ベル・クラネル
Lv.1 所属:【ヘスティア・ファミリア】
力 :H194→E404
耐久:H132→F321
器用:H188→E420
敏捷:G299→E476
魔力:I0
《魔法》
【】
《スキル》
【憧憬一途】
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
(こ、これは……!)
ヘスティアは息を呑む。アビリティ熟練度トータル800オーバー。朝帰りしたベルに仮眠させ、一日ステイタスの更新を休んだとはいえ、たったの二日でこの上昇値。
これは成長なんて生易しいものじゃない。まさしく飛躍だ。
この少年は数多の冒険者が苦労して昇る階段を、一足も二足も早く、急速に駆け上がっていっている。
絶対にこの二日で少年の身に何かあったのだ。
ステイタスの伸びを見て確信したヘスティアは、ベルに「何かいいことでもあったのかい?」と問いかけると、事も無げに教えてくれた。
「な~に~っ!! リュー某に指導をつけてもらえることになっただって~~!!」
ツインテールが怒髪天を衝き、うねうねと動き出す。いきなり叫んだヘスティアに、ベルは驚きビクッと肩を跳ねさせた。
「うわっ、急に大声出さないでくださいよ神様! びっくりしたじゃないですか」
「うっ、ごめんごめん。えっとそれで? この前行った酒場でその恩人のエルフ君が何故か働いてて? その後なんやかんやあって師匠役を務めてくれることになったんだっけ?」
「はいっ。リューさんが酒場で働いてたのはシルさんにお手伝いを頼まれているらしくて。それで時々【アストレア・ファミリア】の本拠を離れて酒場で寝泊まりしてるって言ってました。それと、訓練は明日の朝から早速つけてくれることになったので、明日は朝早くに酒場まで行きます。神様、僕がいなくてもちゃんと起きてくださいね?」
「わ、わかってるさ。だけどねベル君! そんな大事な事をボクに相談もなしに勝手に決めたことに、ボクはちょっぴり怒ってるんだぜ!」
「……ごめんなさい。やっぱり他派閥の人と懇意にするのは……」
「ああいや、ボクは別に責めてるわけじゃないんだ。そんな顔しないでくれよ。それに相手はあのアストレアの
「じゃ、じゃあ……!」
「はぁ、そうだね。師弟関係は認めるよ。ベル君の命の恩人だし、エルフ君の好意を無碍にもできないからね」
ぱぁっと表情を明るくさせるベル。そのベルにヘスティアは「た・だ・し!」と指を突きつけ、
「変な事しちゃだめだぜ! 例えばそう……膝枕とか!!」
「しませんよそんなこと! なによりっ、リューさんはエルフだし、同性でも肌を許さないぐらい潔癖らしいし……そんなこと起こりませんって!」
「そ、そうなのかい? それなら安心だね。ボクのベル君を任せられるとも。ちゃんとエルフ君の言う事を聞くんだぜ?」
「はいっ、神様!」
満面の笑みを見せる自分の眷属に、ヘスティアは思わず苦笑してしまう。それだけエルフ君に教わることが楽しみで嬉しくて仕方ないのだろう。
なにせスキルに現れるほどの思いだ。そりゃそうかと、ヘスティアですら納得してしまう。下界の子供は変わりやすい。ただ、件のエルフの手で自分の眷属がこうも変えられてしまった事実がヘスティアとしては悔しいし、ジェラシーも感じてしまう。
……だとしても、だ。これからそのエルフ君に指導をつけてもらうのだ。ベル君の成長――飛躍は、ほぼ確実に今までの比にならないくらい加速していくだろう。
『英雄』になりたい。少年のその思いは、彼が眷属になった日に聞いている。その夢を全力で応援すると、ヘスティアは決めている。だとしたら、
……本当は行く気はなかったんだけどなぁ。自分の所にも送られてきた招待状を思い出し、ヘスティアは心を決めた。
「なぁベル君。ボクは明後日から三、四日ぐらい
「? えぇ、大丈夫ですけど。何かあるんですか?」
「実はガネーシャのところから『神の宴』……パーティーみたいなものの招待を受けてるんだ。それに行ってくる」
「パーティーですか……ドレスコードとか大丈夫ですか? 確か神様はそれらしい服を持ってなかったような……」
「うぐっ、それはまぁ、問題ないさ。ボクが神様連中の間でちょっと恥をかくぐらいだからね」
「それはダメです神様。お祖父ちゃんから、女の子に恥をかかせちゃいけないって教わりましたから。パーティーは明後日なんですよね? 今だったらオーダーメイドでもギリギリ間に合うはずです。ドレス、買いに行きましょう」
「そ、そんなの君に悪いよ! 第一、ドレスって結構高いんだぜ?」
「大丈夫です神様。お金にはまだ余裕がありますし、お義母さんも神様への買い物だったら笑って許してくれますよ。だから行きましょう、神様!」
「ベル君……」
立ち上がり、手を差し伸べてくる。その大好きな眷属の姿に、ヘスティアは思わず目じりに涙をためる。
「もうっ君ってやつは……! わかった! 行こっかベル君! 愛してるぜ!!」
ヘスティア唯一の眷属がここまでしてくれるのだ。彼の力になれなければ
絶対に少年の役に立ってみせると、ヘスティアはあらためて強く心に誓った。
◆◆◆
「アストレア様、少々お時間よろしいでしょうか?」
「リュー? 酒場の方はもういいの?」
「リオン! 帰って来たのね! って、あら? 予定より少し早くないかしら?」
「今は休憩をもらっているので、こちらでの用事を済ませたらまた戻ります。特段急を要するものではないのですが、アストレア様から許可を得るなら早い方がいいと思いまして。アリーゼもいるなら丁度いい、一緒に話を聞いてもらいます」
本拠の談話室、アストレアとアリーゼがそこで紅茶を飲んでくつろいでいた。ここにいない二人はダンジョンか警邏にでも行っているのだろう。
「あら、リューから私にお願いでもあるの? 珍しいわね」
「はい。実は駆け出しの冒険者を弟子にとることになりまして……」
そう切り出し、先日の出来事と少年の印象を二人に語る。その上で、鍛錬の場所についてのお願いだ。リューの頭の中から弟子を取ることに対する許可取りの段階はすっぽり抜け落ちていた。
指導する気満々である。ポンコツである。この二人だから良かったものの、輝夜あたりがいれば面倒な事になっていたに違いない。
「それでお願いというのは、鍛錬の場所にここの庭を使わせてもらいたいのです。私が酒場にいるときはあちらで問題ないのですが、それ以外でちょうどいい場所というとあまり思い浮かばず……」
最悪酒場だけでの鍛錬でもいいのだが、移動の時間や準備その他諸々を考えた時、こちらの方が色々と都合がいい。なにより、リューが酒場の手伝いをする頻度はそこまで多くない。過ごす時間が長いのはやはり『星屑の庭』だ。
そう思ってのお願いだ。他所の派閥の眷属が本拠を出入りするのは、防犯上本当はよろしくないのだが……。
「そう。聞いた限りでは良い子そうだし、なによりヘスティアの眷属なら大丈夫そうね。私は構わないのだけれど……アリーゼは?」
「私からも特に言うことはないわ! なにせあのリオンが大丈夫そうって思う子だもの! 輝夜は文句を言いそうだけど、その時は私が団長命令で黙らせるから安心しなさい!!」
あっさりと許可が出て思わずホッとする。それとアリーゼが余計に火種になりそうことを口走ったことも気になる。
「強硬手段でなく普通に説得してください。いえ、それも私がするのが筋なのでしょうが、もしもの時はお願いします」
「まっかせなさい!」
ウィンクしグッと親指を立てるアリーゼにリューは薄っすらと微笑む。そこで「ところで」と、アリーゼは指を頬に当て、
「兎君あらためお弟子君の名前が『ベル・クラネル』なのよね?」
「そうですが、それがなにか?」
「う~んっと、どっかで聞いたことがあるような名前だなって思って。どこで聞いたのかしら? リオンは心当たりない?」
「彼は駆け出しですし、オラリオに来て一月も経ってないそうなので、私達の耳に入るようなことはないかと。いえ、確かに私も何か引っかかりますが。彼とはあれが初対面でしたが、どこか親近感というか、親しみをもちやすいようなものを――あえていうなら、『弟』といったところでしょうか。それに加え、まるで同じ地獄を見たことがあるような……同類――いえ、同志のような、そんな感じを」
「ちょっと物騒な例えね! それにしても……『弟』かぁ。私達の中で年下の男の子が話題に上がったことあったかしら?」
うーんと、二人揃って頭を悩ませてると、不意にアストレアが口を開いた。
「それなら、あれじゃないかしら。最近は手紙を送ってないけれど……一時期アルフィアが手紙を出していた子がいたじゃない? その子の名前が『ベル』だったはずよ」
「そっ、それです! それですよアストレア様! でも……たまたま同じ名前? それとも本人?」
「なるほど……恐らくは、本人かと。気になるのならば確認すればすぐにわかりますし……明日、私から聞いてみる事にします。それに私が感じたことにも納得がいく。少しだけでしたが、アルフィアの口から聞いてましたから。なにより、彼は駆け出しとは思えないほど『動ける』。それがアルフィアに仕込まれたものだと思えば合点がいきます」
「アルフィア、その子にいったいどんな修行をつけたのかしら? 絶対容赦してないわよね?」
「どうでしょう。彼女が男の子とはいえ小さい子供に死にかけるような真似をするとは……否定しきれないのがなんとも言えませんね」
「そうね! って、リオン、時間大丈夫? この後もまだ酒場で働くんでしょう?」
アリーゼに指摘され、リューは時計に目をやる。まだ休憩時間に余裕はあるとはいえ、丁度いい頃合いだ。
「そうですね、そろそろ戻ろうかと。それではアリーゼ、アストレア様、失礼します」
「気を付けて行ってらっしゃい。輝夜とライラには私から話を通しておくわ。アルフィアの関係者と言えば、それで了承するでしょうし」
「お手数をおかけします、アストレア様」
頭を下げ、部屋を後にする。酒場までの道中は、どうベルに指導しようかと考えることで、リューの頭はいっぱいだった。
◆◆◆
「ここには初めて来たけど……ええ……何を考えてるんだいガネーシャ……」
ヘスティアは宴の会場となる【ガネーシャ・ファミリア】の本拠に来ていた。そしてその本拠を目にしてドン引きしていた。
本拠の建物自体も像の頭を持つ巨人像という奇怪な形をしているが、ヘスティアがドン引きしたのはそこではない。本拠の入口の位置だ。入口はなんと胡坐をかいた股間の中心だった。
『ガネーシャさんなにやってんすか』
『ガネーシャさんマジパネェっす』
他の神々がそんなことを言いながら、慣れた様子で笑って股間の中をくぐっていく。その中に見知った顔は見当たらなかったので、ヘスティアも意を決して像の股間をくぐっていった。
『本日は良く集まってくれた皆の者! 俺がガネーシャである! 今回もこれほどの神々に出席していただいてガネーシャ超感激! さて積もる話はあるが、今年も例年通りフィリア祭を――』
(あ、これ長くなるな)
途中まで聞いていたが、長そうな話になると判断して他の神と同様にスピーチを聞き流して会場内を歩く。
会場は外見とは異なりとても落ち着いた内装の大広間。そこに似つかわしくないバカでかい声が響き渡るなか、立食パーティーの形式をとって『神の宴』は開かれていた。
見たところ都市内のほぼ全ての神がここに集まっている。これだったら目当ての神物も来ている可能性が高い。
「ヘスティア?」
豪華な料理に舌鼓を打ちつつ目的の神物を探していると、後ろから声をかけられた。振り返った先にいたのは、純白のドレスを纏った胡桃色の髪の女神。
「アストレアじゃないか! 天界ぶりだね。元気にしてたかい?」
「ええ、ヘスティアこそ元気そうで何より」
笑みを湛えゆったりと歩んでくるアストレア。彼女に対し、ヘスティアも笑い返した。
「そうそう聞いたよ! 君のとこの
「いいのよ。それに、それはあの子が決めたことだから。私達にできることと言えば、
「違いないね」
それについてはヘスティアも同感だ。神が下界の子供にできる事と言えば、恩恵を授け見守ること。中には変なちょっかいをかける神や邪神なんてものもいるが、ヘスティアのスタンスはそうだ。
「そうだった。ヘスティア、少しあなたの
「うん? ベル君のことはともかく、君がボクに相談事かい? ベル君のことについては内容次第だけど、相談ぐらいだったら何でもいいぜ!」
「ありがとう。聞きたいのは、そのベル君の親のことなのだけど、彼から名前は聞いてないかしら?」
「ベル君の母親のことかい? それぐらいならまぁ。実際のところは母親の姉で正確には叔母さんらしいけど……名前はたしか『アルフィア』って言ってたかな?」
「……やっぱり、そうなのね」
「やっぱり? アストレアはアルフィア君と知り合いなのかい?」
「ええ。何年か前に、私達の本拠で一緒に暮らしてたわ。
「へ~、そんなこともあるんだねぇ。世間は狭いや」
「そうね。ベル君からアルフィアについて他に何か聞いてない? オラリオに戻って来るのかとか」
「ああ、聞いてるぜ。何でも
「なら割と早く再会できそうね」
「神の感覚からすればそれこそ一瞬だけど、子供達にとっては少し長いだろうね。そうだなぁ、あ、後は改宗についても聞いてるよ。これはベル君の意見だけど『たぶん僕と同じ【ファミリア】に入ろうとすると思います』ってね。君も関わってくることだし、その辺は大丈夫かい?」
「問題ないわ。アルフィアの恩恵は待機状態にしてるから、いつでも他の【ファミリア】に改宗できる。なにより、たった一人の血縁だもの。同じ【ファミリア】にいた方がいいでしょう」
「いやぁ、アルフィア君の
「それに関しては……あの子が変神の所にいる姿が想像できないし、仮にそうだったとしても、主神を吹き飛ばしてでも改宗させると思うわ」
アストレアのその人物評に、ヘスティアは思わずたじろぐ。
「そ、そうなのかい? 随分と苛烈じゃないか」
「だって、あの子の前の所属は【ヘラ・ファミリア】よ。それぐらい序の口でしょう」
ざわっと、周囲の神が『ヘラ』の名前に反応する。その周囲の反応にヘスティアは「お、おう」と肩を跳ねさせた。
そこでヘスティアは気を取り直すかのように「そ、そうだ!」と、
「ボクからも君に聞いてみたいことがあったんだよ。君の
「リューのことね。それで?」
「そのエルフ君に恋人とか将来を誓った相手とかってのはいるのかい?」
「そういった相手はいないけど……いっそのこと恋でもして変わって欲しいぐらいには思ってるわ」
その返事にヘスティアは喜んでいいのか悲しんだ方がいいのかよくわからなくなってしまった。
なんだか深刻そうな顔をするアストレア。これは何か訳アリだなと、ヘスティアは続きを促す。
「変わって欲しいっていうのは、なんでだい?」
「さっき言ったあなたに相談したいことというのは、リューについてなの」
「エルフ君について? どうしてまた? ベル君から聞いた限りだと、ちょっと頑固だけど優しくて良い子って印象だぜ」
「そうね……その通りなのだけど。……ヘスティア、あなただったら、迷子のこどもを見つけたらどうする?」
「ん? そんなの、手を引っ張って真っすぐ家族の元に送り届けるだけさ。……けど、聞きたいのはそういうことじゃないんだろう? もう少し詳しく聞かせてくれよ」
「ええ。リューは純粋で、潔癖で、正義感も人一倍強い子なのだけれど、ある時からあまり感情を表に出さなくなったの。昔は仲間にからかわれたりするとよく慌てたり噛みついたりして、そうでもなかったのに」
「それは大人になったってことかい?」
「それならまだいいんだけど、どうもそう見えないの。心が安定しているのに不安定というか。感情の起伏が小さすぎるというか。……まるで、何かを見失ったように。……感情もそうだけど、存在そのものが薄くなったというか、浮世離れしてしまったというか……自分のことなのに他人事のよう。そこにいるのにそこにいない、そんな感じ。さっきの迷子の例えのとおり、何かに迷っているみたいなの」
「その何かってのに心当たりは?」
「一言で言えば『正義』かしら。あとは……同じようだけど、自分の在り方。自分がどうしたいのか、どうなりたいのか」
「なかなか難しい問題だねぇ」
「こうなった原因も、わかってはいるの。だけど私達ではあの子を変えることができなかった。……いえ、本当はあの子自身の力で変わって欲しいと思っているのだけど」
「そりゃそうだ。本人の心の問題に下手に他人が介入したら歪んでしまう。
帰る場所はある。
聞いた限りでは、彼女達にすら本心を打ち明けていないのだろう。もしくは気付いていないか、気付かないふりをしているか。ふさぎ込んでいる訳ではない。かといって吹っ切れているわけでもない。どうにも中途半端な状態のようだ。
「ごめんなさい、あなたに話したところで何も解決しないのに」
言葉に詰まったヘスティアの事を困らせたと思ったのだろう。謝ってくるアストレアに、ヘスティアは首を横に振る。
「んや、気にすることないさ。アストレアだってその子のことを大切に思ってるんだろう? 心配するのは当然だし、何かしてあげたいと思うのは自然なことさ。それに、ベル君はそのエルフ君に命を助けられてるんだ。ならボクにとっても恩人さ。ボクにできることがあるなら協力するぜ!」
「ありがとうヘスティア」
「いいよ全然。そうだ、聞いた限りでボクが感じたことを話してもいいかい?」
「是非聞かせてちょうだい」
「無論だとも」と、ヘスティアは鷹揚に頷き話し始める。
「多分だけど、エルフ君の中で踏ん切りがついてないだけだと思うんだ。自分の心や考え、答えが自分の中で宙ぶらりんになってるって言えばいいかな。君たちと一緒にいていいのかなとか、自分はここに居るべきじゃないんじゃないかなとか、そんな感じに思ってるんだと思う。だから必要なのは切っ掛けだけだと思うよ」
「切っ掛け?」
「うん、切っ掛け。エルフ君が本当の意味で君たちの所に帰ってくる切っ掛けだ。冒険者風に言えば『冒険』すること、かな? エルフ君だけの、エルフ君だからこそ意味のある『冒険』だ。君たちにできることは、その帰り道の障害をちょっとどかしてあげるとか、一緒に歩いてあげることだよ。だから、必要以上に心配することはないんじゃないかな? ありきたりだけど、時間が解決してくれる。その切っ掛けはいつか自然とやってくる。少なくとも、ボクはそう思うよ」
「そう……『冒険』、ね。そうね」
どこか心得を得たようにアストレアは一度目を瞑り、開けたあとに微笑みながらなかなか衝撃的な事を告げた。
「この感じだと、リューをあなたの【ファミリア】に預けるのもいいかもしれないわね」
「ええっ!! どうしてそんな突飛な事を!?」
「だって少ししかリューのことを話してないのに、あなたのほうがリューのことをわかってるみたいなんだもの。流石は炉の女神って、少し妬けちゃうわ」
「にしたって改宗までするのは極端だろうに」
「そうね、半分は冗談。でも、もう半分は本気よ」
「半分は本気なんだね……」
エルフ君を【ファミリア】に受け入れるのは、正直に言えば吝かじゃない。恋敵という意味では要注意人物だが、アストレアがこうまで気にかけてる子だ。エルフ君本人にも恩がある。
もちろん本人に会ってみないことにはわからないが、アストレアが相談したこと以外特に問題もないだろう。ベル君なんて泣いて喜ぶかもしれない。いや寧ろ驚きのあまり絶叫するだろうか。
と、そんなことを考えていると、炎のような赤髪の麗神がヘスティアの視界に入った。
「ヘファイストス!」
喜色に満ちた声で呼びかける。視線の先には深紅のドレスを身に纏う友神、ヘファイストスがそこにいた。
「あら、ヘスティアじゃない。久しぶり、元気にしてた? それにアストレアも」
「ええ久しぶり」
「いやぁ、よかった! やっぱりここに来たんだね。ここに来て正解だったよ」
「何よ。言っとくけど、お金は一ヴァリスも貸さないわよ」
「か、借りないよ!! ボクだってバイトしてお金貯めてるし、ベル君の義母親のおかげで余裕も出来たんだぜ!」
「そのバイト紹介したの私なんだから。しっかり働いてもらわないと困るわよ。……なんでドレス着てるのかとは思ったけど、そういうことね」
「ううっ」
呆れるような目で見降ろされたヘスティアは借りてきた猫のように委縮する。若干悔しく歯を噛みしめるが、言い返せる点が存在しないので何も言えなかった。
「さっきまで二人で話し込んでたようだけど、一体何を話してたの?」
「
「そうね、
「それが私にもいるのよ……ヴェルフって名前の
和気あいあいと、
銀の髪、銀の瞳、抜群のプロポーション、存在そのものが美であると、ただそうあるだけでそう認識させる美の女神。
「ふふ……相変わらず仲が良いのね、貴方達」
「え……フ、フレイヤ?」
悠然とした歩みで近づいて来たフレイヤに、ヘスティアは困惑の声を上げる。あまり歓迎されているとは言えない反応を示されても、フレイヤは柔らかい笑みを保ったままその場に佇んだ。
「な、なんで君がここに……」
「ああ、すぐそこで会ってね。フレイヤから声をかけられたのよ。久しぶりねって。じゃあ一緒に回りましょってなったのよ」
「ヘファイストスとは話したかったのよ。それに貴方たちともね、ヘスティア、アストレア」
ヘファイストスがヘスティアの疑問に答える。常に薄い微笑を向けている美神に、ヘスティアは唇を尖らせた。
「ボクは君のこと、苦手なんだ。知ってるだろう?」
「うふふ、貴方のそういうところ、私は好きよ?」
「やめてくれないか。アルテミスほどじゃないにしても、ボクだって処女神なんだ。いや、ボク達が真面目過ぎるってだけなのかもしれないけど」
フレイヤを筆頭とする美の神とヘスティアなどの処女神は根源的に相性が悪い。美神はその美しさ故に多くの男を虜にしている。
逆に処女神は穢れを許容しない。ヘスティアはまだマシな方だが、神友の一人のアルテミスなんかはそれが顕著に出ている。
そんな少し微妙な空気が流れ始めた場へと、ドタドタと足音を踏み鳴らして大きく手を振りながら走ってくる女神がいた。
「おーい! ファイたーん、フレイヤ―、アストレアー、ドチビー!」
その声を聞き入れたヘスティアは「訂正するよ、フレイヤ」とフレイヤへと言葉を飛ばすと、
「君なんかよりもずっっっと大っ嫌いなやつが、ボクにはいるんだよっ」
「あら、それは穏やかじゃないわね」
心底不快な表情を惜しみもなく前面に出し、向かってくる女神の方へと視線を飛ばすと、ツインテールが逆立つほどに威圧的に視線を尖らせる。
「ぬあぁぁにしにきたんだぁい、ロ~~~キィ~~!」
「すごい顔よヘスティア」
とても女神がするとは思えない表情のヘスティアに、ヘファイストスが呆れた視線を向ける。
対するロキはニマニマと変な笑いを浮かべながら、ヘスティアの格好を舐めまわすように見てきた。
「いやぁ~、なんや貧乏神が貧相な格好でここに来るって聞いたからな。どんなみすぼらしい姿してるか見に――」
勝ち誇った顔をして近寄って来たロキはパーティー用の黒いドレスを着こなしている。
独特な口調でヘスティアに視線を向けていたロキは歩いていた足を止め、ニマニマとした笑みを凍らせたと思ったら、今度はワナワナと震え出した。
「なっ、なっ、なんやそのドレスっ!」
「? これがどうかしたのかい?」
指差し、ヘスティアが着るドレスについて聞いてくる。ヘスティアが着ているのは、ベルが選んでくれた美しい蒼のドレスだ。
「白々しいっ! そないなもんどこで買ったんや! ドチビにドレス買う余裕なんてないやろ!!」
明らかに動揺してるロキを見て、ヘスティアはニマリと笑い。
「いや~、ボクのベル君がどうしてもって言うから、仕方なく買ったんだよ。しかもベル君自身がボクのために選んでくれたんだ。ボ・ク・の・ためにね! まったく、
「あらとってもいい子じゃない」
資金源はベルの義母であるが、そこはわざわざ言う必要はない。ヘスティアの眷属自慢にヘファイストスはそう漏らし、ロキはさらに動揺した。
「な、ななな、ウチの
「ひょっとしてロキ~、君には胸だけじゃなくて、神望すらないんじゃないかい?」
「かっ……はっ……」
彼女の一番のコンプレックスも交えて煽る。眷属から慕われていることでも、胸部装甲でも負け、ロキは膝から崩れ落ちる。
なんとか床に手をついたのは二大ファミリアの一角の主神としての意地か。フレイヤですら、哀れみの視線を向けていた。
ロキを言い負かしたヘスティアは、それはもう清々しいほどの良い笑顔をしていた。
「そ、そういえばロキ、貴方の【ファミリア】の名声よく聞くわよ? 上手くやってるみたいじゃない」
「そ、そうね。この前も私の
ピクっ、と肩を震わせロキは勢いよく顔を上げると、(これやっ!)と一瞬で立ち上がる。
「いやぁ、大成功してるファイたんにそないなこと言われるなんて、ウチも出世したなぁ~。アストレアんとこの
「……! っ……!!!」
声にならない声を上げながら、苛立ちを表すように足を何度も床へと踏みつけるヘスティア。それを横目にヘファイストスは「忙しいわね、アンタ」と溜息を吐きながら呟く。
そんな言葉は届くわけもなく、目の前で見降ろしてくる
「今の子達はな、ちょっとウチの自慢なんや」
声のトーンが変わり、本心を伝えてくるロキは恥ずかしそうに手を頭に乗せる。眷属の話を始めた彼女の声には、彼等を愛していることが見え隠れしていた。
ヘスティアは苛立っていた気持ちを幾らか抑える。
「天界じゃぁあれだけ破天荒だった君が、よくもまぁそこまで丸くなったもんだね」
「ふんっ、ウチかて変わるもんは変わるんや。子供達に会ったおかげやな」
「そうかそうか。じゃあ次会う時までに、その貧相なものを子供に変えてもらっておいてくれよ!」
「うっさいわボケぇぇぇ!! 覚えとけよごらぁぁ!!」
会場全体に響くほどの怒声を上げ、地団太を踏み鳴らしながら出口へと向かっていくロキ。
その後ろ姿を舌を出して下瞼を引っ張りながら、ヘスティアは見送った。
「じゃあ、私も帰らせてもらうわ」
「あら、もう帰るの?」
「ええ。知りたいことは知れたし」
「?」
グラスをそばを通った給仕へ渡し、フレイヤもロキの後を辿っていく。
「私もそろそろ帰るわね。ヘスティア、相談に乗ってくれてありがとう」
「いいってことよ。君達とは今後長い付き合いになってくと思うんだ。また何かあったら言ってくれ」
「そうさせてもらうわ。それじゃ」
そうして残ったのはヘスティアとヘファイストスのみ。このまま流れで解散になるだろうと予想できたが、ヘファイストスは何かを感じ取っているのか、ヘスティアの方へとジト目を向けてきている。
ヘスティアは居心地が悪そうにモジモジとし始めた。
「そのぉ……ヘファイストスに頼みたいことがあるんだけど……」
やっぱりか、と、そんな風に思ったのだろう。眼帯をつけていない紅の左目がスッと細まる。
「この期に及んで、また頼み事ですって? 一応聞いてあげるけど、な・に・を・私に頼みたいですって?」
汚物を見る目で見降ろしてくるヘファイストスに、覚悟を決めたヘスティアが告げる。
「ベル君に……ボクの【ファミリア】……ううん。ボクの家族の子に、武器を作って欲しいんだ!」
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色々捕捉
ヘスティアとアストレアの話のとおり、リューはいま中途半端な状態です。闇派閥への復讐も、原作ほど酷くはないですがやっていて、けどアリーゼ達の目があるから燃え尽きてない、燃え尽きられなかった。
関係者皆殺しとかやってませんし、疑いの段階で襲ったりもしてません。エイナさんが言った闇派閥関連の事件解決数No1がこれです。本当に色々中途半端。
あとはヘスティア様が指摘したとおりって感じですかね。流石は炉や家庭を司る女神様ですわ。
リュー本人からしたら、自分は五年前の出来事で死んだも同然って感じです。進むべき道も、帰るための道もわからない、まさしく迷子の妖精さん。
ヘスティアの言う切っ掛けですが、まあ当然やつですよやつ。帰り道の障害物としてはデカすぎる気がしますが、あれぐらいのインパクトや冒険をしないとどっちみち答えなんて出せるわけねーですよ。なので二人揃って原作通り過酷を味わってくださいな。
あと修行場所について。
リューさんは市壁の上なんて思いつきませんでした。確かあそこって普段は立ち入り禁止のはずなので。
都市の秩序を守る者として、また、真面目で正義感の強い彼女はそんな場所で訓練するなんて思いつくわけないですよね。
ちなみに【アストレア・ファミリア】の派閥ランクはA。オラリオにはいないけど、セシル達も既に【アストレア・ファミリア】に入ってる。オラリオ内では4人の超少数精鋭。リューさんは「かつてほど大きくはない」って言ってたけど、それは人数の話。派閥のランクは上がってる。
【アストレア・ファミリア】の派閥ランクは……原作の【ヘスティア・ファミリア】がB(S)だし、これぐらいでもおかしくないよね?