ぼっち・ざ・ろっく見ました?
ぼ喜多じゃん!!!! 最高か!?
時間は墜落の瞬間まで遡る。
ブレンダ先輩を窒息させた俺は地面と衝突した。
《
体力が限界を迎えていた俺は、痛みを感じることもなく意識が飛んだ。
眠っていたのは数分間だろう。
空の色はほとんど変わっていない。
ゆっくりと起き上がった俺はそこでやっと気が付いた。
「あっ、先輩の気道を塞いだままだ!」
あれから何分たった⁉︎ 死んでないよな⁉︎
息止めの世界記録は確か二〇分ぐらいだったと思うが、あれは色々な準備を行った上での記録だ。準備なしの場合は三分もったらいい方だろう。
急いで《
そこで。
信じられないものを見た。
「……ひゅー……ひゅー……、……まだッ、です…………」
俺が意識を失っている間、ずっと呼吸が出来なかったのに。その状態でビルの屋上から墜落したのに。
それでも、この人は平気で立ち上がる。
(何で動ける……、死んでいてもおかしくないんだぞ⁉︎)
呆然と眺めるが、よく見るとおかしい箇所があった。
ブレンダ先輩の喉から血が流れている。
俺は気道を塞いだが、喉は傷つけていない。
ビルから落ちた時の傷かとも思ったが、顔を《
そこで、カラクリに気づいた。
ブレンダ先輩はただの人間。転生者と異なって物理法則に従っている。ならば、窒息していない事にも不自然な喉の怪我にもきちんと理由がある。
「
気道切開。
つまり、口で呼吸が出来なかったため喉に穴を開けて酸素を取り込んだということだ。
言葉にすれば簡単な事だが、屋上から落ちながら俺の目を盗んで喉に穴を開けるとか正気の沙汰じゃない。
土壇場でそれを思いつく頭脳も、躊躇なく首を穿つ度胸も、この状況で即座に手術を成功させる技量も人間離れしている。転生者なんかよりもよっぽど化け物だ。
(動け動け動け動けぇぇえええええッ‼︎‼︎‼︎)
ガクガク、と震える脚に力を入れる。
痛みを通り越して強烈な眠気に襲われる。
限界なんてとっくに過ぎている。時間が経つほど俺は弱くなる。対して、ブレンダ先輩はどんな状態でも
俺は今が一番強い。
だからッ、今ここで倒さないとッッッ‼︎
「ふぅんぐぁぁああああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」
《
ブチブチ、と何処かの筋が切れたような音が聞こえる。それを無視して、剣を握る手に力を込める。馬鹿力を出せる気力はもう残っていない。それでも、全力全開の力を振り絞る。
ブレンダ先輩は喉の怪我が幻のように、美しい姿勢で歩く。
手には水平に構えた《
戦況は絶望的。
だが、諦めるな。
今までの戦いを思い出せ。
四連戦の後に
「いくぞ、ブレンダぁぁあああああッッ‼︎‼︎」
「来なさい、六道く───」
ブレンダ先輩の言葉が最後まで言われることはなかった。
それよりも先に、状況が様変わりにした。
そう、つまり。
「
「………………………………………………………………ブレンダ、先輩?」
ポトリ、と。
あれだけ絶望的だったその人の上半身が、軽い音を立てて
理解が、できなかった。
視界が鮮血に染まる。
猛威を振るったブレンダ先輩が。
天命機関最強の
一瞬で、
ブレンダ先輩は肩から腰まで、斜めに裂かれていた。その上半身は俺の足元で雑に転がっている。手は死んでも槍を握ったままだった。上が無くなったことに今更気づいたのか、下半身が思い出すように倒れる。垂れ流された血が靴を濡らす。
動かない。微動だにしない。息遣いが感じられない。心臓の音は聞こえない。命の気配がしない。
「う、うああ、あああああッ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」
耐えられない。
心よりも先に体が哭き出した。
喉の痛みも気にしない、血混じりの絶叫。
そんな肉体とは反対に。
俺の思考はひどく冷え切っていた。
(殺そう)
こんな状況でも俺は俺だった。
ブレンダ先輩を助けようとは思わない。
ただ、この惨劇を作ったヤツをブチ殺したい。
(下手人を確認してすぐに臨戦態勢に移って考える暇も与えずクソ野郎を惨たらしくブチ殺してやる)
怒りが、憎悪が、感情が力に変わる。
哭き叫ぶ体を無視して心が走り出す。
速攻。《
「やらせねーぜ?」
ドカッ! と。
走る俺の頭を、長い足が横から蹴り飛ばす。
予想外、意識の外からの攻撃。
敵は一人じゃなかった。
走ることに集中しすぎて酷い前傾姿勢だった俺は、受け身を取る体力が無いこともあり、滑るようにゴミ捨て場へ頭から突っ込んだ。
掃き溜めから空を見上げる。
純黒になりつつある空を背に、二人の男が俺を見下している。
何処かで響いた轟音なんて気にならない。
俺は目の前にある脅威から目を離せなかった。
今までの戦いを思い出しても意味がない。
ここからが人生最悪の絶望。
「
椎菜の顔で俺を嘲るソイツ。
『テンプレート・トライアンフ』のラスボス。
《神威聖剣》でブレンダ先輩を殺したクソ野郎。
「オレサマ達が一人ずつノコノコ襲ってくるとでも思ってたかー?」
紫色の頭で俺を煽るソイツ。
『テンプレート・トライアンフ』の中ボス。
走る俺をゴミ捨て場へ蹴り飛ばしたクソ野郎。
そんな
だけど、現実ってヤツは俺なんかの予想を軽々と跳び越えていく。
「「さあ、最終決戦を始めようか」」
自分が立っているのか、座り込んでいるのかも分からない。そこら辺の通行人にも負けそうな状態で、
でも、世界は俺を待ってくれない。
そして、
「
べきごりだんどごぼぐんべちゃぎゃりばきりがんびしびきびちッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
一瞬だった。
聞いたことのない鈍く血生臭い打撃音が響く。
あまりにも速すぎて初めは理解できなかった。
遅れて全身に痛みを感じ、やっと事態に気づく。
もはや、踏ん張るとかいう次元じゃなかった。
全方向から殴り飛ばされ、行き場の失った体は
自由落下する数秒間。
それを走馬灯によって引き伸ばす。
周囲の状況を俯瞰する。ディートリヒは動いていない。クシャナはいつの間にか俺のすぐ近くにいた。ということは、俺を殴り飛ばしたのはクシャナだろう。
打撃の瞬間、異能の反応を感じた。
一瞬で近づいて連打を叩き込む異能。体感だが、衝撃が響くよりも次の拳の方が速かった。
瞬間移動……いいや、単純に音速以上に
異能感知の範囲を遥かに超える規模。この街全部、あるいは星や宇宙全体を対象とするような
(敵が速くなったんじゃない。俺が遅くなっていた。……いいや、厳密にはそれも違う。
恐らく、停止可能時間はほんの数秒。でもなければ、俺はもう死んでいる。規模は最低でもこの街よりも大きい、最悪は宇宙全てが止まっている。使用可能回数は不明、無限と見積もる。
時間停止中の対処は不可能。同時に《
だが、もっと確実な方法がある。
まだ時間が停止していないということは、再び発動するまでに時間が必要ということ。その
自由落下が終わる。
長い走馬灯が終わりを迎える。
ダンッ! と。
落下した、その瞬間。
弾けるように地面を蹴った。
「……マジかよ」
「死ね」
唖然とするクシャナの顔面に《
鼻を折った感触。でも、そんなの表面の傷はどうでもいい。顔面を狙った理由は、鼻や口から繋がる体内にある。
間髪入れることなく、変形した《
ダンッ! と。
落下した、その瞬間。
弾けるように地面を蹴った。
「……
「…………⁉︎」
大きな空振り。その結果、俺の胴体はガラ空きだった。
すれ違い様に、クシャナは俺の腹に手を当てた。
(まさか停止可能時間が数秒の代わりに、
時間が停止した。
ズドンッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
雷が落ちたかのような衝撃がお腹に響く。
体が冗談のようにくの字で吹っ飛んだ。
全身を一発ずつ殴った先程の殴打と異なり、今回の殴打は一箇所を重点的に殴った一撃。複数回分の衝撃が同時に炸裂する。
「がばっ、ぐぎあッッ‼︎‼︎‼︎」
痛みも感じなかったブレンダ先輩の拳とは違って、こっちは普通に痛い。普通どころか、めちゃくちゃ痛い。
感触で分かる。肋骨が折れた。それだけじゃない、
「これならオマエさんも───」
「───それでも、まだ戦える」
時間停止対策、その二。
非常に簡単な解答。
ガガガガガガガガッ‼︎ と。
クシャナの不意を突き、足元から
静かに地面を穿孔した《
「な……ッ⁉︎」
「異能が使えず体が一番弱ってて、誰一人として仲間がいない時間を選んだのにコレとか、オマエさん……マジでバケモンだぜ」
「余裕綽々で避けやがったテメェが言うな……‼︎」
初見殺しの攻撃を悉く避けられる。
回避の瞬間、微かに異能の反応を感じた。
「
「…………………………」
ただ、異能使用にしては反応が不自然だった。
残響のような、残り香のような。
まるで、別の場所で使用された異能の余波がここまで届いているかのように。
しかし、悠長に能力の考察をしている場合じゃない。
敵は一人じゃなかった。
片方にだけ注目するのもマズイ。
「我も交ぜろォォオオオオ‼︎‼︎」
学生服を着た女性である栗栖椎菜の肉体から、白光の鎧を纏った男性であるディートリヒの肉体へ変身する。
白川日向の時と同じだ。現世の肉体が前世の肉体に
同時、《神威聖剣》が振るわれる。
それは
直線上の物を全て蒸発させる太陽の如き聖剣。
「おおアッ‼︎」
咄嗟に、ディートリヒの足元へ転がり込んだ。
背を向けて逃げても意味がない。俺の異能は使えず、光速の斬撃は避けられず、大概の障害物は役に立たない。
だからこそ、
ジュワッ‼︎ と。
俺の背後でビルが切断される。
一歩遅ければ、俺がそうなっていた。
だが、間近にも
《神威聖剣》を振るまでもなく、普通に手足が届く範囲だということだ。
「近寄るなァ、クソガキィィイイイ‼︎」
「ごアッ⁉︎」
足元に転がっている俺を、ディートリヒは思い切り蹴り上げる。ちょうど赤黒く染まる痕に
痛い。めちゃくちゃ痛い……のだが、
「
《神体加護》の効果は怪力と再生、そしてバリアだったはず。蹴られた時に骨がもう二、三本折れていても可笑しくなかった。
なのに、ただ痛いだけ。元から腹に傷がなければ、痛み自体も大したことが無かったかもしれない。
「惚けるなァ! 貴様等が原因であるぞォ‼︎」
「はっ? 俺⁉︎」
ディートリヒの姿を改めてよく見ると、前回の遭遇とは異なる点があった。
……違う。線じゃない。
よく見ると、左胸にも小さく似たような傷がある。大きな傷が切り傷だとすれば、小さな傷は刺し傷だろうか。小さい方は前回見落としていただけかもしれないが、大きい方は見落とすはずがない。
しかし、俺には見覚えが…………
「折手が《
「然りィ! 刻まれた
「へぇ、惨めなヤツだな。介錯してやろうか?」
地面に転がりながら笑う。
昨日の戦闘はちゃんとダメージになっている。それがただ嬉しかった。
しかし、ディートリヒはニヤリと口を歪めるとこう言った。
「案ずるなァ。既に解決策は編み出したァ」
「…………何だと?」
「なァに、肉体が傷ついたならば新たな肉体を用意すれば良いだけである」
「……憑依転生、また肉体を乗り換えるってのか?」
「馬鹿かァ? それで済むならば、この女に憑依した時点で我は治っている。
「(まーた始まったよ、ディートリヒの解説癖が……。これは長いぜ)」
クシャナは左手首に巻き付けられた電子時計を眺めて肩をすくめ、やれやれとでも言いたそうな顔でディートリヒを見ている。
ひとまずは時間停止を使うつもりがないと考えてもいいのか? 取り敢えず、警戒は怠らず敵を見る。相手がわざわざ情報提供してくれているのだ。ゆっくり聞いてやろう。
「……だったら、どうやって……?」
「所で、貴様は七年前の〈
「は? 何だ、急に? 何となくは聞いたことがあるけど……」
「では、名前の由来は知っているかァ? 英語ではfall down、日本語では
「…………?」
〈
最近、よく聞く名前だ。だが、首謀者が折手だということと、中心人物が
何かが
七年前の事件なんざ知らねぇし、興味ねぇよ。
「分からんかァ? これだから
「…………は?」
「
「おい、待てッ……テメェッッッ‼︎‼︎‼︎」
最悪の閃き。
新たな肉体、堕胎、女の役目。
ディートリヒのクソみたいな発言が一つに繋がる。男尊女卑クソ野郎の思考を理解した代償に、吐き気に襲われる。
ディートリヒは自分の腹を……
「