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初夜

 アルトの魂からの叫びがリンザローテの耳を打つ。ずっと聞きたかった、”好き”という言葉が全身に溶けていく。


「アルトさん……」


 このデュエルに至った経緯全てを察したリンザローテは、ただ愛しい男の行く末を見届ける……




 アルトとロッシュの戦いは、もう間もなく終わりを迎えるだろう。ブラストフレイムによるダメージは両者の魔力を大きく削り、もはや継戦能力は失われたに等しい。

 それに怪我を治癒したとはいえ、体のあちこちが痛みによる悲鳴を上げていて上手く動かせないのだ。


「かなり魔力を削られてしまっているからな……あと二、三発が限界ってところか……」


 このデュエルの結末は勝利しかあり得ない。負けるくらいなら死んだ方がマシとまで思っており、残る魔力は全て攻撃に転用する気概でアルトは最後の突撃を敢行する。


「終わりにするぞ…!」


 消費魔力量が少ないアイスディスクを作り出し、その円盤をブーメランの要領で投げ飛ばしながら駆ける。


「そんな程度ではねッ!」


 太陽光を浴びてキラキラと煌めく円盤を、ロッシュはスプレッドウインドで迎撃する。アイスディスク自体には推進力が無いため、拡散される強風を受けて押し返されるように反転してから地面に落ちて砕けた。

 そのロッシュの生みだした突風の中を、アルトは一直線に突っ切っていった。


「なにっ!? スプレッドウインドを無力化したのかい!?」


 ロッシュの前面に展開された突風は未だ有効なのに、アルトの体は押されていないのだ。

 何故かというと、アルトは拳に纏ったインパクトウインドで、スプレッドウインドの対流を殴りつけて強引に突破していたからであった。バリアで防ぐのではなく、攻撃の勢いを利用してとにかく前に出ることだけを考えている。


「こんな度胸がッ…!」


 アルトの予想外の行動に驚き、ロッシュの判断は鈍っていた。全身の鈍痛も相まって思考力が落ち、次の動きを決めかねているようだ。

 それが大きな隙となり、至近距離に迫ったアルトに対処できない。


「いけよ!」


 アルトは相手の懐に飛び込み、そのままフレイムバレットを発射する。魔法精製速度の速さを考慮してのことだが、火炎弾はロッシュの体に着弾して爆発し、アルトも巻き込まれてしまった。なりふり構っていられないのは、アルトも同じなのだ。

 このフレイムバレットの吹き上げた炎が、アルト対ロッシュのデュエル最後の光であった。


「一体どちらが勝ったんですの…?」


 思わずリンザローテは立ち上がり、二人を凝視する。


「アルト君……フフッ、やはりキミは最高だ……」


 胴体に大ヤケドを負ったロッシュは、アルトへの賛辞を口にしたまま後ろに倒れて意識を失った。だが苦痛は感じさせず、満足そうな表情だ。

 ロッシュがダウンした直後、審判が勝負ありのホイッスルを鳴らす。


「勝者、アルト・シュナイド!」


 その審判の判定を聞いたアルトは、安堵したような面持ちをしながらロッシュのように倒れた。勝利へのこだわりと緊張が解け、フレイムバレットの爆発によって負った傷も相まって立っていられなかったのだ。


「アルトさん!」


 試合が終わったのと同時に、リンザローテが観客席から飛び出す。救護班など待っていられず、アルトを助け起こして治癒魔法を掛けた。


「アルトさん、さっきの言葉……わたくしを好きだっていう……」


「あの、その、えっと……」


 テンション任せに言い放ったわけだが、隠し続けていた気持ちを当の本人に聞かれてアルトは顔を真っ赤にしている。しかもドワスガルや他校の人達にも知られてしまったわけで、むしろロッシュのように気を失った方が楽になるのではと思ったほどだ。

 だが、今更になって隠すなどカッコ悪いにも程がある。こうなったら仕方ないと、アルトは意を決した。


「…俺は、リンザ先輩が好きなんです。友情的な意味じゃなくて、恋愛的な意味で」


 もう一度アルトの想いを、今度は直接正面から聞いたリンザローテは、ギュッと彼の体を抱きしめる。柔らかな愛情と共に。


「わたくしも、ずっとずっとお慕いしておりましたわ。やっと通じ合えたのですわね」


「リンザ先輩……じゃあつまり、俺達は両想いだったんですね…?」


「ええ。そしてたった今、この瞬間に正式に恋人になったのですわ」


 リンザローテと恋人になるなど、現実とは思えなかった。高嶺の花に手が届くなんて普通じゃあり得ないのだ。

 しかし、夢でも虚構でもない。確かにアルトとリンザローテの心は繋がったのである。




 エキシビションマッチの全試合が無事に終わり、最後の懇親会も深夜前には解散となった。

 そして……


「アルトさん、これからお部屋に伺ってもよろしいですか?」


「い、今からですか!?」


 寮への帰り道、急にそんな提案をしてきたリンザローテに戸惑うアルト。こんな夜から部屋に来るなんて、それはもう朝までコースになるのは確定だ。


「ええ。やっと恋人になれたんですもの……ね? 一度わたくしは自室に戻って準備をしてきますから。ふふ、うふふ……」


 楽し気に笑いつつ、リンザローテはスキップしながら一足先に女子用特待生寮へと向かっていった。

 呆気に取られたように足を止めたアルトだが、そんなアルトに一人の男が声を掛ける。


「よぉ、アルト。オマエもいよいよオトナになる瞬間が来たんだな」


「ウィル!? いつからそこに!?」


 声の主はウィルで、いつの間にかアルトの背後にいたのだ。


「男として先輩であるオレ様が、ルーキーであるオマエにレクチャーしてやろうと思って追いかけて来たんだよ。ほら、とりあえずコレを受け取れ」


「魔法薬入りの小瓶? 俺は別に体調は悪くないけど?」


 ウィルから譲り受けた透明な小瓶には、十粒ほどのピンク色の魔法薬が入っており、アルトは顔に近づけて凝視する。


「コイツはな、男用の避妊薬さ。必要だろ?」


「エッ!?」


 魔法薬の詳細を聞いて驚いたアルトは素っ頓狂な声を出し、子猫のように軽く体が飛んだ。


「ウィル!? こ、こんな物をどこで…?」


「オレ様みたいなプレイボーイには必需品なのさ。行為に及ぶなら、ちゃんと責任ある行動を取らにゃな」


「お、俺とリンザ先輩は付き合い出したとはいえ、まだ早いんじゃないかな!? お婆ちゃんも誰かと交際するのはいいけれども、節度ある付き合い方をしなさいと……」


「あのなァ、オマエのそーいう真面目な性格は好きだがね、たまにゃ度胸一発やってみせろよ。あのロッシュ・バウラーとの戦いのように、大胆に攻めるんだ。実際、リンザローテ会長はその気になってるんだから、肝心のオマエがそんなんじゃガッカリさせるだけだぜ?」


 まさかウィルにもっともらしい説教を受けるとは思っていなかったが、アルトは親友の言う通りだなと素直に頷く。


「…俺が間違っていた。リンザ先輩の気持ちを無駄にしたくないしな」


「その意気だ! 内なる欲に身を任せなさいよ!」


「ああ!」


 アルトはウィルと拳を突き合せたあと、小瓶を大事そうに抱えながら自室へと急ぐ。


「へへっ。頑張れよ、アルト!」


 その背中にグッと親指を立て、ウィルは優しい眼差しで見送るのであった。




 それから約一時間後、アルトの部屋の呼び鈴が鳴る。真夜中の訪問客は、他の誰でもないリンザローテだ。


「ど、どうぞリンザ先輩」


 緊張のせいで上ずりながらも、アルトはリンザローテを部屋へと招き入れる。そのリンザローテからうっすらと甘い香りが漂って、アルトの神経を刺激した。


「あらアルトさん……この魔法薬は…!」


 リビングのテーブルの上に置いてあった小瓶を覗き込んだリンザローテは、中に入っている魔法薬を見て、アルトの準備も万端であることを理解する。


「リンザ先輩、コレは……」


「アルトさんも、ちゃんとその気になってくださっていたんですわね」


「…はい」


「じゃ、コッチに来てくださいな」


 リンザローテはアルトの手を引っ張り、寝室へと誘導する。前に来た時に、どの部屋にベッドを置いているのか把握していたのだ。

 そして、制服のボタンをゆっくりと外していく。


「こういう機会をずっと待っていたんですのよ」


 やがて下着すらも取っ払い、産まれたままの素肌を晒す。窓から差し込む月明かりに照らされて、艶めかしく美しい全てがアルトの脳に焼き付いていく。


「そんなに見つめられると恥ずかしいですわ……」


「ごめんなさい。でも、目を離せなくて……」


 アルトはリンザローテの目の前に寄り、そっと彼女の両肩を掴んで顔を近づけた。


「んっ……」


 静かに二人の唇が重なる。リンザローテの口から漏れる熱を帯びた吐息が、アルトの理性を溶かしていった。

 そして、キスをしながら二人の体はベッドの上へと倒れ込む。


「いいですわよ、アルトさん……好きになさってくださいな」


 リンザローテはアルトの頬を愛撫した後、彼に身を任せるようにベッドの上で両腕を広げて無防備な状態になる。豊かな胸、くびれた腰、そして乙女にとって最も大切な純潔がアルトだけのモノになるのだ。


 月の光に見守られながら、二人のシルエットは一つに混ざり合っていった……

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