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最新の行動経済学が解く日米開戦の謎 摂南大学・牧野邦昭准教授に聞く(上)

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――当時の日本の状況に当てはめると

A 開戦しない場合。2、3年後は国力を失い戦わずして米国に屈服する

B 開戦した場合。非常に高い確率で敗北。しかし極めて低い確率ながらドイツが勝利し、日本も東南アジアを占領して英国が屈服すれば、米国は交戦意欲を失って講和するかもしれない――となりますね。

「秋丸機関以外の多くの研究でもA・Bが日本の選択肢と指摘されていました。合理的に考えればAですが、それぞれの内容が明らかになればなるほど『現状維持よりも開戦した方がわずかながらでも可能性がある』というリスク愛好的な選択の材料になってしまうのです」

社会心理学が示す「リスキーシフト」

――当時の陸軍省軍務課の中佐は「戦をやれば不可能ではないと感じた。もちろん苦しいと思った。誰も同じだっただろう」と回想しています。

「社会心理学上の原因も見逃せません。集団意思決定の状態では個人が行うよりも結論が極端になることが明らかになっています。慎重な人たちではより慎重な選択が、リスクを厭わない人たちの間ではますます危険な方向の選択が行われます。集団成員の平均より極端な方向に意見が偏る『集団極化』が起きます」

――政府・軍首脳らの「御前会議」では陸軍の参謀本部や海軍の軍令部は期限つき外交交渉と打ち切り後の開戦を強く主張していました。

「他者と比較して極端な立場を表明することが、他のメンバーの印象を善くして注意を引く、集団の中での存在感を高められると考えるのです。集団規範や価値に合致する議論が自然と多くなって集団構成員が説得されてしまうことも社会心理学で指摘されています」

――東条英機内閣でも、当初は慎重派とみられていた嶋田繁太郎・海軍大臣や鈴木貞一・企画院総裁は開戦論へ意見を変えていきました。

「『個人』の状態でもプロスペクト理論でリスクの高い選択が行われやすい状況でした。そうした面々が集団で意思決定すれば、リスキーシフトが起き、極めて低い確率でも開戦の可能性にかけてみようという選択肢が選ばれてしまったといえます」

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