原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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二七話:現実/Not_Fiction

 

 

「来るわ」

 

 一言、アドレイドは呟く。

 

「来るって?」

「魂の繋がりが明確になったわ。アンタの言葉を信じるなら、主人(マスター)がいる場所は時間座標がズレている。そのズレが徐々に戻り始めているのよ」

「…………第五位が倒されでもしたかな?」

 

 『矛盾』の終末摂理(ワールドエンド)が破られたのならば、そんな事もあるだろう。

 もしも殺されていたら、《遡行記憶通信(Time Leap)》で逆行しているはずだ。魂が破壊されたなら、第五摂理が不安定になっているはずだ。なので恐らくは、気絶したのだろう。

 

「よかったじゃないか。どの時間軸にも属さない領域が、明確な時系列に出現する。ボクたちにも手出しできる範囲に行けるということだろう?」

「そう簡単にはいかないわ。どの時系列に現れるかは運次第よ。主人(マスター)と合流できるのが数日後や数年後、あるいは既に数年前に戻っている可能性だって…………」

「安心したまえ」

 

 折手メアはドヤ顔で答えた。

 

 

「ボクは生まれて(転生して)この方、運勝負(ギャンブル)で負けたことは一度もないよ」

 

 

 その瞬間。

 現時刻と彷徨う時間座標が衝突した。

 

 


 

 

 と、そんな感じで。

 折手メアはいい感じに戦いに割り込み、六道伊吹といい感じの言葉を交わし、いい感じに六道伊吹を抱き止めた。

 

「また貴様かァ! 番外位ィィ‼︎ 何度我の邪魔をするつもりだァァッ‼︎」

「アンタの相手はアタシよッ!」

「負け犬風情が吠えるなァ‼︎」

 

 折手メアの背後で二人の魔王が争う。

 衝突するのもまた同じタイプの異能。

 本来、使用不可のはずのアドレイドの異能が《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》によって規制緩和される。

 

 領域(エリア)型、《白亜神殿》。

 領域(エリア)型、《魔界侵食》。

 

 白い地平線が赤い魔力に侵食されていく。

 神殿が朽ちて崩れ始める。

 

「アドレイドォォオオオオオ‼︎‼︎‼︎」

「忘れたかしら? アタシが産まれた魔界は神に忌み嫌われた土地、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 それこそが《魔界侵食》の本領。

 人間を害する魔力など副次効果に過ぎない。

 その本質は、神性特攻の弱体化(デバフ)

 

 ここに白亜の安全神話は砕け散った‼︎

 

 

 ここまで、折手メアの作戦は上手くいっていた。

 アドレイドがディートリヒを抑え、折手メアが六道伊吹を救助する。ラスボス戦では折手メアは役に立たないため、六界列強(グレートシックス)を完全殺害できる六道伊吹を生かすことが最優先。

 

 しかし、想定外のことが一つあった。

 

「おっ、重……つぶれる…………」

(うおおおおおお‼︎ 流血スチルっ‼︎ しかも肌が触れ合う距離とかいい匂いがッ……いや血の臭いしかしないね。おおう、ボクの体が六道伊吹の血で染められていく……‼︎ ぬるぬるするぅ…………なんか興奮するなぁ)

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 重くて六道伊吹を運べない……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな風に六道伊吹を弄ぶ折手メアに、背後から声がかかった。

 

「貴女は何をしているんですか?」

 

 ぐいっ、と。

 折手メアを押し潰すようにもたれかかる六道伊吹を、ブレンダが抱え直す。《白亜神殿》が弱まったお陰で動けるようになったのだろう。

 筋肉質でちょっと硬い感触が離れていく。折手メアは思わずブレンダを恨めしげな目で睨む。

 

「邪魔なことを……」

「貴女は今の状況分かっているんですか?」

「これからボクが大活躍するバトルシーンが始まるんだろう?」

 

 折手メアは面白半分でそう言った。

 ツッコミ待ちだったと言ってもいい。

 しかし、返答は真面目な物だった。

 ブレンダは恐ろしいほど真顔で答えた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

「………………え?」

 

 

 そこで初めて。

 折手メアは六道伊吹の姿をきちんと確認する。

 

 全身血だらけ、傷だらけ。

 顔は青いを通り越して白い。

 腹の傷はぐちゃぐちゃで、血も止まらない。

 ショック症状が出ているのか体は痙攣している。

 足は骨があるとは思えないほど、ぐにゃりと可笑しな方向へ捻じ曲がっている。

 

「こんなことになった責任は私にあります。彼を救うという名目で貴女たちと分断し、結果としてそれが付け入る隙となった。そのくせ、私は彼に助けられた」

「……………………………………、」

「だから、今はプライドも天命規則も捨て去って彼を救う事だけを考える。その為なら貴女にだって頭を下げよう、そう思っていました」

 

 ブレンダが折手メアと目を合わせる。

 折手メアの焦点が()()に合う。

 

「それなのに貴女は、戦おうとも救おうともせずに何をしているんですか?」

「…………………………………………なに、を?」

 

 感触を楽しんでいる。

 そんなふざけた回答なんか許されそうに無い。

 

 『六道伊吹』と『死』。

 二つの単語が頭の中で交わらない。

 

 原作の『テンプレート・トライアンフ』において、主人公である六道伊吹が死亡することはままある。死亡だけじゃない、監禁エンドだってある。主人公が幸せになるエンドは数少ない。

 六六ある結末(エンド)の内、六〇のエンドがバッドエンド(BAD END)。主人公とヒロインが結ばれる幸せなトゥルーエンド(TRUE END)はたった三つしかない。

 

 だから、原作主人公だって死ぬと知っている。

 だけど、頭がそれを理解することができない。

 

「……六道伊吹が死ぬ訳ないだろう…………?」

「は?」

 

 バッドエンドはやり直し(リセット)ありのゲームだからこその物だ。

 アニメや漫画では必ずトゥルーエンドに至っていた。

 そうだ、そうなんだよ。そうに決まってる。

 

 どんな困難があっても。

 どんな不幸があっても。

 最終的には何とかなってハッピーエンドを迎える。

 物語っていうのはそういうものじゃないのか?

 

「だって彼は原作主(タイトル)───」

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎‼︎‼︎」

 

 折手メアの言葉をディートリヒの笑い声が遮る。

 

「どれだけ我を抑え込んでも無駄であるッ‼︎ 我らを本当の意味で殺せるのはリクドウイブキただ一人ィ‼︎ ヤツの命がもう数分も保たない以上ッ、我が勝利は揺がんぞォォオオオオオ‼︎」

「クソっ‼︎ オイッ、折手メア‼︎ アンタの方はまだ逃げられないの⁉︎ 契約が外れかけてるッ……魂が肉体を離れかけているわよッ⁉︎」

 

 死ぬ?

 死ぬっていうのか?

 六道伊吹が、ほんとうに……?

 でも原作じゃ────

 

 

(散々原作改変しておいて、今更原作に縋るのか?)

 

 

「─────《飛ばし読み(スキップ)》」

 

 

 ()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なァにィィ⁉︎」

「…………痛み分けだ」

 

 折手メアとディートリヒ。

 二人の体に深い傷が刻まれる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ボクたちは三日三晩戦った……()()()()()。過程なんて誰も興味ない、ただその結果だけをキミに押し付けた」

「ぐッッッガァァアアアアアアア‼︎⁉︎⁉︎ この疲労は確かにィッ、異能も上手く機能せん……‼︎」

「ボクはキミには勝てない……が、それ以前にその傷ではアドレイドにも勝てないだろう? キミはさっさと逃げるがいい」

 

 アドレイドとブレンダと栗栖椎菜(ディートリヒ)

 肉体だけを見れば三人のヒロインが、六道伊吹を巡って睨み合う。

 

 或いは。

 この場で追い詰めれば殺せるかもしれない。

 しかし、六道伊吹が戦えない以上、その殺害は応急処置的な一時的な物でしかない。そして、その間に六道伊吹は死んでいることだろう。

 そんな勝利に興味などない。

 

 少しの睨み合いの後。

 観念したのか、ディートリヒは気絶して転がっている第五位の首根っこを掴み、辛うじて機能する異能を酷使する。

 

「チッ…………我が声に応えよ(Call)境界を隔てる水蛇よ(River)空に架ける橋渡し(Rainbow)神域を隠す白き布(Fog)日を刻む二本指(Clock)

 

 五節の詠唱、時空属性魔法。

 第四位と第五位の姿は掻き消え、空間を超えて何処かへと転移する。

 呆気ない戦闘終了。

 

 

 ドッ、と。

 場の緊張が和らぎ、三人は一瞬安心する。

 だが、ここで油断する訳にはいかない。

 本番はここからだった。

 即ち、()()()()()()()()()()()()

 

「アドレイド・アブソリュート! 貴女は第四位と同じように治癒魔法を使用することは出来ますかッ?」

「……一応使えるけど、アタシの治癒魔法はアイツほどじゃないわ! こんな大怪我じゃ、気休めにしかならない‼︎」

「それでも構いません! ショック症状が出ているせいで麻酔は使えない‼︎ 貴女の魔法で痛み止めをしてください‼︎」

「ちょッ……‼︎ アンタ何をする気ッ⁉︎」

 

 ブレンダは《神殺の槍(ロンギヌス)》を六道伊吹の手に握らせながら言った。

 

 

「救急車を待っている暇はありません。()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 

 それらは何処に収納されていたのか。

 ブレンダがスーツを裏返すと、様々な手術用器具が降って来る。

 

「アンタ正気⁉︎」

「状況は一刻を争うッ、これしか方法はありません! 《神殺の槍(ロンギヌス)》で手術に耐えられる体力を分け与え、貴女の治癒魔法でショック死を防ぎます‼︎」

「衛生面とか色々問題があるでしょうが……‼︎ そもそもアンタは手術できるのッ⁉︎」

「会話中に《神殺の槍(ロンギヌス)》の力で空間ごと殺菌し、擬似的な無菌室を作っています‼︎ 私の技術も問題ありません‼︎ 唯一の懸念点は間に合うかどうか、それだけです‼︎」

「でも……ッ‼︎」

「時間が無いっつってんでしょ‼︎ 早くッ‼︎」

 

 スーツを地面に敷き、その上に六道伊吹を載せる。

 折手メアはどうすることもできず、ただ二人の周りをウロウロしていた。

 

「…………ボクは、どうすれば…………」

「……貴女は六道君の名前を呼んで願ってください、彼の無事を。貴女に出来るのはそれだけです」

 

 折手メアは見ているだけだった。

 折手メアは何もできなかった。

 

 折手メアの《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》では、この怪我を無かった事にはできない。

 新しい異能も思いつかない。

 呆然として頭が働かない。

 

 ぎゅっ、と。

 六道伊吹の血だらけの手を両手で握り締める。

 力が返ってくることはない。

 手は本当に冷たかった。

 

 ただ、祈り(おもい)を込める。

 六道伊吹との思い出を振り返る。楽しかった日々を思い出し、彼がいる毎日の方が面白いのだと深層心理に刻み込む。

 《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》で怪我(かこ)を消せなくても、どれだけ微かな希望でも、彼が生きるという可能性(みらい)を掴めるかもしれない。ただそれだけを願う。

 

 この世界に転生してから一六年。

 ようやっと、当たり前の真実に気付く。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そんなこと、初めから知っていた。

 

 例えば、六道伊吹の顔は原作であるゲームの、『テンプレート・トライアンフ』の()()とは少し異なる。

 当たり前のことだ、二次元(イラスト)三次元(リアル)の顔は異なる。

 

 例えば、昨晩に一緒に寝た時。

 六道伊吹はお風呂に入らず眠ったためか、少し汗臭かった。男の子の臭いってこんな感じだったっけ? 女歴一七年の折手メアはそんなことを考えた。

 原作の六道伊吹には、臭いなんてなかった。

 

 例えば。

 例えば。

 例えば。

 

 積み重なっていく違和感。

 それを見えないフリして。

 だけどそれは無視できなくなって。

 結局、こうなった。

 

(ボクが大好きな『六道伊吹』はいなかった)

 

 原作なんてとっくの昔に崩壊している。

 折手メアがこの世界に生まれ落ちた時点で、この世界は既に原作からは外れている。初手で最大のイレギュラーが表出しているんだ、原作通りに進む方が可笑しい。

 

 そして、そもそもの話。

 折手メアが恋したのは画面の向こうの六道伊吹。

 テレビの中のアイドルと、プライベートのアイドルは違う。アニメのキャラクターと、それを演じる声優は違う。

 画面という隔たりのない現実に生きる六道伊吹は、折手メアの知っている物語の中の『六道伊吹』とは違う。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 もう、彼を助ける義理はない。

 

 

 

 ()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これは、好きなアイドルに顔が似ていたからみたいな不純な理由かもしれない。

 恋というには汚れていて、愛というには相手の事を考えていない。

 それでも。

 どれだけ折手メアが間違った存在だとしても。

 この感情(おもい)だけは正解だと言えるから。

 

 折手メアの瞳から涙が零れ落ちる。

 

 

「ボクをおいていくなよ、いぶき」

 

 

 粛々と手術は進められていく。

 昨晩抱きしめた体の熱はもうない。

 昨晩嗅いだ臭いは血に塗り潰された。

 

 真っ赤で。

 ぐちゃぐちゃで。

 汚くて、穢れていて。

 R-18Gなんてものじゃない。

 お綺麗な物語(フィクション)なんてここにはない。

 

 モザイクなしの現実(ノンフィクション)を目の当たりにして。

 折手メアはつぶやいた。

 

 

「……()()()()()()()()()()()

 

 

 折手メアの世界観に、致命的な(ひび)が入った。

 

 







世界観:創作物語(メタフィクション)
転生者:折手(おりで)メア
グレード:第六界位(グレード6)
タイプ:領域(エリア)
ステータス:
 強度-E〜EX/出力-E〜EX/射程-E〜EX/規模-E〜EX/持続-E〜EX
異能:ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)
終末摂理(ワールドエンド)『??』


次回でBパート終了です。

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