ジャーナリストの伊藤詩織さん(35)が、15年4月に元TBS記者の男性から受けた性的暴行被害についての民事裁判で弁護を担当した元弁護団が20日、都内の日本外国特派員協会で会見を開いた。
元弁護団は、伊藤さんが性被害について、自ら調査に乗り出す様子を6年にわたって記録したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」をめぐり、被害現場とされるホテルの防犯カメラ映像を本人やホテルの許諾なしに使用したと指摘。また、海外では公益通報者にあたる捜査官やタクシー運転手、裁判で代理人弁護士を務めてきた西廣陽子弁護士に関する無断録音や無断録画などがさらされている映像が、流され続けていると指摘している。
西廣弁護士は、8年半にわたって伊藤さんの弁護を担当し、支え、22年7月の上告審で最高裁は性被害を認めた。同弁護士は「無断録音を使われた当事者として、海外含め削除を希望します」と訴えた。
ホテルの防犯カメラ映像については「18年4月に、裁判手続き以外の場で一切使用しない、報道やインターネット配信しないという書面にサインし、私も彼女が守ると信じてサインした」と説明。「21年に、映画にする場合は事前に見せて欲しいと言い、了承した。しかし23年12月、米サンダンス映画祭に出品されると聞いた。事前に完成したことも、映画を見せてくれるとも話がなかった」と続けた。
さらに、半年後の24年7月24日に都内で行われた試写で「ホテルの映像が使用されていた。私の通話が無断で録音、収録されていることに気付いた」という。「タクシー運転手、捜査官の映像、音声でショックを受けていた私の心が、ズタズタにされた瞬間だった。『また、相談させてください』とハグされたが、ハグを拒否する気力もなかった」と続けた。
西廣氏は「幾度も約束は守られなかった。彼女側からは『底知れぬ悪意を感じている』と非難されています」と主張。「私は8年半、彼女を守るために費やしてきた。何て惨めなんでしょう。長期にわたり戦い、信じていた人の問題点を指摘しなければならないつらさに、押しつぶされそうです」と声を詰まらせた。
そして裁判を振り返り「真実を勝ち取ったこと、誹謗(ひぼう)中傷を繰り返さないために訴訟し、闘ってきたことは事実。多くの人を勇気づけてきたことは間違いない真実」と語った。その上で「そのことを映画にしたければ、相手の承諾を取ることを精力的にすべき。約束を守り、人を傷つけないこともできたはず」と訴えた。
22年1月の控訴審終了後まで、伊藤さんの代理人弁護士を務めた角田由紀子弁護士は「全力で民事訴訟を勝ち取った西廣弁護士は最初の相談から、最終勝利まで8年半。寄り添った。誠心誠意のある活動がなかったら、勝利はなかったと確信している」と西廣弁護士の活動を評価した。その上で「恩をあだで返してはいけない。わが身にあった恩を害で返すのはいけない。国際的に活躍している人に、人間らしさを失って欲しくない」と伊藤さんに訴えた。
◆伊藤さんの性被害の一連の経緯 伊藤監督は、米国の大学に在籍した13年12月に元TBS記者の男性と知り合い、同氏が15年4月3日に帰国して会食した際、意識を失いホテルで暴行を受けたと主張。準強姦(ごうかん)容疑で警視庁に被害届を提出した。一方、男性は合意に基づく性行為だと反論し、東京地検は16年7月に嫌疑不十分で不起訴とした。翌17年5月に同監督は不起訴不当を訴えたが、東京第6検察審査会も同9月、不起訴を覆すだけの理由がないとして不起訴相当と議決した。
伊藤監督は、同年9月に男性を相手に民事裁判を起こし、19年の東京地裁での1審は勝訴。男性の控訴を受けた22年1月の控訴審でも勝訴した一方で、男性の反訴も一部、認容。双方が上告して迎えた22年7月の上告審で、最高裁は双方の上告を棄却。男性に約332万円の賠償を命じた一方、同監督の17年の著書「Black Box」などでデートレイプドラッグを使われた可能性があるとされ名誉を傷つけられたとして、1億3000万円の損害賠償を求めた男性の反訴について、真実性が認められず名誉毀損(きそん)に当たると判断し同監督にも55万円の支払いを命じた。
伊藤監督は、男性との裁判に加え、20年にはSNSによる誹謗(ひぼう)中傷の投稿をした2名、拡散した2名に名誉毀損(きそん)、賛同を意味する「いいね」ボタンを押した自民党の杉田水脈元衆議院議員には名誉感情侵害で、それぞれ損害賠償請求訴訟を起こした。1審で請求が棄却され、控訴審で逆転した杉田氏との裁判含め、いずれも同監督が勝訴した。