「ごッ、あああアアアアアアアアアッ⁉︎」
「待て、すぐに処置をする」
六道伊吹は奈落の底へ落ちた。
それでも、ディートリンデの傷は深かった。
内臓には届いていないものの、肩から腰にかけてあるぐちゃぐちゃの切り傷から血が垂れ流しになる。
「《ロイヤルタッチ》」
九相霧黎は異能を発動する。
それは触れた者を癒す
時間が逆行したみたいに切り傷は修復される───
「……何だ?」
ディートリンデに触れた胸元に、ナニカがあった。
それに触れた瞬間、
「…………ッ、
《
ディートリンデの異能の行使を阻害するそれが、九相霧黎による回復すらも無効化した。
「だけど、これも異能だろ? それなら……」
「まッ、待て‼︎」
「────《
再び、九相霧黎の手がディートリンデに触れる。
六道伊吹と同一の異能。異能を無効化する異能を無効化する。二つの異能が鍔迫り合う。
そして──
「ッ⁉︎」
──バチッ‼︎ と。
九相霧黎の異能が弾かれた。
「な、に……?」
「……ぐッ、当然であろォ。霧黎の世界強度は、…………ッ、や、ヤツの世界強度には及ばない……」
痛む傷口を抑え、息も絶え絶えにディートリンデは告げた。
互いに、異能を無効化する異能。矛盾する二つがぶつかり合った場合、世界強度の高い異能の効果が優先される。
そして、六道伊吹の世界強度は
「……ッ、よいのである。このままっ、いくぞォ……‼︎」
「ダメだ、ディートリンデ。出血量が酷いのに、傷口が荒すぎるから縫う事もできない。このままじゃ……」
「ヤツの、……世界持続はっ……ゴミである。その内っ、効果も、途切れる…………はずだァ」
「………………、」
「だからッ、行くのである‼︎ まずはっ、ここから離れなければァ……‼︎」
「……?」
九相霧黎は首を傾げた。
ディートリンデの言っている意味がよく分からなかったのだ。
「危機はもう去っただろう? 何をそんなに急いで──」
遮るように、ディートリンデは叫んだ。
「
それは、心の底からの恐怖だった。
一分一秒でも早く、一メートルでも一センチでも遠く、ディートリンデは六道伊吹の落ちた穴から離れたくて仕方がなかった。
「…………60メートルの大穴に落ちて、まだ死んでないと?」
「ヤツはッ、全ルートで我を殺すっ……最悪の
「そうなのか……すまない、認識を改めよう」
九相霧黎は律儀に謝ると、血塗れのディートリンデをお姫様抱っこした。
背負った方が楽なのだろうが、傷口は前側にある。血が流れないように仰向けにして、痛みを軽減するために接触面を限りなく減らす。
「……何処へ向かう?」
「街の中心部ッ、そこにある一つの店──」
ディートリンデは目的地となる店名を告げた。
「──『
「……ブレンダは
あらゆる監視カメラの映像が集まった管制室。
そこにある高そうな椅子にロドリゴは腰掛けていた。
老人は悲鳴しか聞こえないイヤホンの声に耳を傾け、諦めるようにこう吐き捨てた。
「
第二位は完全に消滅させた。
転生者のほとんどは殺した。
だが、それだけだ。
第三位は未だ健在。
転生者は全て殺せた訳ではなく、加えて二人の
対して、天命機関は
そして、何よりも。
三人の
(……恐るるべきは
“
余りにも味方の数が減りすぎたこの状況では“
今、頼りにできる
しかし、“
ならば、“
(
そして、ロドリゴは決意した。
七年前に失った四肢の代わりに、レオンハルトが作製した特殊な義手義足を嵌めて立ち上がる。
「
……今更、何が出来るかは分からない。
それでも行かねばならない。
(七年前──〈
かつての、黄金時代と呼ばれた
先代“
先代“
先代“
みんな、ロドリゴの半分くらいの歳だったのに……生き残ったのは誰よりも弱く、誰よりも未来の無い老ぼれだった。
そんな悲劇、二度とあってはならない。
「総員傾注。
『総司令官ッ⁉︎ ですがそれでは貴方が……‼︎』
「逃げろと言っている訳じゃないよぉ。都市外からの援護をよろしくねぇ」
『……ッ、了解であります……‼︎』
「カネさえあれば何でも買える。〈
それは人相の分からない怪しげな男だった。
身を包む和装に、毒々しい紫色の髪。そこまではある程度許容できる。
しかし、顔を隠すぐるぐる巻きの黒い包帯。それは余りにも不気味で、客商売に向いてないと言うしか無い見た目をしていた。
「ふっ、この状況でも商売をするとは。大した度胸であるな、“
「まさか。当店も閉店の危機にあります。ですが、だからこそ! お客様の言うように、いつも通り商売する事が大切だと思っております。
「…………貴様の世界観……《
「ご名答です、お客様」
六六人の〈
この男もまた、怪物と呼ぶに相応しい
〈
既に異能の封印は解け、応急処置も終わっているためディートリンデはもう一人で歩けるのだが、彼女が九相霧黎から離れる様子はない。
「あなたの名前は?」
「……そうですね。お客様に合わせて
それは絶対に嘘だとディートリンデは思った。
確かに、和装に身を包んでいる。顔立ちもよく分からない。
だが、背格好が明らかに日本人ではない。『原作』でもそうだったが、恐らく九相霧黎の出身に合わせた接客を行っているのだろう。
九相霧黎はそんな嘘に一切気付く様子はない(或いは気付いても気にしていないのか)。彼は血だらけのディートリンデをお姫様抱っこで抱えながら、平然とした顔で尋ねた。
「何でも買えるって、具体的には何を買えるのかな?」
対する三瀬春夏冬の返答は端的だった。
「
「…………それ、は」
何でも。
それは比喩でも、誇張でもない。
文字通り、何でも買える。
「愛はカネで買えない? 時間はカネで買えない? ノンノン。それは此方の世界の常識でしょう? 当店は何だって販売しております」
「……例えば、不老不死……とかなら?」
「
目の前に、ディートリンデが求めているモノがある。
九相霧黎は思わぬ場所で
「不老不死を得られるほどのカネを手に入れるなど、不可能である」
「いや、それは早計だよ。ぼくのチカラで世界中の銀行を襲えば──」
「──
「………………あ」
〈
それは言わずもがな、異世界に存在する商店。
この世界のお金は金属・紙としての価値はあれど、通貨としては扱ってもらえない。
「ええ……? じゃあ誰もこの店を利用できないんじゃ……」
「当店は買取も行っております。お客様が持つモノを
「つまり、ヤツはこう言っているのである。不老不死を買いたいなら、不老不死と同じ価値があるモノを売れとなァ」
そんな事ができれば苦労しない。
不老不死と同じ価値があると言うことは、不老不死になる事と同じくらい難しいということだ。それなら、普通に不老不死を目指した方が早い。
「……ディートリンデ。それなら、あなたは何の目的でこの店に来たのかな?」
「もちろん、憎き
ディートリンデはこめかみは親指で抑え、記憶を絞り出すようにして言う。
「『テンプレート・トライアンフ2』において、この店はアイテムショップの役割を持っているのである。装備を買えるだけでなく、格上に勝てる強化アイテムを買えるようななァ」
「あれ? あなたの言う『原作』って、ノベルゲーって話じゃなかったかい?」
「
ちらり、と九相霧黎が持つ《
レベル制というシステムの根幹を支えるのが、『生殺与奪』という
「六道伊吹は『テントラ2』の3rdルートにおいて、ラスボスとして立ちはだかる。分かるかァ?
「…………なるほど、そのルートをなぞれば六道伊吹を殺せるということだね。そして、ラスボス戦のレベルにまですぐに到達するためにこの店にやって来たのか」
「理解が速いであるなァ……」
「なら、まず初めに何をする?」
六道伊吹を穴に落として稼いだ時間。
ヤツはいつだってこちらの想定を上回る。
ならば、それを更に上回るような準備をしなければならない。やる事は盛りだくさんだ。
そして、ディートリンデは何が必要かが思い浮かんでいる様子であった。彼女は自信満々に九相霧黎に告げる。
「ヒロインを口説き落とすのである」
「なんて???」
??????????????
「生存者リスト」
▽天命機関
ブレンダ
ジェンマ
ロドリゴ
レオンハルト
etc
▽転生者
六道伊吹
“奴隷”
“冥府送り”
九相霧黎
ディートリンデ
フラン=シェリー・サンクチュアリ
ルーアハ
世界観:《
転生者:
グレード:
タイプ:
ステータス:
強度-A/出力-E/射程-E/規模-D/持続-C
異能:《