「第三章 列強選定バトルトーナメント」
前編の開幕です。
四一話:プロローグ/Side_2
「始まるのである、
イギリスの片隅で、黄金の髪を揺らして少女は告げる。
彼女の名はディートリンデ。
零落した今はただのか弱い少女だ。……ただの、と言うにはいささかその顔は美しすぎるが。
「トーナメント?」
対して、隣を歩くのは学生服を着た東洋人だった。
彼の名は
「掲示板で話題になっていたのを見なかったのかァ?」
「ぼくは掲示板を使えないよ。第二位とやらに転生者だと見做されていないからね。あなたも知っているだろう?」
「……そうであったなァ」
では、と。
ディートリンデは機嫌良さげに言った。
「憐れな貴様に我が解説してやろォ。第二位が開催したトーナメント、〈
普段、戦闘を九相霧黎に頼り切りだった事を気に病んでいたのか、それとも単純にマウントを取るのが好きなだけか。
ディートリンデは嬉しそうにスキップして九相霧黎の隣を歩く。チャプチャプと水溜りが音を立てて飛び跳ねる。
「現在向かっている街には、
「六四……二の六乗だね」
「頭が速いであるなァ。その通り、六四人の転生者共はトーナメント形式で戦い、六回戦を経て頂点を決めるのである」
へぇ、招待状を貰ってないけど参加していいのかな……と九相霧黎は思った。
招待状は貰ってないが、まァ飛び入り参加でどうにかなるだろォ……とディートリンデは思った。
「…………ん?」
「何か気になったであるかァ?」
「いや、そもそも転生者の頂点を決めた所で何になるんだい? 景品もない戦いなんて、普通に考えてみんな参加したくないと思うけど」
「…………戦いに理由が必要、か。そういえば、こちらの常識はそうであったなァ」
ディートリンデの前世からすると、暴力を競い合うなんて普通の事だったからそこまで思い至らなかった。
とは言っても、ディートリンデ自体は無駄な戦いを嫌うタイプであるが。
「もちろん、景品はある。我もそれ狙いである」
「それは?」
「名前から分からんかァ? 貴様、頭の回転は速いのにそういうとこは鈍いであるなァ……」
「頭脳担当をあなたに頼り切りですまないね」
「仕方ないであるなァ。フフフ、では我が教えてやろォ」
呆れたように、それでいて役に立てるのが嬉しそうに。
ディートリヒは気分を弾ませる。それに伴って足取りも軽くなり、足元の水溜りもまたぴちゃぴちゃと音を奏でる。
これから始まるトーナメントの名前。
それは〈
その名が指し示すモノは最悪の事実。
「
それは天命機関が聞けば驚愕するであろうこと。
第四位、第五位、第六位なんていくら欠けても構わない。
「厳密に言えば、
「
「理論上は可能である。我の第四摂理が忌々しい栗栖椎菜の手に渡ったようになァ」
「……いや、でも他人の摂理だよ?」
「本来は難しいであるが、所有者たるクシャナが死亡している今ならば。そして、それを行うのが
「………………」
九相霧黎は何も答えない。
転生者について疎い彼はディートリンデの話に付いて行けてないのだ。
だが、問題ない。六四人の転生者だろうと、第二位の
彼は少女と出会ってからの三ヶ月間、その言葉を有言実行して過ごしてきた。
その結果がディートリンデからの絶対の信頼であり。
その結末が足元の水溜り──
襲撃して来た数多の天使たちの屍を足蹴りにして彼らは進む。
「だが、クシャナが死んでから〈
「うん?
「ああ、気にするなァ。
それはとある少女が保有していた知識。
ディートリンデはその記憶を持っているからか、この世界でたった一人だけ彼女の事を明確に覚えていた。
そういえば、と。
ディートリンデは原作を思い出したついでに、九相霧黎に話しかける。
「そういえば、貴様がゲームの続編主人公だという話を以前にしたなァ?」
「ああ、あのよく分からない話だね」
ディートリンデはなんて事のないようにこう呟いた。
「〈
これより先は
二人は〈
そして、〈
街に数多の転生者が蠢いていた。
ディートリンデはそれを傍目で観察する。
「“殺人探偵”、“冥府送り”、“
「あいつらを全員殺せばいいのかな?」
「待て待て待て待てェェ⁉︎ 今殺しても意味がないッ! 〈
……ディートリンデは九相霧黎に対して、勝てないとは一言も言わなかった。
そう、彼女は知っているのだ。錚々たる顔触れ、
そんなディートリンデの考えを察知してか、周囲の転生者の視線が九相霧黎に集まる。
一触即発。指一本でも動かせば戦闘行動と見做して攻撃に移る。そんな雰囲気があった。
初めの騒めきが静まっていく。やがて緊張はピークに達し──
『
──老人の声によって、誰もが停止した。
ただの声。
それなのに、まるで重力が強まったと錯覚するような威圧感。
誰に言われるまでもなく、街に集まった六六人は無意識に天を見上げる。
そこには一柱の
『朕の名はルーアハ。知っておるじゃろうが、
誰も彼もが神に畏れを抱く。
それは前世が何だろうと関係ない。
人間も、怪物も、あらゆる存在の魂に刻まれた根源的な畏怖だった。
例外はこの威圧感を何度も経験しているディートリンデと、
『トーナメントのルールは簡単。決められた日程に、決められた相手を殺すだけじゃ。どんな手段でも構わん。異能だろうと、そうでなかろうとのう』
空にはルーアハだけでなく、ドローンのような機械が大量に飛んでいた。
ルーアハがそれを気にした素振りはない。恐らく、運営側のモノ──
『
そうして、簡単なルール説明を終えたルーアハの視線がディートリンデに向けられる。
当たり前だ。彼が部外者を見逃すはずがない。なんたってルーアハは
『…………どうやら
ニヤリ、とディートリンデは笑った。
言質は取った。用意周到なルーアハの事だ、既に
きっと、勝ち残りさえすれば自動で
そして、ルーアハは上空から世界を見据え。
両手を大きく広げて、六六人の転生者へ宣言した。
『さぁ、〈
「────エントリィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ‼︎‼︎‼︎」
誰もが──あのディートリンデですら言葉を失う。
不敬なんてものじゃない。神の威圧感を前にそんな無茶ができるなんて、神経が図太いどころかイカれてるとしか思えない。
そして、落下地点。
砂埃舞う注目の中心で。
少年は、右手を挙げて高らかに宣言する。
「せんしゅせんせー。俺はトーナメントなんて行儀の良い戦い方を殴り捨てて、此処にいるカス共を一人残らずブチ殺す事を宣言しまーす」
学生服を着た少年──
「纏めてかかって来いよ、