エピローグ後編です
時間は少し遡る。
五月十一日、日本時刻で〇時〇分。
それは六道伊吹が第四位と第五位の魂を破壊した直後のこと。
未だ現世の人類では観測できない世界の裏側で、
「揃ったかのう……では、会談を始めるか」
そう言ったのは骸骨、或いは
ルーアハはあらゆる転生者の中でも最年長であり、君臨すれども統治しない第一位に代わって転生者の
「……
機械音声のように淡々と呟いたのは、毒々しいショッキングピンクの髪色の女。
本を片手に背筋を正している彼女は、どういう訳かメイド服を身に纏っていた。
「…………………………………………」
そして、最後。
この童女こそ原初の一、最強の転生者。
オーロラのように極彩色に輝く幻想的な髪は、宇宙を内包しているかのようにその時々で見え方が異なる。
彼女は何を言うこともなく黙り、その瞳も閉じられている。
その空間には、黒い
しかし、その座席はたった三つしか埋まっていなかった。
「カカカッ! 朕は間違っておらんよ。今集まれるのはこれだけじゃ」
「……………………
「第六位は未だ天命機関に囚われたまま。第五位・第四位は六道伊吹によって魂を破壊されたようじゃのう」
「『…………たかが
フランの顔は
だが、その喉の奥で息を呑む音が聞こえた。
定期的に開催している
だから、第四位と第五位が殺されたこと自体にはショックは受けない。
だが、それでも二人は
一時的に死ぬことはあり得ても、完全に撃破されることなどあってはならない。
そんな不可能を可能にできる存在を、自分を殺せる可能性がある者をフランは許容できない。
「
故に、今までの六道伊吹の努力を無に帰す選択肢を選び取る。
「三つ目というと──《
「
簡単に言えばタイムマシンであるそれは、過去や未来に記憶だけでなく体ごと移動することができる。
そして、その最たる利点はタイムパラドックスの影響を無視できること。過去を改変するにあたって、これ以上のモノは存在しない。
(第五位は自身以外が悪用する事を恐れて、何処かに隠していたようだが……それも第二位が探せばすぐに見つかる。今こそ我々が有効活用する時だ)
しかし、第二位の返答は素っ気ないものだった。
「ふーむ、それは無理じゃな」
「……
「不可能じゃ。少なくとも、この時間座標には存在しないのう。カカカッ、朕から隠す為に未来にでも送ったのではないかの?」
第一希望は叶わなかった。
時間遡行による過去改変は不可能だった。
だから、フランは躊躇なく第二希望に踏み切った。
「『
その時、人工衛星は上空に突如発生した巨大兵器を観測した。
全長は300mほどだろうか。シルエットからはミサイルや核兵器のようにも見えるそれ。異能と言うには現実的で、現代兵器と言うには異様すぎる形状。
しかし、その実態はたった一発でプレートの奥まで穿孔し、星を
「カカカッ、一人の脅威を殺す為に人類全てを滅ぼすか。効率的じゃのう」
「
「別に構わんよ。生命なんぞいつかは滅びるからの。絶滅を見るのは慣れっこじゃ」
「……………………………………」
第三位は現世の人類を知的生物だとは認めていない。
第二位はそもそも生命の存続に興味がない。
第一位は何も答えない。
故に、人類絶滅は採択された。
そして、上空から爆弾が投下された。
六道伊吹の意識が戻っていない間に、
転生者は掲示板で騒ぐも、すぐに諦めた。
天命機関は対処法を練るが、間に合わなかった。
「───
「………………
あり得ない現象だった。
矢に射抜かれた程度で爆弾は停止しない。
百歩譲って上空で爆発したならば兎も角、爆弾としての能力そのものが失われて不発するなんて事があり得るはずがない。
「ボクの事を覚えているかい?」
フランにはその声は聞こえず、姿は見えない。
だから、返答したのはルーアハだった。
「……違和感は其方じゃな。朕にすら観測できないほど世界が抹消された存在。第五位の
ルーアハも彼女を観測できている訳ではない。
しかし、ルーアハは世界全てを観測できる。だからこそ、逆に観測できない場所が人の形として浮かび上がった。
あたかも、ブラックホールが存在を主張するように。
「じゃが、どうやって生存している? もしも其方が
「第五位の死亡によって『矛盾』の摂理が破綻したようでね。ボクも転生できたという訳さ」
「…………いや? それは不自然じゃ。『矛盾』の摂理が破綻するとしても、最短で数年はかかる。今すぐ転生するなんてできるはずが──」
「
ルーアハは目を見開く。
ルーアハの言動から話について行ってたフランは、半信半疑でその答えを口に来た。
「…………
つまり、彼女は未来から来た刺客。
いつかどこかで転生する事ができた彼女は、タイムマシンを使って六道伊吹がいた現代までやって来た。
「ボクは約束したんだ。第四位と第五位を殺せば、第二位と第三位は手を出して来ないって」
ファミレスで交わした会話を覚えている。
当時は、六道伊吹を奮い立たせるために吐いた嘘だった。
でも、言ったからには本当にしなければならない。そうでないと、余りにも申し訳が立たない。
「ボクは約束したんだ。また逢おうって」
死に際に交わした会話を覚えている。
たとえ彼がもう覚えていないのだとしても、彼女はそれを忘れられない。
「だから、幕間を始めようか。彼がまた立ち上がれるその時まで、ボクが代わりにこの世界を守り続けよう」
それは、宣戦布告。
彼女は三人の
直後。
世界の裏側で、世界を揺るがす激突があった。
六道伊吹とディートリヒの戦闘跡地。
ひび割れた地面に佇む一人の少女がいた。
年齢は十二歳くらいだろうか。
黄金の髪に黄金の瞳を携えた絶世の美少女は、一糸纏わぬ姿で自らの掌を眺める。
傷一つない輝かんばかりの白い肌……と言いたいところだが、少女の身体には頭からつま先までを縦に裂くような
そして、
「生きているッ⁉︎ 我は生きているぞォォオオオオオオオオオオオオオッ‼︎」
元
「栗栖椎菜の仕業によって女体化してはいるがッ、構わないのである‼︎ 我は生きているッ‼︎
ディートリヒが生きている理由は絆の力──
《
六道伊吹はその弱点を補う為に何度も繰り返して異能を発動させたようだが、それも完全ではなかった。簡単に言うと、
死の直前に意識を取り戻していたクシャナは、その僅かな穴を突いた。
《
トラウマを超え、身を挺してディートリヒを救ったのだ。
そして、ディートリヒはその隙に逃げた。
元々ディートリヒが受肉する予定だった赤子の肉体に憑依し、最後の一撃を回避した。
元々憑依する準備をしていた肉体が近くにあったのは幸運だった。そうでもなければ、こんなに速い緊急憑依は不可能だった。
現在の姿は、その赤子を無理やり成長させた体である。
「クシャナが繋いでくれた命ッ、我が粗末にする訳にいかんぞォ‼︎ 今度こそ我に
──ズキンッ‼︎ と。
黄金の
ディートリヒを縦に裂く
これは帝王切開の時に六道伊吹に刻まれたモノ。
『永遠』という概念で刻まれた故に自然治癒は起こらない。
じわじわと、徐々に傷口が深くなる。
ぽたぽたと、徐々に流血が酷くなる。
がりがりと、徐々に正気が失われる。
《神体加護》という
だが、今のディートリヒには不可能だ。
異能を失ったディートリヒは傷に耐えられない。
少女の肉体に移って延命はできたかもしれない。
だが、これでディートリヒの人生は終わりだ。
「やめろッ! やめろやめろやめろやめろやめろっ、やめろォォォォォォォォ‼︎ やめてっ、くれェ……‼︎ 死にたくないっ、我はまだ死にたくないのであるっ‼︎ 我はッ、我はァ……‼︎」
それでも、少女は生にしがみつく。
理由は一つだけ。
この現世では、普通の感情。
「
それがディートリヒの全てだった。
自分の力を自分の為だけに使う。そんな特筆すべきことは何もないただの利己主義。
現世なら何処にでもいるような、普通の
けれど、前世ではそれが認められなかった。
力ある者は弱者の為に力を振るう事が求められ、力あるディートリヒは自分の為に力を振るうことが許されなかった。
民衆はディートリヒに救いを求め、神々は更なる力をディートリヒに与えた。
モンスターを討伐した。
災害を食い止めた。
魔王を殺した。
それでも、彼はしあわせになれなかった。
だから、魔王の権能を使い世界を滅ぼした。
全てを巻き込んで自殺した。
そして、この世界に転生した。
「生きたい時に生きッ、死にたい時に死ぬッ‼︎ きっと、それがしあわせなのだァ‼︎ 我はまだ死にたくないッ‼︎
現世は理想の世界だった。
娯楽が溢れ、利己的に振る舞う事が許されていた。
ディートリヒを縛る神々はいなかった。
ディートリヒを頼る民衆はいなかった。
だから、この楽しい余生をまだ続けていたい。
自分は産まれてきて良かった、と。
心の底からしあわせだ、と。
そう思えるようになりたい。
「たすけてくれェ‼︎ 誰でもいいッ、たすけてくれっ‼︎ こんな所で……ッ、こんな誰もいないような寂しい場所で終わりたくないッ‼︎ たのむっ、我がなんでもするッ、だから……‼︎ だれか……っ」
誰に向けたかも分からない命乞い。
その声は誰にも届かない。
ディートリヒはこの暗闇の中で死に絶える。
「────《
「たすけて、と。そう言ったのはあなたか?」
「だ、れだ……?」
それは学生服を着た少年だった。
髪は明るい茶髪だが、遊んでそうな雰囲気はない。
むしろ眼鏡も相まって真面目そうな印象を受け、茶髪は地毛なのだと直感的に思った。
だけど、見た目なんかどうでも良かった。
それよりも大きな異常が目の前にある。
彼の手に触れられた聖痕は跡形もなく消え去った。
それは何処かの誰かと同じ能力、
間違いなく異能。
だが、少年には転生者特有の気配がない。
「ぼくの名前は
少年は淡々とそう言った。
少女はそれを聞いて怪訝そうな顔を浮かべた。
「あなたの名前を聞いてもいいかな?」
「我の名前はディート…………そう、
咄嗟に名前を誤魔化した。
大した理由はない。
ただ、今の見た目で男っぽい名前は不自然だと思ったからだ。
「……普通の高校生は怪しい男には近付かないであるぞォ?」
「何を言っているんだ? あなたは男じゃなくて女の子だよ。助けを呼ぶ女の子を助けるなんて、人として普通のことだろう?」
「反吐が出るなァ? キモチワルイのである」
「気持ち悪いか……そうか、では
「…………ん?」
不思議な言い回しに首を傾げる。
普通普通と言う割に、目の前の少年は何処か異常だった。
……非日常の中でも普通である異常と言うべきか。
「ぼくはぼくの自己満足の為に人助けをしていてね。あなたを助けたのもその一貫さ」
「……ふむ、それならばまだ納得はできるがァ……嘘くさいぞォ、貴様」
「嘘は言ってないよ。今日もぼくは人助けをしてきたばかりさ。
「…………?」
「それよりも、あなたは助けて欲しいんだろ?」
「そうだ、と言ったら? 貴様は何をしてくれんだァ?」
少年は即答した。
「
流石のディートリヒも目を見開いた。
だって、ディートリヒは世界の敵だ。
友達はクシャナしかおらず、世界中でアンケートを取ったら満場一致で死刑が決まるような経歴の悪人だ。
なのに──
「……何を考えている?」
「何も。強いて言うなら、あなたの事を」
「我に気があるのかァ? ああ、今の体は少女であったなァ……この肉体を抱くのが目的であるかァ?」
「魅力的だとは思うけど、同意なしで性交する気はないよ。というか、女の子がそう言うこと言うべきじゃない。慎みを持つのが常識的なんだから」
「……………………我は、この世界の敵である。文明を貪り、人命を弄び、世界を終わらせる災厄である。我の味方をするということは、全人類……いや、この世界そのものを敵に回すに等しいのである。それでも──」
「
ぞわッ、と鳥肌がたった。
この少年は紛れもなく異常だった。
「なん、で……?」
「……? ごめん、理由はちょっと思い浮かばないや。でも、人間って助けてと言われたら助けたくなるものなんだろう?」
「……………………………………………そうだ、貴様は──」
その時、ディートリヒは思い出した。
折手メアの記憶──そこに存在する
「ねぇ、ディートリンデ。あなたがまだ生きていたいって言うのなら。しあわせになりたいって叫ぶのなら」
彼の名前は九相霧黎。
「そんな
九相霧黎はディートリンデに手を差し伸べる。
『テンプレート・トライアンフ2』の
対極に位置する二人の運命は重なった。
その
新たなラスボス系ヒロイン登場。
TSクソ野郎が好みの皆様へ。
第二章「限界突破オーバーロード/Load_Game」完結
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次回更新予定は活動報告参照。