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荒木飛呂彦は『ジョジョ』でどう相対主義と向き合ったのか。

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〜2月28日 09:30

今…感じる感覚は……おれは「白」の中にいるということだ…DIOは「黒」!  ジョースターさんたちは「白」  「黒」と「白」がはっきり別れて感じられるぜ! 傷ついた体でも勇気が湧いてくる 「正しいことの白」の中におれはいるッ!

『ジョジョの奇妙な冒険』より

 しかし――その後の『ジョジョ』ではしだいに善悪が混沌としていく。それでは、結局のところ、荒木飛呂彦もまた「相対主義」の誘惑に屈したのだろうか?

「相対主義」という概念

 相対主義という言葉がある。ネットで検索してみると、「哲学で、人間の認識や評価はすべて相対的であるとし、真理の絶対的な妥当性を認めない立場。」という説明が出てくる。

 また、よく現代哲学のポストモダン思想は相対主義的である、などといわれる。ただ、哲学史においてどのような深遠な議論があったのかはぼくにはよくわからない。

 ここで重要なのは「世の中にはそれぞれ異なる意味をもつ複数の価値観が存在し、絶対的に正しいといえる価値は存在しない」とする、いわゆる「価値相対主義」の立場だ。

 価値相対主義は、何かというと主観的な正義に凝り固まり、その正義の美名のもと他者を侮辱し攻撃してやまないこの時代において、とても大切な考えかただと思う。

 「絶対的に正しい価値が存在する」としてしまうと、その「絶対な正しさ」に帰依することで思考停止することになってしまいかねないが、「そのような価値は存在しない」と考えるなら、つねに「何がほんとうに正しいのか」を迷い、惑い、考えつづけなければならないことになる。

 そういった慎重さこそが、いまの時代に求められている一面はあるのではないか。

「何がほんとうに正しいのか」という難問

 しかし、一方でそのような発想はその最も大切な「何がほんとうに正しいのか」という問いの答えを霧のなかに見失わせてしまう可能性も秘めている。

 究極的な正しさが存在しないのなら、どんな答えを出したところで疑問の余地があることになるわけで、いつまでも迷いつづけるばかりで決断を下せないことになりかねない。有限の時を生きるぼくたち人間にとってはそれはそれで恐ろしい展開である。

 また、あるものごとを考えるとき、どこまで絶対的に捉え、どこから相対的に受け止めるべきかはむずかしいところだ。

 まして、現代のような複雑に入り組んだ社会においては、明確な正しさを見いだすことは容易ではなく、逆説的ながらまさにそれゆえに人々は安易な結論に飛びついてしまいがちだったりするだろう。

 たとえば「戦争はなぜいけないのか」といったことひとつ取っても明確な答えは出ない。一見すると戦争行為は明確な悪のようだが、たとえば「国家と共同体を防衛するため」といった大義があればそれも正当化される可能性があることは、きょうの国際社会の現状を見ればわかることだろう。

 それなら、侵略戦争は完全な悪なのか。しかし、それも実際に多数の国民に熱烈に支持されることがありえる。何であれはっきりした「答え」を得ることは絶望的に困難だ。

相対主義の物語とその行き着くところ

 いっぽうで、フィクションの世界もまたそのような善悪認定の困難さの影響を受けているようである。

 たとえば『機動戦士Ζガンダム』や『銀河英雄伝説』といったアニメーションの名作は、延々とつづく善悪さだかならぬ「戦争」の物語を描いて、相対主義的な価値観を提示した。

 そこでは「何がほんとうに正しいのか」のアンサーはまったく明確ではなく、人はただ生きのびるために目の前の敵を殺しつづけるしかない(ように見える)。

 もちろん、作中の登場人物たちはその状況を変えるために「何がほんとうに正しいのか」考えつづけるのだが、意見は四分五裂し、いつまで経ってもまとまることなく、ひたすらに血ばかりが凄惨に流れることとなってゆく。

 そこにあるものは、「相対主義の迷宮」とでもいいたいようなストーリーだ。いったん「敵」がいうことに耳を傾けてしまえば、それにも一定の理があることがわかってしまい、そうかといって自分たちの正義を放棄することもできない。そういう状態で主人公は宙づりになる。

 その状態が完全に臨界に達したのがたとえば1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』である、ということができるかと考える。

『ジョジョ』と「相対主義」

 だが、もちろん、これはわかりやすさとカタルシスを尊ぶエンターテインメントにおいては異常事態ともいえることである。

 『エヴァ』のような作品があっても、たとえば『少年ジャンプ』の物語は勧善懲悪をめざしてつづけていた。それは、独創の天才芸術家・荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』においても変わらない。

 荒木は著書『荒木飛呂彦の漫画術』のなかで、『ジョジョ』を「王道の少年漫画」であると語っている。

 わかることだ。『ジョジョ』では一貫して正義と邪悪の対立が描かれ、最終的に正義が勝利する。荒木の「王道の方法論」はものごとが「常にプラス」に進む「サクセス・ストーリー」を描くというもので、ときに主人公が絶体絶命の危機に陥ることはあっても、かれは必ず光の差す方向をめざし前進しつづけるのだ。

 だが、いつの頃からだろう。第五部、第六部、第七部、と進むうちにその『ジョジョ』ですら「相対主義」的な描写が増えていったように思う。

 これは荒木が「王道の少年漫画」を断念したことを意味しているのか、それとも何かべつの意図があるのか。この下で少しだけていねいに見ていくことにしよう。

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歴代の悪役たち

 さて、そういうわけで、『ジョジョ』の話に戻る。

 先に述べたように、『ジョジョ』においては、長年にわたって正義と邪悪が明確な対立軸を成す構図が採用されてきた。

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荒木飛呂彦は『ジョジョ』でどう相対主義と向き合ったのか。|海燕(オタクライター)
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