「──以上が、第一位に関して天命機関が有する全ての情報っす」
覚醒と同時に世界を滅ぼす者。
転生者に異能を与える第一摂理。
最小かつ無数の
語られるのは既知の内容ばかり。
……そんな風に攻略法について考えていると、ふと思った。
「そういえば、戦う前に準備するのなんて初めてだ……」
転生初日は折手に言われるがまま連戦。
第四位討伐戦は予想外の遭遇戦ばかり。
〈
「ボクの、せいだね」
「……お前のお陰だよ、準備もせずに勝てたのは」
縮こまった折手メアの頭を撫でる。
身長差の問題でコイツの頭は撫でやすい位置にある。
モゴっ、と小さな口を動かしていた折手は食べにくそうに頬を膨らませた。
「……どうしてボクをじっと見つめるのかな?」
「いや、なんで口を隠して食べてるんだろうと思って」
「なんか……恥ずかしいだろう。食べてる所を見られるのって。特に、その……キミはボクの、すっ、すきな。ヒト、なんだから……」
よく分からない事を言って折手は照れる。
そのままじっと見つめ続けると、彼女の白い肌は茹でたタコみたいに真っ赤に染まっていく。
「ハハッ、折手はほんと俺の事が好きだな」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎ わッ、悪いかい⁉︎」
「いや、悪かねぇよ。感心してるんだ。こんな状況でも、お前はブレねぇなって」
世界の終わり、ワールドエンド。
この俺でさえ少しは緊張する状況。
それなのに、折手は世界の事なんか一つも考えちゃいない。
それが、なんだか安心する。終わりかけの世界でも、
「……俺もお前を見習わなくちゃな。そうだよな、世界の存亡なんてどうでもいいよな」
「?」
「何でもねぇ。ただ、メアは凄いって話だ」
「ッッッ⁉︎⁉︎⁉︎」
さて、話を真面目に聞くか。
世界を救うだなんてどうでもいいけど、クソ親父と第一位をブチ殺すために。
「次は優先順位二、アダマス一派についての説明をするっす。まずはアダマス──本名、六道刃金から」
七年前のアーカイブに保存されていた情報と、短い観測記録から打ち出した推測情報が羅列されている。
「経歴については省略するっす。彼の特筆すべき技能は、異能に匹敵するほどの未来予測能力。加えて、直接戦闘は比較的得意ではないのにも
「……私と彼に面識はありませんが、異能を除いた物理戦闘では勝ち目はないでしょう。私が磨いた戦闘技術では歯が立たないかと」
あのブレンダ先輩がそう言うほどの実力者。
どう考えても俺では勝てない。異能を持たない最強など、俺とは相性が悪すぎる。
「自分は面識があるっすけど、プロファイリング的には彼はとにかく準備を重ねるタイプっす。土壇場での臨機応変とは真逆、
「は? 何よそれ。アタシ達に戦うなって言いたいの?」
「違うっすよ。勝つためにはこちらも準備を重ねて、少しずつ相手の準備を削っておく必要があるって事っす。そうでもしないと、戦いにすらならない」
聞けば聞くほど絶望的。
こっちが命を賭けて
何度も
「次はクリス、本名は栗栖水希」
ぴくり、と椎菜の眉が動く。
説明するジェンマの声色も低い。
この場には彼女(彼?)の関係者が多すぎる。
「転生者ではないっすけど、《
「……それなら、わたくし達でもまだ対処できそうな異能ですわね」
「────
ご飯をおかわりした椎菜が、安堵した空気をぶった斬る。
血筋か、それとも生き方か。転生者殺しに長けた天命機関よりも、異能の応用に長けた栗栖椎菜の方が、クリスの思考に近かった。
「
異能は肉体に宿る。
第三位のクローンが同じ異能を得たように。
憑依転生者・栗栖晶子の一卵性の双子が、転生者と同じ異能を獲得したように。
同じ肉体と見做されれば、同じ異能を得る事ができる。
「……だとしたら、相手は九相霧黎レベルのバケモノですわよ⁉︎」
「彼のように死亡した転生者の異能まで使えるかは知りません。それでも、わたしなら模倣用の転生者を《
それだけじゃない。
クリスは元々天命機関の一員だった。
ならば、《
だとしたら、相手は二千年の歴史と言っても過言ではない。
「……アドレイド・アブソリュート。確か貴方は九相霧黎から異能を簒奪していましたね? 貴方ならば彼女とも競い合えるのでは?」
「無理よ。奪った瞬間にアタシは死亡した。このゾンビって状態は来世に近いの。
「…………分かりました。無理を言いましたね」
手詰まり。
会議が沈黙するのを感じてか、ジェンマは議論を一度保留して別の議題へと切り替える。
「最後に、グレイ。本名は記録からは抹消されてるっす」
俺の右手が空を掴む。
《
「
「保有する異能も以前と同じですか?」
「《黄金の理よ、遙か未来まで残れ》、《
第二位ルーアハとの戦いの最中、第二摂理によって
しかし、その影響はグレイにまでは及ばない。ヤツはもはや
「……他の
「まだ無事っす。だけど、何が仕込まれているか分かったものじゃないっすから封印してるっす。
こんなモノが現代兵器であってたまるか。
そう思ったが、肉を頬張っていたので口には出せなかった。
「…………、
「……ッ、確かに、その可能性はありますね」
「どういう事っすか?」
ブレンダ先輩は語る。
彼女が予測した、敵の戦力を。
「グレイは転生者の死体から
或いは、そんな名を冠していても不思議ではない。
「……伊吹さんが第三摂理ごと破壊する訳にはいかないんですか?」
「無理だな。《
アドレイドやサササッチのような擬似接続ができるだけの人間に触れても意味はない。
必要なのは正統接続権の所持者。第三摂理を受け継いだ第三位が転生する用の肉体は、今もなお宇宙を彷徨っているらしく、手を伸ばしても終末には間に合わない。
「………………、」
沈黙が会議を支配する。
だって、それが示すのは絶望。
あらゆる未来を予測するアダマスと、どれだけの異能を有しているのか分からないクリスとグレイ。
相手の
なのに、それなのに。
「──
話の流れを無視して。
折手メアは気楽に言った。
「ボクらの最優先目標はアリス・アウターランド。彼女を倒せば、今は敵対しているアダマス達も味方になる。なら、アダマスに勝つ必要はない。アダマスの妨害を潜り抜けて、第一位まで辿り着くのが最初の作戦かな」
それを難しいという話をしていたのだが。
折手メアはそんな流れを聞いていなかった。
あまりにも楽観的。悪い言い方をすれば思慮が足りない。
でも、それでも。
そんな
「……そうね。第一位のもとまで
「なら、六道君とこの馬鹿は温存しておきましょう。本番は第一位討伐戦、そこまでの道は私達が切り開く」
「わたし達の内の一人でも道をこじ開けられたのなら、そこを走って貰えば完了です。勝利条件が分かりやすくていいですね」
「流石だな、馬鹿。バーカ!」
「みんなしてボクを馬鹿にしてないかい???」
馬鹿って言ってんだから馬鹿にしてるよ。
それでも、何だか嬉しかった。
今まで絶対悪のように嫌われていた(あながち間違いでもないのだが)折手メアが、軽口を叩かれるくらいに打ち解けていた事に。
「少数精鋭で行くっすよ。相手が洗脳系の異能を持っている可能性がある以上、多くの人員を割いても逆に邪魔になるだけっすからね」
語りはしなかったが、それだけ地球の状況が切迫しているというのもあるのだろう。
彼らからすれば、第一位を殺せても人類が滅亡していたら意味がない。人類が滅亡しないギリギリの人員派遣しかできない。
それでも、誰も諦めはしなかった。
僅かな情報から、必要最低限の作戦を考える。
すぅ、とブレンダ先輩は息を吸う。
終末対策委員会、その結論が出される。
「作戦目標、
ブレンダ先輩は粛々と告げる。
最後の戦い、その始まりを。
「目標地点、世界崩壊から逆算した第一位の現在地は日本・
ああ、よく知っている。
俺が折手メアと戦い、ディートリヒと初めて顔を合わした場所。
ある意味では全ての因縁が始まった場所。
「六道君と折手メアの両名はこの場で待機。連絡があり次第、現場に急行してください」
この世界で唯一
俺のサポートに特化した異能を持つ折手メア。
他の者は第一位討伐戦においては足手纏いにしかならないからこそ、極限まで俺達を温存する。
「その他の人員は全て現場に突入。その先で何があろうと、誰が死のうと、第一位へ続く道の開通を優先してください」
地雷原を駆け抜けるようなものだった。
きっと大勢の人が死ぬ。
数多の屍の上に、安全な道が生まれる。
俺達が歩む道を開通するためだけに、多くの人が命を賭す。
「
そして。
そして。
そして。
「大気圏突入! 作戦開────────」
日本、布都野町。
上空を見上げていた男は悲しそうに呟いた。
「
彼が座っていたのは一つの玉座。
《
その
地球圏内に存在する限り。
アダマスの攻撃からは逃れられない。
「さぁ、行くぞ。生存の確率はゼロではない。ゼロでないならば、必ず何処かの
そして。
油断の一つもなく、純白の男は告げる。
「
終末を告げる
世界の終わり、絶望的な戦いが始まる。
残り290分