それは遥か彼方の静穏の夢の続き


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作:幸運の白兎
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怪物祭


 

 怪物祭(モンスター・フィリア)

 

 ダンジョンで捕獲したモンスターを調教し、それを見せつけるというお題目のこのお祭りは、5年前にガネーシャ・ファミリアがギルドの許可を取り付けたことで始まった。

 

 始まった当時は色々物議を醸したこの祭りであったが、流石に5度目ともなると民衆も冒険者達も慣れてきたのか、今では単純な祭りの1つとして楽しまれている。

 

 実のところ、このお祭りはある狙いが隠されているのだが、それを知っている人間は主催する側であるガネーシャ・ファミリアでも少なかったし、知ったとしても“ある存在”を知らなければ、何故そんな事をするのかも全く分からないだろう。

 

 それ故に、ガネーシャ・ファミリアの団員の大半は、怪物祭の事を主神が突然言い出した“単なる新たなお祭りの1つ”として認識していた。

 

 ──だが、それは逆に言えばキチンと“お祭りの意図”を知っている団員も少数ながら居るということでもある。

 

 

「───協力、ありがとう。君のお蔭で捕まえられたよ」

 

 

「いえ、どういたしまして」

 

 

 青髪のセミロングをした美女──アーディ・ヴァルマのお礼の言葉に、ベルはそう言って返す。

 

 彼女の手にはたった今、スリを働き、ベルに捕らえられたばかりの男性の両手が後ろ手に握られており、これから彼は彼女が所属するファミリア──ガネーシャ・ファミリアの牢屋へと連行されることとなるだろう。

 

 

(しかし、見るからに恩恵を受けた冒険者の両手を片腕で握ってビクともしないなんて。この人、かなり強いんだろうな)

 

 

 外見だけではあまり強そうには見えないが、そんな見た目とは裏腹の隙の無さ、そして、明らかに恩恵持ちであろう犯罪者を片手で拘束する姿は、彼女が相当な実力者であることを窺わせるには十分だった。

 

 まあ、元々、出会った際にガネーシャ・ファミリアの副団長(・・・)であると紹介されていたので、それなりに強いであろうことは察していたが。

 

 

「いや、まさかこんなところで君に再会するとは思わなかったなぁ。休暇が取れたら、あの時語れなかったアルゴノゥトの話を友達のティオナも交えてしようと思っていたんだけど、なかなか予定が合わなかったし」

 

 

「そうだったんですか」

 

 

「うん。だから、近いうちに時間が出来たら、君のところのホームに行かせてもらうね」

 

 

「あっ、はい。何時でも来てください。・・・あまり人を迎えるのに適した場所とは言えませんけど」

 

 

 自分達のホームが廃教会であることを思い出しながら、ベルは最後に付け加えるようにそう呟くが、その意味はヘスティア・ファミリアのホームのことを知らないアーディには当然意味が分からず、首を傾げる事となった。

 

 だが、すぐに自分の仕事を思い出す。

 

 

「さて、それはそれとして私はこの人を連行しないといけないんだけど、こういう他のファミリアの人が犯罪者を捕まえた場合、君にもガネーシャ・ファミリアの本部に来て聴取を取ってもらわなくちゃならないんだ。だから、一緒に来てくれるかな?」

 

 

 アーディは申し訳無さそうにベルに対してそう言っていた。

 

 そう、実はオラリオにおいて逮捕権が存在するファミリアはガネーシャ・ファミリア、そして、特例として認められているアストレア・ファミリアのみだ。

 

 それ以外のファミリアや一般市民が犯罪者を捕まえた場合、事実確認のために犯罪者を突き出した人間もガネーシャ・ファミリアかアストレア・ファミリアの聴取を受けなくてはならないという決まりがある。

 

 暗黒期の時は犯罪が多すぎたせいで表面的な治安回復が優先され、そこら辺はアバウトになっていたが、余裕が出来た現在ではそれが厳格化されており、聴取にそれなりの時間が掛かるようになっていたのだ。

 

 折角、お祭りを楽しんでいた心優しそうな少年にそんな事で時間を取らせるのはアーディとしても心苦しいが、だからといって、規則を破るのは不味い。

 

 姉が亡くなる以前(・・・・・・・・)の一団員としてならばあまり問題なかったかもしれないが、今のアーディには“立場”があるのだから。

 

 

「えっと。それは・・・」

 

 

 そんなアーディの言葉に、ベルは何処か困ったような顔をする。

 

 別に後ろめたい事情があるわけではないので、普段ならば『別に構いません』と了承していただろう。

 

 だが、今のベルはリューからの頼まれ事を引き受けており、しかもその内容も『シルに財布を届ける』という割と重要なものだ。

 

 である以上、あまり時間を取られたくはない。

 

 しかし、だからといって意固地に断るほどの大義名分になるとも思えず、少し迷った末にアーディの言葉に従うことにした。

 

 

「分かりました」

 

 

「ごめんね。その代わり、良いものを見せてあげるから!」

 

 

 アーディはウィンクしながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇1時間後

 

 

「わぁ」

 

 

 事情聴取を終え、アーディに連れられてとある場所にやって来たベルは感嘆の声を漏らす。

 

 

「改めて近くで見ると凄いですね。モンスターって」

 

 

 そう、いまベルが見ているのは、怪物祭のメインとなる調教されたモンスター達の一部。

 

 バットバットやニードルラビットといった上層のモンスターは勿論、ヘルハウンドなどの中層のモンスターやユニコーンなどの稀少種まで居た。

 

 ダンジョンに居た時はすぐに倒してしまうので、実感は沸かなかったが、こうしてじっくり見ると改めて自分が戦ってきたモンスターという存在の凄さが分かる。

 

 

「これはダンジョンから捕まえてきてるんですか?」

 

 

「うん。調教師(テイマー)という資格があってね。私も持っているんだけど、特殊な魔道具で魔石に魔力を流し込んで、従わせるの。まあ、普通はそれでも確実とは言えないから、鞭とかで人間に逆らえないように恐怖を覚えさせたりするんだけど、私はそういうのは嫌いだから」

 

 

「そうなんですか」

 

 

 表面だけでなく、根本的な部分で凄く優しい人なんだな。

 

 ベルはアーディの話と優しげにモンスターの頭を撫でる姿を見てそんな事を思った。

 

 この世界の人間は、冒険者・一般民衆を問わず、モンスターをいっそ過剰とも思えるくらいに恐れている。

 

 それはモンスターが普通の肉食動物とは違い、人を見かければ必ず襲ってくるという習性が起因しており、人類はそれが原因で3000年以上モンスターとの生存競争を繰り広げてきた。

 

 そして、何千年という単位での人類とモンスターの戦争は、人類がモンスターに対する防衛本能を骨の髄まで染み渡らせるのには十分な期間であり、今を生きる人間にモンスターにプラスの感情を抱く者はほぼ居ないと言っても過言ではない。

 

 特に冒険者であるならば尚更だ。

 

 だが、そんな中、彼女はモンスターが敵意を見せないというだけで、こうして気軽に触れ合っている。

 

 これは人によっては“怪物趣味”という誹りを受けることになるのだろうが、ベル自身は彼女の人柄を快く思っていた。

 

 

「でも、その事で“怪物趣味”なんて言われることもあるんだ」

 

 

「あ~。やっぱり、そうなりますか」

 

 

「うん。まあ、そう言われても仕方の無いことはしているから、しょうがないと言えばしょうがないんだけどね」

 

 

 そう言うアーディは少し悲しげな表情を浮かべた。

 

 当たり前だ。

 

 他人に関心を持たないタイプの人間なら兎も角、アーディのような他人と積極的に関わろうとする社交的な人間が、他人から悪口を言われて何も思わない訳が無い。

 

 まあ、彼女もそれを覚悟の上でこのような行為をしているのだろうが、それでも悲しいものは悲しいというのが本音だろう。

 

 

「・・・ねぇ。アーディさん。僕も触ってみても良いですか?」

 

 

「えっ?う、うん。良いけど、少し危ないかもしれないよ?」

 

 

「大丈夫です。こう見えても、第一級冒険者ですから。このくらいの階層のモンスター相手ならばなんの問題もありません」

 

 

「あっ。そう言えば、そうだったね」

 

 

 ベルがオラリオにやって来た日、その事で大騒ぎになったことを思い出したのか、アーディは思わず苦笑してしまう。

 

 

「じゃあ、良いよ。でも、気をつけてね」

 

 

「はい」

 

 

 そう言うと、ベルはアーディにじゃれつくモンスターの内の1体──アルミラージへと近づいていく。

 

 そして、ベルがそのモンスターを選んだのを見たアーディは思わず吹き出してしまいそうになったが、当のベルはそれに気づくことなく、慎重にゆっくりと手を近づけていき、やがてその手をアルミラージの頭へと乗せる。

 

 

「・・・大人しいですね」

 

 

 大人しく撫でられるアルミラージは気持ちよさそうに身動ぎしている。

 

 そんな姿を見て、ベルも当初モンスターに対して抱いていた警戒心を徐々にだが緩めていく。

 

 

「うん。さっきも言ったけど、襲わないようにちゃんと躾ているからね。・・・まあ、それでもここまで懐いているのは、それだけが理由じゃないんだろうけど」

 

 

「えっ?何か言いましたか?」

 

 

「ううん。なんでもないよ。それよりベル君。少し聞きたい事があるんだけどさ」

 

 

 敵意がない、それも喋るモンスターが居たとしたらどうする?

 

 アーディはそれをベルに聞きたかった。

 

 ガネーシャ・ファミリアは現在オラリオに存在するファミリアの中で一番異端児(ゼノス)という存在に近いファミリアだ。

 

 しかし、そんなファミリアでさえ、異端児(ゼノス)の事を知っているのは極一部の団員のみ。

 

 おまけにその極一部の一人である団長のイルタ・ファーナはどちらかといえば交流反対派の人間であり、姉の忘れ形見である自分が賛成しているから仕方なく黙認しているといった感じになっている。

 

 そんな状況故に、アーディは例え自身のファミリアの所属でなかったとしても、出来るならば味方を増やしたいと常々思っていたのだ。

 

 だからこそ、ベルにそんな問いかけを行い、もし返ってくる返事がアーディの望んでいるようなものなのであれば、異端児(ゼノス)の事を話そうかとも考えていた。

 

 だが、それは喉元まで出かかったところで押し留められる。

 

 

(いや、駄目だ。流石に知り合ったばかりの子を巻き込むわけにはいかない)

 

 

 異端児(ゼノス)の事はこの街、いや、世界中の人々にとって間違いなく爆弾になりうる。

 

 バレれば議論を醸し出すだろうが、現時点ではそれが悪い方に傾く可能性が高い。

 

 それほど人々のモンスターへの恐怖と憎悪は骨の髄まで染み渡っているのだ。

 

 だからこそ、この情報は同業者と言っても良いアストレア・ファミリアにすら秘匿されている。

 

 そんな事にまだ2回だけ会っただけの子を巻き込むわけにはいかない。

 

 アーディはそう思い直し、ベルに対してこう言い直した。

 

 

「いや、ごめん。やっぱり、なんでもないよ。気にしないで!」

 

 

「は、はぁ」

 

 

「それよりあっちの子も良い子だから。ほら、触ってみて!」

 

 

「えっ、ちょ、ちょっと!アーディさん!?」

 

 

 戸惑いながらも、ベルはアーディに導かれる形で他のモンスターに触れ合っていく。

 

 それは『シルに財布を届ける』という用事を思い出す数分前。

 

 ──そして、モンスターの脱走騒ぎが起こる三十分前の出来事だった。




アーディ・ヴァルマ

レベル5。ガネーシャ・ファミリア副団長。原作では大抗争で死亡しているが、本作では大抗争の日付が若干ズレた結果、生存。アストレア・ファミリアと共に最終決戦に参加する。大抗争後、レベル4にランクアップ。更に2年後にはジャガーノートに遭遇し、姉を亡くしてしまうも、見事ジャガーノートを討ち果たしてレベル5にランクアップした。異端児の事は知らされており、彼らとの友好関係を築きたいと思っている。
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