HAPPY BIRTHDAY!
折手メア‼︎
折手メアが死んだ。
前にも、似たような事があった。
ブレンダ先輩との戦いの最中、第四位と第五位が現れて先輩の体を両断した。
幸い、先輩は一命を取り留めて、俺達は──いや、
……でも、今回は一命を取り留めるなんてあり得ない。
「折手……‼︎」
誰かの名前を口にした。
なのに、その言葉がぼやけて聞こえない。
自分自身でも誰の名を呟いたのか認識できない。
記憶が零れ落ちていく。
さっきまで目の前にいたはずの誰か。
ヒーローになると誓ったはずの誰か。
手を差し伸べたはずの誰かを忘れてしまう。
『ボクがキミのファンだからだよ』
『うん、じゃあお休みなさい。いい夢を』
『学校でラブコメをしよう』
『任された』
『いぶき‼︎ こんな結末なんか覆してくれッ‼︎』
消えていく……‼︎
俺の側にいた誰かがッ!
俺を好きになってくれたあの子がっ‼︎
どんな顔で、どんな声で、どんな髪で、どんな匂いで、どんな身長で、どんな性格で、どんな思い出があったのか。
俺達はどのように出会って、どのように仲を深めて、どのように別れを迎えたのか。
何も分からない。分かるのは一つ。ただ、何かの欠落があったという事だけ。
「ふははははははははははははははッ‼︎ 知らんのであるかァ? 我等が育んだ仲は三〇〇年を超えるッ‼︎ 絆の力で蘇っても不思議ではないであろう?」
クシャナの顔で、クシャナの声で、ディートリヒが話す。
気味が悪い光景だった。
「これが
ディートリヒは誰かから記憶を奪った。
俺はあまり覚えていないが、きっとそれは運命が記された何か……みたいな感じだったような?
「だが、
クシャナの
何処かの誰かの
ディートリヒの
「ならば、手始めに貴様を殺すかァ」
直後、異能の反応を感知した。
《
《
《白亜神殿》。
三種の異能が重なる。
時間が止まり、体が弱り、世界がディートリヒに味方する。
「──《
本日六度目の異能使用、残りは0回。
異能を使わされた。
無効化する対象は《
仕方がない。相手はクシャナの記憶すら取り込んで油断のないディートリヒ。
時間が停止されたら瞬殺されてしまう。だから、異能を使う以外に道はない事は分かっている。
だが、これで異能の残弾は無くなった。
運良くディートリヒに手が届いたとしても、異能の過剰使用による相打ち以外に勝ち目が無くなった。
「ごがっ⁉︎」
そして、そもそも手が届くわけがないのだ。
時間が停止しなかったからなんだ?
ディートリヒはまだまだ異能を保有している。
例えば、《白亜神殿》。俺の全身が脱力する。
「それはもう乗り越え──ッ」
「しかし、今の我は運が良いであるぞ?」
身体の内と外に《
だけど、
モタモタしている内に
「あがアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ⁉︎」
そんな偶然あるわけが無い。
そして、あり得ない運命を呼び寄せる異能を俺は知っている。……記憶からは消えていても、知識としては覚えている。
《
ディートリヒにとっては自分自身が
瞬殺。
抵抗できる訳がなかった。
のたうち回る俺を眺め、ディートリヒは吐き捨てた。
「こんなモノであるか、我が宿敵というのは」
《神威聖剣》が振るわれた。
その攻撃は絶対に外れない。それを世界が保証する。
そして、太陽の如き熱量が世界を両断し──
「────危なかったわね、
ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
ブラックホールの如き暗闇が太陽を相殺した。
それは
即ち。
「待たせたわね、これってどんな状況かしら?」
「
「私も居ますよ。よく持ち堪えましたね」
「
俺の両隣から二人の味方が現れた。
心強い、一騎当千のヒロインが。
アドレイドが《魔界侵食》を使用したらしく、《白亜神殿》もまた相殺される。
「ディートリヒは椎菜からクシャナへ乗り換えた。俺の異能は使い切った。……もう名前も思い出せないあの子は、…………殺された」
憎悪を込めてディートリヒを睨む。
一挙一動を見落とさないように警戒する。
ディートリヒは動かない。
油断している……とはまた違う。
何かを考えている? 調整している? そんな雰囲気だ。
「でも、一体どうやってここまで?」
「えーと、なんかパカって開いたからくぐって来ただけよ」
「………………ブレンダ先輩、解説頼む」
アドレイドの説明が下手すぎる。
何も伝わってこなかった。
「……私達が駆け付けた訳ではありません。此処と学校を繋ぐ空間が開き、そこから召喚された形ですね」
「それって……」
「ええ。空間を操る、そんな事が今この街でできるのは学校の異界を生み出した者以外にはありえないでしょう。……
目線はディートリヒから外さず。
視界の端で椎菜を捉える。
「……だって、仕方ないじゃないですか。わたしだって他の
「そうか、助かったよ。ありがとう」
「ふーんです。わたし、もう伊吹さんのこと幻滅しました」
「そりゃよかった」
「…………そういうとこ、ホント嫌いです」
ぷいっ、と椎菜はそっぽを向く。
容赦なくやりすぎたか……まあ、それも仕方ない。
「雑談は終わったであるかァ?」
「テメェも調整は終わったのか?」
明らかに先程とは雰囲気が違う。
使い慣れていない他人の異能が長年使っているかのように馴染んでいる。憑依転生で他人の肉体を使い続けた経験故に、だろうか。
時間は与えたのは不味かった。
だけど、もう俺は一人じゃない。
だったら、まだやりようはある。
「アドレイド・アブソリュート、ブレンダ、栗栖椎菜、そして六道伊吹。……運命、と呼ぶべきかァ? 一人欠けてはいるが、クシャナにある一周目の記憶と違いないのである」
「一周目……?」
「だが、前回と同じ有様だとは思わない事であるなァ。今回は六道伊吹が限界であるし、我は三人分の異能を持つ。
俺に答える暇は与えず。
ディートリヒは異能を発動する。
「《
異能の残弾は既にない。
故に、反応が一手遅れた。
時間停止に対してその一手は、あまりにも致命的だった。
「…………はァ⁉︎」
「
異能が不発した訳ではない。
異能は紛れもなく発動した。なのに、時間停止の効果が俺達にまで及んでいなかった。
「
ブレンダ先輩が冷たい目をして答えた。
世界観の違い。厳密に言えば、それぞれの世界観が持つ
「第五位の異能は確かに強力です。ですが、その真髄は宇宙全てを対象とする広範囲な異能。
「……ッッッ‼︎」
「貴方は異能を奪う事ができるのでしょうが、世界観までは奪えない。何故ならばそれは、魂に染み付いた
世界規模。
イヴリンも言っていた、俺の知らない用語。
だけど、話の流れからして異能の効果範囲と同義だろう。
「だがッ、我が
「ですが、この街は今
「…………
そして。
そんな事が出来るのは、この中でただ一人。
「
ディートリヒにとって、椎菜とはそう呼ぶに相応しい怪物であった。
ディートリヒに打ち勝った証──黄金の髪を持つを少女は告げた。
「今の貴方の世界規模は1センチだけ。ディートリヒさんのせいで伊吹さんが取られたんですから、責任取って死んでくださいっ!」
椎菜の宣言と同時、俺達は動いた。
俺とブレンダ先輩は駆け出し、アドレイドは《暴食魔剣》を振るう。
「チッ、相殺されたわ!」
「当たり前だァ‼︎」
衝突する《暴食魔剣》と《神威聖剣》を傍目に、俺はブレンダ先輩に呼びかける。
「長期戦はこっちが不利だ! 短期決戦で行くぞ‼︎」
「了解しました。一撃で決めます」
「させるかァ‼︎」
《
ヤツは右手で《神威聖剣》を振るい、唇は《神聖魔法》を謳う。
「
「──
「ッ⁉︎」
ゴバッ‼︎ と。
ディートリヒの体内から爆発の如き轟音が炸裂した。
一節、風属性魔法。
禁呪が故の超短文詠唱がディートリヒの歌を追い越す。
内側から肺を破壊し、詠唱を潰す。
(これでディートリヒは丸裸だ……‼︎)
《白亜神殿》は《魔界侵食》で、《神威聖剣》は《暴食魔剣》で相殺された。
《神聖魔法》は《禁呪魔法》の影響で詠唱することができず、《神体加護》には《
そして、《
残るは《
だが、《
──だが、次元が異なる反応を感知した。
失念していた訳じゃない。それはさっき目にしたばかりのモノ。
「ごッ、ああアアアアアアアアッッッ‼︎‼︎‼︎」
「ッ、避けろッ!
両手から二種類の
椎菜による空間の拡張も、世界の終わりが相手では意味を成さない。
原子レベルで魔力に分解された世界が吸収され、過去から未来まであらゆる時間軸から消滅する。
「
「攻撃にムラが多いですよ。二種類の
「たとえそうであってもッ、避けられる訳が無いであろうッ⁉︎ 巫山戯るなッ、常識外れのバケモノがァ‼︎」
瞬間、ブレンダ先輩か視界から消失した。
それは縮地、武術による仙術の再現だろう。神の眼さえ欺く気配遮断と組み合わさった歩法により、半ばワープ染みた挙動でディートリヒに肉薄する。
「───
《
今度は《神体加護》のバリアに防がれる事はない。《
「────ッ⁉︎」
「殺しはしません。ただし、《白亜神殿》のお返しをさせてもらいますよ」
ディートリヒの生命力が
まるで無理やりシャットダウンされたパソコンのように、意識がほんの一瞬だけ
全身から脱力し、
「今です‼︎」
「うおおおおおああああああアアアアアアッ‼︎」
攻撃が晴れたアスファルトの上を走る。
三人がこじ開けた
「や・ら・せ・る・かァァアアアアアアアッ‼︎」
ディートリヒの指が高速で動いた。
椎菜が息を呑む音が聞こえる。
《神聖魔法》、手指詠唱……⁉︎
その指が神への指示を手繰り──
「──《石化魔眼》」
──光速の視線がディートリヒを石化させた。
それは概念的な停止。空間ごとディートリヒが静止する。
「…………ぁ……っ、……が……ッ‼︎」
「往生際が悪いですよ」
ダンッ‼︎ と。
ブレンダ先輩が地面を踏み叩いた。
石化しても尚もがくディートリヒが痺れたかのように動かなくなる。
ブレンダ先輩が考案した
「でかしたぁ‼︎」
ブレンダ先輩の踏み込みと同時。
地面を跳び、俺は右手をディートリヒに向かって振りかぶった。
あと1センチ、あと1秒。
死神の手が魂を握り潰すまであと──
(──
それは
たった1センチしか効果範囲のない異能ではあるが──
(──
指先だけが停止した。
腕の振り自体は止まらなかったため、全ての負荷を背負った指先の骨が折れる。
しかし、そんなのはどうでもいい。俺の目には《神威聖剣》を振るうディートリヒが映った。
(やべぇッ、避けられ──)
「
空間を超えたワープ。椎菜が空間を歪めた事で、間一髪で絶死の一撃を回避する。
(まだ死なんであるかァ⁉︎ ならばッ、《
ピキピキィッ‼︎ と。
こめかみに鋭い頭痛が走る。
肉体に刻まれた
「行けッ、
「任せました、六道君」
「お願いっ、伊吹さん……‼︎」
今度こそ、今度こそッ‼︎
俺は拳を握りしめて叫んだ。
「《
「《
驚く暇はなかった。
異能の過剰使用による代償。
《
「………………ごぼアッ⁉︎」
逆流するかのように、口から血を吐く。
そして、それは致命的なまでに
「《
「……………………ぁ」
それは、誰の声だったのだろうか。
アドレイドか、ブレンダか、椎菜か。
それとも、六道伊吹から溢れた呻き声か。
ぐしゃッ、と
六道伊吹の遺体は酷い有様だった。
《神威聖剣》が貫通した箇所は跡形もなく蒸発し、傷口からはどくどくと血が流れる。出血は壊れた水道のように止まらない。
余熱が上顎の一部を熔かし、頭蓋骨は粉々にひび割れた。頭蓋骨内の空気が膨張することで左眼は吹き飛び、衝撃波が脳味噌をぐちゃぐちゃにした。
「ふっ、ふはははは、ふははははははははははははははははははははははははははッッッ‼︎‼︎‼︎」
沈黙の中に嗤い声が響く。
勝鬨をあげる雄叫びが。
「我の勝ちであるぞォォオオオオオオオオッ‼︎」
ディートリヒの勝利条件とは一つだけだった。
それこそ、六道伊吹の殺害。他の者達も脅威ではあるが、《
「──死んだ程度で俺が諦めるとでも思ったか?」
後ろで、誰かが立ち上がる気配があった。
あり得ない事だった。
あり得てはならない事だった。
もう、《
もう、彼を救う折手メアはいない。
もう、奇跡は起こらない。
だが、忘れるな。
「テメェのくっだらねぇ
HAPPY (Re)BIRTHDAY
六道伊吹