも高すぎる。

 

 少なくとも、少し前までのリリルカであれば、絶対に手出しなどしなかっただろう。

 

 しかし、今のリリルカにはのっぴきならない理由がある。

 

 実は彼女の所属する派閥であるソーマ・ファミリアはついこの前まで、主神が造る酒──神酒によって様々な問題を引き起こしており、それ故に最近治安維持活動に戻ったファミリア──アストレア・ファミリアに目を付けられてしまった。

 

 元々、ソーマ・ファミリアは暗黒期時代から小規模な犯罪を繰り返していて、当時は闇派閥が起こす事象と比べると、あまりにも小悪党な存在であったことから見逃されていたのだが、闇派閥の殆どが消滅し、残った僅かな勢力も地下に潜った今の時代では悪目立ちし過ぎており、その結果、治安維持活動に復帰したばかりのアストレア・ファミリアの介入を招くことになったのだ。

 

 そして、当初は自由を得られる、あるいはそこまで行かずとも待遇が大幅に改善されると期待してかのファミリアの介入を歓迎していたリリルカであったが、その期待はすぐに裏切られた。

 

 アストレア・ファミリアは派閥の運営の改善までには手を付けず、あくまでトラブルの元である神酒(ソーマ)の製造・販売禁止などの処置に留めたのだ。

 

 その為、リリルカの待遇改善には直結せず、それどころか資金と酒が得られなくなったことで気が立った他の団員達に頻繁に暴力を振るわれるようになり、結果的に以前よりも状況は悪化してしまっていた。

 

 このままでは命に関わる。

 

 そんな事情から、リリルカは多少リスクを犯してもファミリアの脱退金を早急に集めるべきだという強迫観念に駆られていた。

 

 

(何が正義の眷属だ!いっそのこと、主神を送還でもしてくれたら、リリは自由だったのに!!)

 

 

 そんな事を思いながら、リリルカは辺りの物に当たり散らす。

 

 彼女は中途半端な介入をして状況を悪化させたアストレア・ファミリアを当然の事ながら恨んでいた。

 

 むしろ、それなりに期待していた分、割を食った他の団員よりも憎悪が深かったと言える。

 

 出来れば報復したかったのだが、元々サポーターしか出来ない事から暴力を振るわれ続けてきた身。

 

 直接的な報復など出来る筈もなく、また間接的な報復も相手が少数とはいえ、有力派閥であることとバレないという保障はない事から実行する勇気がない。

 

 この事実もまた、リリルカの心を荒立たせていた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

 そうして一頻り暴れて疲弊したのか、リリルカは息を切らす。

 

 辺りはすっかり散らかってしまっていたが、それを気に留める心の余裕は今の彼女にはなかった。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・良いでしょう。精々やってやります!奪ってやります!!例えどんな者が相手であろうと!」

 

 

 そう宣言するリリルカの髪と同じの茶色の瞳には狂気と憎悪が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇2日後 オラリオ 中央広場

 

 

「うん。すっかり治ってる。これなら大丈夫そうだ」

 

 

 ナァーザから出された薬と昨日1日ゆっくり休んだことですっかり全開した左腕をぐるぐると回しながら、ベルは満面の笑みでそう言った。

 

 防具はまだ揃っていないので、ダンジョンの奥にはいけないが、素手でも倒せる程度のモンスターしか居ない上層なら問題はない。

 

 問題は一つ一つの稼ぎが少ないことだが、そこは量で埋め合わせれば問題ないだろう。

 

 そんな事を考えながら、ベルはバベルに向かおうとする。

 

 だが、その時──

 

 

「お兄さん、お兄さん。白い髪のお兄さん」

 

 

 1人の小さな背丈の少女が声を掛けてきた。

 

 そして、声に反応して顔を少女へと向けるベルに、少女はこう言葉を続ける。

 

 表面は愛想良く、内面には憎悪と軽蔑の炎を宿しながら。

 

 

「サポーターをお探しではありませんか?お兄さん」

 

 

 ───かくして、(リリルカ・アーデ)(ベル・クラネル)は交わった。




リリルカ・アーデ

レベル1。基本的には原作と同じだが、本作ではベルに救い出される前に派閥の運営が事実上停止してしまった為、待遇がより悪くなり、その結果、原作以上に人間不信になってしまっている。
10/12 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する