「うおおおおおおおおおおおおおおッッッ⁉︎⁉︎⁉︎」
ドガガガガガガガガッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
爆発音が連続する。
どんな異能なのかも分からないが、カラフルな煙幕を突っ切って
(クソがッ‼︎ 異能感知が働かないだけで、こんなに厄介なのか⁉︎)
爆発から逃れても、刺客達の猛攻は終わらない。
なにせ、敵は
「《
「またかッ⁉︎」
ぐりんっ、と
重力が変わった。地面となる基点が変更された。
俺は
度重なる重力の変更と煙幕の伴った爆発、そして空間が歪んだこの迷宮の影響で、俺はアドレイドやブレンダ、真尋と
「グルオオオォウウゥッッッ‼︎‼︎」
「ギッギッギッギッィィィ‼︎」
「邪魔だッ‼︎」
俺に殺到する人外転生者どもを《
本当に面倒なのは本能で暴れる獣ではなく、理性を持って俺を狙う転生者である。ヤツらは今も一定の距離を保ち、人外転生者を使役して俺に差し向けている。
(キリがねぇ‼︎ こんな所で油を売っている場合じゃないのにッ‼︎)
気絶させた転生者の数は既に二桁に到達している。しかし、そんなのは全体から見ればたったの一パーセント。
この迷宮の歪みを正すには到底足りない。
「《モスキート・パルス》」「《
特定周波数の音の刺激が筋肉を硬直させる。立ち上がれない程の重力が俺を床に縫い止める。呪術により使役された怨霊が俺の肉体に取り憑く。上帝の言葉が平民の精神を屈服させる。
四種の異能が、俺を足止めした。
(体がッ、動かねぇッッ……⁉︎)
ここで《
たった六回しか使えないのだ。七百もいる敵一人一人に対して、毎回使っていたら体が保たない。ここは温存させてもらう。
(思考が止まってねぇのならまだまだやりようはあるんだよォォォォッッッ‼︎‼︎‼︎)
第四位と第五位が襲来した時に会得した技。
《
「テメェらが這いつくばりやがれッ‼︎」
重力が強くなっているということは、
伸ばした
四人の内の三人をボコボコにしたが、一人だけが走って逃げた。追撃しようと敵を追いかけ───
ドゴアッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
巨大な腕が壁を破って敵ごと拳を叩き付けた。
間一髪。
顔面スレスレを巨大な拳が通り過ぎる。
穴の空いた壁から見えるのは、地平線まで続く広大な
俺はそいつの名を知っていた。
「大久保……‼︎」
「ゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ‼︎‼︎‼︎」
返答はパンチの形で返された。
巨大な拳による殴打は、もはやトラックが衝突したかのような惨状を生み出す。まともに受ければひとたまりもない。
逃げようと体を動かすが、予想外の方向から声が上がった。
「《
ふわりっ、と体が浮いた。
足が地面から離れる。手は空を掴む。
機動力を殺された。回避という手札を封じられた。
それは大久保のパンチに押し潰された転生者。
血塗れで倒れながらも、俺を追い詰める。
直後。
ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と拳が着弾する。
「ごばァッ⁉︎」
咄嗟に《
拳の勢いは留まることなく、危うく壁と拳の間でぺちゃんこに圧死する所だったため、間に《
………………が。
「校舎の方が保たねぇかッ⁉︎」
ギシギシギシギシッッッ‼︎ と。
校舎が悲鳴を上げるように軋み、亀裂が走る。
《
問題はそれだけじゃない。時間が経てば、転生者がまた俺の元へ殺到するだろう。集まる前に決着をつける必要がある。
何とかして状況を打開しなくてはならない。
だけど、俺にはどうすることもできない。
相変わらず無重力で動けず、《
「クッソがぁぁぁぁああああああああああッ‼︎‼︎‼︎」
大久保は優しい男だった。
ガタイはいいが、暴力を振ることは一切なく、大木のような男だった。そんな友人の尊厳が無惨に踏み躙られ、俺はそれを黙って見ることしか出来ない。
巫山戯んな。
出し惜しみなんてしてられるか。
拳を握りしめ、《
「───まあまあ、ちょっと落ち着いて下さいっす」
そこに立っていたのは、修道服の女性。
いつの間にか、拳は離れていた。
巨人が怯えるような素振りで後退りをする。
「六道伊吹くんの異能は自分達の切り札っす。ここは自分に任せてください」
「……お前の実力はあまり知らないけど、大丈夫なのか? なんか
「
ゾワッッッ、と鳥肌が立つ。
耳から何が入り込み、脳みそを弄られたかのような不快感だった。声・匂い・湿度、言葉が通じずとも伝わる五感を撹乱し、精神を掻き乱す催眠術。
たった一言。
その音を耳にした巨人は、酔っ払ったかのようにふらつき、目を回して背中から倒れた。
「………………やばいな、お前」
「いやぁ、人型で良かったっす。完全な獣なら効いてたか不明だったっすからね〜」
倒れた巨人を縛るように、地面から大量の縄が現れる。確か、佐武真尋の異能だったか? 彼女は気絶した転生者が復活しないように回収しているようだ。
バタバタバタバタ、と。
廊下を走る音が聞こえる。
転生者が集まって来た。
「キリがないっすね。このままじゃ、七百人倒す頃には日が暮れてるっすよ」
「クソッ、どうする……⁉︎」
「何か……心当たりはないっすか? 他にも出口があるはずなんすよ。
何か、何か、何か。
折手だけが出られて、俺たちが出られない理由。
そこで、裕也の
『オリデメアノモトヘイケ』。
あれが、そのまま折手メアの元へ駆けつけろという意味
「
「この迷宮って六道伊吹の異能で破壊できないんですの?」
対して、その場にいたアドレイドは砲身を壊しながら軽く答えた。
「効くんでしょうけど、無意味ね。一瞬だけ無効化しても、元となる転生者達を断たなきゃすぐに元通りよ」
「上手く行かないものですわね」
「つーわけで」
「そういうことでしたら」
七百を超える転生者を見据え、たった二人の転生者は六道伊吹の道を切り開く。
「やっぱり暴力が最適解ね」
「不本意ですが、今回ばかりは仕方ありませんわ」
「俺たちは
ジェンマと共に廊下を走る。
時折遭遇する転生者は蹴散らし、手当たり次第に扉を開ける。
「あれは折手メアを助けに行けって意味じゃない。裕也にとっちゃ誰かを助けるなんて事は特筆するようなことじゃないからな。だから、助けるという目的は当然として、アイツならその為の手段を俺達に残すはずだ」
「……つまり?」
「
だとしたら、折手だけがこの迷宮を脱出できた理由にもなる。
机か、椅子か、その位置自体が繋がっているのかは知らない。だけど、そこへ行けば何かがあるはずだ。
「だからッ、二年八組を探せ‼︎ その先に出口があるッ‼︎」
「なら、任せてくださいっす。未だ進捗は八割にも届かないっすけど、栗栖椎菜のプロファイリングは進んでるっす。ある程度なら迷宮の配置も予想できるっすよ」
「マジか⁉︎ 頼んだ‼︎」
有能すぎじゃねぇか⁉︎
ジェンマの先導に従って道なき道を突き進む。
「イカせるかァァァッ‼︎」
空中を泳ぐサメの人魚……
だが、これはむしろ
「イクラ旧校舎破壊事件で上級生をタコ殴りにしたあんたでも、この量はサバけないでしょ⁉︎」
「ゴタゴタうるせぇ。ビビってないでさっさと来いよ」
「いいわ、ぶちカマスわよッ‼︎ ソォォォォイッッッ‼︎‼︎‼︎」
背中の背びれが超高速で回転し、周囲の空気を巻き込んで嵐を作る。それはさながら竜巻のようであった。
魚の背びれは急激な方向転換を助ける機能を持つが、ここまで来たら背びれはむしろ邪魔に思える。相変わらず
「まぁ、この程度は朝飯前だな」
ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
回転の中心となる軸を見極め、
今更、そこらの雑魚には苦戦しない。
他の転生者共も適当にあしらいながら、ジェンマに訪ねる。
「それで、何処に向かってる?」
「自分のプロファイリングでは、栗栖椎菜はメアちゃんのことが嫌いっす。だから、この空間を生み出す時も無意識にメアちゃんを学校から排斥しようとしているはずっす」
「……排斥される場所に折手のクラスがあるってことか?」
「そうっす。そして、この学校の中で誰も近づかない気味が悪い場所が一つあるっすよね?」
思わず、目を見開いてジェンマを見た。
そんな場所に心当たりがある。
俺たちは声を揃えて呟いた。
「「二年八組は焼却炉の中にある‼︎」」
「なんか転生者がだんだん強なってない?」
気絶した転生者を捕縛する役目を担っていた佐武真尋が、初めにそれに気づいた。先程も、魂すら縛る鎖を引き千切ったバケモノがいた。
彼女を護衛していたブレンダは、そんなバケモノを一撃でぶちのめしながら答える。
「雑魚は初期の頃に倒されたので、本物の実力者のみが生き残っているのでしょう」
「うわぁ……」
「特に、貴女達のクラスメイトが厄介です」
「なんかごめんな?」
「でも、きっと、六道くんが何とかしてくれる」
「ええ、露払いは私達で致しましょう」
「またかよおおおおおおおおおおおおお⁉︎⁉︎⁉︎」
本日二度目の
来た道を戻り、割れた窓を飛び越えて空から落ちる。
「見えたっ、あそこっす‼︎」
飛行できる転生者の追撃を振り払いながら、焼却炉をブチ破って着地する。
鉄同士が衝突したような鈍い音と、木の板が割れるような軽い音が混じり合って響く。
「痛え……‼︎」
ジェンマが何かの技術を駆使したのか何なのか、地面のシミになる事は無かったが、それでも痛いことには変わりがない。
パラパラと、吹き抜けた天井から木の破片が零れ落ちる。
カーテンを閉め切った暗い教室には、天井の大穴からの光のみが唯一の明かりとして差し込む。
「折手の席は何処だ⁉︎」
「メアちゃんの席は窓際の一番後ろっす!」
あともう少し。
飛び上がるように立ち上がり、駆け出した。
そして。
「
窓際の一番後ろ。
そこには、不気味な空白があった。
この高校は基本的に一クラス生徒が三〇人。
座席も六列あり、一列につき五つと決まっている。なのに、明らかに足りない。
合計二九の席。窓際の列には四つの座席しか置かれていない。
「ジェンマ‼︎ どうなってんだッ⁉︎」
「…………プロファイリング完了したっす。自分達は栗栖椎菜のメアちゃんに対する感情というものを測り損なっていたみたいっすね……‼︎」
「は……?」
「栗栖椎菜はメアちゃんのことが嫌い、
折手メアの席が出口と繋がっている訳じゃない。
折手メアという概念そのもの、それに纏わる全ての物がこの学校から排斥されている。
例えば、折手メアはこの学校から何の抵抗ともなく脱出できた。
例えば、折手メアの席をはじめとして、あらゆる私物は学校内から消え失せた。
例えば、生徒たちが持つ折手メアの記憶すらも既に消滅している。
(どッ、どうする……ッッ⁉︎)
どうしようもなかった。
折手メアという概念はこの学校にはもう無い。
出口など何処にもなかった。
……………………あれ?
「……ちょっと、待て」
「どうかしたっすか?」
「折手メアという概念が排斥されるなら、折手メアに纏わるものさえあれば、……折手と繋がる手段があれば自動的に脱出できるんじゃないかッ?」
「どうやって? そんなもの、もう何処にもないっすよ?」
「いいやッ、ここにある‼︎」
ポケットから取り出したのはスマホ
背面には齧られたリンゴのマーク。イヴリンから託された物。
「
スマートフォンの中。
より具体的には、その中のアドレス帳。
そこにはこう書かれてた連絡先があった。
『マイハニー♡メア』、と。