原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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二三話:因果応報/vsオリキャラ

 

 

 六道伊吹とブレンダが殺し合っていた。

 それと、同時刻。

 

 熾天使(セラフィム)宝石(ダイヤ)”、ジェンマ。

 六界列強(グレートシックス)・番外位、折手メア。

 修道女(シスター)と学生。天使と転生者。最強と最強。

 両者は殺し合いに移行することなく、未だ言葉を交わしていた。

 

「“宝石(ダイヤ)”の座は空席のはずじゃ……⁉︎」

「確かに、〈堕胎事変(フォールダウン)〉において“(クラブ)”を除く三人の熾天使(セラフィム)は殺害されたっすけど、既に補填されてるっすよ。……七年前に熟練者(ベテラン)が軒並み()られたせいで、若手ばっかりっすけど」

「それでもッ、“宝石(ダイヤ)”だけはあり得ないだろう……‼︎」

 

 原作では〈堕胎事変(フォールダウン)〉なんて無かった。

 正確には、七年前にイギリスで世界を揺るがす大事件(イベント)が起こったとは伝えられるが、それは〈堕胎事変(フォールダウン)〉なんて名前のついた出来事では無かった。この差異は折手メアの原作介入によって生まれた違いである。

 

 ただし、細かな差異はあれど大まかな流れは変わらなかった。

 例えば、三人の熾天使(セラフィム)の死。

 例えば、六界列強(グレートシックス)の集結。

 ()()()、“宝石(ダイヤ)()()()()

 

「“宝石(ダイヤ)”の名を冠することは汚名のはずだろう⁉︎ キミが襲名するなんて展開ッ、ボクは知らないぞ……‼︎」

「……そうっすね、先代“宝石(ダイヤ)”は裏切った。“聖杯(ハート)”は首を落とされ、“(スペード)”は心臓を貫かれ、“(クローバー)”は四肢を奪われた。あの事件は全て、先代“宝石(ダイヤ)”の責任っす」

「だろう? だったら何故キミは……」

「───()()()()()()()()()()()()?」

 

 反転の言葉。

 それは、反撃の狼煙。

 

 

「先代“宝石(ダイヤ)”は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 

 家族を……そして、師匠すらも折手メアに奪われたその女性は叫ぶ。

 師匠の汚名をそそぐため。

 呪われた過去を乗り越えるために!

 

「師匠は転生者に操られていた。それは〈堕胎事変(フォールダウン)〉における唯一の一般人の生き残り、ブレンダ隊長が証言してるっす」

「それがボクだって? おいおい、ボクが居なくても結果は変わらなかった。原作は、変わらなかったよ」

「いいえ、違うっす。メアちゃんの言う原作とやらは崩壊しかけた。運命(シナリオ)を変えようとした誰かがいた」

「…………、」

「でも、変わらなかった。メアちゃんが運命を変えようとした誰かを……先代“(スペード)”を殺害したからっす」

 

 それが、七年前の真相。

 転生者に操られる運命にあった熾天使(セラフィム)がいた。

 その運命を変えようとした熾天使(セラフィム)がいた。

 そして、それに焦った折手メアは全てを破壊した。

 

 だから、全ては折手メアが蒔いた種だった。

 ジェンマというオリキャラが発生する下地を作ったのは、彼女の動機(オリジン)を生み出したのは折手メアだった。

 

「原作は変わらなかった? どの口が言うんすか。貴方が変えさせなかっただけだろうが‼︎」

「……過去を今更掘り返して何になる?」

「メアちゃんは最強だけど万能じゃない。自分の登場を予期できなかったように、貴方の考える予定調和は既に存在しない。自分がいることがその証っす」

「だから? キミがいた所で過去も未来も変わらない。ボクの考えた筋書き(チャート)は揺るがない‼︎」

 

 銀色の髪を揺らし、折手メアは叫ぶ。

 その姿をジェンマの琥珀色の目が射抜く。

 大丈夫だ、大丈夫なはずだと自らに言い聞かせるように呟く。それでも、疑念は消えない。折手メアは謎の焦燥感に襲われていた。

 

「……メアちゃんはそもそも疑問に思わないんすか?」

「何の、話をしている……?」

()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 得体の知れない汗が流れ落ちる。

 ジェンマの言うことは正論だ。折手メアにはその力がある。だけど、()()()()

 身体が硬直している訳じゃない。

 不思議な力で押さえつけられている訳でもない。

 実力行使が手っ取り早いと。さっさと異能でも使って殺そうと。()()()()()()()()()()()

 

「先代の“(スペード)”は歴代最強と謳われた天使の理想型だったっす……それでも、メアちゃんには手も足も出なかった」

「……キミは天命機関に所属している。だから、これは異能じゃない」

「当たり前っすよね。世界を思い通りに改変する、そんな異能の持ち主に戦いで敵うはずがないっすもん」

「話術、催眠術、マインドコントロール。名前なんかどうでもいい。つまり、キミがやっているのは……」

「だから、天命機関は方針を変えたっす。戦っても勝てないのなら、()()()()()()()。思考が現実になるなら、()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

 

 対番外位に特化した熾天使(セラフィム)、ジェンマ。

 その使命(テーマ)は『()()()()()()()()()()()()』。

 世界を思い通りに改変する折手メアも、その()()が封じられたらただのか弱い少女に過ぎない。

 

 正直に言おう。

 折手メアはジェンマを面白いと思いつつある。

 主人公の六道伊吹ほどではない。それでも、ジェンマを気に入りつつある。もはや、《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》でジェンマを傷つけられるとは思えない。

 純粋な近接格闘でブレンダに勝るものがいないように、ジェンマと会話を始めた時点で折手メアの負けは決まっていた。

 

 誰もが思い描く夢の催眠アプリ。

 その領域に舌先三寸だけで足を踏み入れた超人。

 

「見てください、メアちゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「………………………………………………なに、それ」

 

 原作では見たことのないギロチン型武装。

 この世界(ゲーム)に存在する知らない武器、知らない設定、知らない要素。〈Character Material〉にもアニメBlu-ray特典にも載っていなかった情報。コンプリート欲が疼く。

 

 

「ああ……()()()()()()

 

 

 ふらふら、と。

 頼りない足取りで処刑台(ギロチン)の元へ向かう。

 分かっている、分かっているとも。このままじゃ殺される。首を落とされる。そう、分かっているのに。()()()()。恐怖に立ち向かう事はできても、快楽を振り切る事ができない。

 

「メアちゃんはこの世界がゲームだという世界観を持ってるっす。発言の真偽がどうであれ、その世界観は何でもありっす。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

創作物(ゲーム)の世界だからね。何があっても不思議じゃないよ」

「だから、対番外位戦で重要なのは何が効くかじゃない。()()()()()()()。そして、メアちゃんは()()()()()()を面白いと思う傾向にあるっす」

 

 佐武真尋(さたけまひろ)と戦った時もそうだった。

 原作で見た異能を一度間近で見てみたいと、その方が面白いと思ってしまったからこそ、《勾留・魂魄呪縛》によって追い詰められた。

 同じように、《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》はギロチンを防げない。折手メアが表面上で戦わないといけないと考えていたとしても、深層心理ではそんなのどうでもいいから動いてる所を見てみたいと考えている。だから、異能は働かない。

 

「このギロチンはメアちゃんの為に新しく作った武器っす。首を切り落とした瞬間、脳の思考を停止させ、肉体を冷凍保存するっす」

「……コールドスリープみたいなものかい?」

「死んだら転生しちゃうっすからね。死ぬことさえも許さない。メアちゃんに来世(つぎ)はもう無いっす」

 

 折手メアはそこで諦めた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「最期に、言いたい事はあるっすか?」

「……六道伊吹には手を出すな」

「心配しなくても、一般人を殺すつもりはないっすけど」

「そうじゃなくて……」

 

 刃が振り下ろされる、その前。

 最期の言葉として、折手メアはこう告げた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ズッバガァァァンッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 極刑(ギロチン)が炸裂する。

 正義はここに執行された。

 

「……終わった、のか……?」
 
『…………はく……………』

 

 奇妙な口調をやめてジェンマは呟く。

 当たり前だ。異世界人でもないのに、あんな特殊な語尾で話す訳がない。変な話し方も派手な格好も、全ては折手メアを楽しませるための謀略でしかない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ペキペキ、と小さく氷の音が聞こえる。

 折手メアの全細胞が凍結する音だ。

 急激な温度の低下に伴い、白い霧が発生する。冷気が立ち込め、汗が冷える。その時に初めて、ジェンマは自分が緊張で大汗をかいていたことに気づいた。

 霧は濃く、まだ晴れない。首を切り落とされた折手メアの姿を見る事ができない。血は飛び散る事なく凍りつき、血の匂いすら感じない。そのためか、未だに折手メアを殺害した実感が湧かない。

 

「…………いいや、まだっす」
 
『………………ェンマ………』

 

 意識して変な口調に戻す。

 安心するにはまだ早い。

 敵は()()六界列強(グレートシックス)・番外位、折手メア。

 天命機関は彼女の終末摂理(ワールドエンド)さえ分かっていないのだ。ここで気を抜くことなど出来るはずがない。ジェンマは気を入れ直すように、自分の頬を思い切り叩いた。ベージュ色の髪が乱れ、汗が飛ぶ散るが気にしない。

 

 ここで追撃をする。

 折手メアが凍っているならそれでいい。

 しかし、失敗していた場合を考え、最悪でも殺害して輪廻に叩き返す。自分が死に、折手メアだけが生き残るなどあってはならない。

 

 太腿に巻き付けた鞘からナイフを抜く。

 使い慣れない武器を構え、霧の中を進む。

 ……その、前に。

 

 

『………………()()…………』

「………………………………………………………………え」

 

 

 後ろから、僅かに声が聞こえた。

 掠れた、男性の声だった。

 環境音に紛れるような、微かな声。

 あるいは、ずっと聞き逃していたのかもと思うほど小さい声。

 

 だが、あり得るはずがない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ジェンマは天使になるに当たって戸籍を改竄し、あらゆる痕跡を消した。家族はもういない。かつての友達だってジェンマのことを覚えてはいない。

 そして、覚えていたとしてもジェンマを本名で呼ぶのは不可能だ。ジェンマの顔はかつて存在した宝条琥珀(ほうじょうこはく)とはかけ離れている。

 顔も、声も、身長も、髪色も、肌色も、目の色も、指紋も、骨格も、匂いも、血液型も、()()()()()()()()()()()()()()()()()。折手メアに好かれるためだけに全ては塗り潰された。

 

(いまさらッ、自分の名前が呼ばれるなんてあり得ないのにッッッ……‼︎)

 

 異能を持つ折手メアには見抜かれるかと思ったが、そんな事はなかった。わざと怒ったフリをして確かめても、自分の正体は露見(バレ)なかった。

 それなのに。

 

 

『……()()()()…………』

「……あ………………」

 

 

 今度は、はっきりと。

 透き通った、女性の声だった。

 一〇年間名乗り続けた洗礼名(コードネーム)を呼ばれる。

 誰でも呼ぶことのできる名前。

 だけど、その声には聞き覚えがあった。

 散々叱られて、甘やかされたことなんて一度もなくて、でもジェンマを大切に育ててくれて。そして、七年前にもう聞くことができなくなったその声は……。

 

 ジェンマはついに振り返る。

 そこにいたのは…………。

 

 

「……………………おとうさん、ししょー……」

 

 


 

 

 どれほどの時間、立ち尽くしていただろうか。

 

 目の前にはスーツ姿の男性と修道服の女性。

 警察官だった琥珀の父、その名を宝条啓治(ほうじょうけいじ)

 先代の熾天使(セラフィム)宝石(ダイヤ)”だったジェンマの師匠、その洗礼名(コードネーム)をクリス。

 

 あり得るはずのない邂逅(エンカウント)

 一〇年前に死んだはずの父が琥珀の頭を撫でる。

 七年前に死んだはずの師匠がジェンマに微笑む。

 しばらくして、ジェンマの唇から言葉が溢れる。

 

「あり得ない……」

『あり得ないことなんてないわぁ。この世に異能がある限り……世界に転生者が蔓延っている限り、ねぇ?』

「でもッ、あり得ちゃいけない‼︎」

『そうだね。死者が生き返るなんてあっちゃいけない。世界の秩序が破綻したら、現行法じゃどうしようもないから。……だけど、それでも、琥珀くんとまた話せて僕は嬉しいよ』

「…………ッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 涙が出そうになるのを堪える。

 それでも、あり得ない奇跡を享受するな。

 それでも、御涙頂戴の綺麗事に流されるな。

 不自然な物事には理由がある。あり得ない現象が起きた、この世界の物理法則じゃ説明できない奇跡を目の当たりにした。それが何故かなんて分かりきっている。

 

 

「お父さんと師匠に何をしたッ、折手メアッッ‼︎」

大正解(だーいせぇーかーい)! どんどんぱふぱふー‼︎」

 

 

 ベキベキバキバキッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 薄氷を踏み割るように。

 美しい氷細工を台無しにするように。

 晴れることのない()()()()霧の中で、氷の棺桶(コールドスリープ)を破って一人の魔女が立ち上がった。

 

「どうやって……⁉︎」

原作に存在しない登場人物(オリジナルキャラクター)原作に存在しない武器(オリジナルアイテム)を使ったんだ。ボクの世界観(原作)に無いものがボクに効く訳がないだろう?」

「そんなことはどうでもいい‼︎」

 

 この世界(リアル)に存在するあらゆる物が効くのでは無い。

 この世界(ゲーム)に存在する……原作に登場したことがある物だけが効く。モブならばともかく、オリキャラや独自設定の武器なんて効く訳がない。

 

 しかし、ジェンマはもはやそれを気にも留めていなかった。

 

「番外位は死者蘇生さえ出来るのか⁉︎」

「まさか、それはボクにも無理だよ」

 

 折手メアの《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》では既に起こった過去は変えられない。

 だが、()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 佐武真尋(地獄の王)との戦いにおいて、領域(エリア)型の異能《召喚・亡者累々》は折手メアの被害者を彼岸より呼び寄せた。しかし、地獄の裁判は正当な形で終わる事なく、最終的に彼岸に帰る術を失った亡者たちは現世に留まった。

 

「…………あり得ない」

「何が?」

「第三摂理の効果で魂の残滓が現世に留まり、いわゆる幽霊と呼ばれる現象が発生することは稀にある。でもッ、こんな長時間生前の人格を正確に保って存続できるはすが……‼︎」

「でもボクがいるだろう?」

「…………ッ‼︎」

 

 それが答えだった。

 復讐鬼が怨讐の元となる死者と再会する。

 こんな面白い物語は見ものだろう?

 

『もう復讐は終わりにしよう。確かに僕が死んだ原因の一つにはメアちゃんもあるけど、でもそれが全てじゃない。彼女にだって事情はあったんだ』

「お父さん……」

『わたしが見た限りぃ……彼女は第四位の討伐を目的としているわぁ。この世界を救おうとしている彼女を殺すのは、天命機関の理念から外れるんじゃないかしらぁ』

「師匠……」

『それに……僕は琥珀くんが傷つく所は見たくないなぁ』

『もういいのぉ。もうジェンマを名乗らなくてもいいのよぉ』

 

 父さんが、師匠が、優しくジェンマを抱きしめる。

 彼らは現実に存在しない幽霊。

 物理的にジェンマに触れる事はできない。

 だから、これはジェンマの側が勝手に感じている思い込みに過ぎない。柔らかい肌の感触も、ジェンマを思いやる声も、暖かくジェンマを包む体温も。

 それでも、確かにそこには意思があった。

 ジェンマを大切に思う愛があった。

 

 そして。

 名を捨てた復讐鬼は幽霊の抱擁(ハグ)から抜け出し、告げる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 口調を意図的に元へ戻す。

 ()()()()は決意を新たに足を踏み出す。

 

 傷つく所を見たくないだと?

 もうジェンマを名乗らなくてもいいだと?

 そんなことを彼らが言うはずがないだろう‼︎

 

 父は言った。

 どんな苦難が待ち受けていようとも、自分の中の正義を曲げることは絶対にしてはいけない、と。

 師匠は言った。

 お前がジェンマの名を名乗った時点で宝条琥珀は死に絶え、お前は誰よりも彼の遺志を優先せねばならない、と。

 

 幽霊(カコ)には縋らない。

 本物の彼らはジェンマの(イマ)人生(ミライ)に生き続けている。

 

「また失敗、か……」

 

 幽霊たちの言葉は嘘じゃない。

 だが、彼らは既に折手メアを許した存在……《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》によって和解させられた亡者。無意識に折手メアを擁護する言葉を吐いていた。

 面白さの山場(ピーク)を過ぎ去ったためか、幽霊は元から存在しなかったかのように掻き消える。

 

「……仕方がない。普通に殺し合うかい?」

「メアちゃんが自分を傷つけられるっすか? 今は唯一無二の大親友というレベルで自分のことを好きっすよね」

 

 その通りだ。こんな事になっても折手メアはジェンマを嫌いになれない。むしろ、今の方が好感度は高いまである。

 凶悪な犯罪者でも親を殺すのに躊躇するように、歪められた心の距離感はジェンマを傷つけるのに罪悪感を覚えさせる。

 

 しかし、ジェンマの方も折手メアを傷つける事はできない。

 既に用意した策は崩れ去った。ここから勝機など見えない。舌先三寸でこの場を凌ぎ、何とか次に繋げるしかない。

 このまま好感度を高めて逃してもらおう。

 ジェンマはそう考えていた。

 

 だが。

 ジェンマは一つの失敗をした。

 ジェンマは折手メアを見誤った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 絶句。

 折手メアの眩い笑顔にジェンマは何も言えなかった。

 

 ジェンマの知らないことではあるが、折手メアは愛する原作主人公(タイトルロール)の六道伊吹に対しても同じような態度を取っている。彼女にとって“好き”とは、“苦しめたい”という感情すらも含まれるということだ。

 

「じゃあ、始めようか」

「それは……、その武器は……‼︎」

 

 折手メアはニタニタと笑いながら、一つの武器を取り出す。

 それはジェンマもよく知っているモノ。

 

 それは(クロスボウ)の形をした武器(へいき)

 最速と謳われた七天神装(アーティファクト)

 その弓の()は《光輝の弓(シェキナー)》。

 かつて、熾天使(セラフィム)宝石(ダイヤ)”のクリスが愛用していたモノ。七年前に行方不明になった彼女の遺産。

 

(くそっ! 戦いが始まった時点で自分の負けっすけど、よりにもよってこれが相手とか……‼︎)

 

 折手メアの手に何処からともなく矢が現れる。

 一六八〇万色に煌めく光の矢はつがえられた。

 

 七天神装(アーティファクト)はそれぞれ異能の如き特権(ギフト)を持つ。

 例えば《破邪の剣(アスカロン)》は『不朽不滅』の特権(ギフト)を持ち、その刃は刃毀(はこぼ)れすることも折れることもなく、彼の聖剣に刻まれた聖痕(キズ)は永久に残り続ける。それは不可逆の致命傷を与える刃。

 

 そして、ジェンマは《光輝の弓(シェキナー)》の特権(ギフト)もよく知っている。間近で何度も見たことがある。

 その特権(ギフト)は『逆因果律』。

 それは不可避かつ必中の矢。

 的を狙う必要なんてない。矢をつがえた時点で攻撃はもう当たっている。

 

「逃げても良いよ。必死に命乞いする惨めな姿も、それはそれで見てみたいからね」

「……いいや、それでも。負けると分かっていても、逃げる訳にはいかないんすよ。自分は熾天使(セラフィム)っすから」

 

 ジェンマはナイフを構える。

 既にジェンマの敗北は確定している。だけど、戦っているのはジェンマだけじゃない。ここで一分一秒でも折手メアを引き留めておくことが、天命機関全体での勝利に繋がるかもしれない。

 そう信じて、ほんの一瞬の時間稼ぎのために命を(なげう)つ。

 

 

 直後、衝突があった。

 勝利者がどちらかなど語るまでもない。

 

 


 

 

 何処かで轟音が響く。

 しかし、そちらを向く余裕はなかった。

 

 六道伊吹はぐらつく身体を抑えて立ち上がる。

 ブレンダ先輩との決着は付いた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

魔王(ラスボス)勇者(しゅじんこう)の準備を待っているとでも思ったかァ?」

 

 

 黒髪の少女が似合わない口調で話す。

 栗栖椎菜と同じ姿、だが中身は全く違う。

 

 足元には血塗れで倒れ伏すブレンダ先輩。

 俺も血を流し過ぎた。既に満身創痍。更に言えば、とっくに異能の限界も来ている。

 

 

「オレサマ達が一人ずつノコノコ襲ってくるとでも思ってたかー?」

 

 

 紫の髪に黒いマスクをつけた男は、こちらは小馬鹿にしたような笑い方で話しかけてくる。

 見たことがない、だがアドレイドに聞いた姿。

 

 六界列強(グレートシックス)・第四位、ディートリヒ・フォン・エルケーニッヒ。

 六界列強(グレートシックス)・第五位、クシャナ。

 最悪のタイミングで最悪の強敵が襲来した。

 

 

「「さあ、最終決戦を始めようか」」

 

 

 異能使用不可。

 出血量・体力共に限界。

 多勢に無勢。

 数多の不利(ハンデ)を抱えたまま、早すぎる最終決戦が始まった。

 






執筆担当の私がプロット担当の私の知らない展開を書き始めました。

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