肉。魚。野菜。デザート。
船内に足を踏み入れた俺を歓迎するのは、バイキング形式で皿に盛られた彩り豊かな料理の数々だった。
「……あと六時間で世界が終わるって伝えなかったっけ?」
「聞いたっすよ。けど、急いで解決できる問題でもないっすよね? まずは腹ごしらえから始めるっすよ」
ジェンマの言葉に合わせて、俺の腹がぐうと鳴る。
そう言えば、俺の肉体──《名前のない怪物》は出来立てホヤホヤで胃に何も入れていない状態だった。お腹が空いて当然だ。
自覚すると空腹か強まり、ごくっと無意識で唾を飲み込んだ。
「さぁ、まずは席に着くっすよ。残りはもう揃ってるっす」
既に食事中のメンバーが数人。
どいつもこいつも見覚えのあるヤツばかりだった。
目の前で司会を務める
奥で大食いチャレンジみたいな有様になっている俺の奴隷のアドレイド・アブソリュート。
背筋を正して
美味しいご飯とダイエットを天秤にかけておかわりを悩んでいる幼馴染の栗栖椎菜。
口にサラダを捩じ込もうとしている憑依転生者のリィン(右腕)と、苦手なサラダを食べたくないと拒絶している幼女のエヴァ(左腕)、二人合わせて天使のイヴリン。
そして、食事をせずにあえて給仕や調理を行っている、クローンのサササッチを始めとしたデッドコピーのみんな(二万人)。
馬鹿みたいに派手な髪色の面々が、一堂に会して細長い楕円のテーブルに座っていた。
「さぁさぁ、六道伊吹くんもメアちゃんも座るっす。
「他のヤツらは居ないのか?」
バイキングの料理を皿に盛りながら、周囲を見渡して尋ねる。
肉。とにかく体が肉を求めている。俺の皿は馬鹿みたいに肉と炭水化物ばかり乗っていた。
「二神ちゃんは天命機関の協力者ではないから降ろしたっす。ロドリゴさんとレオンハルトさんは現在、地球での問題を対処中っすからリモートの参加っすね。多分、話を聞いてはいるけどこちらに話しかける余裕はないんじゃないっすか?」
「……サササッチ達は? アイツも天命機関の協力者じゃないだろ」
「それは自分で聞いて欲しいっすね」
好き嫌いが多い折手は、肉・魚・野菜を全部無視してデザートを取りに向かった。そんな彼女を尻目に、丁度少なくなった肉を大皿に注ぎ足していたサササッチに話しかける。
「お前、世界とか救いたい
「
「は???」
余りにも意味が分からず聞き返す。
サササッチはショッキングピンクの髪を揺らして、誇らしげに自身が着ているメイド服を見せびらかす。
「
「まぁ、メイド服を着ているからな」
「
「そりゃそうだ」
「
「破産させる気か???」
何処かから『はぁ⁉︎ このアタシがいながら他のヤツにも
「つーか、それはお前が此処にいる説明にはなってねぇよ」
「
「そうか。その話がどうなったら元の話に繋がるんだ?」
「
「オーイ、良い加減話を軌道修正してくれー」
「
「…………それだけ?」
「
纏めると、完璧メイドに成りたいから戦闘にも協力したいというだけらしい。
世界の存亡を賭けた戦いに参加するには余りにも軽すぎる理由であるが、それでこそ人間だ。デッドコピー達もよくぞここまで人間らしくなったものだ。
「まぁ、夢が持てたのならば何よりだ」
「
ニコリ、と。
まだ表情を変えるのが不慣れなのかほぼ
料理を自分の皿に盛り付け終わったので、椅子を引いて席に着く。
既に席に着いていた隣の折手は、盛り付けたデザートを食べるでもなく行儀悪くジュースのストローをがじがじと噛んで待っていた。
「よし、話は終わったっすね。じゃあ、まずは、状況整理から始めるっす」
食べながら、ジェンマは司会を務める。
なんと言うか沈黙に耐えきれないタイプなのだろうか。食べ終わってからでないと話せない俺は真逆だと思う。
食べながら話しているのに下品とは感じない所に、心理を操る無駄な技術力を感じてしまう。
「現在起こっている問題は全部で四つ。重要度順に説明するっす」
机から、
四つの写真が空中に投影されていた。
天命機関、やはりずば抜けた技術力を持った組織だ。
「優先順位一、
「……アタシらでどうにかできるの? そんなヤツ」
「そこも含めて検討中っすね。作戦の中心はやっぱり六道伊吹くんになると思うっすけど」
責任重大だった。
世界の命運が俺の肩にのしかかる。
正直俺は、一発ブン殴ってやりたいくらいのモチベーションしかないのだが。
隣を見ると、折手は申し訳なさそうに俯いていた。仕方ないので頭をぐちゃぐちゃにして撫でる。
「優先順位二、アダマス一派。もし第一位の殺害あるいは封印に成功したとしても、再び呼び出されちゃ元の木阿弥っす。そもそも第一位殺害作戦中にも妨害があると思われるっす」
「彼らの詳細については、現在わたくしが天命機関のデータベースを調査中ですわ。
「……あとは自分の供述も書き加えておくっすよ。ロドリゴさんから聞いた話と一緒に」
意気揚々と手を上げるイヴリン(恐らくリィンの方)だったが、その口元には生クリームで汚れている。エヴァが食事中だったのか、それともリィンはあれで食事が下手なドジっ子だったりするのだろうか?
「優先順位三、《
「…………第六位、ですか」
「そのせいで現場の混乱は最高潮に達してるっす。なにせ転生者を捜索中なのに、
確か、ブレンダ先輩が封印した転生者だったか。
折手メアの話を思い出すに、ブレンダ先輩が主人公を飾る外伝のラスボスとか何とか言っていた気がする。
「優先順位四、第三次世界大戦。これは無視で良いっす。放置しても人類滅亡にすら届かない。そっちに必要なのは天使による武力介入ではなく、
第三次世界大戦ですら最低ライン。
それこそが世界の終わり、その直前。
「四は放置、三は現地の天使達による対処に任せるっす。なので自分達が今から取り掛かるのは二と一。アダマス一派の妨害を退けて、第一位を殺害あるいは封印する事っす」
ここまでが前提。
これから話し合うための事前情報。
今からようやく、終末への対策を考えられる。
「アダマスの発言から
「な、にが……?」
「敵襲⁉︎ いや、あり得ない!
《
それこそ、天命機関の技術が集結した現代最高の船。水陸両用どころか、陸海空宇宙を全てこの一機で進める万能船。
擬似重力と百年分の資源を搭載したこの船は、同時に天命機関が有する全データを蒐集した極大のデータベースでもある。
宇宙を征くこの船はこの世で最も安全な基地だと考えられていた。
──その、はずだった、
「
船の管理を担当していたデッドコピーの一人はメイド服を揺らして早足で駆け付ける。
「障害、物……? こんな所に? スペースデブリとかっすか……?」
「
デッドコピーは珍しく大きく顔を歪めて。
苦しそうにその言葉吐き出した。
「前方二〇〇メートル────
「────────────────、」
思考が止まる。
世界の終わり、ワールドエンド。
今まで抽象的にしか思い浮かばなかった形而上の概念が、具体的な形を伴って目の前に顕現する。
太陽系以外が消し飛んだ。
原則、消し飛んだモノは戻って来ない。
俺が無効化した異能だって、俺が死んだら再び異能が戻ってくる訳ではない。
誰もがその言葉を思い浮かべて。
誰もが何も言えずに口を噤んだ。
だって、それを認めてしまえば折れる。
どう足掻いてもこの世界を救えないのならば、彼女達には第一位と戦う動機が無くなってしまう。
だから。
口を開いたのは、既に一度折れた事のある少女だった。
「────
折手メア。
諸悪の根源にして、贖罪者。
因果を捻じ曲げる彼女の言葉には信憑性があった。
「それに、ここで勝ち逃げを許す訳にはいかない。どうせ死ぬなら前のめりに。いぶきもきっと、そう言ってくれる」
「だな。もし世界が滅ぶのだとしても、第一位のヤツも道連れにしなくちゃ割が合わねぇ」
誰もがその言葉を信じた訳じゃない。
折手メアは
多分、宇宙全てを修復するなんて事はできない。
それでも、みんな彼女を信じた。彼女の
「さぁ、再開しよう。ボクら終末対策委員会による、
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