原作主人公vsオリ主   作:大根ハツカ

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二〇話:魔女裁判/Believe_“Witch”_or_Not

 

 

 目の前にはブレンダ先輩がいる。

 青みがかったような黒い髪。しかし、学校で会った時とは雰囲気が変わっている。大きく違うのは服装だ。喪服のようなスーツを着ている。そして、顔を覆っていた眼鏡がない。受ける印象が別人レベルで異なる。

 異能の気配はない。距離は十分にある。それでも、一歩でも動けば死んでしまうような殺気を感じた。

 

 当初の予定では明日、第四位にケンカを売り、逃げながら天命機関の隠れ家まで引率(トレイン)して、なし崩し的に共闘するはずだった。ちなみに隠れ家の場所は原作知識から分かるらしい。

 

 それがどうだ?

 素早い強襲。それにより、俺の家で折手メアがドヤ顔で語っていた計画は粉々に砕け散った。

 

「ヘイ、話し合いをしようぜ先輩」

「時間稼ぎですね。すぐに番外位が駆けつけてくれるとでも考えていますか? 随分と信頼しているようですね」

 

 ブレンダ先輩と戦っても勝ち目は薄い。

 相手は天命機関で最も強いらしいブレンダ先輩。そして、俺の残りの異能使用回数は既にゼロだ。そもそも、アドレイドが言うには相性が悪いらしいし。

 

「……ですが、その話に乗ってあげましょう。私は貴方に真実を告げる必要がある」

「へぇ、そりゃあ助かるよ」

 

 ありがたい事だ。前々から思っていたが、この人は転生者にしては優しい。俺の知っている転生者が偏っている可能性もあるが、そもそもが文化の異なる異世界人である時点で、常識があるだけで驚くべきだ。

 

 礼を言いながらブレンダ先輩に近づく。

 一歩一歩、間合いを詰める。

 ……ここだ‼︎

 

 

「───と見せかけてパーンチ‼︎」

 

 

 容赦なく顎を狙って拳を放つ。

 ブレンダ先輩は呆気に取られていた。

 時間稼ぎの面ではここで攻撃する必要はないのだが、なんか下に見られた感じがしてイラついたので取り敢えず殴っておく。

 

 だが、拳が顎を撃ち抜く事はなかった。

 その前にブレンダ先輩の手が、パシッと俺の拳を難なく掴み取る。

 

「……は?」

「オイタが過ぎます。悪い子にはお仕置き、ですよ?」

 

 ミシミシミシミシィィッ‼︎‼︎‼︎ と。

 右拳が万力のような握力によって握り締められる。もはや手を掴まれていると言うよりは、()()()()()()()()と表現した方が近い。骨が軋む音が響く。

 

「まずは一発」

「えッ、ちょ、まッッッ……ぶべらッ⁉︎」

 

 パンッッッ‼︎ と掌底が顔面を撃ち抜く。

 ノックバック。

 咄嗟に両腕で顔を覆うが、衝撃が腕を弾き飛ばす。たった一撃で体が浮いた。そして攻撃は一発だけじゃ終わらない。腕を封じられた俺の胴体はガラ空きだ。

 

「ワン、ツー、スリー!」

「かはっ⁉︎」

 

 ドドドンッ‼︎ と続く三連発。

 馬鹿力ではない。反応できないほど速いわけでもない。ただ、(うま)い。

 異能の気配なき物理法則に基づく攻撃。漫画のような派手な攻撃ではなく、異世界の意味不明なチカラでもない。ボクシングを突き詰めたような何処までも現実的な拳。

 

 ダメだ、正攻法じゃ勝てる気がしない。

 戦い方が転生者よりもこの世界の軍人に近い。奇抜ではないが、積み重ねた当たり前の底力がある。俺が柔道部の部長に勝てないように、この人には勝てない。

 

「クソッ、舐めてんじゃねぇぞ! 異能を使え‼︎」

 

 何としてでも異能を使わせる。異能であれば俺は反応できる。普通の近接格闘に持ち込まれる方が厄介だ。断られたら逃げに徹する。そう考えていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ブレンダ先輩は心底納得したように俺を憐れむ。

 ……何が、だ?

 今の会話の何処にそんな要素があった⁉︎

 

「何の話だ!」

「貴方のような優しい人がどうして番外位の手助けをしているのかがずっと疑問でしたが、今の答えでようやく分かりました」

 

 ブレンダ先輩は俺を安心させるために微笑む。

 庇護者のように。聖母のように。

 

「六道君、貴方は悪い魔女(折手メア)に騙されています」

 

 俺は大きな勘違いをしていた。

 大きく、致命的な勘違いを。

 

「六道君は天命機関をどんな組織だと認識していますか?」

「……転生者が作った治安を維持する組織」

「大不正解です。やはり貴方は真実を教えられていない。天命機関とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「待て、それじゃあ……ッ⁉︎」

 

 認識が裏返る。

 

 

()()()使()()()()()()()()()()()()

 

 


 

 

「顔を見ても思い出さないんすか⁉︎」

「えー、分からないなぁ。知り合いだった?」

 

 二人の女性が向かい合う。

 一人は天命機関の天使、転生者を憎む人間。

 もう一人は最悪の魔女、最高位の転生者。

 

「だったら、宝条啓治(ほうじょうけいじ)という名前に聞き覚えはないっすか⁉︎」

「全然知らないなぁ。誰?」

「お前が一〇年前に殺した父の名前だよ‼︎ 本当に覚えていない⁉︎ 自分のことも⁉︎ 一切記憶にないんすか⁉︎」

「ごめんね?」

 

 天使は怒りによって青筋を立てる。

 対する折手メアは飄々とした顔で尋ねる。

 

「キミの名前は?」

「……洗礼名(コードネーム)はジェンマっす」

(名前を聞く限りネームドキャラではない。天命機関に所属しているという事は、ほぼ間違いなく転生者ではない現地人。だがそんな目立つモブが原作にいたか? ……いや、まさか)

 

 少し嫌な予感がする。

 

「ボク達はどんな関係なんだい?」

「隣の家に住む幼馴染っすよ。歳は離れてるけど、メアちゃんが生まれてから小学校に入学する頃まで家族ぐるみで付き合いがあったっす」

 

 頭を捻るが彼女の事は覚えていない。

 というか、折手メアは原作キャラ以外の人間を覚えていない。モブの顔は誰も同じように見え、名前は自身の両親すら記憶にない始末だ。

 そして彼女の父親の名前も知らない。直接的ならともかく、間接的に折手メアが死に追いやった人間は数多くいる。もっとヒントを貰えないと特定することなど不可能だ。

 

「それで、ボクがキミの父親を殺したって?」

「本当に……、何も覚えてないんすね……‼︎」

 

 ギリィィッ! と歯を食いしばる音が聞こえた。

 ジェンマ……本名、宝条琥珀(ほうじょうこはく)は血涙を流しそうなほど目を見開いて折手メアを睨む。

 

「一〇年前、警察官の父は殺された‼︎ 銃の暴発って形で処理されたけど、自分は知ってる‼︎ お前の異能によって殺されたんだって‼︎ ずっと、ずっっっと疑問に思ってた。どんな理由があって父を殺したんすか⁉︎」

 

 一〇年前。警察官。隣人。銃。

 ヒントが次々に現れる。本来、めんどくさい国家権力なんかには折手メアは関わらない。それでも関わる理由があるとすれば何か。

 そして、もう一つヒントがあった。それは佐武真尋(さたけまひろ)の異能の一つ、《召喚・亡者累々》。呼び出された亡者は数多くいたが、その中に警察官がいなかったか?

 

 やっと、折手メアは思い出した。

 

 

「あっ、銃が欲しくて殺した警察官だ」

 

 

 ブチィィッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 血管が切れたような音が響く。

 端的に言って、ジェンマはキレていた。

 

「そんなッ、そんな理由でッ⁉︎」

「いや、殺すつもりはなかったんだよ? 最初は異能を見せて脅迫してたんだけど、化け物を見る目で銃を向けられたらさ。そりゃあ反撃しちゃうよね」

「そんなクソみたいな理由でお父さんを殺したのかお前はッッッ‼︎‼︎‼︎」

「そんなキレないでくれよ。生理かい?」

「ブッ殺す‼︎‼︎‼︎」

 

 過去から追って来た因果応報。

 自業自得の刃が折手メアを襲う。

 

「ボクの界位(グレード)第六界位(グレード6)。キミたちが二千年の歴史を積み重ねても、一人の欠けさえ生み出せない六界列強(グレートシックス)の番外位。随分と大口を叩くようだけど、キミの天上位階はいくつかな?」

 

 前世を思い出す必要がある転生者とは異なり、天命機関に所属するのに必要な才能などはない。必要なのは転生者を殺すという意志一つだけ。故に、天命機関には転生者の数千倍の人数の天使が所属している。

 しかし、天使であれば誰でも転生者を殺せるわけではない。天命機関に所属する天使にはランクが存在する。

 

 それが天上位階。

 ランクは全部で九つ。最下位である天上位階序列九位(ナインス・オーダー)天使(エンジェル)から、最上位である天上位階序列一位(ファースト・オーダー)熾天使(セラフィム)まで存在する。

 イヴリンは天上位階序列七位(セブンス・オーダー)権天使(プリンシパリティ)であり、ブレンダはたった四人しかいない天上位階序列一位(ファースト・オーダー)、その中でも近接最強の“(スペード)”の称号を得た熾天使(セラフィム)である。

 

 そして単独で六界列強(グレートシックス)を打倒するなど、一部の例外(ブレンダ)を除き熾天使(セラフィム)にも不可能だ。

 加えて言えば、熾天使(セラフィム)の内の三つの席は原作キャラで埋まっており、残り一つはBルートに進んだ際に主人公が着く席である。

 

 だが、不安は拭えない。

 折手メアの額に汗が滴る。

 ラスボス気取りのクソ野郎はそこでやっと気が付いた。

 ……原作など、とっくの昔に崩壊していたことを。

 

 

「自分は熾天使(セラフィム)宝石(ダイヤ)”、洗礼名(コードネーム)はジェンマ。天命規則に基づき、神罰を執行するっす‼︎」

 

 

 原作に登場しなかった群衆(モブ)ではない。

 原作における重要な位置を奪った唯一無二の登場人物(キャラクター)。それでいて、主人公でも転生者でもない特殊な立ち位置(ポジション)

 ()()()()()()()()()()()

 そう、つまり。

 

 

()()()()()()()()()()⁉︎」

 

 


 

 

「天命機関の始まりは紀元前にまで遡ります。二千年ほど昔、死者の魂は神の下へ帰ると信じていた誰かは『転生』という現象自体を神への冒涜だと感じ、転生者という存在を抹殺する為に組織を立ち上げました」

「一神、教……?」

「その通りです。しかし、そのような信仰が二千年以上も続くはずもなく、今では『ただ転生者を殺すことに特化した組織』に成り果てました。転生者被害者を多く組織に取り込んだ事も原因の一つでしょう」

 

 例えば、とブレンダ先輩は自身を指差す。

 

「私や同僚のジェンマも転生者の……正確には、折手メアの被害者です」

「……折手の、被害者……」

「まさか、彼女が清廉潔白な善人とは思ってないですよね? あの魔女は二一世紀最悪の転生者。六道君と同じように彼女に煽てられ、地獄へ堕ちていった者を私は知っています」

「……?」

「〈堕胎事変(フォールダウン)〉」

 

 それは史上最悪の騒動(イベント)

 七年前、イギリスのとある街で起こった事件。

 六界列強(グレートシックス)の内、過半数が集結して殺し合った事件。たった七人しか生還者(サバイバー)のいない地獄。

 

「その事件では軽く一万を超える犠牲者が出ました。天命機関が受けた損害も大きく、当時の熾天使(セラフィム)の内の四分の三が死亡したそうです」

「……その事件が俺に何の関係がある?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()原作主人公(タイトルロール)()()()()()()()()()

「……なッ⁉︎」

 

 俺以外の原作主人公(タイトルロール)⁉︎

 『テントラ2(続編)』なんて物があるのだから他にいてもおかしくはないが、既に存在していたのか⁉︎ 現在が無印の『テントラ』であるはずだから、時系列が前になるのは不自然だ。……いや、外伝(スピンオフ)などで過去編があったとすれば不思議ではないのか?

 

「そいつは……どうなったんだ?」

「死にましたよ」

「…………‼︎‼︎」

「歴代最強の天使、なんて嘯かれていましたけど。本気を出した番外位に手も足も出せずに殺されました」

 

 少なくない衝撃を受ける。

 心の何処かで無意識に考えていた。折手メアの《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》がある限り死ぬことはないだろうと。どんな困難があっても、最後はハッピーエンドで終わるだろうと。

 その安全圏(プロットアーマー)が崩れ落ちる。

 

 しかし、衝撃は終わらない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「は? いや、でも確かに折手は《創作物語(メタフィクション)》っていう世界観を……」

()()()()()()()()()()()()()()()。他の転生者の世界観と比べてください。番外位の言葉を信じるならば、彼女の世界観と齟齬が生じます」

 

 折手メアの《創作物語(メタフィクション)》が持つ大きな齟齬。

 

 今まで戦って来た世界観を思い浮かべる。

 ゾンビ男の《屍体が歩く世界(ゾンビ・アポカリプス)》。

 白川日向の《氷河時代(アイスエイジ)》。

 ディートリヒとアドレイドの《剣と魔法の世界(ハイファンタジー)》。

 そして、俺の《現実世界(ノンフィクション)》。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?」

「その通りです! 異能とは前世の法則を展開する力! だとすればッ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 信じてきたものが崩れ落ちる。

 折手メアは味方だ……本当に?

 

「そして最早、この世界が『テンプレート・トライアンフ』というゲームだと言う発言も信頼できなくなります。この世界がゲームなのではない。あの魔女がこの世界をゲームに()()しているのでは?」

「……《ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)》」

「六道君がまるで物語の主人公のように事件に巻き込まれたのも、この街にあからさまな敵が現れたのも、或いは六道伊吹という存在自体が彼女の手によって設定されたものだとは考えられませんか?」

 

 そうだ、最初から気づいていたではないか。

 折手メアが諸悪の根源(ラスボス)だと。

 始まりの認識が甘かった。『事件の始まり』なんてものじゃない。文字通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もう一度言いましょう」

 

 子供に優しく教えるように。

 ブレンダ先輩はゆっくりと俺に告げる。

 

 

「六道君、貴方は悪い魔女に騙されています」

 

 

 決断の時(ターニングポイント)は今ここに。

 魔女を信じるか、否か。

 そんなこと、どうでも良くないか?

 

 

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