作:幸運の白兎
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◇ダンジョン 中層
「はあぁぁあああ!!!」
叫び声を上げながら、ベルはヘルハウンドの群れをヘスティア・ソードで切り裂いていく。
あの騒動から一夜が明け、もっと強くならなければという使命感に駆られたベルは、ダンジョンに潜ってひたすらモンスターを撃破していった。
既にこの日だけで狩られたモンスターはミノタウロスを含めて100体を超えており、これだけでも気合の入れようが分かるだろう。
(駄目だ。この程度のモンスターじゃ、幾ら倒しても強くなれない)
辺りのモンスターを全て駆逐したベルは、魔石とドロップアイテムを拾いながら溜息をついた。
元々、この辺りで一番強いミノタウロスでさえ、ベルとはレベル3つ分の差があるのだ。
基本的にレベル差は1つ違えば圧倒的、2つ違えば勝負すら成立しないので、レベル3つ分の差だとおそらくその気になれば目隠しをしても勝てるだろう。
まあ、ステイタスに反映されない技と駆け引きなどによっては話も違ってくるが、それとて刀と槍の法則宜しく1つレベルを覆すだけで上の人間の3倍の技量、2つ上だと10倍近い技量差が必要になるので、とても現実的ではないし、そもそもモンスターが技など覚えている訳がない。
そういう訳で、ベルはモンスターを一方的に蹂躙できてはいたが、あまり強くなっているとは言えない状態だったのだ。
(・・・やっぱり中層レベルのモンスターじゃ駄目か。丁度、エイナさんもそろそろギルドから遠征の
それはギルドからDランク以上のファミリアに定期的に発令されるものであり、オラリオに所属するファミリアならば必ず受けなければならないもので、主に突発的な命令と定期的な遠征の2つの種類がある。
今回の場合は後者だが、ヘスティア・ファミリアもファミリアのランクはDとされているので、当然の事ながら遠征にも赴かなければならない。
そして、エイナに聞いたところ、Dランクファミリアの遠征は大体中層後半から下層前半になることが多いとのことなので、これを機に下層に降りてみるのも有りかもしれないとベルは考えていた。
(でも、問題なのは遠征の
そう、遠征の
行った証拠として指定された物品をある程度持ち帰らなければならないのだ。
地形の情報ならばギルドの書庫から資料を借りればなんとかなるが、ドロップアイテムや資材などを拾いつつ、モンスターを相手をするという作業を1人でこなすのは、幾らベルが第一級冒険者でも流石に無理がある。
(・・・サポーターを雇うこと。真剣に考えてみるか)
サポーター。
ダンジョン内での荷物持ちや魔石、ドロップアイテムの採取など、文字通りの意味で冒険者のサポートをしてくれる存在。
今までのベルはオラリオの外で活動していた為に縁がなく、エイナに説明されてもその重要性が分からずにいたが、こうして実際にダンジョンに潜ってモンスターを狩る度に魔石やドロップアイテムを拾わなければならない手間を考えると、その重要性は十分に理解できた。
(でも、中層や下層まで同行してくれるようなサポーターなんて居るのかなぁ)
これまたエイナに聞いたことであるが、サポーターの中には他派閥に雇われるフリーの存在が居ると聞いているが、そういうサポーターの活動領域は大抵が上層で、中層や下層に潜るようなサポーターは自派閥と組むことが殆どらしい。
まあ、考えてみれば当然だった。
そもそも他派閥と組むようなサポーターは、能力が無いことで自派閥で爪弾きにされているような者くらいしか居ないのだから。
(それか別の派閥の人とパーティを組むとか?でも、僕にそんな人脈無いし)
この3週間でベルはそれなりの数の冒険者と出会ってきたが、現状明確に交流があると言えるのは、ミアハ・ファミリアの団長──ナァーザ・エリスイスくらいのものだ。
だが、ナァーザはトラウマもあってダンジョンには潜れないという話であるので、無理強いは出来ない。
(どうしようかな・・・)
ベルは色々と考えを巡らせながら、更に下の階層へと降りていった。
◇18階層 リヴィラの街
18階層。
そこは中層の丁度中間地点であり、モンスターが生まれないダンジョン初の
この階層には上級冒険者達によって1つの街が築かれており、商店や宿なども有るのだが、あまりにも高額すぎることから、ここで買い物をする者や泊まる者は殆ど居らず、大抵はあらかじめ持ってきた物や天幕などを郊外に設置して寝泊まりしたりしている。
ベルもまたこの街には何度か訪れていたが、一度ある宿で寝泊まりして高額な代金を請求された手痛い経験をしたことから、ダンジョンの外に居た頃のように天幕で寝泊まりするようにしていた。
だが、この日はあまりにも多くのドロップアイテムや魔石を拾いすぎたことから、買い叩かれることは分かりつつも、どうにか処理するためにリヴィラの街へとやって来ている。
そして、換金を終えてリヴィラの街から去ろうとした時、ベルは見覚えのある顔を見つけて声を掛けた。
「あっ。ハシャーナさん!お久し振りです!!」
「ん?ああ、坊主か。久し振りだな!と言っても、まだ一月も経ってねぇが」
ベルを見てそう笑い掛けた男。
彼の名はハシャーナ・ドルリア。
初めてオラリオに来た際にベルに対応したガネーシャ・ファミリア所属の門番であり、二つ名は【剛拳闘士】。
レベルは4と、ファミリアでは2番目に高く、上級団員的な立ち位置に居る。
「ええ」
「ここに居るって事はもう中層に進出したのか。まあ、第一級冒険者だから、そうなるのも当然かもしれんが」
そう言いながら、ハシャーナは3週間前のことを思い出す。
あの日、ベルがやって来て恩恵を確認した際、
その後、
とはいえ──
「すまねぇな。本当ならゆっくりと雑談でも交わしたいところなんだが、今は先客が居てな」
ハシャーナはちょいちょいと後ろに控えていた如何にも眠たげな目付きをした赤髪の女性を指差しながらそう言った。
「同じファミリアの人ですか?」
「いや、そうじゃねぇんだが・・・まあ、一言で言っちまえば、これから体を重ね合わせる関係だな」
「体を重ねる?」
その意味が分からなかったベルは首を傾げる。
ベルはダンジョンの外で旅をしたことで大体の事は学んでいたが、性知識に関しては殆ど成通していなかった。
当然だろう。
まだ14歳で子供の年齢だということはあったが、それ以上に周囲には教えてくれる人間が居なかったのだから。
いや、厳密に言えば
「なんだ?意味を知らねぇのか?なら、今度歓楽街にでも連れてって教えてやるよ」
「えっ? いや、良いですよ。そんな・・・」
「遠慮すんなって。それくらいの時間は取れるからよ。そういう訳だから、今日のところは引き下がってくれや。俺も依頼を終えて疲れているから、女を抱いて疲れを癒した──」
「───なに?」
ハシャーナの言葉にそう言って反応したのは、ベルではなく、彼の後ろに居た赤髪の女性。
そのあまりに冷たい声に、ハシャーナは思わず後ろを振り向くが、その直後、女性はハシャーナの顔を鷲掴みにした。
「言え。今のはどういう事だ?」
「あっ・・・ぐっ・・・」
女性はそう尋ねながら、片手で鷲掴みにした状態のまま、ハシャーナの体を宙に浮かせる。
そして、ゆっくりと力を込めて顔を握ると、ギチギチという音を立てながら、ハシャーナは苦悶の声を上げた。
「ハシャーナさん!!」
何がなんだか分からなかったが、これ以上見ているだけなのは不味いと、ベルはハシャーナを掴んでいる女性の腕を握りなからすぐに引き剥がそうとする。
だが──
(なっ!?嘘だろ!)
結構強めの力で握り締めたものの、その腕はビクともしなかった。
この時点でのベルの力のアビリティは、先日のオッタル襲撃によって急上昇しており、Eにまで上がっている。
加えて、4度のランクアップにおいても最終更新時の力のアビリティは全てAかSの状態でランクアップしていた為に、その潜在能力値も高い。
そんなベルが多少手加減はしていても強めに力を込めれば、格下は勿論、同格の人間ですらハシャーナから腕を放さざるを得なくなっていただろう。
――だが、この女性はそんなベルの腕力を以てしてもビクともしていない。
これは明らかに目の前の女性が最低でもレベル6並の筋力を持っていることを意味しており、ベルはその事実に驚愕せざるを得なかった。
「邪魔だ」
自身の腕を握り締めるベルの事を鬱陶しく思ったのか、女性──レヴィスはもう片方の手でベルに殴り掛かった。
「ッ!? ぐっ!」
それを見たベルは咄嗟に腕で受け止めるも、その衝撃を完全に殺し切ることは出来ず、そのまま向かいの建物の壁へと吹っ飛ばされる。
それを見たレヴィスは興味が失せたのか、ベルが吹っ飛ばされた建物から目を逸らすと、再びその視線をハシャーナへと向け、先程と同じ問い掛けを行った。
「もう一度聞くぞ。お前が30階層から持ち帰った荷物。あれは何処にやった?」
「し・・・知る・・・か、よ」
「──そうか」
「ぐぎゃあああああ!!」
望んでいない答えを返されたことで、レヴィスは更に強くハシャーナの顔を握り締める。
ミチミチと鳴ってはいけない音が鳴り、ハシャーナは思わず悲鳴を上げた。
この頃になると異変に気づいたのか、リヴィラの冒険者達も2人の周辺にやって来るが、そのあまりに異様な雰囲気に圧倒されたことで、介入することが出来ずにいた。
「これが最後だ。お前が持ち帰った荷物は何処にある?」
「ぎっ・・・しら・・・ん」
「そうか。なら、もう用はない」
レヴィスの最後通牒をハシャーナは息も絶え絶えになりながらも突っ撥ね、それを聞いたレヴィスはつまらなそうな顔をしつつ、ハシャーナの顔を今度こそ握り潰すためにその手に力を込めようとした。
だが、その時──
「ふっ!!」
先程ベルが吹っ飛んだことで倒壊した壁から、1つの白い影が飛び出して来た。
そして、その白い影──ベルは敢えて刀――ヘスティア・ソードの刀身を引き抜かず、刀の柄をレヴィスの顎目掛けて打ち上げる。
突然の出来事であった為か、反応が遅れたレヴィスは、その攻撃を防ぐことが出来なかった。
「ぐっ!」
顎への攻撃をまともに受けてしまったレヴィスは脳震盪を引き起こし、思わずハシャーナを離してしまう。
ベルはその隙を突き、ハシャーナを回収しながら一旦距離を取った。
「大丈夫ですか!?ハシャーナさん!」
「うっ・・・ううぅ・・・」
意識は朦朧としているものの、確かに生きている。
それを確認したベルは一先ず安堵しつつ、ハシャーナからレヴィスへと視線を移す。
そして、視線を向けられたレヴィスは先程の攻撃の影響がまだ残っているのか、頭を抑えながらベルを睨み付ける。
「やってくれたな。冒険者」
「あなたにどんな事情があるのかは知りません。でも、ハシャーナさんを殺そうとしたことを見過ごす訳にはいかない!」
「ふんっ」
レヴィスはベルの言葉に鼻を鳴らしながら、周囲の状況を見た。
辺りには既にリヴィラの冒険者が多数集まっており、その大半は武器を持っている。
状況がよく分かっていない為か、未だに介入してくる気配はないが、これ以上戦闘を続ければ流石に介入してくるだろう。
もっとも、それでもこの場に居る全員に勝つことは不可能ではなかったが、今しがた垣間見たベルの実力を加味すると、自分の方が負ける可能性も決して少なくはなく、相当な無理をしなければならない。
加えて、そこまでして戦闘を続けたとしても、現状では自己満足以外の成果が得られるかも怪しかった。
なにしろ、ここにはレヴィスの目当ての物がない可能性が非常に高いのだから。
(ちっ。一旦引いて体勢を建て直すか)
これ以上ここに居ても自身にとって良いことはない。
そう判断したレヴィスは、撤退という選択肢を選んだ。
「小僧。この場での勝負は預けておく。だが、次会ったら必ず殺す」
レヴィスはそう言い捨てながら、その場から逃げ去っていく。
その逃げ足はやはり第一級冒険者に相当するもので、この場にいる冒険者ではベル以外では追うことは不可能だった。
「・・・」
しかし、当のベルはレヴィスを追うことはせず、彼女の気配が遠ざかったことを確認すると、まだ生きているハシャーナを介抱するために持っていた